二話 新たな出会い
すみません、だいぶ遅くなってしまいました!
若葉を竜胆がひっぺがして貰った後、鬼丸に言われた通りに話をしに一人で歩いていると。
紅葉が多い里の中で、ひらひらと揺らめき落ちていく花弁が視界の中に入り込んできたのだ。
「……桜?」
薄ピンクに半分白の色合いのその花弁は、幾らでも目にするその花弁のはずが、どうしてか目を奪われてしまった。
ひらひらと落ちていくその花弁を追って行った視線の先には、人が居た。
赤い和傘で日差しを遮り、桜の木の下にある石に手を合わせている一人の少女。
「……」
散る桜が彼女の周りをひらひらと落ちていく。その光景はあまりにも美しく見えた。
呆然と足の向きを変えて一歩無意識に踏み出していた。
「……っ」
と、その時。パキッと足元の枝を踏み、枝の折れる音が風によって桜の葉が擦れる音しかしないこの場において、よく響いた。
少女が振り返り目が合う。
この里で見かける人物は皆、和服なのだが目の前の少女は異質だった。服装がおかしいとかではなく、ただ単にその少女には大きいケモ耳にふわふわの尻尾が生えているだけだった。
「……えっと、すみません」
目が合い、気不味い沈黙に作り笑いと共にとりあえず謝罪をした瞬間。
ぽろっと少女の目の端から雫が溢れた。
頰を伝い顎に辿り着いた雫はそのまま地面へと滴り落ち、地面に小さな斑点を作る。
それを見た瞬間、息が詰まった。何かしてしまったのだろうか、そんなことを考えている時だった。
「……っ、嗚呼、そんな……こんなことが、こんな……」
一筋の雫だったはずが、少女の目の端からは次々に溢れ始めた。
涙腺が決壊したのかと疑いたくなるようなほどに泣き始めたのだ。
「嗚呼……っ‼︎ 神様、仏様っ」
そのあまりにも凄まじい泣きに言葉を失っていたが、咄嗟にその少女へと駆け寄った。
どう考えても異常だ。何かあったに違いないと。
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
肩に手を添えてそう尋ねると、少女はその手の甲に手を乗せてきて、首を振った。
「大丈夫、だなんて……」
涙の量は変わらず、次第には少女は声すらも詰まらせ始めた。
もはやドン引きものだが、ドン引きするよりも心配の方が勝つ。
「……もう二度と拝めぬと思っていたご尊顔を、再び拝めたこの気持ちは筆舌しがたく……感無量の極みですっ……」
綺麗なその顔が涙でぐしゃくしゃになっているのを、ありゃりゃと呟き、ポケットからハンカチを取り出して、優しくその涙を拭う。
そのハンカチを持つ手の甲にも手を重ねてくる。
愛おしむように、話さないように。
そして涙を拭ってあげた後、少女を落ち着かせながら近くのベンチに座らせ、どうしてあんなに泣き出したのかを尋ねた。
すると少女は少し顔を伏せてから、顔を上げて、ゆっくりと話し始めてくれた。
「……失礼しました。お見苦しいお姿をお見せしてしまい……私は琥珀と言います、以後お見知りおきを」
「く、葛葉です。よ、よろしくです……」
先ほどのとの違いに若干の驚愕を感じながら、名乗り返すと、噛み締めるように琥珀は目を伏せた。
「……お噂は兼ね兼ね。ですが、お目にするのは此度が初になりますね」
上品で気品を感じる振る舞いに、「さ、さっきのは……?」とついつい言葉が出てしまいそうになるものの、グッと堪えて受け答えをしていく。
「……そして、なぜ、先ほどあんなに取り乱したのか。でございましたね」
そこまで言い切ると琥珀はまた顔を伏せてしまう。
少し不審に思い覗いてみると、顔を真っ赤にしていた。そして背後では立派なモフモフの尻尾なブンブンと左右に振られていた。
「……そ、そのっ。恥ずかしながら英雄様のお姿が、私のお慕い申している方と瓜二つですので、ついつい取り乱してしまいました」
ペコっと琥珀はその口にしながら頭を下げてきた。
慌てて頭を上げさせ、ふぅと一息つく。そして思う。
自分ってそんなにこの里の誰か、または個人と似てるのかなと。
「それで、その……宜しければなのですが……」
「ん?」
恐る恐るといったふうにモジモジとしながら琥珀は言おうとして口籠る。
よくよく見れば尻尾も耳も垂れ下がっていた。
そしてもう一度顔を覗けば、その顔は真っ赤に染まっていた。
恥ずかしそうにしながら身悶える琥珀に、慌てふためていると、意を決したのか琥珀が身体をこちらに向けて口にした。
「あ、あなた様と呼ばせて貰えませんか……!?」
その琥珀の言葉に、・・・と魔を置いてからコクっと「うん」と一緒に頷き、了承するのだった。
すると途端に琥珀の耳と尻尾ら元気を取り戻し、ブンブンと激しく揺れ動いていた。
「あなた様っ‼︎ あなた様あなた様あなた様あなた様あなた様っ」
そして確認するように何度も何度もあなた様と連呼しだす。
少し怖いと感じるものの、その様子を見ればそういう気は一切ないのだと察せた。
「……一ついい?」
「はい! なんでございましょう!」
もはや大型犬のような琥珀に「あれ、さっきの気品とかは……」と思い、デジャブを激しく感じれた。
「……琥珀さんって、もしかして獣人なんですか?」
その問いに対して、琥珀は自身の尻尾と耳を見て、あぁと納得の表情。
そしてこほんと咳払いをしてから、静かに語り始めた。
「はい、私は見ての通り狐の獣人です。……鬼族の里ばかりの、この地ではものすごく目立っちゃうのです」
軽口とクスクスと笑ってくれることで、自分はなんとも思っていないと教えてくれる。
「鬼族、なの?」
「はい。獣人の母と鬼族の父の間に生まれましたので、一応は鬼族とも言えますね」
疑問に丁寧に肯定してくれるため、疑問がものすごい速さで解消されていく。
そしてふと思う。琥珀が鬼化した時のビジュを。
(凄くかっこいい……っ!)
と心の中で興奮するのだった。
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