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六話 駄洒落はほどほどに

 ゴゴゴッという音を立てて自動車並みの速度で何もかもを飲み込みながら流れてくる土砂。

 自身をエンチャントさせ身体能力の爆上を促す『紅焔鎧』がなければ土砂に圧倒的な差をつけられていたに違いない。

 身体能力の爆上で上がった体力も今やすっからかんだった。


「でもっ……間に合った……‼︎」


 あの美少女の元から駆け出し、全速力で走った結果、(しゅう)のもとには一分もかからずに到達することができた。

 道中、木の根っこや枝等に足を取られ転びそうになったものの、気合いで頑張って走った。


「これ、間違いなく筋肉痛になるなぁ〜!」


 柊の姿形が次第に大きくなっていく。

 それに呼応し走る速度が自然と上がる。

 そして土砂崩れに圧倒的な差を見せつけて、バッと柊のことを抱きしめ、土砂崩れの進行方向外に連れ去った。

 ドサッと背中から茂みに飛び込むと同時、そのちょっとした痛みを堪えつつ、絶対に離さないように柊の身体を抱き寄せた。

 ガンッ、ドサッ、ザサササササと茂みを数個通り越し、岩等に肩や腕をぶつけ、背中全面で着地した。

 肺の中の空気が全部衝撃で吐き出してしまうが、辛い顔を浮かべずに我慢した。

 苦しいのも痛いのも辛いのも、顔には出さない。

 今、自分の胸の中には大切な、そして守るべき子が居るからだ。

 ケホッ、ケホッと控えめな咳をしながら、腕の中にいる柊の頭を撫でて様子を伺った。


「大丈夫……?」

「っ……」


 咳同様、控えめな笑みを浮かべてそう尋ねた。

 胸に顔を埋められていた柊がゆっくりと、顔を上げてその笑みを見て赤面した。

 ボッと音がしそうなほどに。


「ちょ、大丈夫?」


 その顔を見てあわあわと、何処かぶつけたか? と思うも、上げていた顔を再び埋めてしまった。

 そしてくぐもった声で、「大丈夫」と返事するのだった。


「うん、なら良かった……」


 とりあえず一安心つけると気を緩めたと同時だった。

 地面がグググと動き始めたのだ、土砂崩れの余波が伝わってきたのだろう、次第に身体までもが動き始めてしまう。

 そのまま土の波に連れられ、どんどん下へと流されてしまうのだった。

 焦りを感じる物の、絶対に柊を守ると言う意思を持って抱き寄せ抱きしめて、その波に抗わずに流されていくのだった―――。

 ―――一方で、轟音を轟かせ馬車よりも速い速度でやってくる土砂を前に、紅鶴(こうかく)はゴキゴキと肩を鳴らしていた。

 面倒なのが来たなと辟易しながら、里を守るために今まで生きてきた中で数少ない本気を出す。


「―――ふぅ……―――ッ‼︎」


 瞑目し鬼の本能、鬼を鬼たらしめる力を目覚めさせる。

 瞬間、辺り一体の魔力が根こそぎ奪われて枯渇した。

 感覚や雰囲気ではなく、肉眼ではっきりと視認出来るほどに空間が歪んだのだ。

 『角』が生える。

 一際大きな一本角が。

 巫女を除いて鬼族最強とも謳われる紅鶴の本気の象徴だ。


「―――力を貸すのじゃ」


 その時だった、土砂を迎え撃とうと構えを取ったと同時に横から声がしたのは。

 振り向けばそこには既に角を顕現させている鬼丸の姿があった。


「……フッ、心強い」


 呆気に取られ構えが自然と解けてしまったものの、すぐに構えを取る。鬼丸も同時に構えを取り、迫り来る土砂をまっすぐと見据えた。


「消し飛ばすのじゃ―――ッ‼︎」


 そんな鬼丸の掛け声と共に繰り出された二人の拳は迫り来る土砂崩れの波を、たった一撃で吹き飛ばしてしまった。

 その衝撃は土砂全体に伝播し、土砂崩れは跡を残し跡形も消えて無くなってしまうのだった―――。

 ―――ドサッとまたしても背中から落ちたことに「ま、またぁ⁉︎」と叫びたくなるのをグッと堪え、柊のことを大切に抱きしめながらむくりと起き上がる。

 辺り一帯は暗く、臀部は服越しにゴツゴツとした岩肌と触れ合う感覚を知らせていた。

 暗くてはっきりとは見えない物の、ここがどこなのかは薄々と分かった気がしてしまった。


「い、生き埋めに、された……⁉︎」


 現在自分が座っている岩や、ぴちょんぴちょん水の滴る音が鳴り響き、よく反響する空間。

