十話 威厳のすごいのじゃロリ
通された部屋はとても居心地が悪く、モジモジと自分を含め律や五十鈴も落ち着かない様子だった。
それもそうだろう、王城でもこんなに凄まじい装飾のなされた部屋などはなかった。
自分たちの存在が場違いな気がして正気を保っていられなくなってしまいそうだった。
だがそんな部屋の中でも、酒呑よりも我が物顔で居るのが鬼丸だった。
実に満足そうにドヤ顔で鼻歌を口ずさんでいた。
「お、鬼丸……」
そんな厚顔無恥っぷりを披露する鬼丸を咎めようと声を掛けるも、鬼丸には届いていないのかやめる気配はなかった。
「ふふっ、巫女様は自由な方と聞いていたが、ここまでとは。お気に召されたかのぅ?」
鬼丸の振る舞いを見ても酒呑はなんとも思ってないどころか、孫の悪戯を見るおばあちゃんのような優しい眼差しで、鬼丸のことを見ていた。
はぁと、額に手を添えてため息を吐くも鬼丸の振る舞いが改善するわけはなく。仕方がないと割り切ってしまおうと、決心した。
「して、英雄殿。……自己紹介がまだだったのぅ。妾は酒呑、この里の代表を務めておる」
威厳と風格のある言葉と行動。その溢れんばかりのカリスマ性に「うっ」と自然と声が漏れてしまう。
そんな姿を見てか酒呑は口元を抑えて小さく笑い、優しい笑み浮かべてくれる。
「そんなに緊張せんでもよろしい。……ふむ、お茶がもうそろそろ出てくる頃じゃ、緊張せず自分の部屋だと思って寛ぐが良い」
緊張で借りてきた猫のようになっている三人にそう言い聞かせ、酒呑は対面に座った。
そしてジッとほんの少しの間だけ、三人の顔を見やった。
「妾は名と功績しか聞いておらぬ故、英雄殿の素性は存じておらぬ。……この目で、この耳朶で、其方らの名を聞かせて欲しいのじゃが……良いか?」
「あ、も、もちろんですっ!」
酒呑の言葉に緊張からかビシッと、背筋を伸ばして飛び上がるのように立ち上がってしまった。
が、そのまま名を名乗るのだった。
「こ、この度救援要請を聞きつけ、参りました【英雄】の鬼代葛葉といいます!」
きちっとした声で姿勢で名乗った。
酒呑は噛み締めるようにこちらの顔をジッとみてから、次の人物、隣に座っていた律へと向いた。
ゴクリ、そんな音が聞こえた気がした。
「り、律と申します。……少しでも酒呑さん達のご助力になれればと、誠心誠意頑張ります!」
ふむ、と言っていそうな顔で一度頷く酒呑。
次に向くのはその隣、五十鈴だ。
五十鈴は今までの二人と比べてもあまり緊張はしておらず、いつものようなメイドとしての振る舞いで名乗る。
「同法の危機と聞き、馳せ参じました。葛葉様のメイド兼、【英雄】の盾。五十鈴と言います。以後お見知り置きを」
と丁寧な仕草や言葉遣いで名乗ると一礼し、席に戻った。
律と同じ顔で五十鈴のことをついつい見てしまう。
すごー……っと。
「ふむ。葛葉に律、そして五十鈴とな。……良き名じゃ」
噛み締めるように三人の名を口にして、頭の中で反芻する酒呑。
ゆっくりと三人のことを見るとただ静かに、そっと口を開いた。
「妾は願っておるからのぅ? その名が、この里の窮地を救ったと。悠久の時、後の世に継がれることをじゃ」
遠回しな必ず救ってくれという、そんな言葉の含んだ言葉な気がした。
その目に目を合わせて力強く頷き返す。すると、酒呑は安心したように微笑んでくれた。
「……して、文では伝えれなかったことについて話すとするかのぅ」
微笑みはすぐに消え、すっと真面目な顔へと変わってしまった。
そのことを残念に思いつつも、本題に入った話に、前屈みになって聞き漏らさないようにするのだった―――。
―――ザッ、ザッと紅葉の葉に埋め尽くされた地面を踏み締める五人と一人。
五人の中の一人は顔を俯かせて暗い顔を浮かべていた。
「……」
ただ黙ってトボトボとあの顔を思い出す。あの自分たちを助けてくれた女性の顔を。
ギギギと自然と拳を握り締め、奥歯を噛み鳴らす。
怒りが、憤怒が、赫怒が頭を埋め尽くす。
あってはならない、あって良いわけがない。あってしまってはいけないからだ。
「―――なに辛気臭い顔してんだ」
そんな少女に、五人の後ろを歩いていた一人の紅鶴が頭に手を置き声を掛けた。
戦闘服なはずが露出が多いその姿に、少女はムッとしつつも、一息ついて愚痴をこぼすかのように口を開いた。
「今日。知らない人に助けてもらいました……」
「? あんたが助けてもらうって、どういう状況だ、そりゃ」
紅鶴は少女の開口一番の言葉に疑問符しか浮かばなかった。
なぜならば少女も、この里でだいぶ上位に位置する実力者であるからだ。
「多勢に無勢だったんです。……それで、その時に」
「はん。つまり助けてもらったのが屈辱ってか?」
大杯に注がれている酒を飲み、大体を察したつもりの紅鶴がそう結論を急くも、少女は首を振って否定する。
「違います。助けてもらったのは感謝してますよ、妹達の命も掛かってましたし……」
「は〜、じゃあなんだって言うんだ?」
少女の言葉に酒を呷りながら尋ねると、少女は怒り心頭の表情を浮かべた。
「……見たら分かりますっ!」
少女の口からどのような言葉が出るか意を決して耳を澄ましていたのに、お預けを喰らってしまった。
スタタタっと少女は小走りで先に行ってしまう。
「……は」
やれやれと、少しだけ口端を上げて酒を呷るのだった。
ぷはっとすぐに飲み干すと、肩に下げている大徳利から大盃へと酒を注ぎ、口につけて、ふと思った。
「にしても、あいつがあそこまで怒るのは珍しいな」
そんな気がしてよくよく思い出して見ても確かにそうだった。あの少女があんなに、あそこまで怒る姿は見たことがない。
気にはなるが、まぁ良いかと少女達の後に続く。
背後から見れるのは仲睦まじい姉妹達の様子だ。
先ほどの少女、あの姉妹達の姉であり、母親でもある存在だ。そして青空のような髪の少女が、次女である。
そして赤黒い髪の色が三女、山吹色の髪が四女であり、最後のふらふらと歩きながら寝倒れてしまいそうなのが五女だ。
長女だけは一人で生まれ、その他四人が一緒に産まれている。
が、皆それぞれ個性はバラバラであり誰が誰かもわかりやすいのだ。
「五色鬼……ね」
あの少女達の呼ばれ方だ。
五色の鬼達、故に五色鬼。
黒、青、赤、山吹、翡翠。この五色の鬼達を呼ぶためだけの言葉だ。
紅鶴にはその言葉はあまり良くは思っていない。
本来ならば戦場にもだしたくないのに、あの子達を戦場に出している。その上であの名がついているのだ。
虫唾が走りそうになるものの、この里の未来のためには仕方のないことなのだ。
力あるものが力無きものを守る、それは当然のことだ。
そしてあの姉妹は強い。中でも長女は群を抜いている。
鬼化した際のポテンシャルは計り知れないほど。
だからと言ってという部分もあるが、どうしようもない、里の決定というやつなのだ。
だから自分は、
「自分にできることをしてやんよ」
それはあの子達に迫る脅威をほんの少しでも無くすことだと―――。
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