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十二話 怒れる姿は般若の如く、修羅の如く

少し遅れてしまいました、すみません!

 緊張の高まる交渉の場。

 紅鶴(こうかく)は言葉を選びながら屍皇(しおう)の腹の中を探り始める。


「とても盟約の内容とは異なった交渉だったみたいだな……」

「いえ? 返答次第で変わりますよ、当たり前でしょう?」

「……恐怖政治で長続きする国があったか? ……交渉とは名ばかりだな、お前らは武器をチラつかせて脅迫する野盗か?」


 言葉を選びたくても、どうしても怒りが湧き出てきてしまう。

 やっていることが卑怯であり、舌を何枚も隠しもち、詭弁しか言わぬ者に怒りを抑えろというのが間違いだろう。


「言葉遣いが悪いですね……まぁ、あなた方の言葉を反論できるほど、私はこの行為を正しいとは思えませんが」

「やらされてるって言いたいのか? 今更命が惜しくなったか?」

「事実を話しているだけですよ、本国は何を考えているんでしょうかね。こちら側から攻撃を仕掛けておいて……」


 そう言い浮かべる屍皇の表情は、困惑や戸惑いに染まっていた。

 常識的に考えるならばその通りであり、共感のいく言葉だが、経験が警告してくる。

 こいつの舌は二枚も三枚もあるぞと。

 全てにおいて計算なのだ。


(どうする……っ。ハッタリか事実か、こいつのことだからハッタリの可能性は低い……、だが事実だとするならば)


 詰みだ。

 あの二人の命は何に変えても守らなくてはならない、そんな二人が敵の言葉とはいえ危機的状況となっていると聞いてしまえば、行動することができなくなってしまう。

 敵の言葉を信じるか、信じないか、どちらか一方を選ばなくてはならない。


「……紅鶴」


 息の詰まりそうな二択の板挟みの中、頭を使うタイプではない紅鶴が苦悩していると、それを見ていた酒呑(しゅてん)が声を掛けた。


「時を読むのじゃ。さすれば、好機とやらがやってくるはずじゃ……」

「それは、一体……」


 酒呑の言葉に疑問符を浮かべた直後だった、とてつもない轟音と共に目線の先で目を疑うようなことが起きた。

 宙を舞う抉り取られたかの一部の地面。

 木々が生えたままの状態な綺麗な状態の物が。宙に飛ばされた地面はそのまま落ちていった。

 その衝撃は凄まじく、だいぶ離れていた場所にも関わらず紅鶴達の居るところまで衝撃波がやってきた。

 吹き飛ばされそうなほどの威力の衝撃波が。


「っ!」


 どうにか踏ん張り吹っ飛ばされずに済んだが、周りは惨憺(さんたん)たる光景になっていた。

 飛来してきた物体が魔獣や防衛隊の者達に無差別に当たり、重軽傷、中には死に至るものも居た。


「……状況報告‼︎」


 紅鶴が叫ぶように指示を飛ばすと、防衛隊の人々はすぐに動き出した。

 防壁にも傷ができてしまっていたが、破られてはおらず最悪は防がれていた。


「一体、何が……」


 突如起こったことに呆然とした声で困惑してしまう。

 ふと前を見れば、屍皇(しおう)達も驚いているのか二人共地面が落ちた箇所を眺めていた。

 これら全ても屍皇が用意した演出かと考えるものの、屍皇の顔には、頰に一筋の切り傷が付いていた。

 それを見てその考えを否定した。


「隊長っ。第一班から五班までは損害軽微、六班、七班は甚大です!」

「そうか。急いで怪我人の手当てに回れ、ここはアタシらが残る……葛葉の連れもだ。巫女様以外は、酒呑様と一緒に戻っといてくれ」


 報告を聞いた紅鶴は目を伏せ、すぐに次の指示を出す。

 そのための無い指示出しを受け、防衛隊の人々はすぐに動くことができた。

 そんな中、唐突に告げられる言葉。

 二人は顔を見合わせて紅鶴の言わんとしていることを察した。

 それは出来ない、葛葉が危険な状況というのに自分達だけのこのこと安全な場所に行くなんて。そう言おうとする二人の行動を止めたのは、二人の後ろにいた酒呑だった。


「っ、酒呑様……」

「安心せい。紅鶴達に任せ、わしらは後ろで待つべきじゃ」

「で、でもっ、それだと葛葉さんが……」


 二人が一番わかっているのだ、紅鶴達と比べれば自分達は弱すぎるということを。

 ここにいても、もしあの幹部と戦いに発展したら足手纏いになってしまう。

 ただそれを理解していても、思いがそうさせてくれない。一蓮托生のパーティーとしてやってきた自分達なのに、一人が危機的状況で大変な時に安全な場所にいるというのは明らかに違うからだ。

