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七話 お掃除の時間

遅れてしまい、すみません!

 ―――鬼族の里『隠』。東部入り口前にて。

 他の守備隊が魔法を放ち広域殲滅を行う中、小さな影が木々の間を縫うように素早く動いていた。


「あ、おい! 戻ってこいガキどもッ!!」


 守備隊の一人の男性がその小さな影へ声を投げ掛けた。だが小さな影達は止まることなく、モンスターを肉塊にしながら進んでいく。


「……はぁ、たくっ。面倒臭ぇなぁ」

「隊長、どうするんですか⁉︎」


 代表と呼ばれた男性は後頭部を掻きながら、一瞬の間の後、


「行くぞっ。アイツらに何かあったら俺がドヤされんだ。この歳になって、しょんべんたれ小僧にゃなりたくねぇよ!」


 覚悟を決め、数人を指名しあの小さな影を追いかけるのだった。

 一方、小さな影達は入り乱れながらも迷いなくモンスターを肉片に変えていた。

 森には魔獣の悲鳴に埋め尽くされる。


「お姉様! 退いてくださいまし!!」


 駆ける一人の影、その背後から声を掛けられ言われた通り退くと、巨大な槍を軽々と扱い、一度に三匹ものモンスターを葬った。


「ふんっ、容易いですわ!」


 ブンッと串刺しにしたモンスターを投げ捨て、妹は更なる獲物を狩りに先に行ってしまう。

 待って、と声を掛けようとすると、


「え〜いっ!」

「っ⁉︎ ちょっと!! お姉ちゃん⁉︎ 私がいるんだけど!?」


 背後から妹二人の声が聞こえてきた。一人は間延びしたような声でありながら狂気を孕んだ声色で、もう一方は単純に攻撃に巻き込まれそうになった悲鳴だった。


「わぁ、いっぱい切れたぁ!」

「あ、服が切れてる!?」


 武器というにはあまりにも殺害方法がわかりやすい、そんな巨大な鋏が、モンスターの首をいくつも飛ばしていた。

 そんな攻撃に巻き込まれた妹は、金砕棒を振り回して、乱暴にモンスターを引き潰していく。

 またしても二人は先に行ってしまい、モンスターを狩り尽くす勢いで狩っていく。

 やれやれと、血の気の多い妹達に呆れつつ背後を守るために後ろを歩いていると、


「?」


 背後から重く、そしてデカい鎖を引きずるかのような音が、重々しく響いてきたのだ。

 振り返ると、そこにはウトウトして今にも倒れそうな幼く華奢の身体の妹が、一軒くらいは一発で破壊できそうなトゲトゲ付きの鉄球を引き摺りながら歩いてきていた。

 そして立ち止まり、グンッと腕を振るったのが見えた。

 その瞬間、


「鉄球、避けて!!」


 先に行ってしまっていた妹達へ警戒するように口にすると、それぞれが慌てて穴の中や木の上に退避する。

 自分も木の上に退避すると直後、地上にある悉くを破砕しながら進む鉄球。地面を抉り掘り返しながら、木々の幹を木っ端微塵にしながら、その攻撃の延長線上にいる全てのモンスターをミンチにしながら、それは進んでいく。

