十七話 鬼
遅れてしまい、すみません!
―――走り出しと同時に背後の地面が爆ぜた。
爆風に背中を押されつつ、巨大な魔獣の股下へ。
体皮が硬いと言っても、どんな生物でも腹部は弱点。
そこを一点集中する。
創り出すのは勿論、
「毎度毎度お世話になっちゃうなぁー!」
トリプルアクションサンダーだ。
雷鳴が地から天へと昇った。
50BMG弾が射出され、比較的柔らかい魔獣の腹部へと進んでいく。
音速を超える球は一瞬で魔獣の腹部を貫通し、その中からは血と臓物がボタボタと大量に溢れ出してきた。
目や口の中に入ってくる生温かいそれらに吐き気を催すが、グッと堪え、次なる一手へとすぐに走り出した。
絶叫する暇もないのか魔獣はすぐに顔を向けてくる。
口の中の炎の燻りが目視できた。
「よそ見してていいのかなぁ―――!?」
その合図とともに魔獣の頭の後ろから、バッと影が飛び出してくる。
魔獣の反応は致命的に遅く、その影の攻撃を許してしまった。
ガンッ、刃物が眼球へとクリーンヒットした。
いかなる生物も眼球だけは絶対的に普遍的に弱点だ。
今度こそ、魔獣は苦痛に絶叫する。
それを待ってたと言わんばかりに身体の向きを魔獣へくるりと向けた。
そして軽い踏み込みから、一気に数十メートルまで飛び上がった。
手にC4爆弾を掴んで、魔獣の開いた口の中へとぶち込んだ。
落下しながらC4の起爆スイッチを押し込む。
間髪入れずにC4は大爆発。半密閉の口の中でも、その威力は絶大。魔獣の頭部は弾け飛ぶのだった。
着地し慌てて距離をとる。先に避難していた柊の隣まで走って、はぁと一息をついた。
「……やり、ました?」
「……っふ、普通はね」
残った下顎から煙を黙々と立ち登らせるその光景に、二人は息を呑む。
普通ならば死んでいる。
起き上がることも絶対にないと言えるはずだ。
だがそんな普通が通用しないのがこの異世界だ。
「っ……ったたた」
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
「う、うん。……ごめん、ちょっと体力の消耗が……」
強敵との戦いによる緊張感が解けたことによる安堵と疲労が、ドッと襲ってきた。
クラっとする視界、フラつく身体を柊に支えてもらいながら、とりあえずかこの場を離れようとした時だった。
不意に感じた背中の温かみ。
(……なに、これ)
そんな感覚に、身体を支えてくれる柊の顔を見た。
「……柊?」
後ろを向いて驚愕したまま固まった顔。
首を傾げてから一歩遅れて「まさか!」と背後へと目をやった。
背後には黙々と爆発した箇所からまだ煙を立ち登らせる魔獣の死骸がある。
先ほどと何も変わらないはずだった。
だが脳裏には柊の顔がチラついた。
もう一度魔獣の死骸へと目を向け、目を凝らしてジーッと見てみる。
すると、立ち登る煙の中で蠢く何かを見つけた。
嘘でしょ、と言いたくなったその時だった、蠢く何かは煙の中から飛び出してきた。
「―――」
「……倒せて、なかったっ!」
飛び出してきたのは先ほどと同じ魔獣だった。
姿形もまるっきり同じだが、一つだけ違うの身体の大きさだった。
さっきまでの巨大な身体とは打って変わって、今度は人より二、三倍は大きいよね、くらいのサイズだった。
「……そっちが本当の姿なのかな?」
ギロっと六つの目が一斉に向いてきた。
ただサイズが違うだけのはずが、なぜか魔獣が立つだけで二人の戦意は挫かれる。
今にも逃げ出したいという気持ちに駆られる。
それでも、立ち上がるしかなかった。
「っ、ママっ」
「柊。……離れてて」
守りたい者が居るから、勝ちたい。
いや、勝たなくてはいけないのだ。
今目の前にいる魔獣がどれほど強いのかは分からない、さっきの数倍なら勝てないだろう。
それでもだ。
闘志を燃やせ、闘争本能を呼び覚ませ。
修羅の戦いを演じるのだ。
イメージするのは、今までずっと見てきた最強の戦闘種族の力。
「絶対勝つから!」
「っ」
その時だった、再び背中ぎ温かくなったのだ。
そしてそれに気が付いたのは自分だけでなく、柊もそのことについて気が付いていた。
「ママ、それ……」
「えっ、何これ……」
背中を見ようと顔を後ろに向けると視界の端が青く光っているように見えた。
何が、それは自分の背中だ。
自分の身体に何かが起きている、なのにそれを確認できないのが物凄く怖かった。
「しゅ、柊っ、どうなってる!?」
「え、えっと……これは、ステイタスですよね……その、ステイタスが光ってます」
「ステイタスが!?」
見えているだろう柊に尋ねて帰ってきた言葉に、さらに謎が深まった。
本来ステイタスはその人物の全てを表している者だ。そして冒険者などが冒険者カードに情報を書き写す際に、ギルド側は特別な手順で今のように光らせて記載事項のみを書き入れて、冒険者カードを発行している。
なので普段は光るはずのないステイタスが光っているのだ。
「……な、なんで今?」
目の前の魔獣を見ながらそう呟いたその時だった、突然頭の中に記憶が流れ込んできた。
それは何かの記憶。あまり分からないが分かる記憶。
まるで今まで当然のようにしてきたことを思い出すかのように、呼吸を思い出したかのような不思議な感覚になった。
「……」
でも、おかげで分かった。今の現象が。
「……柊。お願い」
「え、何がですか……?」
振り向き、柊の顔をじっと見ながらそう言い、そして手を取った。
困惑しながらも柊は同じように動いてくれる。
手を強く握ると、柊も強く握り返してきてくれる。
「……これじゃない」
「え? ―――っ⁉︎ ママ⁉︎」
手を握っても何も起こらなかった。そのため、すぐにやり方を変えた。
ガシッと力強く柊の身体を抱きしめた。
背後ではゆっくりと魔獣が近寄ってきているのにも関わらずだ。
「これでもない!」
時間が刻一刻となくなってきている。
魔獣との距離も10メートルあるかないかほどだ。
どうするか脳みそをフル回転していた時、ガバッと覆うように柊が背後から抱いてくれた。
その時だった、これだ。そう、頭が直感した。
「……柊。驚かないでね」
「もう、ママがすることにいちいち驚いてたら世話ないですよ」
「それもそっか」
優しく、後ろから抱きついてくれた柊の手をどかし、ゆっくりと魔獣へと近寄っていく。
そして互いに立ち止まった。
次の瞬間だった。
周囲一体の魔力が無くなったのだ。そして同時にメリメリバキバキととんでもない音が森中に響き渡った。
柊が目を凝らして目の前の光景を見た。
それはありえない光景で、目を疑うに決まっている光景だった。
柊の目には大地を持ち上げる鬼の姿―――二本の角を額に生やした私が見えていたのだから。
「ふっ―――‼︎」
その力みと同時に大地ごと魔獣が吹き飛ばされた。
地面が丸ごと空に飛んだのだ。そしてすぐに落ちてくる。
落下の衝撃は凄まじくだいぶ先に落ちたというのに、衝撃波がここにまで届いてきたのだ。
「……ま、ママ?」
そんな異常な光景と、衝撃の光景を前に柊は顔を驚愕に染めるのだった。
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