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七話 ピンチは唐突に

 地面を覆い隠すほどの大量のモンスターの死骸の海の中、巨大な戦斧を向けられ、息を呑み冷や汗を垂らす。

 震える声を、その戦斧を向けてくる(しゅう)に掛けた。


「どうして……」

「……」


 柊の顔は暗い、何を思っていて何を感じているのか察することさえできないのだ。

 ごくりと固唾を飲み込んで、立ち上がろうとして、


「ムカつくんですよ……っ」

「っ、へ……?」


 やっと声を発してくれた柊だが、その声には憎悪と赫怒、憤怒なんて生やさしいほどの圧が乗っていた。

 何か失礼なことをしてしまったかと考えても、何一つ思い当たる節はない。

 でも、それは当然だ。


「あなたはっ……、違うのにっ……‼︎」


 その声はとても悲しそうだった、今すぐにでも助けてあげたいと思うほどに。

 だが今の自分に彼女を救う資格はない、資格を得ていないのだ。


「どうして、その顔をしてるんですか‼︎ どうして、どうして‼︎」


 戦斧を投げ捨てガシッと肩を掴んできては、拳を振り上げる柊に対して、冷静にその拳を掌で受け止め、柊の目をただ見るだけしか今の自分にはすることがないのだ。


「……私は答えれない。でも、君は君がそんな顔をしてるの理由は分かる……?」


 馬乗りで乗っかっている柊を見つめながら、諭すような口調で答え、逆に尋ねる。

 涙流し、顔を憎悪に染め、でも拳を振るわせる柊に。

 柊がなぜ、そんな顔をしているのか。


「っ」

「……でも、大方分かったよ」


 昨日の酒呑からの話と、柊のこの反応。

 それらのヒントから葛葉はたった一つの答えに辿り着いた。その時だった、バッと視界外から唐突に影が飛び込んできたのだ。

 そして次の瞬間、血が顔に飛んでくる。

 飛び込んできた影はモンスターであり、そのモンスターは柊の腕を噛み締めていた。


「っ!!」


 咄嗟にスキルを発動。

 『創造』にてリボルバーを創造し引き金を引いた。パンッパンッと2回、乾いた音が鳴り響くと同時にモンスターの首に二つの穴が空いた。

 モンスターが噛む力を緩めた瞬間に、柊の身体をグイッと強引に引っ張りモンスターから離してから、リボルバーを思いっきしモンスターの頭に叩きつけた。

 モンスターの皮膚を突き破り、リボルバーの銃口が中に埋もれた瞬間、また引き金を引いた。


「っ大丈夫⁉︎」


 モンスターが完全に沈黙したのを確認し、乱暴に逃してしまった柊へ振り向く。

 柊は片手で腕を必死に抑え出血を止めていた。

 ドバドバと溢れ出る血。鬼族の高い身体能力ならば、あの怪我もすぐに血が固まり、元通りになるはずだ。

 それなのに血がドロドロと溢れ流れる。


「出血毒……?」


 聞いたことのある毒だ。たしか、血液の凝固を阻害する毒素のことだったはずだ。

 まさか異世界にもそんな毒があるなんて、思いもしなかった。でも、そんなことを考えている暇はない、ポーチから万能薬液(エリクサー)を取り出し、コルク栓を取り患部へバシャッと掛けた。

