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三話 正解も間違いもない

遅れてしまい、すみません!

 それからだいぶ二人は時間を忘れて話をしていた時だった、


「……葛葉」


 音もなく背後に立っていた鬼丸に声を掛けられた。

 ビクッ⁉︎ と身体が飛び跳ね、振り返った先には泣きそうな顔で立っている鬼丸が。


「…………あ」

 そして自分のしてしまったことに気がついた。

 鬼丸に話があると言われ呼び出され、その目的地に向かっていた最中だったことを。

 そしてそのことをすっかり忘れ、琥珀との話に没頭してしまったことに。


「待っておったのじゃぞ……?」


 うるうると目を潤ませて、口を震わせながらそう言う鬼丸に、心が締め付けられる。

 流石に擁護のしようもない上に、あまりにも酷いことをしてしまったのだから。


「ご、ごめんねっ、鬼丸……!」

「……別に良いのじゃ、うぬにとってわしはその程度なんじゃな……」


 寄り添い背中をさするも、鬼丸の傷はとても深く、そんなその場しのぎの謝罪など通用するわけがない。

 憤慨するよりも、こう落ち込まれる方が堪えるとは思いもよらなかった。


「お、鬼丸……」


 許してもらえないかもしれない、そんな恐怖に怯えていると、


「……一週間」

「え?」

「一週間、わしの側を離れるでない。ずっと、側に居れ……それが許してやる最低条件じゃ!」


 ムスッとしながらそう言ってくれる鬼丸に、内心ホッとしつつ抱き締める。

 今の自分に出来ることはそれくらいだけだった。


「……して、うぬは何者じゃ?」


 抱き締められながら鬼丸はベンチに座ったままの琥珀に目を向けて尋ねてくる。

 あぁ、と抱き締めるのをやめ、鬼丸と琥珀の顔を交互に見てから両者に紹介する。


「この人は琥珀さんで、こっちは鬼丸。琥珀さんとはついさっき会ったばっかりなんだよね……」

「ほう、琥珀……とな。ふむ、獣人と鬼族のハーフか、珍しい奴じゃな」


 琥珀を紹介されると鬼丸はまじまじと、琥珀のことをじーっくりと見てから多少驚きながら顎に手を当てた。


「鬼丸もそう思うんだ」

「当たり前じゃ。……まず基本に、わしら鬼族の血は濃すぎるが故に他種族と子を成すとするとかなり大変でのう。大体はわしや酒呑、その他の者のような純潔になるのじゃが、たまにこうして混血が生まれるのじゃよ」


 へぇ〜っと鬼丸のその説明に相槌していると、鬼丸が琥珀に一歩近づき、


「どっちが鬼族じゃ?」

「えっと、父ですが……」


 鬼丸の唐突なその問いに対し、琥珀は首を傾げながらも答え、それを聞いた鬼丸はふむと再び顎に手を当てた。

 そして少しの間を開けてから、口を開けた。


「お主、あの紅鶴という女の側近かなんかじゃろ?」


 指パッチンと共に鬼丸はそう口にした。

 紅鶴といえば今の所、盃を常に手にしている酔っ払いという印象しかない。昨日の夜のやり取りで少しはどんな人柄なのかは見えた気もしたが、まだ謎の多い人物だ。


「側近……というと少し語弊がある気がしますが、そうですね、それに近しい立場ではありますね」


 琥珀は少し困惑の入った微笑みでそう答えた。

 それに対して鬼丸は「やはりな」と言ったふうな顔でドヤっていた。

 そんな鬼丸にやれやれと笑みを浮かべていると、またしても完全に忘れそうになっていたことを思い出した。


「……鬼丸。それで、話って?」


 ドヤっていた鬼丸の方をちょんちょんと指で突き、鬼丸の言っていた話というものを聞こうとするのだった。

 言われた鬼丸は「あぁそうじゃったな」という反応。

 そして話を聞こうという姿勢になったが、鬼丸は横にいる琥珀のことをチラッとみて、む〜っと腕を組んで悩み始めた。

 そんな鬼丸に首を傾げるが、琥珀と目が合ったことで「そういうこと」と、鬼丸の心配ごとを察せれた。


「大丈夫だと思うけど?」

「……う〜、それじゃったらなぜあやつはお主に全てを話さなかったんじゃ?」


 楽観的に捉える自分とは違い、鬼丸はかなりの慎重派らしい。が、たとえ話が誰かに聞かれてたとしても、問題になることはほぼないだろう。

 あの五人姉妹を除いて。


「それは分からないけど……でも、多分平気だよ」

「……お主がそこまで言うのならしかあるまい。話すとしようか」


 そう言うとこほんと咳払いして、話し始めた。

 まずあの五人姉妹のこと、そしてその母親の「紅葉(くれは)」のことなど。鬼丸が酒呑から聞かされたこと全てを、そっくりそのままに話してくれた。


「やっぱり私が……」


 察しはついていた。(しゅう)のあの反応を見れば。


「葛葉、お主には断る権利があるのじゃ。そしてその権利を、【英雄】と言う肩書きがその権利の行使を邪魔しておるのならば、わしに汚名を被せてもよい」

「鬼丸……?」

「断るべきじゃ」


 鬼丸は冷徹に冷酷に正しき判断を下している。

 普通なら断るべきことだ。それが正しくて当然だからだ。

 亡くなった母親の代わりを演じる。仮にそれが小さな子供たち相手だったとしても難しい頼みだ。

 それなのに、あの五人姉妹は多感な時期に入りつつある若人。

 そんな彼女等の母親代わりをしろだなんてのはただの無茶振りでしかない。


「……うん、そうだよね。……でも、それでもね。私はしたいなって思った」

「したいなとな? そんな軽い判断ですることじゃないとわかっていてもか?」

「うん。私は母親になりたいわけじゃなくて、あの子達のことを助けたいから演じるの」


 鬼丸が正しいことを言ってくる限り、こちらの言葉はどんなことを言ったとしてもその正論を覆すことはできない。

 ならば自分に出来るのは精神論、根性論と言ったその類のもので許してもらうしかない。


「鬼丸、私は後悔したくない」

「……」


 最後の一言は今までのどの言葉よりも確かに、そして真面目に答えた。


「そうか。ならば、わしは口出しせん。それがお主の答えなのじゃな」


 鬼丸は根負けし。不服そうにしながらもこちらの意思を尊重してくれた。


「この行いに正解も間違いもありはせんが。ただし、あの小娘どもは救うのじゃぞ?」


 鬼丸のその言葉に、強く確固たる意思を持って頷くのだった。

読んで頂きありがとうございます!!

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