第70話 失速
忙しさと、納得する文章を書けないもどかしさと。
「ところでクロカワ、今やってる模擬戦は何か意図して組んでいるのか?」
まぁ、初見だと気になるよな。
「いや、特に何かっていうのはないな。
とりあえずやってみて見つかるものがあればいいかなってくらいで、組み合わせは意識してないな」
「そうだったのか。
クロカワたちがこの学園に合格してすぐ戦ってたと聞いて俺たちもやってみようとしたことはあるんだが、なかなかうまくいかないものでな。
いい戦いができるコツでもあればありがたいんだが、助言してくれないか?」
「俺たちのは行き当たりばったりもいいところだけどな。
戦ってみて気になることがあれば包み隠さず伝えることくらいじゃないか?
あとはそうだなぁ……相手に伝えるのは相手の良かったところ、そしてどう改善すれば良い結果につながったのかを一緒に考えることとか、そんなものか」
「なるほど、参考になるな」
持論ってわけでもないし、今思いついたことを言ってるだけだから、これが本当にアドバイスたり得てるかどうかは甚だ疑問だな。
俺も実践してるわけじゃないけど、あとの総評でやってみるか。
ところでさっきからチラチラと目に映って気になっていることがある。
ラウラの胸元には、紅い色の宝石が埋め込まれたペンダントが見えた。
形こそ違うものの、それは俺が持っている宝石によく似ている。
トラキアで魔王崇拝教のシンボルとか言われてからは付けないようにしてたんだが……まさかそうなのか?
「ラウラ、そのアクセサリーはどうしたんだ?」
「え、ちょっとどこ見てんのよ変態!」
いきなり変態呼ばわりだ。
仕方ないだろ、見えちゃったんだから。
女子はあまり気づいていないようだが、胸元が見えて谷間や下着が覗いているなんてよくあることだ。
他の4人が俺に疑いの視線を向けつつある。
「おい、誤解だ!
そんなつもりはない。
俺も似たようなもの持ってるし、たまたま目についたから聞いてみただけだ」
「ほんとかなぁ?
……でもクロカワくんの周りは可愛い子ばっかだし、わざわざあたしなんか見ないか。
よし、あなたの疑いは晴れました!
えっとそうだ、これは親が何かお金に困った特に売ったりできるように持っとけって渡してきたものだよ。
多分小銭にしかならないと思うけどねー」
「なんだ、そうだったのか。
何かその宝石のついて聞いて──」
「おお……!」
「──って、なんだ?」
言いかけたところでアルとガルドの戦いに動きがあった。
各所で見物しているクラスメイトたちからも驚きの声が上がっている。
どうやらアルの攻撃がガルドを捉えたようで、ガルドが片膝をついて崩れ落ちた。
すぐ立ち上がったものの、少し顔をしかめて息が上がっているところを見ると、そこそこいいパンチがガルドの脇腹を抉ったようだ。
「ガルド、うちが先手を取ったぜ。
このままドンドン詰めていくからな!」
「ふっ……上等だ。
しかしこのようなラッキーパンチで浮かれていては、すぐに足元をすくわれるぞ?」
挑発をして余裕を見せたものの、実際にはガルドは内心非常に焦っていた。
くそ、まさかここまでアルの体術が向上していようとは……。
そしてなぜ攻め切れない……!
アルとの打ち合いも、相当長い間続いていた。
しかし一向に決定打を与えることができていなかった。
傍目にはいい勝負をしているように映っているかもしれないが、実戦経験があるガルドとしては、その状況はあまり受け入れられるものではなかった。
意識しないまでも、自身がやや周囲より経験を積んでいると言う自負があったということに、ガルドはここでようやく気がついた。
それにしても周りの連中の成長が著しい。
自身の限界に気がついて学園の門戸を叩いたガルドであったが、自身の可能性以上に周囲の成長率に引目を感じてしまい、やや自信を失っていた状態だった。
今日見た2戦もかなりハイレベルなものだった。
皆何かしら試行錯誤しているのが分かるし、本人たちは意識していないだろうが、そういうことが積み重なって確実に成長しているというのが見て取れる。
今目の前にしているアルもそう。
先日のルーとの戦闘があって、今のところ一番良い変化があったのではなかろうか。
あれ以降アルはルーに稽古もつけてもらっていたみたいだし、自身が周りから置いていかれつつあることが分かるから尚更劣等感を叩きつけられる。
本当にクロたちと一緒に居続けていいものかどうか不安になってくる。
しかし今はそんなことを考えている暇はない。
目の前の状況をどう打開するかが問題だ。
そして戦いの中で何かを見つけることが重要だ。
皆何かしらの発見があり、それを活かすことで次に繋げていっている。
このままではいけない。
「ロード、ロックゴーレム!」
アルが岩石兵を作り出した。
アルとガルドを中心に、その周りに4体。
「同時に複数出せるようになったのか、成長したな」
本当にそう思う。
「ああ、全部ルー先輩のおかげだけどな!」
しかしそれらが攻撃を仕掛けてくることはない。
微動だにせず鎮座している。
「複数作ることはできたが、満足に動かすことができないのか?」
「それはガルドの目で確かめて見てくれ!
