四話 戦う相手
大変遅れてしまいました、すみません!
「―――え?」
戻ってきたばかりの二人を迎えたのは酒呑の思い掛け無い言葉だった。
「これも頼み事の一つですじゃ。やってはくれぬかえ……?」
申し訳なさそうに一礼しながら言ってくる酒呑に、あわあわと慌てつつ、隣にいる鬼丸を見た。
手を絶対に離さないというふうに握ってきている鬼や、ここにはいない律や五十鈴にも話さないと行けないことだ。
何も一大事というわけではない。
ただ、
「えっと、私個人は問題ないんですけど、律や五十鈴にも聞かないと判断は……」
「もちろん、返答を急いでおるわけではない。ゆっくりと話し合い、考えてくりゃれ」
「はい、分かりました」
背を向け去っていく酒呑を見送り、チラッと鬼丸のことを見ると、鬼丸もこちらを見てきていた。
「わしは構わん」
えっへんと薄いくスカスカな胸を張りながら言ってくる鬼丸に、だろうね、と返し嘆息する。
頼み事がさらに面倒になってしまったと。
嫌というわけではない、ただ負担になってしまうのではないかと危惧しているのだ。
だが自分自身何感じていないわけではない。母親を演じるということに。
酒呑から追加された頼み事、あの姉妹達と同じ屋根の下で暮らすという物だ。四六時中、あの子らの母親になるということがどれほどの難行か。
自分が成したいこと、その成したいことに対する代償。
大いなる力には大いなる責任が伴うのと同じく、大いなる願いには大いなる代償が伴う)。
何を差し出せばあの子らを救い出せるのか。
(今まで救って来れた人のことを考えるべきだ……っ)
救い方も救われ方も、誰も教えてくれはしない。その人にしかできないことだ。特定の誰かではなく、その時その場で救ってくれたその人にしか。
「人を救うって大変だね」
「? 何を今更言うておる」
葛葉の突拍子もないその呟きに鬼丸は怪訝な表情で首を傾げる。
そのままの足取りで五十鈴と律、二人のいる部屋へ向かうのだった―――。
―――その道中だった、鬼丸と手を繋ぎ歩いていた所に、前から紅鶴がやってきたのだ。
何か用があるのかニヤッと笑みを浮かべた紅鶴は目の前にやってきた。
「え、えっと〜……?」
「おいおい、そう身構えんな。何もしやしねぇーよ」
と、肩を叩きながら言ってくる紅鶴にギッと、鬼丸が鋭い目を向けた。
「で、そっちが『巫女様』か。酒呑みたいだな」
鬼丸から向けられる目線に紅鶴が振り向き、鬼丸の姿を見て好き勝手言う。
恐れ知らぬその姿勢に鬼丸は目を丸くした。
「何じゃ、お主はわしに慄かんのか?」
「慄く、ね。上か下かなんざ、あたしが決めんだ。誰かの言葉で優劣が付くなんざ絶対嫌だね」
少しだけ嬉しそうき尋ねる鬼丸に対して、紅鶴は自信満々にそう答えた。
言われれば確かに鬼丸を前にして冷や汗ひとつ書いていない。鬼丸から睨まれればどんな物だろうと、少しだけは後退りしてしまうのにだ。
「ふっ、【戦帝】よりも勇ましいではないか……」
嬉しそうがさらにすごく嬉しそうに変わり、鬼丸の顔も怖くなるものの、紅鶴は、
「今は無理だよ。これからも、この問題が片付いたら一戦やりたいもんだね」
「ほう……。努、その言葉を忘れるでないぞ?」
現実的にちゃんとした答えを出すが、すでにやる気満々な鬼丸はメンチを切るように距離を詰める。
そして「言ったからには絶対忘れんなよ」と可愛らしく返すのだった。
(わぁすっごい、見たことない顔……)
とてつも無い殺気に冷や汗が出てきそうになる。
いや、実際流れてる。
けれど紅鶴は冷や汗ひとつ掻いておらず、しまいには、
「……ほら、さっさと行きな。引き止めて悪かったね、用があったんだろう?」
「あ、はい」
「そんじゃまたいつか」
そう言って酒を呷りながら歩いて行ってしまった。
「ほら、行こ……って、なんて顔してるの!」
紅鶴が去った後、鬼丸の手を取り二人の下に行こうとしようとして、鬼丸の顔を見て驚いた。
殺気と興奮にちみ溢れた狂気の笑顔を浮かべていたからだ。
「葛葉よ、とっととこの魔獣騒動は終わらせるのじゃ。わしは彼奴と戦いたい……!」
心配なほど恐ろしい狂笑で言う鬼丸に、はいはいと答えて引っ張っていく。
そんなに期待値を上げてどうするのかと、どうせ鬼丸の方が強いのだから。
「……む、葛葉。貴様、どうせわしが勝つのだから戦う必要ないじゃろって、顔をしておるな!?」
「……あは、あはは、そんなことないよ?」
妙に勘の鋭い鬼丸に心内を見透かされてしまった。
誤魔化すものの、握っていた鬼丸の手に力が込められ、手が悲鳴を上げた。
ごめんごめんと平謝りすると、鬼丸は、
「あの者。下手したら彼奴よりも強いぞ」
「……緋月さんよりも?」
「あぁ」
嘘、と自然と口から出るが鬼丸は、嘘じゃないと答える。
緋月より強いと言うことはそれはもはや最強だ。
鬼丸には勝てないにしろ、他の要因で負ける気がしない。
「緋月さんって意外と……」
「仕方あるまい、彼奴は抱え過ぎておる。よくあの状態で戦ってこれたものよ」
「え?」
意味深な鬼丸の言葉に顔を見ると、鬼丸はおっとと、口を手で塞いだ。
気になりはするものの、こうなった鬼丸からは何も聞き出せないだろう。
そして、そんなこんなしていると、扉の前に辿り着くのだった。
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