一話 泡沫の夢?
ついに第十部の始まりですね!
そう思うと感慨深いですね!
ここまで続けれたのも、偏に読んで下さる皆様のおかげです!
これからもぜひ読んで頂けると嬉しいです!
ポタポタと地面に涙がこぼれ落ち、地面に湿った斑点を作り出す。
ギギギと音が鳴ってしまいそうなくらい歯を食いしばっているのがわかる。立ち上がりたくても立ち上がらない足に憤慨する。
拳を握りしめても何も掴めない、掴むのは砂利だけだ。
辺り一帯には血の海が、血と臓物が一緒に寝てくれている。
生臭い匂いが鼻腔に通って、鼻が今にも捩れそうなほどだった。
「立ってっ、立てよっ‼︎ っ、私は……‼︎」
叫ぶも状況は変わりはしない。
自分より後ろでは妹達が倒れている。
死んではいないものの、全員怪我だらけで、全員気絶している。
遠くでは轟音が一定間隔に鳴り響いていて、数多く魔獣の死体が積み上がっていた。
その更に奥からは里の人達が先導され逃げている声と、魔獣からの猛攻を跳ね除ける同族の戦闘音が聞こえてきている。
「まだっ、まだ寝てられないのっ‼︎」
言うことを聞かない自分の身体に叱咤し、必死に起きあがろうと躍起になる。
山を挟んだ向こう側では、天変地異のような異音が鳴り響き、山が震えていた。
「こんなところで……っ」
目の前にいるのは家よりも巨大な身体を持ち、血のように赤黒く毛のない体皮に、並びの悪い獰猛な牙、狂気に満ちた鋭い眼光、角のように反り返る耳、そして三つの首を持つ地獄の番犬。
そんな怪物を使役する者と、それを護衛する者とが、目の前で勝ち誇った顔で立っていた。
「死ねないのッ――‼︎」
空気が震えた。
悲鳴にも似た絶叫がどこまでも、どこまでも響いていく。普段出さないような高く大きな声に、喉は慣れていないのか、直ぐに痛みを発生させた。
何の意味もない弱者の鳴き声、負け犬の遠吠えなどに耳を貸す者は居ない。
獰猛な牙がゆっくりと近づいてくる。
待ちきれないとばかりに、番犬の口からはダラダラと涎が滝のように流れている。
生臭い匂いがその口から漂ってくる。
かつて人だった者の何かが残っている。
色んな色の髪の毛が牙の間に挟まり、粉々に砕かれた頭蓋の破片がチラホラと見つけられた。
「―――大丈夫」
死を感じたその時だった。静寂を突き破り、燃える家屋から発生した煙が陽光を塞ぐ中、空から降ってきたのは太陽だった。
番犬の脳天に踵落としをして直ぐに姿勢を変えて着地し、直ぐ目の前に立ってくれる。
風に揺られ靡く赤のマント、そして火の光がない地上に置いても自ら光を発する冠。
その背中にはとんでもない安心感が存在した。
「私が、来たから!」
クルッと顔だけを振り向かせ、笑顔を咲かせるその端正な顔つきは、安心感と同時にこちらの心を安らがせる、そんな力もあった―――。
―――朧げな視界に、途切れ途切れに耳が音を拾う。
声を掛けられている。
自分の名前を呼ぶ声が。
「葛葉さ〜ん!」
パッと顔を上げると、強い日差しが目を焼くように光を照りつけてきた。
グッと目に自然と力が入る。
だがそれに反して日差しはとても暖かかった。
「葛葉さん、大丈夫ですか……?」
声を掛けてきていた律がザッと芝生に膝を着き、こちらの顔色を伺うように覗き込んでくる。
心配そうな顔に、自然と手が伸びてポンっ。律の頭に手を優しく置いて、そのまま左右に動かす。
一瞬の間の後、かぁ〜っとアニメのように律の顔が赤くなり、シュババッと後ろへ交代して口をワナワナさせる。
酷く混乱してるようだった。
「おはよ、律」
「っ‼︎ もうっ、酷いですぅ!」
自分が揶揄われたことに涙を堪えながら、律はぷんすかと怒りを露わにし、ふいっと顔を背けてしまった。
あはは、と笑い、ごめんごめんと平謝り。
普段からしてるためか、律は早々に許してはくれなさそうだった。
「にしても、良い天気だね〜」
空を見上げれば青々とした空に、適量の雲が浮かんでいる。快晴も十分良い景色になるが、雲があるとこれまた味が違う。
「……ん? あれ、もう終わり?」
ふと、今目の前にいる律を一瞥して、疑問が浮かんだ。
今までのことを思い出し、律に尋ねた。
今日はお昼から律の特訓に付き合うはずだったのだ。
「そうですね、今日はもう十分ですっ!」
見たところ、律は一人で特訓していたらしい。
もしや、と眉を顰めて不安な表情を浮かべると、
「よく寝れましたか? その、無理に誘ってしまって……全力で手合わせをお願いしちゃいましたし……」
それを察したのか、律がモジモジしながらこちらの心配をしてきた。
その言葉を聞き、またまた記憶を思い起こしてみると、
「あ、うん。平気平気。律のせいじゃないよ、どっちかと言うと鬼丸のせいだから」
確かに律と手合わせをした記憶があった。ただ、その後、手合わせが終わった後、木陰で律の特訓を眺めているうちに寝てしまったのだ。
酷く寝ぼけていたらしい。
しっかり思い出し顔色が晴れたのをみた律はホッと安堵の表情を浮かべていた。
「さ〜て。……ね、律ぅ? お風呂入ろうよ〜一緒に」
二ヒヒとイタズラっ子のような笑みを浮かべながら、律を風呂に誘うと、またしてもかぁ〜っと顔が赤くなった。
がさっきの様な反応はせずに、静かに目線を落とし小さな声で、
「……はい」
と答えてくれた。
誘って貰えた喜びと、また揶揄われている怒りが合わさっているのだろう。それを押し殺しながら出たのが、その答えらしい。
「背中の洗いっこーだぁー」
笑みをそのままに律の手を取って、お風呂に向かうのだった―――。
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