じゃあいっくぜー」
再び肉弾戦が開始される。
やはり、防御力を上げてきている相手にガルドは分が悪い。
ヒットしたとしても、なかなかアルを崩すには至らない。
そして数回の打ち合いでガルドは違和感に気付いた。
先ほどまでのダメージ蓄積を狙った攻撃が少なくなってきている。
その代わりに体勢を崩させたり動きを止めるような攻撃が増えているように感じる。
「ロード、ロックスピア!」
「くっ……!」
やはり地属性は攻防両者共に優れている。
硬化しただけでも十分な強化だ。
「ガラ空きだぜ!」
今の攻撃も囮。
ガルドの防御を上から殴りつけるアルの攻撃には、なかなかの攻撃力を感じる。
なるほど、そういうことか!
ガルドが吹き飛ばされた先には、先ほどアルが作り出したゴーレム。
容赦ない攻撃がガルドに突き刺さる。
「ぐぅうう!」
御丁寧に、殴りつけたゴーレムはガルドを別のゴーレム方向へ吹き飛ばしている。
次のゴーレムもガルドを叩き潰そうと動き出している。
「ロード、エアリアル ステップ!」
ガルドは身体を捻り、そして進行方向へ突き出した脚で空中を踏みしめた。
ガルドはまるで地面があるかのように宙を飛び回る。
「ロード、ハリケーン ナックル」
機敏な動きでアルを翻弄しながら腕に竜巻を纏う。
グググ……!
アルの真上で重力に完全に逆らいながら空中へ着地。
思い切り身体を縮めバネの要領で飛び出すと、直下に向けて拳を突き出した。
「ロード、ロック──ぐうぅ……!」
アルは両手をガルドの拳にかざす。
アルの両手が完全にそれを覆い込めたと思ったそのとき、ガルドの腕に纏い付いていた竜巻が拡散。
アルの両手はガルドの拳から完全に離れ、そのままガルドは腕を振り抜く。
凄まじい風が通り抜け、今度はアルが吹き飛ばされる結果となった。
「──バインド!」
吹き飛ばされながらもガルドを見据え、座標をしっかりと確認しつつアルは魔法を放つ。
「なんだと!?」
追撃を狙っていたガルド。
しかし脚が前に進まないのを感じて足元を確認すると、ガッチリと両足が岩に覆われていた。
アルはクルリと空中で身体を捻り、器用に着地。
ブンと両手を振るうと、それに合わせて岩石兵がガルドに向けて歩みを進める。
「ロード、ロック フォール」
動けない状態に、迫る4体の岩石兵。
そして頭上に待機する岩塊。
「くそ、ここまでか……降参だ……」
「お、やったぜ!」
ガルドを覆うものや周りの全ての岩が砕け散って、そして消えて行く。
ガックリと項垂れるガルド。
しかしすぐに顔を上げる。
「さすがにここまでされると完敗だ。
アル、腕を上げているな」
「強いガルドから褒められると嬉しいな!
やったぜー」
そう言ってクロの元へ走り出してしまった。
「俺はお前が思うほど強くはない……強くはないんだ……」
▽
「クロ、見てたか!」
「ああ、防御力もかなり上がっているみたいだな。
ルー先輩との特訓が生きてるって感じか?」
「そうだぞ、先輩はすごいんだぞ!」
アルの後方で、この空間から出ていこうとするガルドの姿が見える。
「あれ、ガルドはどうしたんだ?」
「何か用事でもあるんじゃないか?
それよりガルドに勝てたんだぞ!
