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Re:connect  作者: ひとやま あてる
第5章 帝国編Ⅱ
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第74話 位階

「魔法は発動されるまでの間に、様々な情報を読み取ることができる。

そして、その逆も然り」


セアドの言葉にクラスの全員が耳を傾けている。


「我々が日常使用するコールマジックは、言葉により魔法陣の読み出しを簡略化することでセットマジックよりも高速で魔法を使用できている。

だが、高速化の弊害で魔法陣自体は簡略化したものを用いなければならないし、足元に映し出された魔法陣は読み取られやすい。

だからこそ、魔法の方向性の規定とマナ注入は迅速に行わなければならない」


「はい、質問です」


手を挙げて声を出したのはネル。


「入り組んだ魔法陣でもしっかり記憶すれば、高速使用は可能ではないでしょうか?」


「ふむ、いい質問だ。

複雑な魔法陣には様々な効果を付与することは可能だ。

だが記憶するのと理解するのでは大きく差が出る。

記憶に頼る場合、それぞれの魔法は一点ものにならざるを得ず、効果の種類に合わせて膨大な数の魔法陣を記憶しなければならない。

戦闘は絶えず状況が移り変わる。

それぞれの状況に合った魔法を読み出すのは、なかなか骨が折れる作業だとは思わないか?」


「そうですね、理解できます。

少し言葉が悪いですが、例えば物凄く強い魔法──それさえ使えば負けない、そんな魔法があれば一点ものといえど問題ないのではないですか?」


「確かに、一つの強力な魔法だけで戦う人間もいないことはない。

だがそれを完成させるまでには、結局、魔法陣の理解が必須だ。

たとえそんな強力な魔法を完成させた者がいたとしても、それを公表しようとは考えないだろう。

だからこそ、自身で強力な魔法を開発せねばならないんだ」


「なぜですか?

私はそれを皆で共有すれば良いと考えます」


「ネル、君の言は正しい。

だが世の中はそのような綺麗事ばかりではない。

この世は競争社会だ。

他者に利を与えることで自らの立場が危ぶまれることを望む人間は少ない」


「私には理解できません」


「だが、現実だ。

追々理解できよう。

さて……魔法陣の理解だが、なぜこれが重要か。

それは、これができてこそ魔法の高速使用が可能になるからだ。

君たちが今までそして現在学んでいる魔法、それはあらゆる魔法の雛形だ。

そこに理解というエッセンス、それが加われば魔法の可能性はグッと広がる」


本格的に魔法の深淵に近づかんとする授業内容に、皆自らの可能性を感じ、聴く側にも熱が入る。


「魔法階級が上がれば、必然的に魔法使用の高速化は伴ってくるものだ。

ではどうすれば階級が上がるのか。

恐らく大半の者が魔法の階級は下級のままであろう。

一部中級まで使える者がいるかもしれないが、恐らくこれは経験で培ったものだろう。

それを口頭で説明できるほどの、きちんとした理解は為されていないはずだ。

これからの説明を聞き、そして実践していけば、階級は自ずと上がっていくに違いない」


おお、と一部から感嘆の声が漏れる。


これこそ、未来につながる貴重な授業。


地球にいた頃なんて、学校で学んだ知識などは露ほども人生に影響しなかったからな。


専門学校などにいけば違ったのかもしれないが。


だがこれは違う。


自分で実践して効果を確かめられるし、それこそ学ぶ喜びを得ることも可能。


目的だけではない。


その過程こそに喜びを見いだせるのは、大変素晴らしい。


「クロカワ、今までの魔法使用を見るに、君は中級までの攻撃魔法が使えるだろう?」


「え、は、はい」


急に名指しすんなよ。


びっくりするだろ。


「君の魔法階級が下級であった時、どのように魔法を使用していた?」


「ど、どのように……?

どのようにって言われても……記憶したものをそのまま読み出して使っていたとしか……」


「そうだ。

下級魔法で行えるのは、魔法の読み出しと放出のみだ。

では、現在はどのように魔法が使える?」


んー、何て言ったらいいんだろう。


確かに、ぶっ放すだけじゃなくて色々してるよな。


実戦でそこまで多用できてるとは思えないけど。


「えっと、使用する魔法の威力をコントロールできたり、何というか色々できるようにはなっているような気がしますが……」


「へー」とか、「すげぇな」みたいな声が各所から聞こえる。


中級ってすげぇの?


