第三話「父さんは何者?」
5歳になった。異世界に転生してきてから5年間、色々あった。
まず、魔術を使えるようになった。1歳半ぐらいの時にやっと喋れるようになった俺は本棚の上段にあった魔術書を母フィオナ取ってもらい、魔術の勉強を開始した。最初は娯楽の乏しいこの世界で、いい暇つぶしになればいいなくらいの感覚で魔術の勉強を始めた。だが、勉強を進めていく内に魔術は思っていた以上に楽しいものだってわかった。なんてったって、ゲームの世界に出てくるような魔術を、リアルの世界で使えるのだ。つまらないわけがない。
そんなわけで、俺は魔術にのめりこんだ。魔術書を読み込み独学で魔術を習得した。いや、独学は少し不正確だ。
一度だけ母フィオナの、
「そんなに魔術の勉強が好きなら、魔術を教えてくれる家庭教師の先生をつけましょうか?」
という提案を受け入れて家庭教師に魔術を習っていたことがあった。
だが、もともと俺はあまり教師というものが好きではなかったし、教え方もそこまで上手いわけではなかったので、1週間ほどで家庭教師に魔術を教わることはやめにした。両親も、自分のやりやすい好きな方法で学んだらいい、と快く受け入れてくれた。
それ以来、俺は独学で魔術の勉強に打ち込んだ。両親はそんな俺に随分と協力的だった。新しい魔術書が欲しいといえばすぐに買ってくれた。屋敷にあった魔術を練習するための室内練習場を俺に貸してくれた。
両親の協力のおかげと、四六時中室内練習場に籠って魔術の練習をしていた甲斐もあり、俺はいろいろな魔術を習得した。
あと、衝撃的なことが分かった。なんと、俺の父ベルルクスは魔王だったのだ。
* * *
あれはちょうど3歳になったぐらいの時だった。俺はその頃ようやく両親のフルネームを知った。父親はベルルクス・サタン、母親がフィオナ・サタンという。つまり、俺のフルネームはルーク・サタンでサタン家の男子として生まれたことになる。
ここで俺はある疑問を抱いた。サタン家?サタンは日本語訳すれば魔王。つまり、サタン家=魔王家になるのか?それじゃあ、この家の主ベルルクス・サタンは魔王ということ?いやいや、考え過ぎだ。だいたい、この世界に英語って存在するのか?うーん、でもこの家、というか城はやたらと広い。具体的に言えば皇居ぐらい広い。こんな城に住めるのは多分、大貴族か国王ぐらいの地位の者だけだ。もし、国王だとしたら、父は魔族兼国王、すなわち魔王(?)ということになる。
何日もこの疑問に悩んだが確かな答えがわからなかった俺は、父と2人になった際、疑問を思い切って本人にぶつけてみた。
すると、父は、
「もう少し大きくなるまでルークには言わないつもりだったが、まああまり隠し通すのも悪いしな。よし、わかった、全部話そう。ルークお前は魔族だ。そして、俺はおまえの予想通り魔族を束ねる長、魔王だ」
と言った。
この返答には正直驚いた。目の前の優男風のイケメンが魔王だなんてとても信じられない。魔王ってもっといかつい感じの奴じゃないのか?どっちかといえば、これ勇者的な奴の容姿じゃないか?
そんな驚く俺をよそに、父ベルルクスは説教のようなことを語りだした。
「いいか、ルーク。お前は魔王の一人息子だ。将来的には俺の後継者として魔王を継ぐことになる。よし、いい機会だ。お前に、次期魔王として伝えなきゃいけないことがある」
「は、はい」
普段の柔和なしゃべり方と違う、厳粛なしゃべり方のベルルクスに俺は驚かされた。でも、この荘厳な雰囲気はなんか魔王っぽいな。
「まず、魔王は全魔族のを束ねる長であり、この魔族の国、セントレア王国の王でもある」
へー、俺が住んでいるこの国、セントレア王国って言うんだ。
「セントレア王国は100万人もの魔族が暮らす国であり、この世界で唯一の魔族中心主義の国だ」
「魔族中心主義?」
なんだそれ。主義ってことはなんか思想的なやつか?
