九話
少し遅れてしまい、すみません!
地形が変わるほどの攻防の末に、モンスターは地に伏した。大量の血が溢れ返り、悪臭が当たりを支配する中、共闘したはずの二人は向かい合っていた。
やる気満々の姉と、とりあえず落ち着かせようと言葉を尽くす美女。
介入するかと思ったその時だった、ガサガサと、茂みが揺動き足音が聞こえてきたのだ。
そしてその茂みから出てきたのは、部隊長達だった。そして反対側の茂みからは、三人のこれまた美女達がやってきた。
「……」
「……」
部隊長が周りを見回して、美女のなかでも背が最も背が低い人物も周りを見回して、たった一言。
「何が」
「どうなっておる?」
当然と言えば当然の反応をするのだった。
とりあえず何があって、何があったのかの説明が終わり、一団はとりあえず場所を移している真っ最中だった。
「いやはや、貴殿が【英雄】殿でしたか。助太刀感謝いたします」
部隊長は丁寧に感謝しながら、そんな英雄に牙を剥き出しで威嚇していた部下の隣に立ち、
「部下の非礼、何卒許して頂きたい……!」
誠意のこもった声と、部下―――先ほど敵意を剥き出しでいた少女の頭と自身の頭を下げての謝罪に、英雄殿である自分は、名前負けな反応で返すのだった。
「私は……っ!」
納得がいっていないのか、少女は反抗的に部隊長へ抗議しようとするも、頭を下げられてしまい、泣く泣く黙り込むのだった。
「あの、私は全然。それよりも……」
愛想笑いで流し、それよりも断然気になることを、部隊長に尋ねた。
「その子達は……」
謝罪をさせられた子を筆頭に、見るからに幼い少女達。到底あんな危険なところに居ていい訳がないような少女。
自分が少女達に向ける懐疑的な目に部隊長は色々と察したようだった。
「……よくないことだと、我々も思っています。ですが、綺麗事ばかりでは、この残酷な世界では生き残ることさえ出来ない」
苦虫を噛みつぶしたような顔の部隊長を見ると、どうしようもなく申し訳なくなってくる。
どこの世界に、子供を喜んで戦場に送る大人がいるだろうか。
そして【英雄】である自分に、子供を戦場に送ることを悔やんでいる彼に、なんて言葉を送れるだろうか。
「私に……物事の善し悪しは決められません。ただ、そういった思いを持つことだけでも、いいと思いますよ」
立派なことはいえない。偉いことも言えない。偉そうな言葉なら言えるだろう、けど、【英雄】としてそれは違う。
「わたしは【英雄】です。……善し悪しを決めるための英雄じゃない、助けてっていうを言葉を聞きつけて駆け付ける、【英雄】です」
それが自分の役割なのだ。
自分が選んだ【英雄】なのだ。
「お心遣い痛み入ります。……分かっただろう? 警戒するような人物じゃないって」
丁寧に礼儀までしてくれる部隊長は、今のやり取りを見ていた少女にそう言った。
言ったはいいものの、少女は以前として眉間に皺を寄せていた。
「信用……できませんっ。なんでっ……‼︎」
「おいっ!」
再び敵意を溢れさせる、まるで猫が毛を逆立て怒るように。
そんな少女に部隊長は慌てて鉄拳を下ろした。
(ん〜? かっこよく、颯爽に助けに来たはずなんだけどなぁ〜)
表面上は気にしてないふうに愛想笑いで誤魔化しているが、心内では疑問だらけだった。
当然だろう。普通なら感謝されるような登場だったのだから。
だがこんなに敵意を剥き出し手にいるのは、この少女のみで、他の少女達は背後から熱い視線を向けてきている、そんな気がした。
「人気者は辛いのう」
すると隣を並んで歩く鬼丸がそんなふうに小さく呟いた―――。
―――ギギギと木製の柵に大扉。オリアやその他の街と比べれば、防衛力が弱い気もするが、周りの守衛達を見ればそんな考えもどこかへ吹っ飛んでしまう。