もっと褒めてくれてもいいだろ!」
「アルベルタちゃん、男の子相手にあんなに戦えるなんてすごいよ!」
「そうだろ!
ジュリエットはよく分かってるな!
でもガルド本気じゃなかったかもしれないけどな。
じゃあクロ、次はうちらでやるぞ!」
どんだけ元気なんだよ。
試合して昂ってるってのもわかるけど。
「ランゼ先生にしばらく安静って言われてるから無理だわ。
他のメンツに頼めよ。 な?」
俺は5人に視線を送る。
みんな、「え、なんで?」って顔をしている。
「腕試しの相手も決めなきゃならないし、決まってないなら対策はできないけど、自力を上げる意味でも何でもやっといた方がいいぞ」
「クロの言う通りだぞ!
そうと分かればジュリエット、こっちに来るんだ!」
「えぇ!?」
「選ばれたのなら仕方ないわよ。行ってきなさい」
「ネルちゃん、助けてよぉ」
「見ててあげるからしっかりやりなさい」
「そんなぁ……」
援軍のいないジュリエットもう無理だな。
「ジュリエット、やるぞ!」
腕を引かれて連れて行かれるジュリエット。
「じゃあ僕たちも試しにやってみようか」
「そうだな」
ダンテとアレクサンドロもやる気のようだ。
しっかり見て盗めるものは盗むとするか。
それにしてもガルドのやつ、どうしたんだろうな。
▽
「はぁ……」
ガルドは食堂へやってきていた。
「周りの成長についていけずに腐るなど、今のオレはどうかしているな……」
テーブルに項垂れる。
「どうした、浮かない様子だな」
顔を上げると、フランシスが盆に食事を乗せて立ち止まっていた。
「ああ、見ての通りだ。
うまくいかないことばかりでな。
そういえば……もう昼食の時間か」
結構な時間が経過していたようだ。
「座るぞ、構わないか?」
「ああ、構わない」
「お前が悩み事をするとはあまり思えないが……腕試し関連のことか?
込み入った話であれば、話さなくてもいいがな」
「いや、腕試しの以前の問題だ。
周りの成長が著しくて、差を見せつけられて腐っていただけだ。
このような感情に苛まれるのは2度目だが、なかなかこの手の感情は払拭しづらくてな」
「2度目?」
「以前ハンターをしていたことがあって、そこで限界を感じてこの学園の門戸を叩いたんだ。
その時にな。
しかし中に入っても同じとはな……」
「そうだったのか。
日々のすべき事に追われて、そんな風に悩んでいる暇もなかったな。
そういう意味では、悩めるだけ考える時間があるという風にも取れるがな」
「そういう見方もあるか。
しかしこのままいけば、オレは周囲から遥か後方を走り続けることになるだろう。
オレ以外の面々は絶えず試行錯誤して、その度に何かを見つけて成長している。
実戦経験があるから皆より少し前を歩いている感覚だったが、どうやらプライドが高かっただけなようだ。
オレは自分の小ささに気がついて、惨めにもこうして項垂れていたというわけだ」
「お前のような屈強そうな男にもそのような悩みがあったとは、少し親近感が増すな。
その様子だと腕試しの相手も決まっていなさそうだな」
「まだ決まってはいないな。
それよりもこのままで果たしていい結果が残せるかは甚だ疑問だな。
フランシスは決まったのか?」
「ああ、この間声をかけてもらったジャン先輩が相手してくれることとなった。
彼も風属性ということだし、二年生では次席。
相手にとって不足はないだろう。
勝てるなどとは思っていないが、胸を借りる気持ちで挑もうと思っている。
そういえばガルドも風属性だったな。
どうだ、ジャン先輩に悩みを聞いてみたらどうだ?」
「それはありがたい話だが、そんなに簡単に先輩を捕まえられるものなのか?」
「先程食事を取っているのを見かけた。
呼んでくるから待っていろ」
「お、おい……」
フランシスはガルドの制止も関係なしに席を立ってしまった。
悪いやつではないんだな。
クロが毛嫌いしすぎているだけか。
すぐにフランシスがジャン先輩を連れて戻ってきた。
「や、ガルドくん。
この間教室に来てくれたぶりかな。
何やら悩んでいると聞いたけど?」
フランシスとともにジャンも腰掛ける。
「わざわざ来てもらって申し訳ない。
悩みといっても、周りの成長についていけなくてどうしたものかといった感じで、よくある単純な悩みですよ」
「そういう悩みか。
特に今は成長に差の出やすい時期だから、そう感じるのも無理はないんじゃないかな。
