八話 その髪型は……
だいぶ遅くなっちゃいました、すみません!
―――翌日―――
眠気眼を欠伸をしながら擦り、寝癖やらなんやらでボサボサだった髪を梳いてくれている五十鈴へ顔を向けた。
「葛葉様、あまり急に動かれては困ります……」
「んぁ、そっか、ごめん」
うっかりしていた、と再び眠気眼を擦る。
ぼーっと虚空を見つめてから、今度は頭を動かさずに五十鈴のことを呼んだ。
「ねえねぇ、律はー?」
「律様なら、朝食の準備を手伝っています」
「あ、そうだった」
五十鈴の言葉を聞くと、またぼーっと虚空を眺め始める。
そんなことの繰り返しを終わらそうと、五十鈴は梳いていた手を止めて、耳元に口を近づけた。
「葛葉様。……昨日何時に就寝しました?」
「……んう〜何時だったかな」
いつも以上にぽやぽやしてる上に眠そうな姿から、五十鈴はそう推理した。
ほぇ〜っと、寝た時間をぽやぽやしている頭で思い返す。
「わちれた、んへっ」
ベッと下を出してはにかむ姿に、五十鈴は目をピクつかせた。が、すぐに頭を振って理性を取り戻す。
駄目だ駄目だと、胸の内で自分に言い聞かせ必死に耐えていると、
「……どしたの、五十鈴?」
ポカン、と呆けた顔で首を傾げ、固まっている五十鈴の顔を覗いてくるのだった。
「っ……いえ、すみません。少し、理性が……」
「ん?」
顔を逸らし拳をぎゅ〜っと握り、何かを必死にこらえているような五十鈴に、またまた首を傾げた。
そんな時だった、ペタペタと可愛らしい足音がしたのは。
足音のする方に目を向ければ、それは抱き心地の良さそうなぬいぐるみを引き摺りながら歩いてくる若葉だった。
「……んぅ、えいゆー」
ふにゃけた声で呼び、眠気眼を擦りながら目を細くして探してくる。
ふらふらと身体を揺らし、見つけたのかふらふらと歩きながら真っ直ぐこちらへとやってくる。
「……えいゆー、眠い」
「え、えぇっと……」
自分よりも明らか眠そうな子を前にして、こちらの眠気は一瞬で吹っ飛んでしまった。
ふらふらと歩く若葉を見る様は、まるで初めて歩く赤子を見守るような状態だったろう。
若葉はそのまま歩いてきて、手を伸ばしペタペタと身体を触ってくると、
「あ、ちょっと……」
向き合う形で膝の上に乗っかってくるのだった。
そして胸を枕の代わりにするかのようにして眠ってしまう。ありゃりゃ、と困惑の表情を浮かべるものの愛らしいその姿に、自然と小さな身体を抱きしめていた。
「葛葉様……」
若葉を抱きしめ微笑むその顔を背後から見ていた五十鈴は目を見張った、溢れんばかりの母性を醸し出すその顔に。
そして髪を梳き直そうとした時、
「―――さぁ! ご飯ができましてよ‼︎」
竜胆が朝食の乗っかったお盆を持ちながらリビングへと入ってきたのだ。
ありゃ、と竜胆のことを見て、五十鈴へと声を掛ける。
「どう、寝癖治った?」
「はい、大体は治りました……ですが」
所々髪の毛が跳ねてしまっている、そう伝えようとすると、ちょこんと人差し指で口を静止されてしまう。
「もう、ご飯みたいだし今日はこれでいいよ」
「ですが……っ」
尊敬する相手に対して中途半端な状態の仕事をすると言うのは五十鈴には耐え難いものだった。
もちろんそのことを理解しているが、朝食の時間になってしまったからには仕方ない。
どう説得しようかな〜、と思っていた時だった。
「そだ! じゃあ髪を結んじゃえばいいんだよ!」
「……結ぶ、ですか」
跳ねているものを隠すように結んで仕舞えばいいと、根本的にはなんの解決もしていない事を提案してみると、五十鈴は少し考えてからやれやれと肩を落としつつも、ヘアゴムを取り出した。
「んー、母親役ってなら、やっぱりルーズサイドテール?」
「るーずさいどてーる、とは……?」
「あ」
しまった、とここの中でペチンッと頭を叩いた。
この世界で通じるのはポニテやらツインとかの有名どころだけだったことを忘れてしまっていた。
前に緋月に聞いた時は「有名どころは全部私たちが輸出して、大体はこの世界も輸入しちゃってるから☆」と言っていた。
だが、流石にルーズサイドテールは流石に輸出されていないのだ。
「あっとね、髪の毛をこうやって結んで、左右の、まぁどっちでもいいんだけどね。こう、肩の前に垂らすの」
と、身振り手振りで伝えると、五十鈴は「なるほど」と頷いて、シュババッと達人級の腕で髪の毛を結んでくれた。
「ん、おぉ……! すごぉ!」
神の如き御技にそんな感想しか言えなかったものの、どうやら本人は実に満足そうにしていた。
「ふっふっふ、これで母親バフが掛かったね!」
「なんですか、そのバフは……」
「ふふーん、私の母性にプラス30%の母性が追加されるんだ〜」
「理解りませんが、分かりました」と頷いてくれる五十鈴の温かい目にズキっと来た。
「―――なんじゃ、いい匂いがすると思ったら飯か!」
そんな所に寝巻きを着崩した鬼丸と、朝から明るく元気な椿もリビングへとやってきた。
食卓に次々と朝食が並べられていく。
「わぁ、美味しそう」
「ふふん、当然ですのよ! なんせ、私の手料理なんですから!」
隣で高らかに鼻を鳴らす竜胆の頭を優しく撫でてあげると、竜胆は顔を赤くしながら「何するんですの!?」とバッと、警戒心の高い猫のように距離を置いた。
そんなこんなありつつ、とりあえずは一人を除いて食卓に全員がついた。
この世界のいただきますをして、みんな一緒に食べ始めるのだった。
どこかに出掛けている柊の身を案じながら。
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