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二十話 追尾ってつおい

 そして渾身の一撃を与えた時だった、自分の腕がひしゃげたのだ。

 驚きこそはすれ、動きは止めずに魔獣へと猪突猛進していく。


「獣が‼︎」


 視界の端、立ち位置的には真横だ。

 魔法陣が展開された。


「神罰を与えよ‼︎ 『|ディヴァイン・パニッシュメント《降り注ぐ神の裁き》』」


 短文詠唱から繰り出されるのは無数の光の矢。

 神々しいというよりも禍々しい色を放つ矢は真っ直ぐと飛んできた。

 他のどれよりも早い一本が飛んできた、だがそれを手の甲にて弾くものの、その弾かれた矢は自分で方向を転換。最初に狙いを定めた獲物へと再び飛んでいく。

 その想定外の出来事に防ぐことも出来ず、なす術なく喰らってしまうのだった。

 肩に刺さった矢はかなり深く食い込んでいた。


「っ」


 その一本を抜こうとするも、その後ろから何本も矢が飛んできているのが見えた瞬間、ダッと肩の矢をそのまま走り出す。

 木を縦にしても、見失うように茂みの中を走っても矢は追いかけて来る。


「無駄です。その神罰は必ず起こるのですから」


 勝ち誇ったように屍皇はドヤ顔で言い放つ。

 だが勝ち誇るには少しばかり早過ぎた。

 森の中を自由自在に動きながら、ちょくちょく枝や石を回収しては投げたり、連続してまた投げたりデコイにして時間を稼ぎ走り続ける。

 その行動の目的を、どこを目指しているのかは、勝ち誇り慢心した頭では至らない。

 最初から、追尾性の矢だということがわかった瞬間から決まっていた。


「……? ―――っ、まさか!」


 気付いたら時には時すでに遅し。

 屍皇は真っ直ぐと、目の先にいる。

 障害物の一つもありはしない一直線に。


「昏霧っ、止めて下さい‼︎」

「分かった‼︎」


 狙いを察した屍皇が咄嗟に動き出すが、直線距離は短い。

 屍皇が気付いた時点でいたところからはすでに、半分ほど距離を縮めていた。

 そして昏霧の動きだしも少しばかり遅かった。

 慢心による致命的な判断の遅れが、屍皇に危機をもたらす。


「駄目だ間に合わない‼︎」


 昏霧の攻撃はあと少し早ければ当たったという事実だけを残して空振って終わる。

 もうどうしようもないという事実が目の前にはあった。


(―――でもっ、追尾性の攻撃です、あれは‼︎ どうやって私に当てる気ですか【英雄】‼︎)


 少し考えれば分かることだった。

 追尾性の攻撃なのだから、先ほどのように対象の間に何かがあれば、それを避けて追尾するはずなのだ。

 だから自分には決して当たらないはずなのだ。


「それとも、また捨て身ですかね……!」


 その二つ以外に方法はないと確信して、屍皇は警戒した。

 だが実際は違った。

 走って向かっていたはずがそのまま横を素通りしたのだ。

 拍子抜けし「は?」と思わず声を漏らした直後、目の前を石が通過した。

 自然と目で追う。追ったその先にあったのは、目と鼻の先にある矢だった。


(―――っ。どうして!)


 咄嗟に防御のために顔の前にかざした腕に、何本も矢が刺さった。

 直後激痛が走る。

 だがそんなことは瑣末なことだった。

 屍皇の頭の中はただひとつ、なぜ? という疑問に包まれていた。


「っ、あの時のっ‼︎」


 頭によぎったのは地面から枝や小石を拾いつつ、追尾して来る矢を妨害していた光景。

 あの時、あの一瞬で、見抜いたのだ。

 矢が障害物を回避する挙動を。

 そして計算して、横を素通り、追尾して来る矢の速度や屍皇と素通りした時の、屍皇と矢の位置を調整したのだ。


「くっ!」


 痛みに血に膝をつき、周りを見た。

 昏霧は駆けつけてきているが、赫焼(かくしょう)は未だ昏倒中、屠彪(とひょう)はまだ動ける様子だが、確かにダメージは蓄積している。

 そして他の魔獣は倒されていた。


「っ、撤退です」

「なっ!? 鬼との戦いは!?」

「あなたコテンパンにやられたでしょう! 一度出直しますっ、少し早計だったようです!」


 腕の傷を押さえながら冷静になって飛ばす。

 昏霧は不満げに「ちぇー」と言いながらも赫焼を軽々と持ち上げて走り去っていく。

 その後に続いて屠彪も。

 こちらをじっと見て来る【英雄】を睨み返しながら、激痛の腕を押さえつつ立ち上がった。


「この借りは必ずや返して差し上げます」


 矢を抜き、回復魔法で治療しながら昏霧達の去っていた方向と同じ方へ走り去っていくのだった。

 その光景をフーッフーッと息を荒くつきながら見ていた。

 未だ鬼化は解けない、剥き出しの闘争本能は先の戦いにて更に高まってしまった。

 目に映る全てのものと戦おうとしてしまうのだ。

 そんな時だった、ちょちょんと肩を突かれた振り替えざま手を振るい、背後のやつを吹き飛ばそうとする。

 だが腕は止められ、次の瞬間ドゴッと腹部に強烈な衝撃を食らった。


「よくやった。まぁ、休め」


 沈みゆく体、沈みゆく意識、暗転していく視界が最後に捉えたのは紅鶴の優しい微笑みだった。

読んで頂きありがとうございます!!

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