二話 里の危機
筆を持つ手が華麗な動きで文字を紡いでいく。たもとを抑えながらスラスラ紙に書いている内容は、この"鬼族の里『隠』"の危機を伝えるものだった。
本国である東には当然、その他の国々にも同じ内容を綴った書面を送っている。
「救援要請ね。あの腰抜けどもが動くとは到底思えないよ、アタシは」
「そうであろうな。じゃが、妾は信じておるのじゃよ」
書面に救援要請をしたため終わった幼女の様でありながら、異様な空気を醸し出す隠の長である。
名を酒呑と言う。
そんな酒呑に物怖じせずに毅然とした態度で接するのは、隠でも随一の腕っぷしを誇り、大盃を片手で持ち、度数の高い酒が入っている巨大な大徳利を肩に下げている、最強の鬼。
名を紅鶴と言う。
実質、里のNo.1とNo.2だ。
「信じる? 何を?」
「人類の底力をじゃ」
酒呑の言葉に訝しげな顔をしていた紅鶴が訊くと、意味深な顔でただ一言答えるだけの酒呑。
そんな二人の居る部屋の扉が勢いよく開かれた。
「―――失礼します!」
そして大きな声と共に中に飛び込んできたのは一人の若い鬼の青年だった。
「何事だ!」
紅鶴は入室の断りすらせずに飛び込んできた青年に怒鳴る様に声を上げた。
無礼であるのはもちろんだが、それほど切羽詰まったことが起きたのだと言うことも、頭の隅に置きながら。
「よい、申せ」
紅鶴に制する様、手で合図し、酒呑は青年に話す様に促した。
「さ、里に向かって魔獣の大群が進行中ですっ‼︎ 数およそ五千ッ。大攻勢かと思われます‼︎」
青年の報告に二人は驚くでも、驚愕するでもなく、考え込んでいた。
酒呑は「ふむ」と呟きながら顎に手を当て、紅鶴はその豊満な胸の前で腕を組みジーッと青年のことを見つめていた。
「違うな」
「あぁ、そうじゃ。……たかが五千、鬼族の里を落とすにはちと足りん。……敵もそれほどに阿呆ではありはせんじゃろう」
二人の結論は一致しておるのか、目配せも何一つなく言葉をバトンタッチし、答えを出していく。
「防衛戦を敷け、一匹も里の中に入れるんじゃねぇぞ!」
「は、はい!!」
二人に唖然としていた青年だが、紅鶴の言葉に尻を叩かれたのか、全速力で部屋を後にし廊下を駆けて行くのだった。
紅鶴も大盃の酒を飲み干すと、酒呑には何一つ言わずに足音を立てながら部屋を後にする。
その背中を酒呑は眺め、ふぅと一息吐き、立ち上がる。
背後に広がる紅葉の原生林を見つめ、思いを馳せる。
それはこの里の未来に対してか、はたまた過去に対してか。否、そのどれも当てはまらない。
つい先程したためた文書を手に取って、見直しを行う。
次に送るのは王国のとある街。オリアギルド支部が今回の送り先だ。
「早う逢いたいものじゃ」
この里を救ってくれる人物、そしてあの子らも。
酒呑が待ち侘びるは【英雄】ただ一人だけだ―――。
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