第四話「引きこもりは異世界に来ても引きこもる」
責任重大な魔王の息子になったとはいえ、俺の中身はヒキニート。立場が変われど人格はなかなか変わるものじゃない。
一応、父ベルルクスの前で立派な魔王になるために頑張ると言ったものの、何を頑張ったら立派な魔王になれるのかわからない。努力してくれと言われても、前世でろくに努力してこなかった俺には具体的な正しい努力の仕方がわからないのだ。
正しい努力の仕方とやらを知る方法はある。誰かに、それこそ家庭教師とかに習えばいい。だが、俺にはどうも教師というものにアレルギーがある。事実、そのせいでせっかく親がつけてくれた魔術の家庭教師をやめにしてしまった。
そういうわけで、どうもヒキニートの癖が抜けきらなかった俺は5歳の時からずっと両親が用意してくれた室内練習場に引きこもり、独学で魔術の勉強をしていた。両親はそんな俺をずっと「自分のやりやすい好きな方法で学んだらいい」と言って優しく見守り続けていた。
そんな引きこもり生活は俺がちょうど14歳になるまで続いた。
* * *
ちょうど14歳の誕生日を迎えた日のことだった。俺はいつものように朝から室内練習場に籠って一人で魔術の練習をしていた。
コンコンコン
誰かが練習場のドアをノックする。
「入っていいですか?」
ドア越しに女性の声が聞こえる。母のフィオナでも、城で働いている使用人の声でもない、聞き覚えのない声だ。
入れるべきか拒否するべきか。正直、俺は自分のテリトリーにはよほど親しい人間でない限り、他人を入れたくない。それに今は魔術の練習中。入ってこられても邪魔になる。よし、拒否しよう。
「魔術の練習をしているんだ、入らないでくれ」
「入らないでくれと言われても、入りますよ」
なんて自分勝手な奴だ。俺の意見ガン無視かよ。
だけど、この部屋には鍵がかかっている。中から開けない限りは入ることはできない。
カチッ、カチッ、カチッ、ガチャリ
ドアが開く音が聞こえる。あれっ、鍵かけ忘れてたのか?
「ごめんなさい、鍵がかかってたので合鍵で開けちゃいました」
そう言って部屋に入ってきたのは、銀髪ツインテールの可愛らしい顔した女の子だった。歳はちょうど俺と同じくらいで、頭からちょこんと2本の角が生えている魔族の女の子だった。女の子の右手には俺が持っている部屋の鍵とそっくりの鍵があった。
「入らないでって言ったじゃないか!それに、なんで合鍵なんて持ってるんだ?誰かに貰ったのか?」
この室内練習場には基本的には俺以外、誰も出入りしない。たまに使用人が掃除のために入って来るくらいだ。
「ごめんなさい、あなたの言うことを無視して部屋に入ってしまって。でも、これはあなたのお父さん、魔王様からの命令なのです。この合鍵は魔王様から貰ったものなのです」
「父さんの命令?合鍵を貰った??」
「詳しく説明します。まず、魔王様からの命令のことについてです。私、リリス・グリューシアは本日から魔王様の命令によりあなた、ルーク・サタンくんの家庭教師をさせて頂くことになりました」
「家庭教師って、そんなの頼んだ覚えが……」
家庭教師だって?それはもう小さい頃に懲りて断ったはず。両親も好きにしたらいいと言ってたのに。
「いえ、これは魔王様から直接頼まれたことです。引きこもって一人で魔術の練習をしているルークくんを手伝ってほしいと」
「いや、でも、あんた子供だろ?家庭教師なんてできる年じゃないだろ」
仮に父が俺の考えを無視して勝手に家庭教師を雇ったとしてなんで俺と年齢のあまり変わらない女の子を雇ったんだ?
