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二十一話 くよくよせず

 あの後、葛葉は緋月の応急処置を受けた後、葉加瀬によって治療された。


 アキラは手に持っていた爆撃石を緋月に取り上げられ無事生き延びた。爆撃石は緋月が天へと投球したことで、即席の花火となって跡形もなく消え去った。


 怪物、キメラとの戦いも無事終わり、鬼丸達は葉加瀬に治療をしてもらったらしい。

 幸いにも全員命に関わる怪我はしておらず、擦り傷で済んでいたという。


 だが戦いの爪痕は激しく残っていた。

 鬼丸とキメラの戦いでは人こそ巻き込まれなかったものの、戦場となってしまった家屋36軒は倒壊、瓦礫の山を築くことになってしまった。


 それほどまでに激しい戦いが突如として街中で起きたというのに、民間人の死傷者は一人に済んだのは奇跡だった。

 だが問題はまだあり、今回のキメラはギルドの地下に保管されている魔獣の死体が、何者かによって融合され命を与えられてしまったからに他ならない。


 ギルドは徹底的な調査を行なったものの、何一つ原因究明となる証拠は出てこなかった。

 そのことからギルドは管理体制の不備を指摘され、街中から批判を受けた。それに対してギルド長が正式に謝罪。被害に遭われた全ての人々に無償で家の再建や、治療などを行なった。

 全てはどうにか丸く収まりゆくと、そう思われた―――。


 肩を回しつつ、ふぅとため息を吐き気持ちを落ち着かせた。

 ギルド長室の扉を前に、ノックする勇気が消えてしまった。覚悟を決めてきたつもりだったのにだ。

 とはいえ、葛葉が目を覚ましたのは昨日。対して覚悟は決まってなどいない。それに対してあの戦いからは2日経過している。

 緋月の方が色々と覚悟出来ているだろう。

 合わせる顔がない。どんな顔をして、どんな態度で緋月と対面すればいいのか。

 今まで自分は適当にあしらってきた。

 なのに実は好きでしたー、なんて。そんなの好きの裏返しでやっていたとしか思われない!

 いい年して男子小学生みたいなことをしていたなんて、思われていたら潔く死のう。

 そんな決意を新たに、やっと葛葉はノックした。

 返事が返ってくるとグッと拳を握りしめ扉を開くのだった。


「―――……葛っちゃん?」


 扉を開けた先には大人しく書類を仕事をしている緋月がいた。

 部屋にやってきた葛葉を一瞥するとすぐに、その顔は驚きの表情一色となった。

 慌てて席を立ち葛葉の下まで駆け寄ってはそのままギュッと、葛葉の身体に抱きついた。

 下心など一切なく、ただただ抱きつきたいがための抱擁を。


「よかったっ、よかったよぉ、葛っちゃん……!」

「……っ、ご心配、おかけしました」


 おでこを葛葉の腹部に当てグリグリとしてくる緋月。葛葉は優しく抱き返しながらそう言うのだった。

 それからしばらくして、落ち着いた緋月と話をしていた。


「……今回のことは君には感謝しても仕切れないよ。八重樫緋月としてじゃなく、オリアギルド支部支部長として感謝する。ありがとう」

「いえ、私は別に」


 やるべきことをした。ただほんとうにそれだけだった。

 だがそれでも、葛葉の心には引っ掛かりがあった。


「やっぱり、悔しいかい? 救えなかった一人を」

「……はい」


 目の前で死んでしまったあの男性の顔が目に焼き付いて残っている。

 忘れるわけがない、あの顔を。

 取り残されたあの二人も。


「遺族には誠心誠意の謝罪と多額の見舞金を支払わせてもらった。もちろん遺族の生活が苦にならないようにね」


 葛葉の心中を察した緋月が先回りし答える。

 が葛葉にとってそんなことはどうでもいい。

 あの時、救えなかったことが心残りなのだ。


「葛っちゃん。救えなかった分、その倍の数を救っていけばいい。違う?」


 緋月のそんな言葉に葛葉は一拍置いてから答えた。


「いいえ」


 緋月の言う通りだ。

 救えばいい、倍救っていけば。

 救えなかった数の倍。

 それが葛葉にできる贖罪だろう。


「じゃあ早速。君にはこれを受けてもらうよ。必ず、助けるんだよ!」


 葛葉の決意を目にした緋月が出したのは一枚の紙。

 それは【英雄】としての仕事が書かれているものだった。


「君の助けを待ってる人は多くいるんだ、どうか頼んだよ」

「はいっ‼︎」


 葛葉は緋月の頼みに快い返事をするのだった。

読んで頂きありがとうございます!!

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