 すると、流れ出ていた血が徐々に止まりだす。

 ほっと息を吐くのも許されず、咆哮がやってきたのだ。


「嘘、新手……?」


 咆哮が聞こえた方に顔を向ければそこには、うじゃうじゃと柊の腕を噛んだモンスターと同じモンスター達が向かってきていた。


「動ける……!?」


 柊を背に新手のモンスターと対峙しつつ、未だ腕を手で押さえる柊に尋ねると。

 柊は少し考えた末に顔を横に振った。


「腕が……動きませんっ……」

「っ!」


 その言葉に柊の腕を見れば、だらんと力なくぶら下がっているだけだった。

 柊が必死に力を込めてもピクリともしない腕。

 出血毒の他に神経毒、麻痺毒を貰ったのだろう。


「厄介なモンスター達がきちゃったみたい……!」


 パッと見で百。冷や汗を流し、ナイフとホルスターから抜いた銃を構えた。

 柊を守るために。


「今の私のありったけで相手したげるッ!!」


 不適な笑みを浮かべてやってくるモンスター達を見やった。

 毒持ちモンスターとはあまり戦闘経験がないが、今の自分に負ける気は一切しなかった。

 なぜなら、守るべき者がいるから。


「っょし!」


 覚悟を決めてから立ち上がりモンスター達へ正面から受けて立とうと走り出す寸前だった。


「―――どうして……っ! どうして私なんかのために……⁉︎」


 モンスターの群れに立ち向かう背中をまっすぐと見据えて、柊は口にする、あんなに酷いことを言っていたのにどうして? と。

 その言葉を聞き、考えてもどうしてかなんて考えれない。だって、


「私の手が届くところで誰も死なせない、怪我もさせない! だって私は【英雄】で、君の大切な人の代わりになるためにここにいるから!」


 頼まれている、酒呑に。そして何よりが、手が届く。

 この二つの理由だけで戦える、命を賭ける価値がある。


「絶対、死なせないっ!!」


 走り出した柊の声すら届かない速度で、森林を縦横無尽に何もかもを置き去りにして。

 手榴弾を『創造』し群れの中央へと投げ込んで、その場に着地する。

 直後爆発して無数の破片が音速を遥かに超えて飛来してくるが、お構いなしに『想像』だよりの特攻を成功させる。


「っ、痛い。―――あべ!」


 左半身に目一杯破片が刺さってしまい、血が溢てるのを見て顔を顰めつつ、すぐに『想像』する。

 無かったことにして、すかさずモンスター達へ切り掛かった。

 ナイフがモンスターの胴を二つに分け、拳銃が頭をかち割っていく。

 厄介な毒持ちのモンスターでも、噛まれなければどうってことないと言うスーパー脳筋思考。

 実際一噛みも甘噛みもされていないために、こうして戦えているわけだ。


「でも当然、噛んでくるよね!」


 バクンッと背後から忍び寄ってきていたモンスターの のことを避け、頭に踵を蹴り落とし頭蓋を砕き割る。

 死角から音もなく忍び寄ってくるモンスター達の攻撃を神回避の連続でどうにかこうにか避けていく。

 だが避けた先にも口を開いているモンスターがおり、息吐く暇もない。


(っ、やっぱり数が多いよぉ‼︎ 一人じゃ無理! だから〜!)


 『創造』を発動させながら手をブンッと振うと、『創造』された直後に投げられた複数個の手榴弾が扇状に飛んでいく。

 全てすぐに爆発するように『創造』されている。

 そして時間差で次々と爆発していった。

 一度に数十匹のモンスターが爆散していった。


「よしっ!」


 上手く行ったことに喜ぶのも束の間、他の個体よりも素早いモンスターがカサカサと背後へと回ってくる。

 そして跳躍し口を大きく開けて遅いかかってくる。

 咄嗟に反応して見せるが、モンスターの方が早く、突き出した拳銃を持っている方の腕がパクッと肘の上まで噛み付かれてしまった。


「―――っ‼︎」


 咄嗟に空いている手の方のナイフでスパッと腕を切り落とす。ついでにモンスターの首も切り落とした。


「……っ」


 モンスターの群れから距離を取り、切った腕を見やる。

 麻痺している気配はない、頭が割れそうな痛みがしているから。血は止まっていない、当然だ。

 目視での判断なんかできるわけがない。


「まぁいいや! 治しちゃえ!」


 毒が発動しているかどうかを確認している暇はない、今もモンスター達はジリジリと近寄ってきているのだから。

 『想像』で腕を治し、ふぅと一息つく。

 そしてモンスターの群れを見る。パッと見る五十以上。先ほどの手榴弾が良かったのか、だいぶ数は減っている。

 だがそれでも五十なのだ。


「あんまり見せたくないけどっ!」


 手に持っていたナイフと拳銃はホルスターにしまい、お次は虚空庫から新たな銃を取り出した。

 かなりのカスタムが施されたAR-15だ。

 一つのマガジンに30発は入るため、この状況に適した代物だ。

 残念ながらフルオートにさせるほど時間がなく、セミオートのみでしか撃てないものの、十二分がすぎる。

 拳銃とライフルの違いとしては、照準の安定性が大きい。威力や撃てる数も当てはまるが、何よりは安定性だ。

 銃を自分の身体の一部として構え、撃つ。

 5.56×45mmNATO弾がモンスターの脳天を抉っていく。一発一発を冷静に、正確に、モンスターの頭へと叩き込んでいく。


「っ、リロードッ」


 空になったマガジンを手ではなく、銃を振って落とす―――フリック・リロードを用いて素早く、次のマガジンを装填する。

 そして弾が切れホールドオープンしているのをボルトキャッチを掌底で叩きリリース。

 すかさず射撃姿勢になり引き金を引いていく。

 残りモンスターは20。

 日頃、近所の人達に詫びのお菓子を届けて行っている射撃練習の成果が今、この瞬間に大いに出ている。

 動く目標だが、吸い付くようなエイムがモンスターをつさ撃ち抜いていく。

 そして、20発目。最後のモンスターの頭に弾丸が叩き込まれ、終わった。

 最初のうちのあの派手な戦闘が嘘のように、あっさりと終わってしまったのだ。


「……ふぅ。肩痛い……」


 計50発も撃った際の反動は身体にかなりくる。

 拳銃でもそうだが、ライフルだと尚更だ。

 AR-15を虚空庫へ戻し、肩を回しながら柊の元へ。

 気が付けば最初に里を襲ってきていたモンスター達も既に駆逐されていた。


「よし、じゃあ、帰ろう」


 動けない柊のもとに急ぎながら、そう呟くのだった―――。

 ―――森全体に響き渡る銃声が止み、暗い森の中、顔を弾かせたかのように上げるのは、不気味な少女だった。

 その周りには多くのモンスターが綺麗に整列していた。


「……あらあら。どうやら全員やられてしまったようね」

「なぁ〜鬼とはいつ戦えるんだ〜?」


 使役した魔獣の反応が消えたことに驚いていると、隣にいる別の少女が退屈そうな声と態度でそう尋ねてくる。

 不気味な少女は顎に手を置き、少しの思案の末に。


「あと、3日ほどでしょうか。えぇ、それくらいがちょうどいいですね」

「3日か! よし分かった! なら、(あたし)に任せろ!」


 不気味な少女の言葉に飛び跳ねるように喜び、少女は武器を手にした。


「あぁ待ち切れないぞ!」


 視線の先の先にある里を見据え、ジュルリと舌舐めずりをするのだった。

読んで頂きありがとうございます!!

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