「子供じゃありませ……いや子供といえば子供ですけどそれでもあなたより半年だけ年上の14歳です!」
ちょっぴり怒った声でリリスはそう言った。リリスは今14か。日本の義務教育に照らし合わせれば中2か中3。その歳で家庭教師やってる奴なんて聞いたことがないぞ。
「年上っていっても14歳だろ。ちょっと家庭教師になるには若すぎないか」
「確かに家庭教師を務めるにはすこしまだ早い歳です。私も魔王様に頼まれた時は正直驚きました」
「じゃあなんで……」
「ルークくん、あなた大人の人が苦手でしょ?教師という人種が嫌いでしょ?」
リリスの突然の発言に驚く俺。だが、当たってる。確かに俺は大人が苦手だ。両親のように優しい性格の大人ならまだましだが、自分勝手で高慢な大人は大嫌いだ。それに教師も、生前の嫌な思い出のせいもあり嫌いだ。
「図星ですか。これは魔王様がおっしゃっていたことなんですが、ルークくんやっぱり大人と教師が苦手なんですね。それで、誰にも教わらずにこうやって一人で引きこもって魔術の勉強をしていたと。それも10年近く」
痛いところを突かれた。かれこれ異世界に来て10年近く引きこもってたんだ俺。
「それがどうしたって……」
「それが問題なんです。魔王様、それに魔王様の奥様はルークくんがずっと引きこもっていることを随分と心配されていたのです。なんとか子供の教育をサポートしてやりたい。でも、歳の離れた教師をルークくんは嫌がる。それで、ご両親はルークくんと同い年くらいの人ならあまり苦手意識を持たれずに接してくれるんじゃあないかと考えて私が家庭教師に選ばれたのです」
つまりこういうことか。家庭教師をやめにした時、両親は俺に自分のやりたいように魔術の勉強をすればいいと言っていた。でも、一人でずっと引きこもって魔術の練習をしている俺を10年近く見続けて流石に心配になったのだろう。家庭教師でも付けて子供の教育をサポートしてやりたい。けど、肝心の俺の方が大人や教師が嫌いなせいで年の離れた大人の家庭教師を嫌がる。そこで、なんとか俺が嫌がらないように、俺が親しみやすいように歳の近いリリスを家庭教師にしたと。
「わかった。けど……」
まだ俺はリリス、あんたを家庭教師にするとは言わないぞ、と続けようとした。
「断ることはできませんよ。ご両親からルークくんが嫌だと言っても無理にでも家庭教師になって下さいと頼まれてますから。ご両親、本当にルークくんのことを心配していたんですよ」
「いや、でもな……」
「でもじゃありません!この先、ルークくんは一生そうやって引きこもって生きていくつもりですか!」
うぐぅ、滅茶苦茶引きこもりの心に突き刺さる言葉を言われた。あまり俺の心を削る言葉を言わないでくれよ。
ここは一旦、俺のメンタルをこれ以上削らせないためにも、リリスを家庭教師として認めるべきか?
リリスをふと見つめる。お人形さんみたいに可愛らしい顔に、高めの位置で結ばれたラビットスタイルの銀髪ツインテール。それに、別に下心があるわけじゃあないが胸もかなり大きい。それでいて、身長は俺よりも低い。正直言ってリリスの容姿は滅茶苦茶ハイレベルで俺好み。こんな子が家庭教師になってくれるなら正直悪くないと思ってしまった。
「わかった、わかった。家庭教師になることを認めるよ。それじゃあ、これからよろしくなリリス」
しょうがないし、俺はリリスを家庭教師として受け入れてあげることにする。
「はい、よろしくお願いします、ルークくん。それと、一応私とあなたは教師と生徒の関係なんですから、授業の時はリリスって呼び捨てじゃなくて先生って呼んでくださいね」
家庭教師として認められたことがよほど嬉しかったのだろうか、声が明るくなるリリス。
「はいよ、わかったよ、リリス先生」
「それじゃあ、明日から早速授業をしますから、ルークくんちゃんと寝坊せずに来てくださいね」
そう言って、リリスは笑顔で部屋を出て行った。
「あっ、忘れてました」
と思ったら、リリスはそう言って部屋に戻ってきた。
「ご両親から聞きました。今日、ルークくんお誕生日なんでしょう?お誕生日おめでとうございます。これ、私からの誕生日プレゼントです」
俺に小さな紙袋を渡すリリス。
「これは?」
「幸運のお守りのブレスレットです。袋の中に入っているので取り出して着けてみてください」
袋を開けると、そこには数珠みたいなブレスレットが入っていた。リリスに言われた通りに俺はそれを腕に着ける。
「似合ってますよ」
「ああ、ありがと。嬉しいよ」
俺はリリスの褒め言葉にそう返した。
「いえいえ、どうも致しまして。それじゃあ、また明日会いましょう」
そう言ってリリスは再び部屋を出て行った。
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※第三話のあとがきで、次話は明日投稿しますと書いてあったのに、昨日投稿するの忘れてました。ごめんなさい。