 一度に数十のモンスターがミンチになったのは確認できた。

 とりあえずみんなが巻き込まれて居ないことに安堵し、木の上から降りると、


「……お姉ぇ、眠い」


 鉄球を片手で持ちながら欠伸をし、今にも倒れそうな妹。がやはりそのまま倒れてしまう、咄嗟に体を支えて、また安堵した。

 すぅ……すぅ……と寝息を立て、眠りについてしまった妹に、えっ? と顔を向けた。


「……えぇ」


 だいぶ守備隊が守るべき範囲から逸脱し、突出してしまっている自分たち。

 現在地から里まで、相当な距離があるだろう。

 そしてモンスターもやってくる、妹とこの鉄球(モーニングスター)を抱えながら帰るのは至難の業だ。


「隊長が来てるはず、それまで……」


 考えを巡らせ、わずかな一縷の希望を弾き出した。


「……皆んな、戻ってきて」


 そんな小さな呟き。聞こえるわけがないと思えるほどの呟きでも、遠くでモンスターと戦って居た妹達には確かに届いた。

 モンスターを狩っていた三人は顔を弾かれるように上げて、姉の元へと向かう。

 すぐに戻ってきた三人に自分の考えを話すと、


「仕方ありませんわね」

「全然いい〜よ〜」

「ほんとざこすぎ〜」


 三者三様な反応で了承してくれたことに、少し顔を綻ばせた……そんな時だった。


『ヴォォォォォォオオオオンッ‼︎』


 咆哮が森に響き渡ったのだ。木々に止まっていた鳥が一斉に飛び立ち、虫やトカゲ、小動物は巣の中へと急いで身を隠す。

 ビリビリとするその咆哮に、全員がその咆哮が聞こえてきた方へ顔を向けると、


「……っ、とんだ化け物がお越しですわね」


 真っ赤な眼光で獲物を凝視し、並んだ歯は一本一本が鋭いナイフのようで、そこからは絶えず濁った唾液が垂れている。

 闇よりも深い色をした鱗に覆われた巨躯。巨大な口からは、獲物の末路を予感させる生温かい蒸気が立ち昇っている。

 向けられる目に射止められた瞬間、喉が捻り潰されたかのような錯覚に陥る。

 それは筋肉と殺意の塊。

 モンスターと言えない、そのモンスターはこちらを真っ直ぐと見据えながら走り始めた。

 地響きが感覚を狭めて徐々に近付いてくる。

 流石の妹達も、見た目のインパクトさに息を呑み固まってしまっていた。

 仕方ない、そう思いながら一番下の妹を預けて、武器を取り出しモンスターのと妹達の前に立ち塞がった。


「お姉ちゃんに任せて」


 モンスターが大口開け一呑みしようとして、身体が明後日の方向に飛ばされた。

 遅れてガキンッという音が聞こえた気がした。

 倒れたモンスターはすぐに立ち上がり、またしても大口を開け一呑みしようとして、顔が真っ二つに分かれた。

 ドンッ、遅れて大地を揺るがすそんな衝撃がやってきた。

 凶悪そうなモンスターとの戦いはあっさりと終わってしまうのだった。

 だが、相手はモンスター。

 モンスターはいくらでも湧き出てくるもの。

 倒れたモンスターから巨大な戦斧を引き抜いていると、同じような咆哮が幾つも打ち上がった。


「……」

「っ、現実ですの、これ……」


 次女の驚愕の声。戦斧を引き抜き咆哮が上がった方へ顔を向けると、何匹もの同じモンスターがジーッとこちらを伺っていた。

 一匹ずつなら体力の限界までずっと戦えただろうが、モンスターが律儀にそんなことをしてくれる筈がない。

 何匹ものモンスターを前に、戦斧を振り回し構えた。

 そしてすぅ〜っと息を目一杯吸い込んでから、はぁ〜っと息を吐いて、深呼吸を終わらせると、かっと目を見開く。

 同時に大気が歪み魔力がうねる、そして額から一本の角が顕現する。

 息が出来なくなるような圧迫感と共に、現れた角。

 鬼の本能が目を覚ました。

 向かってきたモンスターの鼻先に手を当て、片手で巨大な身体を抑え、そのまま殴り潰した。

 たった一発の、少女の小さな拳がモンスターの巨大な顔をミンチに変えてしまうのだった。

 ニヒッと笑みを浮かべ、襲いくるモンスター達の殲滅を始める。

読んで頂きありがとうございます!!

面白いと思って頂けましたら、ブックマークと評価やレビューなど、どしどししてくれると物語の面白さ向上につながります!

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