ソフィアラもいつの間にか中級になってたし、みんなそんなもんだと思っていたんだけどな。


「そうだ。

階級が中級になれば、魔法の強度や方向性を規定できるようになる。

現在中級まで使える者は魔法発動までの間に、無意識のうちにこれを行なっている。

マナを込めながら魔法陣を改変しているのだ。

だが階級が下級の者も案ずることはない。

中級といえど、完璧にこれをこなしている者はいない。

だからすぐに追いつけるようになるはずだ」


やったぜ。


クラスメイトからは、そんな風な声が聞こえてきそうだ。


確かに下級の者から見れば中級の戦闘は、それはハイレベルに映っただろう。


少なくとも俺たち6人は全員中級に達している。


「そしてその更に上──上級に関しては遥か先の話だが、一つ伝えておこう。

中級から上級へのステップアップは、下級から中級の場合とは想像を絶する過酷さだ。

魔法の理解だけでは到底そこに至ることはできない。

現在中級だからといって、すぐに上級まで到達することはない。

だからこそ上級の魔法を使える者の魔法力は絶大だ」


すぐに上級までいけると思ったが、そんなに甘くないか。


ただ、どうやってそこに至るかは知っておきたいところだ。


「そして余談になるが、今後君たちは魔人に遭遇する機会もあるかもしれない。

上位魔人といわれる存在は、上級魔法を使ってくることが知られている。

自分が上級に至っていない状態で上級の敵と対峙した場合は、まず勝てないと思ってよい。

戦うことは愚策であり、奇跡でも起こらない限り勝つことは不可能だ。

だからもし出会ってしまった場合は、死に物狂いで逃げろ。

戦場において時折、勇敢な若者が上位魔人に挑んでいくことがあるが、その悉くが命を散らしている。

それは勇敢などではなく、蛮勇。

君たちの中には、早く戦場に赴いて武勇を立てたいと考えている者もいるだろう。

であれば尚更、時間をかけて魔法階級を上げ、学園にいるうちに学べるものは学ぶべきだ。

魔法は戦いの道具だが、同時に守る力でもある。

死んで得られるものなど何もない。

死なない力をつけることこそ、何かを守る力たり得るのだ」


後半からセアドの言葉に、気づくか気づかないかのレベルで少し感情がこもっていた気がする。


みんな熱心に聞いているが、この普段とは違うセアドの違和感に気づいているのは俺だけか?


セアドは誰か大切な人を戦場で亡くしたのかもしれない。


そんな考えが過ぎる。


「そこで一つ、現状で役に立つか分からないが話しておこう。

上級魔法というものは、中級魔法の指向性に加えて、条件設定が可能になっている」


条件設定?


みんなポカンとしている。


「魔法に特定の制約を設けることで、上級魔法は中級を遥かに凌ぐほどに可能性が拡大する。

例えば、よく知られているのは系統魔法。

入試で使っている者もいたが、学生の力量ではその読み出しができているに過ぎず、位置付けとしては下級魔法という判断が為される。

授業冒頭で話した、強力な魔法を記憶して読み出している──つまり、あれに近しい行為だ」


え、まじで?


スペデイレのアレだろ?


あれで下級なのかよ。


確かに発動時間があるとか言ってたよな。


固定詠唱時間が制約ってことか。


下級で俺のMPを全損させる威力だったのか。


どんだけだよ系統魔法。


「他にも様々な魔法が存在するが、それは追々学んでいくと良い。

そして全てではないが上級魔法の大きな特徴として、起動譜の前にその魔法を特徴付ける根源名が入ることが多い。

系統魔法であればシステムマジック、という具合だ」


あれがそうなのか。


あの時はシステムマジックというのを聞いたことはなかったが、本来ならあれを聞いた時点で警戒すべきだったんだな。


悠長にスペデイレが時間制限があるとか教えてくれなければ、初見殺しされてたに違いない。


今更だが、こえー。


「この根源名を聞いたら、今の君たちでは命の心配をした方がいいだろう。

このような感じで、上級魔法──特に根源名をもつ魔法は、よく知られているものも多い。

知られているだけリスクは増しているが、それ以上に凄まじい威力を発揮するというシロモノでもある。

知っているということ、それが長生きする秘訣だ。

十分に情報を得ていて欲しい。

続いてだが──」



            ▽



「デュアルマジック、ロード」


「なに……?」


あれって確か、以前セアドが授業で話していたやつだよな?


ただあの授業後に色々調べてみたが、多くは検索できなかった。


閲覧権限が足りないんだろうな。


やはり腕試しでの高評価は必須項目だ。


しかし今はそれどころの話ではない。


女の足元には、同時に二つの魔法陣が半ば重なり合うように展開されている。


一つは光属性で、もう一つは闇属性。


あいつらは学生って話じゃなかったのか?


ってことはかなり上級生ってことか?


いや、今相手の詮索は無意味か。


言えることは、あれは根源名があるから上級魔法。


たとえ相手の力量が伴っていなくても、強度だけでいえば防陣をゆうに貫通する威力が予想できる。


しかし、制約はなんだ?


その制約を達成させなさえしなければ、魔法発動を妨害できるかもしれない。


いや、セアドは真先に逃げろとも言っていたな。


奴は人間の皮を被った魔人なのか?


焦りから、どんどんと不必要な思惑ばかり湧いてくる。


女は徐に、右掌を上に向けて身体の前で右腕を固定している。


なんだ?


