二話 良い形のぷるんぷるんやったぞ
シーンと部屋の中には沈黙が訪れていた。
あの時、あの力はどうやって出したのだろうか。
そんな疑問に今は頭が手一杯だった。
「柊。なんか分かるか?」
紅鶴は私の隣にいる柊へ目線を変えて尋ねる。
が、当然柊にも分かるわけがない、鬼化した本人がわからないのに他者がどうやって気付くというのだろうか。
だが、ここで分かりませんでした〜はいけない。
周りのことなんて気にせず、環境音すらシャットダウンし、全神経を記憶を思い出すことについやす。
あの時何が起きた。
あの時何をした。
あの時何が頭の中に残っていたか。
ぐるぐるとそんな思考がウロボロみたいに回り続ける。
脳がオーバーヒートを迎えようとしたところで、
「何をやっとるんじゃお主らは、こうすりゃいいじゃろうが―――っ!」
背後に音もなく忍び寄った鬼丸が患者衣をバッと上げてきたのだった。
「……え」
視界全てを覆われてしまう。
何がどうなっているのか謎の状態だが、ただ一つわかるのは鬼丸が余計なことをしたということだ。
上半身が開放的になる。
そしてぷるんと、自分の体の一部が揺れているのを感じた。
開けられている窓から入ってくる涼しい風が肌を撫でてくる。
くすぐったいとら感じるのと同時に、部屋のみんなの視線が胸に集まっているのだと自覚した。
「……」
「ま、ママっ⁉︎」
「わ、わーお……」
「鬼丸様ッ‼︎」
背後にいる鬼丸以外の全員の反応が耳に入ってくる。
瞬間、顔が熱くなるのを自覚した。
だが、「あぁ、アニメとかでヒロインの顔が真っ赤になる感覚ってこういうものなんだ」と意外と頭の中は冷静だった―――。
―――紅鶴がマジマジと背中を見てくる。そのことにちょっと恥ずかしく感じ、隣に立っている五十鈴の服を摘んだ。
五十鈴は服を捲る補助をしてくれていた。
「ふぅん、なるほどね」
「何か分かったんですか?」
「あぁ。100%これで間違い無いだろう」
ポンポンと背中を人差し指で叩いてくる紅鶴。
くすぐったいそれに少し頰が緩んでしまうのを必死に堪えた。
「新しいスキルだ」
「っ、スキル? え、スキル⁉︎」
紅鶴の言葉に思わず振り返ってしまった。
紅鶴はきょとんとしながら首を傾げる、何がおかしい? というような顔だ。
「なんでスキルが……」
「ん? 何を驚いてるんだ?」
「……阿呆、お主はスキルの発現条件を知らんのか?」
驚きワナワナと手を動かす姿を見て、紅鶴はさらにキョトン顔で首を傾げる。
そんな紅鶴を見かねた鬼丸がため息と、やれやれ感をあらわにして話し始めた。
当然全員の視線は鬼丸に向くが、その視線は少し高かった。
「スキルの発現はかなり珍しい。その者の魂が激しく揺さぶられる何かが無い限りは発現せんのじゃよ」
「……そうなのか?」
「はい、常識的には鬼丸様の言うとおりです」
鬼丸の少し小馬鹿にしたような口調は気にせず、事実かどうかを確かめるために紅鶴は五十鈴と律に視線を向けた。
視線を向けられた律はコクコクと首を縦に振った。
「なるほどな、だが、スキルが発現してるのは事実だ。受け入れろ」
「は、はぁ……。それで、どんなスキルなんですか?」
五十鈴が服を丁寧に元に戻してくれている間に、その新しいスキルとやらのことを尋ねてみるも、紅鶴は「あー」とバツが悪そうな顔を浮かべた。
「詳しくは分からんが、名前的には……そうだな」
どうやら説明が難しいのか渋い顔を浮かべながら紅鶴は頭を悩ませていた。
ムムムと眉間に皺を寄せ、額をトントンと指で突く。
そんな説明しずらいものなの⁉︎ と徐々に不安になってきた。
そんな時だった、
「―――酒呑様っ、おやめください!」
「なんじゃ、よかろうでは無いか? わしとてお茶目をすることもあるのじゃ」
「ですが、このようなこと! あっ、ちょ―――」
部屋の外からそんな声が聞こえてきたと思えば、バンっと扉が開き、開いた扉からは白い割烹着に身を包んだ酒呑が入ってきた。
手にはお盆、そのお盆の上には飲み物や食べ物が置かれていた。
「む? なんじゃ、二人だけではなかったのかのう? 追加じゃ、よろしく頼むぞ」
「っ、はい。承知しました……」
部屋の中を見た酒呑はすぐに人数を確認し、お盆に置かれた飲み物や食べ物が足りないと判断し、同じく割烹着を着た女性に追加注文するのだった。
ツッコミどころは多いものの、とりあえずは、
「酒呑さん、おはようございます」
「うむ、おはようなのじゃ。……して、身体の方は良いのか?」
「あぁっと、まだちょっと痛みますが平気です」
スタスタとベッドの横にやってくると、ベッドの隣にあった机にお盆のものを置いた。
そして食べ物、お粥に似た物を手渡してくれた。
それは同じく柊にも。
「それは良かったのう。……して、何をしておるのじゃ、こんな大勢で?」
柊にも手渡した後、キョロキョロと部屋を一瞥すると首を傾げて尋ねてきた。
「えと、新しいスキルが発現したらしいんですけど、それの説明に紅鶴さんが悩んでたってところですね」
「ほう、スキルが発現? ……ふむ、お主がよければわしが見ても良いかのう?」
「え? 良いですけど……もしかして酒呑さんも?」
「あぁ、わしも多少は読めるつもりじゃ」
微笑みながら酒呑は手招きしてくる。
手招きしてくる酒呑にサササッと側に寄り背中を向けると、小さな手が服を捲ってピタッと背中に触れた。
やはりくすぐったい。
「ふむ。なるほどのう」
「ど、どうですかね?」
「『特性具現』と言うのがスキルの名らしい、して、その効果は『他者の特性を自己の身に再現する』と言う物らしい」
「他者の、特性を……」
そこで初めて合点が行った。
あの時、なぜ鬼族でも無いのに鬼化が使えたのか。
このスキルが発現したからなのだ。
無意識に使っていたのだ、私は。
「なるほど詳細は分かった、故に、存分にアタシらのために働いてくれよ? 【英雄】」
「うっ、が、頑張ります!」
スキルが分かり、とりあえずは話がひと段落しかけたその時だった、
「発動条件なんじゃがの、どうやら特性を持つものとの長時間密接が必要らしい」
そんな酒呑の何気なく放った言葉はこの部屋にいる数名を獣にさせるには十分な言葉だった―――。
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