五話 ピンチからの逆転
すみません、今回のは昨日の分込みです!
手、腕、顔、そして目。
激痛が順々にやってきた。
特に目の被害が大きく、飛んできた破片により目は完全に機能を失っていた。
「……っつ」
親指の先は吹き飛び、親指と人差し指の間も皮膚が裂け筋肉の断裂も見られている。人差し指も第二関節までが吹き飛んでしまっていた。
破片は腕にも突き刺さり、腕にも転々と傷が出来ておりそこから血が流れていた。
硝煙が覆い隠すように広がり、視界を奪う。
激痛に苦しみながら周囲を見ていると、
「―――‼︎」
バッと硝煙を突き破って飛び出してきたのは美少女の手だった。
そのままガシッと首元を鷲掴みされグググッと音が鳴るほどに握り潰される。
息が出来なくなる、首がさらに細くなってしまいそうになる。ぐふっ……と声が漏れ、しまいには泡が吹き出し始めた。
持ち上げられ足が地につかずバタバタと地面を探そうと必死に暴れ回った。
「……どうですか? あの道具を封殺され、みっともなく無様にまんまと首を掴まれ、死ににゆく気分は」
ガリガリと美少女の腕を袖越しに引っ掻くが意味をなさない。
さしもの『想像』でも首絞めには無力。どんなに首を絞められる前の状態を想像しても、現在進行形で締められているのだから意味がないのだ。
「……どうして、という顔をしていますね」
美少女を睨む顔を、美少女は微笑みながらじっと見た。
「簡単ですよ、見ていたのですから」
その言葉を聞いた瞬間に思い出すのは昨日の戦い。自分が激しく戦ったあの戦い。使えるものは全て使ったあの戦いだ。
「……っ、クッ、ソ……‼︎」
意識を飛ばし掛けながら悪態を吐いて最後の悪足掻きとして、蹴りを美少女の身体に打ち込むが、ゴンッという音に阻まれた。
それを見届けた直後、意識がなくなってしまうのだった―――。
「―――終わり、ですね」
だらんと力なくぶら下がる腕と脚、完全に死んだ。もしくは気絶だろう。
死んでいるのならこのまま放置してもいい、気絶ならばトドメを……。
「……カラン?」
心臓を握り潰そうと腕を振り上げた時だった、地面に何かが落ちる音が小さく響いた。
その音の方に目をやれば、そこには丸状のリングから棒状の突起のようなものがある金属製の物が落ちていた。
普通ならば見覚えはないが、美少女にはあった。
あの時、【英雄】が使っていた爆発物―――!
「―――ッ‼︎」
パッと光り輝いた直後、熱波と爆風がやってくる。そして魔法障壁へと物が当たる音が無数に聞こえてきた。
「……っ、やられましたね」
【英雄】から遥か後方に飛び退いてその爆心地を見やる。そこにはシュウウウと煙が立ち込めていた。
その煙の中には人影が。
「すみません、正直舐めていました。……そこまで無謀な特攻をするなんて、自殺志願者なんですか?」
煙の中から歩いてやってくるのは半身がズタボロになり、血だらけで歩くのもやっとな状態の【英雄】だった。
持ち上げることすら不可能なその腕を、ゆっくりと上げてまたしても『創造』。今度作り出すのは大きく思いリボルバー。
S&W M500。
50口径を打ちですことが可能な大口径リボルバー。
その破壊力は熊をも一発で仕留めれるほどだ。
そんな怪物級のリボルバーを構え、美少女に照準を合わせる。そして銃の反動などお構いなしの五連射。
M500の装弾数全てを一気に撃ち尽くした。
「つっ……罅っ」
全面に展開していた魔法障壁に入った罅。
そのことに驚愕していると、視線の先、ポケットから何かを取り出す【英雄】。
「―――」
手にはそのまま何かが握られており、同時に取り出したもう一方はこちらに転がってきていた。
カランカランと音を立てて転がってきたのは形状の違う爆発物だった。
驚きはするものの、この爆発物の危険性は音速を超えて飛んでくる破片。ならば魔法障壁を張っている間は何の危険も無いということ。
余裕をぶっこき、爆発物を無視してどう距離を詰めようか考えていた時だった、パンッと音が鳴り響いた。
直後、眼球を焼くような光が襲ってくる。
キーンと激しい耳鳴りと、真っ白な視界で平衡感覚すら失いつつよろめいていた時、またしても音が鳴り響いた。
「―――っつ」
パキッと5回分音が鳴り、またしても魔法障壁に罅ができたのだと察した。
「っ、油断……し過ぎました」
膝立ちの状態で美少女は嘆息しつつそうぼやいた。
「……っ、本当にね」
M500の銃口を美少女の頭に向けながらいつでも引き金が引ける状態で、美少女の言葉に同情するのだった。
「吐いて。あなたの目的は? あなたの正体は?」
だが同情するのは可哀想だからではない、皮肉としてだ。本当に同情していたら銃など向けてはいない。
今はただ情報を手に入れるために、それだけのために生かしているに過ぎない。
「ふふっ……甘いですね【英雄】」
ゆっくりと顔を上げた美少女はこちらの目を真っ直ぐと見つめてきてはそんなことを口にした。
疑問に思っていた次の瞬間、ドゴンッという爆発音が背後で鳴った。
バッと振り変えり目にしたのは、崖の縁が土煙を立てて崩れ始め、それに呼応するかのようにズズズと周りの崖の縁も崩れ始めたのだ。
「……っ、土砂崩れっ!」
方向は里。
衝撃に顔面蒼白になっていると、美少女が手を動かした。
咄嗟にグググと銃口を押し当ててそれを静止しようとしたが、美少女は止めることなく、魔法を行使した。
ただその魔法は攻撃などではなかった。
その魔法はこの世界で数回見たことのある、映像魔法だ。
ホログラムチックな画面に映し出されるのは、ドドドッと音を立てて何もかもを飲み込みながら速度を上げていく土砂崩れと、その進行方向にある里の映像。
不味いっと思った瞬間、さらに不味い事に気が付いた。
「柊っ⁉︎」
獣道を走っていた小さな影が土砂崩れを前に立ち竦む事だった。
「あなたのお仲間か、何者かは存じませんが……。このままでは死んでしまうでしょうね」
「―――」
美少女の言葉に怒りが爆発しそうになり引き金に掛けていた人差し指に力が籠ったが、ハッとして息を整えて、冷静になって考えた。
今ここでこの美少女を殺した場合、目的や正体が分からない上に里を救うことも、ましてや柊を救うこともできない……。
対して今すぐに全速力で向かえば柊だけは救えるかもしれないのだ。
「……っ」
ドクッドクッと心臓の鼓動が早まる。
決断できない、どちらが正しいかなんて決められない。
「そんなでは救える一つも救えませんよ!」
ニッと不適な笑みを浮かべる美少女に「黙れ‼︎」と怒鳴りたくなるのを必死に堪え、M500をホルスターにしまい込んだ。
そして全速力で駆け出す。土砂崩れの速度は時速40〜50キロメートル程度とされている。
それは車と大差がない。
つまり今、自分は車を追い越す気で走るのだった。
「ふぅ……命拾いしました」
その背中を見ていた美少女は安堵の表情を浮かべて嘆息するのだった。
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