俺の思考が更に混乱する。


よく見ると、白と黒の細かい粒子がその掌に収束しているのが分かる。


「まずい、チャージ系か!」


俺はそれを消し去るべく、女に迫る。


思いつきの行動だったが、案外これは理にかなった判断だったかもしれない。


防陣で発動までに触れてしまえば無効化できるはずだ。


そうやって走っていると、女は後方に飛び退さって校舎の壁面にへばりつくと、そこから壁を蹴って更に上空に駆け上がった。


やはり接近されることを嫌っている?


女はそのままの軌道で落下すれば俺を飛び越えて俺の背後に着地する形になるが……。


ピタリと、女は両足で宙に立ち止まる。


やはりか。


「ロード、シャドウ エンクレイヴ!」


女の背後の壁面、そこに影による飛地を設定。


「そんでもって!

ロード、シャドウ バレット!」


チャージ時間稼ぎなのか空中で動きを止めている女に俺は両手を向け、影の魔弾を連射する。


女に余裕を与えないように広い範囲に魔弾を拡散させているが、やはり捕らえ切ることはできない。


女は空中に足場があるかのように縦横無尽に飛び回っている。


「くそ、急がないと発動させてしまう」


その最中、空中で方向転換しようと動きを止めた女を一つの魔弾が捉えた。


直撃する寸前、しかし女が懐から左手でナイフを取り出す方が早かった。


スパッと魔弾が半分に裂かれ、その一方は女を逸れたが、もう一方が激しく女の左肩を打ち付けた。


「がっ!」


それにより女はバランスを崩すが、なんとか空中で持ち堪える。


俺はそれをみて、足元の影に忍ばせたナイフを飛地経由で勢い良く射出した。


「ロード、シャドウ ダイブ」


それと同時に足元の影に腕を突っ込む。


もちろん腕の這い出る先は──


女は背後に迫るナイフに気がつき、影に濡れたナイフでそれを撃ち落とさんと振るう。


その瞬間、俺の腕が女にへばりついた影から勢いよく飛び出した。


「!?」


背後のナイフにより魔弾の影響から注意を逸らし、そこに一番の目的である術式の破壊を狙う。


誰か知らんが俺に講釈を垂れてくれたからこそ、可能になったコンボだ。


複数の手段でもって、目的を達する。


こうでもしないと決定的な一撃は打ち込めない。


俺は収束するそれに触れんと腕を伸ばす。


「……」


女は一瞬悩むが、即座に次の行動を選択した。


左腕を止めて外套に触れながら一節を口にする。


「アンカバー!」


その言葉に合わせて女の外套が勢いよく弾ける。


「なっ!?」


「ぐっ!」


そのせいで俺が術式に触れることがかなわなくなってしまった。


だが、それと同時に俺の射出したナイフが女の後ろ脇腹を貫く。


「アイツ、傷つく方を選びやがった!」


タッ、タッ、と女は宙跳ねる。


その際、宙に舞った外套を手にする。


すると外套はシュルシュルと縮こまり、女の掌に収まるサイズとなった。


それをポケットに突っ込みながら女は跳ねている。


数度のステップを経て、女は俺から更に離れた空中に動きを止めた。


その身体は傷を負った側に僅かに傾き、肩で息をしているのがわかる。


そのまま勢いよく背中のナイフを引き抜く様が見えた。


ブシィッ、とでも聞こえてきそうな勢いだ。


再度女の身体が痛みに震える。


外套を放棄して露わになった姿は、思った通り女。


この学園の女子用制服を身につけている。


ナイトアイにより夜間ながらその姿ははっきりと見えるが、顔は……左手で覆ってやがるな。


そのため顔立ちをはっきりと確認することができない。


性別は女で、髪は灰色。


これだけでアイツの正体を絞り込むことができるかもしれない。


「クロさん、大丈夫ですの!?」


「うおぉ、ジュリか!

今のところ無事だ。

だが状況は非常にマズい。

他のメンバーは?」


心臓が飛び出るかと思ったぞ。


「別方向からこちらに向かってますわ。

空中の……よくは見えませんがあの方が殺人鬼で間違いありませんの?」


俺はナイトアイがあるから見えているが、夜間だと他の連中には厳しいか。


「ああ、アイツで間違いない。

先日もう1人いたが、どこかに潜んでいるかもしれないから気を付けてくれ。

そんでもってもっとヤバいのは、アイツが上級魔法をぶっ放そうとしているところだ」


「それは相当マズいのでは……?」


「一気に攻撃を仕掛けるぞ!

他を待ってられない」


「わ、分かりましたわ!」


「ロー……まじか」


すでに女は腕を天高く掲げていた。


初めは緩やかに光を集めていたそれも、今では白と黒が混在して激しく乱流引き起こす球体と化している。




「ランサー ナイトライト」




女の声に合わせ、球体から無数の光線が上空へ立ち昇りはじめた。

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