「ああ、ルークにはちょっと難しい言葉だったか。魔族中心主義とは文字通り魔族のことを最優先に考える思想のことだ。具体的にはこのセントレア王国は魔族中心主義の考えに則り、魔族を最優先に考える政策を、例えば魔族の税負担を人間より軽くしたり、逆に人間には重税を課す法律を制定したりしている」
「へぇ、それじゃあ魔族中心主義を採用しているこの国って、人間には住みづらそうだね」
魔族中心主義って、よくよく考えたらただの人種差別政策じゃないかよ。てことは、差別される側、人間にとってはこの国はかなり住みづらい国なんじゃないかと思った俺は父に質問した。
「まあ、確かに人間には住みづらいだろうな。だから、この国には人間はほとんど住んでいない。でもルーク、セントレア王国が魔族中心主義を採用しているのは何も人間を迫害したいからじゃあないぞ」
「じゃあなんで魔族中心主義を採用しているの?」
「人間と魔族の住み分けをするためさ。古来からこの世界では、どういうわけか人間と魔族は非常に仲が悪かった。人間と魔族の集団が殺し合いに発展することも多々あった。人間と魔族の生活テリトリーが隣接していたからだ」
へー、魔族と人間って仲が悪いのか。
「そこで俺たちの祖先の魔族は大昔に協力して一つの国を作り上げた。それがこのセントレア王国だ。セントレア王国は魔族中心主義で徹底して魔族を優遇することで、人間が住みつかず、逆に世界中の魔族が住みたがる国にした。そうすることでこの世界では、魔族はセントレア王国に、人間はそれ以外の国に住むようになり、魔族と人間との争いが減ったんだ」
ふむ、この魔族中心主義という政策は一見すればただの人種差別政策に見える。しかし、その本質は互いにいがみ合っている人種の住み分けを促し、人種間の争いを減らす優れた政策だったのか。
「じゃあセントレア王国ができてからは魔族と人間の争いは無くなって平和になったんだ」
「ああ、確かに魔族と人間の対立を原因とした争いは無くなった。ただ、平和になったとは言い切れないな」
一瞬だけ息をつくベルルクス。
「実は今、セントレア王国は戦争の危機にある。隣国の大国、バルガンド帝国と領土問題を抱えているんだ」
魔族と人間の種族対立は無くなった。だが、今度は国と国同士での領土をめぐる対立が起きたってことか。
「その領土問題なんだが、年々激化していっている。国境沿いの小競り合いで死者も出ている。もしかしたら、数年後には全面戦争に発展するかもしれない。もし、バルガンド帝国と全面戦争になれば、国力に劣るセントレアは苦戦を免れない」
それはやばいなと思った。
「だから将来、お前が魔王の座を継ぐときには今以上に状況は厳しくなっているかもしれない。そうなった時に、頼りない魔王だったらセントレアは滅びる」
マジかよ。俺はてっきり身分の高い家に生れて幸運だ、何もしなくても俺には明るい将来が待っているんだと思っていた。だが、身分の高い者にはそれ相応の責任が生じる。もし、俺が魔王になった時にしくじれば、最悪国が滅びる。そうなれば、明るい将来どころか、お先真っ暗じゃないか。
「セントレアはこの世界に唯一残る魔族の国だ。もし、滅びるようなことになればこの国に住む100万人もの魔族が路頭に迷うことになる」
父の話によれば魔族と人間は非常に仲が悪い。だから、この国が滅びた時に、そこに住んでいた魔族たちを人間の国が快く受け入れてくれるとは到底思えない。そうなれば、文字通りこの国に住む100万人もの魔族が路頭に迷うことになる。
「だから、ルーク。これはお父さんからのお願いだ。魔王の座を継ぐまでに、いっぱい勉強して立派な大人になってくれ。そして、この国を守れるような立派な魔王になってくれ」
俺を見つめるベルルクス。その目はいつもの優しい目と違って、畏怖すらも感じてしまうほどの真剣な目だった。
「わ、わかりました。この国を守れる立派な魔王になれるように頑張ります、父さん」
唐突なことだったので、俺はそんな大層な宣言をする心の準備ができていなかった。でも、ベルルクスの真剣な雰囲気に気圧されて、ついうわべだけの返答をしてしまった。
そんな俺の心を、ベルルクスは見透かしていたかどうかはわからない。だが、ベルルクスはいつもの優しい声で、
「ルーク、よく言った。一生懸命頑張りなさい」
とだけ言って、俺の頭をポンポンと優しく叩いた。
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次話は明日投稿しますのでよろしくお願いします。
※ 次の話から遅くなりましたがヒロインが登場します。お楽しみに。