一人一人の顔つきが歴戦の猛者同然で、醸し出す闘気も凄まじい。
大扉が音を立てて完全に開かれると、逆光と共に人影が複数見えた。細めていた目をゆっくりと開けると、
「―――ようこそ。新たなる【英雄】、鬼代葛葉殿。この里、隠へ。……心待ちにしておったのじゃ」
複数の人影の集団の先頭、鬼丸よりかは背の高ものの幼さのある少女が荘厳なる雰囲気と、貫禄のある口調で出迎えてくれた。
そのお迎えに、英雄パーティー一行は唖然としていた。
「では、行くとするかのう。文では伝えられんかった事も多々あるからのう」
ニコッと微笑むその少女。その瞳を見ているとそのまま取り込まれてしまうのではと、そう思ってしまうほどに目が釘付けになる。
「あの人が……」
この地にやってくる前に葉加瀬からあらかた説明を受けている。
そして今、出迎えてくれた人物は、
「酒呑さん……」
この鬼族の里の代表とのことだ。
その場で部隊長達とは別れ、葛葉達は酒呑の後に付いて行くのだった。
その道中、里の人々が来訪者を一目見ようとしているのか、建物の間だったり、家の窓から通りを見てくる。
数多くの視線に少し緊張するものの、酒呑の背中を見ることで誤魔化す。
「いやはやすまぬのう? なにせ来訪者は少ない。故に、皆興味津々でな」
小さく笑う背中に、ぽわぁっという安心感を覚えた。
何故だろうか、とそう考えることさえ無粋なほどに。
それからしばらく歩いて、やってきたのはとある場所。
首が痛くなるほどに見上げても、全容を把握することは困難な紅葉の巨木。
その巨木の太い枝に吊り下げられるようにして造られた、天を突く逆さ紅葉の楼閣。
威厳があり荘厳で、惚れ惚れしてしまう。
漆黒の漆塗りに、金箔の装飾。屋根瓦は深い瑠璃色で、陽の光を浴びて紅葉の赤と混ざり合い、幻想的な紫に輝いている。
ふと両隣を見れば、律が口元を押さえて目を見張り、五十鈴が唖然とし眺めている中、唯一鬼丸だけ見定めるかのように見ていた。
「……ふふ、仕切り直すとしよう」
「え?」
パチンッ。そんな音がしたと思った次の瞬間、目の前の景色が一変した。
紅葉の巨木と楼閣を見ていたはずが、今は広大な一室に居た。
部屋の最奥、一段高い場所に置かれた巨大な黒檀の椅子。背後には円形の巨大な「月窓」があり、そこから里の全景が一望できる。
部屋の両壁には、里の数千年の歴史を記した巻物が天井まで積み上がっている。
そしてそんな部屋の中で、よく映え目が奪われる姿がある。
当然に、酒呑だ。
改めてその容姿を目に焼き付ける。
部屋の床に届くほどの超ロングな白髪を重厚な注連縄のような髪飾りで後ろにまとめ、毛先には小さな鈴がいくつもついている。
眠たそうな印象を受けるものの、すべてを見透かしているような、底知れない理知を感じさせる常に薄く目を開けた「半眼」の表情。
そこから伺えるのは宝石のような紫紺の瞳で、その瞳はこちらを射殺すかのように見てきている。
それに映えるのが、巫女装束を重厚にアレンジしたような印象の礼装だった。白い千早の下に、深い紅色の袴を履いている。
袖口や裾には、読めない物のはっきりとそれが何かは分かるような、文字が金糸で刺繍されている。
美しいという言葉で形容しても、足りないほどの美しさと荘厳さを併せ持つその姿に、ゴクリと固唾を飲み込んだ。
「……ようこそ、英雄殿。どうじゃ? 妾の部屋は」
ふふッと小さく、可愛らしく見た目通りな笑みを浮かべ、酒呑は首を傾げて微笑むのだった。
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