十九話 殴るのをやめない
遅れてしまいました、すみません!
「―――チッ……化け物が。もはや、人では無くなったみたいですねッ‼︎」
恨みがましく声を荒げ余裕すらないような屍皇は、皆の視線が集まるたった一人に最大の警戒をしていた。
その人物は身体が血塗れで怪我もあり、泥もついているような格好だ。
それでも、その日人物の姿は血や泥に塗れていても、その人物の姿は、
「今度は手加減も、油断も隙もなく、本気で殺して差し上げますよ―――【英雄】」
危機的状況の絶望の中に、希望という名の活路を開く、または与えてくれるそんな【英雄】だ。
「―――昏霧‼︎」
「任された‼︎」
屍皇は宣告をした直後に、戦闘特化であろう者に指示を出した。
その者、昏霧は異世界に何故あるのか疑問を抱いてしまう武器―――巨大なチェーンソーを吹かして襲い掛かって来た。
森にチェーンソーのエンジンの騒音が響き渡る。
昏霧がチェーンソーを掲げて振りかぶる、だが、既にそこには【英雄】の姿はいない。
空を切るチェーンソー。戦闘のスペシャリストである昏霧は、見失ったとしても油断はしない、隙も出さない。
はずだった。
背中からゾワゾワと不快な感覚がやってきた。
自然と息が詰まった。
強張る顔、それでも振り返る他ない。
「――ちがっ」
否だった、振り返るのではなく避けるだった。
咄嗟に身を翻し身体の重心を傾けた直後、ズザッと右脇腹のスレスレを拳が通った。
服が破れ肌が露出する。
「っ」
タッタッタッ、ステップを踏みながら5メートルはそれから離れた。
手が震えていると思えば、脚すらも生まれたての動物のように震えている、何に、あいつにだ。
「昏霧。舐めて掛かると死にますよ?」
「あぁ、今分かった‼︎」
汗が頬を伝い地面に落ちる、風になった。
誰の目にも留まらぬ高速を持ってして、一瞬で距離を殺し、その上で背後からの不意打ち。
それでも防がれた。
チェーンソーの刃は確実に当たったと誰もが確信する場面、くるりと身を翻した【英雄】の胸の先を素通りしただけで終わり、その身を翻した勢いのまま繰り出される拳によって防御した腕から異音を聞きながら吹き飛ばされる。
大木に背中を強打し視界が点滅した。
その昏霧がやられる光景を見ていた屍皇は下唇を噛み締めながら、待機していた魔獣に指示を出した。
立ち止まっていた魔獣達は一斉に【英雄】へ向かって襲い掛かった。
その戦闘を見ていた防衛隊すらも無視して。
「っ、本当にもうっ‼︎ ―――ひッ!」
その指示を出した屍皇は恐怖し、思わず声を出しながら半歩後退した。
魔獣の大群にもみくちゃにされてしまうだろう絶体絶命な状況でも、その【英雄】は狂った笑いを浮かべて、顔に笑顔を咲かせたのだから。
「……魔獣ッ‼︎」
360°全方位からやってくる魔獣。
それら全てを見睥睨して、叫んだと同時。
上げた片足を地面へ思い切り叩くように着いた。瞬間、【英雄】を中心として地面が隆起し波紋のように、全方位の魔獣を飲み込んで押し流し、圧死させた。
魔獣の死骸で埋め尽くされ、ロクに歩けないような状態でも、それでも向かってくる魔獣が居た。
大地を揺らしながら向かってくるのは、合成獣のような魔獣だった。
獰猛そうな必死にこちらを捕食してこようとしていた。
噛みつき攻撃を回避し、蹴りを顔に当てても怯む気は一切ない。
引っ掻きも、尻尾を使った薙ぎ払いも、それら全てを回避し攻撃を当てる。
だが攻撃を当ててはいるが不思議な感覚だった。
カウンターとしての攻撃は全ていいところに入っているはずなのだが、合成獣は怯むことなく攻撃してくる。
違和感がしていた、何かがおかしいのだと。
まるで中身のない、空っぽの容器へ蹴りや殴りをしている感覚だった。
そんな不思議な感覚に困惑するもものの、すぐに拳を握り直し、何度も殴りつけた。
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