四話 気持ちの問題
「―――先日、極東の大国『東』から……いや、正確には違う。東という国の中にありながら国と認められている国。鬼族の里『隠』から【英雄】へ救援を求める正式な文書が届いた」
切り出しだけでも三人は言葉を失った。
国が助けを求めてくること自体初めてだからだ。
「現状では劣勢らしい。湯水の如く湧き出てくる魔獣と、高い再生力があっても疲労力は癒えない鬼族の兵士では、ジリ貧だからね」
ペラペラと文書を揺らしながら顔を頷かせ、チラッとこちらを見てくると、
「救援を名指しで求められているよ」
文面を見せてくれた。
そこには達筆な字で里の現状と逼迫した戦線、被害規模やらが書かれていて、その最後に救援要請をする一文があった。
鬼族の里代表の酒呑、と言う人物からの。
「……考える時間は少ない。でも、こちらは与えたいと思っているよ」
文面を見つめていた三人に、葉加瀬は愚痴をこぼすように息を吐き、淡々と語り始めた。
「【英雄】とはいえ、まだ10代の少女に一国の命運を預けるほど、大人は無責任じゃないからね」
優しい微笑みと共にそう言ってくれた葉加瀬。
それは当然と言ってしまえば当然だろう。けれど、事はそうはいってられないのも事実だ。
それに例え大人がそう思っていたとしても、【英雄】となる日に覚悟は決めた身からすれば、そんなことは関係ない。
「……まだ間に合うかもしれない。ならっ、その間に合う人達を助けたいっ……! 歳なんて関係ありません、力を持ってる人が、誰かに求められたなら。なんであろうと助けるのが【英雄】ですっ」
葉加瀬の優しい思いやりに、自分の気持ちで答える。
すると葉加瀬は微笑んで「そっか」と一言呟いた。
「それに。……五十鈴は今にも飛んでいきそうですし」
「……っ⁉︎ いえっ。あのっ、これは……」
不安そうな顔で手をぎゅっと握りしめてる五十鈴を見て断ることなんてできるわけがない。
「大丈夫。五十鈴の同族だもん、絶対に助けるよ!」
ニコッと輝かしい笑顔で五十鈴の頭を撫でると、見る見るうちに顔がかぁっと赤くなり、恥ずかしそうに「はい……」と返ってきた。
そんな五十鈴の隣にいた律は、優しい微笑みで背中を摩っていた。
「……君が引き受けるって決めたなら、私ら何も言わない。頑張ってくらいなら、言えるけど」
頭を撫でていると葉加瀬がやれやれと言わんばかりにそう言うのだった。
話終わった後、一行は葉加瀬から救援に行くに差し当たって、隠の立地や地形、魔獣がどこからやってきているか等を教えてもらっていた。
出発は明日の明朝、一刻を争うなので葉加瀬の転移魔法で里を覆う山林の入り口に転移してもらうとのことだった。
そしてその他諸々の話を詰めている時だった、
「……んっ。うぅ……んぇ? 葉加瀬?」
葉加瀬の膝を枕にしていた緋月が目を覚ましたのだ。
パチパチと眠気まなこで周りを見て、最初に目に映った葉加瀬の名を呼び、その後、よくよく周りを見た。
そして緋月の目とこちらの目がかち合う。
「おはようございますっ」
あはっと乾いた笑みと共に手を振って挨拶すると、緋月の顔が見る見るうちにFXで金を溶かしてしまった人の顔のように変わり、突然ふらふらと立ち上がった。
「緋月さん? どこ行くんですか?」
真横を通って扉に向かって行く緋月に、声を掛けるも緋月は何も言わずにテクテクと歩き続ける。
そして何も言わずに部屋を出ていってしまった。
「……?」
「すぐ戻ってくるよ」
葉加瀬へ疑問符を浮かべた顔を向けると、葉加瀬は笑みと共に答えてくれた。
「そ、そうですか……」
引っ掛かるところは多いけれど、今は飲み込んで葉加瀬に話の続きをしてもらうのだった―――。
―――ジャーっと水が流れ出る音を聞きながら、鏡に映る自分の顔をジーッと見つめて、バッと顔を伏せると手に溜めていた水を叩きつけるように顔へ掛けるのだった。
「〜〜〜〜〜〜っ‼︎」
バシャバシャと顔に何度も水を掛け、顔の熱を下げようとするも、顔の熱はそれを嘲笑うかのように熱いままだった。
「もうっ! バカバカバカバカぁ‼︎」
はぁはぁと息を荒くしながら水を滴らせる自分の顔に、きっと鋭い目を向けて下唇を噛み締める。
この顔は、無様な寝顔を、無防備な寝顔を、葛葉へ晒したのだ。いつも、葛葉の布団に入り込む時は寝てたとしても、かっこいい顔を保てるようにしていた、でも今回はっ。
「もぉ〜っ‼︎」
地団駄を踏み顔を恥ずかしさに歪める。が、そんなことをしたとて、寝顔を晒したと言う事実は消えやしない。
「葉加瀬も葉加瀬だ! いっつもボクが寝てたら起こすくせにぃ!」
やるせない怒りを、葉加瀬にぶつけるも何故か心がモヤっとしてしまう。
なんなんだこれ、と手に溜まった水に映る自分の顔を見て、はぁと深いため息を吐いた。
「大体っ、おかしいんだ」
そう、あの日から自分はどうにかしてしまっている。
「ボク、こんな奴だったっけ……?」
ついつい葛葉の言葉を聞いてしまったあの日から、自分はおかしいのだ。
葛葉をみると顔が熱くなるし、葛葉にこっそり会いに行こうと屋敷の前に立つと何故か足が固まるし、さっきもそうだった。
「……いや。とりあえず、今は気を取り直そう。いつも見たいにしてればいいんだよ、いつも見たいに……」
水道の蛇口をキュッと止めて、顔から滴る水を拭こうと手探りでフェイスタオルを取るのだった―――。
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