 弱いからこんな扱いを受けてしまうのだ、これ以上ない屈辱だった。

 そんな二人の心中を悟ったのか、目を細めた酒呑が二人の手を取った。


「弱気は恥ずべきことでは無いのじゃぞ? 弱いからこそ、生き残れることもある。……弱ければ、弱いなりにできることをするべきじゃと、わしは思うのう」


 そして笑いかけながら、そんなことを言ってくる。

 納得感も説得力もあるそんな言葉を。


「それに、紅鶴の考えも大体察しがつく」


 そういうと二人の後ろに居た酒呑は、二人の間の先にいる紅鶴を見た。

 後ろからが故に、顔は見えないものの、それは重要ではない。


「怪我人の手当てに行かせたいのじゃろう。魔獣の脅威はまだまだ健在じゃからのう、兵力が足りんのじゃ。警戒する者と手当てする者に分けるとなるとのう」

「……」


 酒呑にそう言われてしまった二人は沈黙し、従おうとした。

 そんなふうに言われてしまえば首を横に振る道理はない。だが、それでも悔しいものは悔しい、二人は同時に拳を握りしめた。

 そんな時だった、クスクスと酒呑が唐突に笑い出したのだ。二人がキョトンとして顔を見合う。

 困惑する二人に酒呑はクスクスと笑い続けたまま答えた。


「なに、今わしが言ったものは建前じゃ。あやつはただ心配なのじゃよ、汝等のことがのう。気丈に振る舞ってはいるものの、根はいい子じゃし心配性じゃからのう」

「っ酒呑様! 早く行ってくださいって‼︎」


 そんなとんでもない暴露をする酒呑と、された紅鶴。紅鶴はすこし怒筋を浮かべながら、酒呑へと吠えた。

 酒呑は悪戯っ子のような笑みを浮かべて「怒っとる怒っとるよ」と笑っていた。

 二人はそんな酒呑に苦笑しつつも決意を固めた。

 紅鶴の指示に従うことにするのだった。

 きっと、あの指示の中には「酒呑様を頼む」という思いもあったのだろうから。

 二人は酒呑の手を取って駆け足で防壁の中へと戻って行くのだった。


「―――随分と、余裕ですね。状況を理解できてますか?」

「ん? あぁ、できてるぜ。盟約の交渉なんてもう記憶の彼方にぶっ飛んでて、お前が実力行使にでようとしてて、そしてお互い被害を被ってるって状況だろ?」


 口に出して再確認すると、なかなかに酷い状況だったが、余裕なのだ。


「でも、こっちは里の精鋭がこんな残ってるんだよ。一瞬でお前を取り押さえることができるさ」

「バカですか? 魔獣は? 魔獣はどうすると? ……特にこの子、などは?」


 パチンと屍皇が指を鳴らすと木々の間から姿を見せたのはあの魔獣、屠彪(とひょう)だった。


「あー……お前が居たなぁ……」


 獰猛な目つきで、グルグルとずっと威嚇してきている魔獣。

 唐突に余裕ではなく厳しいとなってしまった。

 目の前の魔獣を見て、顔を歪めていると、何処からともなく音がし始めたのだ。何かが飛来してくる音が。

 今度はなんだ、と叫ぶ直前だった、ドンッ‼︎ と空から巨軀が降ってきたのだ。

 メラメラと燃える炎のような体皮、毛の一本すら生えていないようなそんな感じだ。

 そして極め付けは、胴体から生えている三つの頭。

 見たことも聞いたこともない魔獣に唖然としていると、


赫焼(かくしょう)⁉︎」


 屍皇が答えてくれるのだった。


「一体何があったのですか!?」


 屍皇のその慌て振りにその場の全員が察した。屠彪なんかよりも、オッチの方が強いのだろうと。


「っ、一体何が……っ。あなた、でしたか……」


 屍皇はブルブルと顔を振る赫焼とやらのことを宥めて、辺りを見てピタッと止まった。

 紅鶴達もその視線の先へと目を向けてピタッと動きを止めた。

 ザッ、ザッ、ザッと茂みの中を掻き分けながら足音を鳴らす者。

 強烈な威圧感を放つそれは―――般若のような葛葉だった。

読んで頂きありがとうございます!!

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