 答えははっきりしている。洞窟だ。

 しかも入り口は土砂崩れの土砂によって完全に塞がってしまっていた。

 幸いにも隙間があるおかげか空気が中に流れてきているために、息苦しくはならないと思われる。


「う、嘘……」


 だが精神は別だ。

 人間、生き埋めだなんて聞けばパニックになるか、最悪恐慌状態になってしまうだろう。

 だが、それを胸の中で縮こまる大切な子の義理の母となるためにという、意地とも呼べる精神力で抑えていた。

 幸いにも柊は気を失っていた。

 外相はない物の、土砂に流されながらも何度も跳ねてはぶつかってを繰り返したからだ。

 自分の身体は既にボロボロだが。

 ゆっくりと硬い地面なのに気が引けるものの、柊を寝かせて自分は「ふぅ……」と息を吐いた。

 そしてまず最初に身体の傷を治すのだった。


「……まさか、こんなことになるなんてなぁ」


 自分が何も考えずに飛んで助けたせいでもあるものの、災難続きなことにやはり嘆息が出てしまう。

 怪しい影を追った結果、超強い女の子と戦った上に、土砂と並走し追い抜き、柊を救い、身をボロ雑巾のようにきったなくした。

 が、最悪……とは思っていない。今は誇らしいの方が勝っていた。

 今はとっても、「柊を救えた」という、ただそのことがものすごく誇らしいのだ。


「暗ぃ」


 どこに目を向けてもどこに居ても目の前を覆うのは真っ暗闇。

 そんな中で長時間いるには、あまりにも人の精神性は脆弱的なのだ。

 実際に自分の頭の中では「暗ぃ」という口にした言葉に対するくっだらない駄洒落が浮かんできては、ずっと残ってしまっているのだから。


「暗ぃとcryくなっちゃうね」


 そして口に出してしまうほどには、既にいかれていた。


「……っは‼︎ もしかしたらっ」


 と、くだらない駄洒落のおかげか少しだけ余裕のできた脳みそが、とある妙案を思いついてくれた。

 そう、それは、


「『紅焔鎧』」


 愛用する身体強化魔法の淡い光だ。

 普段なら気にも留めないほどの弱く淡い光だが、真っ暗闇ならばと、試しに魔法を発動させてみたが、


「っ、悪くない考えだったみたい……!」


 その淡い光は弱々しくも、真っ暗闇を僅かに照らしてくれた。

 そして照らされた空間はやはりと言った感じの洞窟だった。

 特段大きいわけでもなく、奥に広がっていたり、分かれ道や横道が無数にあるわけでもない、小さな洞窟だった。

 閉所恐怖症が発症するにはやや広過ぎるほどに、暗所恐怖症は既に絶命してしまうほどには真っ暗だが。


「……ぁ」


 淡く照らされる洞窟の中を眺めていた最中、突然くらっと視界が揺れた。

 そして自覚した。

 限界だと。

 ドサッと硬い今の上で仰向けになり、淡く照らされる薄暗い洞窟の天井を見つめた。


「……あ〜ぁ。ん〜限っ、界……」


 伸ばしていた腕から力を抜き、バタンと薄暗い洞窟内にそんな音が響くのだった―――。

 ―――跡形もなく消え去った土砂を前に、鬼丸と紅鶴は難しい顔を浮かべていた。

 背後からは土砂を見事、消し飛ばした二人へ向けられる歓声が上がっている。


「妙な手応えじゃなぁ」

「……巫女様も感じたか」


 グッパッグッパッと拳を何度も握っては開くを繰り返す鬼丸と、同じ気持ちの紅鶴が土砂がやってきた方をじっと見ていた。


「自然災害にしてはちと、軽すぎるのぅ……」


 自然災害。それは古代から神の怒りとも言われてきた。

 そしてそれが本当であり、これが神の怒りと言うのならば、その場合、たとえ二人でも被害を最小限に留めるだけで終わりだ。

 だが、今回は二人の一撃で吹き飛んでしまった。跡形もなく、神の怒りにしてはあまりにも弱いのだ。

 その違和感が鬼丸と紅鶴にモヤを作っている。


「嫌な気分じゃ」


 にゅっと表情を不機嫌に歪め、むぅと息を吐き、テクテクと里の方へと歩き出すのだった。


「一波乱ありそうじゃな」

「……あって欲しくはないがね」


 鬼丸のその言葉に紅鶴はヤダヤダと肩を揺らすのだった。

読んで頂きありがとうございます!!

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