三話 あなたの心です
部屋にいた皆んなが帰ってからしばらくして、昼頃に差し掛かってきた頃、尿意がやってきた。
むくりと起き上がり寝台から足を出してスリッパを探し履く。
よっこらせと自然と声が出てしまうのは日本人の性だろう。そう思いたい。
「ふぁ……」
欠伸をしながら部屋の扉を開けて、そのまま左に行こうとして、
「―――認めてあげるわ」
「?」
突然声を掛けられた。
声のした方に振り返ればそこには、壁にもたれ掛かりながら腕を組み、ムスッとした顔の氷雨が居た。
認めてあげるとは何を? なんて思っていると、氷雨は目の前に立ってきてはビシッと指を突き立ててくる。
自然と身体を逸らして指先から離れるが、ズイッズイッとにじり寄ってくる。
「でも、勘違いしないで。私はあなたより強い」
「は、はぁ……?」
その宣言にますます困惑してしまう。
強い強くない以前の前に、氷雨の強さを知らないのだ。
確かかなり強いらしいが、どれくらいなのかが分からない。
そんなだから返事は決まって、
「いやぁ、氷雨さんには勝てないですよ」
「……ふんっ、分かっていればいいの! そうっ、私は強いの‼︎」
自己肯定感がぶち上がったのか、氷雨はニンマリと笑みを浮かべると満足したように帰っていくのだった。
嵐のように来てはすぐに去っていってしまった氷雨に困惑していると、ブルルッと忘れていたが尿意がやってきた。
「あぁやばやば!」
慌ててトイレへと向かうのだった。
カチャカチャと薬室にすでに銃弾を一発入れておいた銃に、フル装填済みのマガジンを差し込み、太腿と腰のホルスターに入れる。
太腿には6.5インチのs&w M29、腰にはグロック29。
威力のM29と取り回し性、そして護身用としてのグロック29だ。
今回は屍皇という、モンスターではない人に撃つのだ、愛用のトリプルアクションサンダーはオーバー威力過ぎる。
それに一瞬一瞬が大切な近接先頭になった場合はM29の弾、44マグナムでは反動が大き過ぎて致命的な隙となってしまう、それならば44マグナムより反動は小さいものの9ミリより威力のある10ミリオート弾を使用することが可能なグロック29が適任と思ったのだ。
そして後は拳銃と同じく太腿と腰に装着したナイフ。
どちらも同じナイフだ。
グロック野戦ナイフ78というなかなかに昔のものだが、個人的にナイフに求める性能としては敵を切れるか切れないか、扱いやすいか難いか、それと見た目がいいかの三つだけなため、好きなナイフにした。
この装備ならば対人戦では最高のパフォーマンスを引き出せるつもりだ。
「よしっ」
姿見で前、後ろの装備の確認を済ましてから、借りていた寝具やその周りを整えて部屋を後にした。
いつでも戦闘できるように、これからは装備したまま動くのだ。
そんなふうに廊下を歩いていると、
「あ、律! ……って何してるの?」
「んっ⁉︎ く、葛葉さん!?」
目の前から大量の和菓子を抱えた律がやってきたのだ。
声を掛けると驚きながらも冷静に口の中の和菓子を飲み込んでから、律は驚き直した。
忙しないな、なんて思っていると律が手に持っていた和菓子を幾らか渡してくれる。
そのことに首を傾げると、
「あ、あの、これ。ついさっき酒呑さんと会いまして、葛葉さんのところに会いに行くと言ったら、その時にいっぱい貰ちゃったんです!」
「う、うん」
「なので、葛葉さんにも!」
「へぇ〜、うん。ありがと」
貰った和菓子、小さな饅頭を口の中に入れ、くれた律の頭を撫でながら感謝する。
えへへと、少し照れ臭そうに律が喜んだと思えば「あれ?」と呟き顔をマジマジと見てきた。
「葛葉さん、お身体の調子は……?」
「んー」
「調子は……」
「んー!」
プイッとそっぽを向いて回遊魚並みに目を泳がせるものの、向いてる方向に律の顔が追従してくる。
安静にしとけと言われた身ながら、皆んなのところに行きたいがために、個人の判断で抜け出したのがバレたら厄介なのだが。
勘のいい律にはお見通しなのだろうか。
「怒られちゃいますよ?」
「……その時は一緒に謝ってくれる?」
「なんで私もなんですか⁉︎」
「あはは、冗談だよ冗談」
理不尽な申し出にガバッと慌てふためく律の反応に笑い、一息ついてあの家に向かって歩き出す。
その後を律もササっと付いて来る。
それからは大変美味しい和菓子を食べながら、みんなの待つあの家に向かうのだった―――。
―――扉を開けた瞬間、玄関の前を横切ろうとしていた若葉とばったり遭遇した。
眠そうな眼を優しく擦りながら歩いていたら若葉がカチンッと固まってしまうほどには驚いているらしい。
沈黙が数秒続いき、こっちから何かを言い出そうとした時だった。
「……おか、えり」
テクテクとやってきた若葉がガシッとお腹に抱きついてきて、開口一番そんなことを口にしてくれた。
この一瞬のやり取りのうちに、完全完璧に若葉というなんともまぁ可愛い生物に、このハートを鷲掴みされてしまった。
とんでもないものを盗まれてしまった。
「うん、ただいま若葉。……皆んないる?」
「……ううん、柊姉外。あと、巫女、様も」
眠そうにウトウトしながらも聞いたことを答えてくれる若葉に涙が出そうになっていた時、後ろの玄関扉がガラガラと音を立てて開かれる。
振り向けば欠伸をしながら入って来る鬼丸がそこに立っていた。
「うむ、ようやく『様』をつけるようになったのう!」
「……V」
鬼丸は若葉を見ると笑みを浮かべて頭に手を置いてポンポンする。
それに対して若葉もピースサインで答えた。
「んで、葛葉よ。なぁんでお主がここにおるんじゃ〜? 絶対安静じゃったろぅ〜?」
「んー!!」
ニヤニヤとした顔つきで顔を覗いて来る鬼丸に、プイッと顔を背ける私を、律は呆れたような目で笑っていた。
「お主も悪よのう〜」
そして鬼丸はそんな下手なことを言って、先に上がっていくのだった。
読んで頂きありがとうございます!!
面白いと思って頂けましたら、ブックマークと評価をレビューなど、どしどししてくれると物語の面白さ向上につながります!




