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十八話 そりゃ怖いさ

 ものすごい高揚感が全身を包んでいる。

 いや、正確には全能感と言った方がただ強いのかもしれない。

 それはなぜか、もちろん生えるはずのない物が額に生えているからに決まっている。


「……」


 鬼の闘争本能を最大限呼び覚まし、人智を超えた戦闘能力を発揮させることのできる『鬼化』。

 それがただの人間であるはずの自分に起きているのだ。

 だが、今はその謎解きをしている時ではない。

 この力で、目の前の魔獣を倒さなくては後がない。

 それに今ならばなんでもできるはずだ。


「あは、ははは―――」


 大地を蹴るごとに破砕していく。

 有り余る力が地面へと伝わり一歩一歩クレーターを作る羽目になる。

 それでも止まることはせず、遥か彼方と言えるほど吹っ飛んだ魔獣の元まで一瞬にして辿り着き、攻撃を繰り出す。

 魔獣もただではやられるわけがなく、すかさず攻撃を仕掛けてくるもその攻撃を空中で避け、避けたまま勢いで攻撃する。

 瞬時に作り出したのは大剣。

 魔獣へと振るわれるが、魔獣の頭の一つがそれを噛み砕く。

 剣の刃が割れるよりも早く、次の行動に打って出る。噛みつかれ固定された大剣の柄を軸に前へ半回転、魔獣の背中に乗り、魔獣の三つの頭へ蹴りを炸裂させた。

 だが魔獣の頭の硬さは鉄のようで、逆に蹴り付けた足の方が大ダメージを喰らってしまった。

 一瞬固まってしまった隙を突かれ、魔獣が肩へ噛み付いてくる。グチャッと噛みつかれ噛み砕かれ、肩が粉砕する。

 魔獣は慈悲なく次から次へと噛み付いてくる。すでに骨も何もかもが砕けた足に噛み付いてきては引きちぎってきて、右肩と左足を噛みつかれ固定された身体に向け、魔獣は火球を放とうとした。

 身動きのできない今、避けることは不可能。

 死を覚悟する一撃だが、


「『紅焔鎧』」


 魔法を発動。淡い炎が全身を覆った。

 本来ならステータスの爆上のみもたらしてくれる付与魔法だが、今回は違った。

 魔獣の放った火球を吸い込んでしまったのだ。

 そしてそれを魔力へと変換し、付与の力を強めた。

 驚きはあったものの、今の自分は戦いのみを楽しみたかった。

 片足で魔獣の頭を蹴りつけ、片手で魔獣の頭を押しのけ、肩と足を解放する。

 ぐちゃぐちゃに、まるで子供が何度も噛み潰したストローのような足と肩。

 だが、そんな怪我も見る見るうちに再生していった。


「ふふ、あはっ!」


 痛みすら麻痺し、死闘を死闘と認識できなくなってしまった。

「あははははははははっ!」

 ただただ狂ったように笑いながら、無邪気に残酷に魔獣へ攻撃する。

 両手に長剣(ロングソード)を、そのまま魔獣の身体へ突き刺した。

 鍔まで刺すと魔獣は絶叫しながら背中を大木へとぶつけた。背中に乗っている敵を潰すために。

 だが鬼化とステータスアップをした今の自分にはそれは全く効かなかった。

 逆に魔獣の身体を押しのけて吹っ飛ばす。直後、木を地面とし踏み込んで木を爆砕させるほどの力で飛び出した。

 一瞬にして魔獣とすれ違うものの、魔獣の身体に深い切り傷が横に二列刻まれていた。

 流石に剣の達人のように通り過ぎると同時に切り刻むはできやしない。

 それでも、確実にダメージは入っている。

 ただ魔獣の硬い体皮のせいか切るたびに、作り出した剣がボロボロになってしまう。


「……凄い、です」


 それを側からずっと見ていた柊は感嘆の息を漏らした。

 自分も鬼化の才能はあった。

 鬼化にも、強く本能を出す者もいれば、あまり本能が出てこない者がいるのだ。

 強く本能を出せば出すほど身体は丈夫に、矮小な身からあり得ない膂力すら出すことができてしまうのだ。

「ママ」

 鬼神にも迫る力を有した自分の義母()に思わず羨望の眼差しをむけてしまう。

 だが、頭は酷く冷静だった。

 あまりにも本能が剥き出しすぎるのだ、今の【英雄】は。


「―――あは!」


 魔獣の前足が袈裟に振るわれ、身体が切り刻まれるが、異常な再生能力でそれを無視して戦い続ける。

 痛みがノイズにならないよう、身体が痛みを感じるごとに快楽物質を放出するようになってしまっていた。

 痛いよりも気持ちいいが勝つのだ。

 故に無謀な突貫が出来る。

 傷だらけになろうとも、腕を、足が千切れ飛ぼうが、腹を抉られ内臓が飛び散ろうが再生して魔獣を殺さんとする。

 気が付けば魔獣は後退しながら戦っていた。

 魔獣からしても痛みを無視して自分を殺そうとしてくる敵など恐怖以外の何者でもないからだ。

 多種多様な武器を扱い、様々な切り傷を付けてくる厄敵。

 畏怖を持って、恐怖を退く。魔獣はその一点のみに心血を注いだ。

 火球でもなく、フレアでもなく、それは光線だった。

 攻撃を弾いたその一瞬に間髪入れずに繰り出した最終奥義。

 無防備な厄敵へとその攻撃は見事直撃した。

 木々を焼き払い、大地を焦がし、山を燃やす、最高最大の最終奥義は確実に直撃したはずだった。

 全てを燃やし煙で覆われたそこから、厄敵は鬼の形相で姿を現してきた。


「……っ、まさかっ、燃えたそばから再生をしたんですかっ⁉︎」


 柊にも詳しくは見えていなかったものの、それ以外の回避方なんてありはしない。直撃する場面だけは見えていたからだ。

 その光景に戦慄していた時、同じく戦慄していた魔獣がとうとう恐怖に駆られ逃げ出した。

 それを遅れて視認した柊は慌てて大戦斧を手に取り駆け出した。自分も鬼の力を解放して。


「―――あは、あははは!」


 逃げ出した魔獣に二人の鬼が襲い掛かる。

 恐怖の限界に達した魔獣は猛スピードで逃げるが、身軽な鬼達はすぐに追いついてくる。

 一つの頭は逃げることに専念し、他二つの頭は火球を飛ばし足を止めようとする。

 だが魔獣に全力で追いついた柊は斧を構えながら飛び出した。

 そして間髪入れずに斧を振るうがまじゅの体皮を浅く裂いただけに終わってしまった。

 だが、そんな時だった、魔獣の背後を追走しいたママ(葛葉)に斧を取られてしまった。


「ちょっ⁉︎」


 そんな声ももうすでに届かないほど遠くになってしまった。

 そして次の瞬間、柊から借りた斧に力を込め魔獣へ向けて下から振り上げた。

 見事その一撃は命中、魔獣の身体は何百メートルも先に吹っ飛ばされてしまう。

 それをさらに追撃するためか、鬼化はそのままに柊すら置き去りにして走り出すのだった。

読んで頂きありがとうございます!!

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