最終的にみんないい感じに成長の幅は収束していくから、今の時期はそういうものだと理解していればいいと思うよ。
むしろ実戦経験のあるガルドくんは、戦闘訓練の授業が始まったあたりから頭角を表してくるんじゃないかな。
だから今は周りを見るより自分に何ができるかをしっかり考えた方がいいよね」
「そういうものですか……」
「そういうものだよ。
だから今持っているものを一つずつ極めて自分のものにしていくことだ。
例えば、君は空を自在に飛び回ることができるかい?」
「自在とは言えないまでも、空中での機動力はそこそこあると思います」
「そうか、それは流石だね。
貴族の教育では、入学時点でそこまでできる者はなかなかいないんだよ。
そしてここからが重要だけど、自分は何でもできるはずだ、と思わないことだ。
できないことはできない、そう割り切って考えることだよ。
例えば風属性は剪断力に優れるけど、地属性の防御力の前には手も足も出ない。
そんな経験はないかい?」
「それはまさにオレが……」
「そう、これは僕たち風属性がぶつかる問題だ。
まだ各属性対抗の実践はやっていない時期だから、それも仕方がないんだけど、基本的に風属性は地属性には勝てない。
状況によって優劣が変化する火属性と水属性の関係と違い、風属性は圧倒的に地属性に劣る。
だからこそ、他の戦い方を学んでいかなければならない。
機動力だったり空間干渉だったり、そういう事を駆使してね。
不得意な相手を無理に相手する必要はないが、地属性相手に何ができて何ができないということを理解しておくことは重要だよ」
「なるほど、理解しました。
オレの悩みはオレ特有のものではないということがわかって安心しました。
先輩、ありがとうございます」
「役に立てたようで良かったよ。
ついでと言ってはなんだけど、腕試しの相手も決めてはどうだい?」
「決めると言っても、どうしていいものやら……」
「なに、簡単だよ。
今から地属性の人たちと模擬戦をやるから見に来るといいよ。
僕たち二年生は定期的に属性対抗の模擬戦をやっていてね。
そこでの戦い方とか、気になった人がいれば声をかけるといい。
僕はもう相手が決まっているから難しいけど、地属性の相手を指名してもいいと思うよ」
「そうですか、助かります」
「じゃあ行こうか」
▽
ジャンに連れてこられた場所では、ガルドらが行なってきた模擬戦ほど派手ではないものの、高度な戦闘が行われていた。
狭い範囲で軽めの近接戦をしたり、魔法を交互に放ち合ったり。
「僕らは学年として団結力が強いから、こういった方法で地力を高めているんだ」
と言う話らしい。
「クラス分けは個人の総合力で判断されているけど、それが必ずしも勝利につながるとは限らないからね。
だからクラス関係なしに色んな学生に参加してもらって弱点を補ったり強みを高めたりしているわけなんだ」
ガルドらが六人でやっているような事を、学年単位で行なっているようだ。
「これを見たときは驚いたが、これくらいやらないと駄目なんだろうな」
入試の時に見せたフランシスの様子とは大きく違っている。
先輩との関わりも含めて、心境の変化があったんだろうな。
そんな事を思いつつ、ガルドは先輩たちの活動を眺めていた。
しばらくジャンらの活動に参加させてもらったガルドは、悩みを共有した事で少し心が軽くなっていた。
独りよがりでハンターをしていた頃にはない発想が多数散見された。
やはり人との触れ合いが大切なんだなと認識しつつ、十分な収穫を得たガルドはその場を後にした。
だがしかし、良い腕試しの相手は見つからなかった。
技術的に先輩たちが劣っているわけではないが、ガルドは何か物足りなさを感じてしまった。
クロたちと先輩たちの違い。
同じような事をしているにもかかわらず存在する決定的な違い。
それは明確な目的意識だろうか。
先輩たちはそう、悪く言ってしまえば目先の試験だったりそういったことに注力しているだけだ。
どれだけ先のことを見据えているか、そこで違いが出るのだろう。
今ガルドらが置かれている状況──世界を救うなんて話はまだあまりピンと来ないが、それでも5年、10年、少なくとも寿命を迎える前にはこの世界が終焉を迎える。
その時が来てから準備するのでは遅いのだ。
だからといってガルドらが偉いわけでもないし、先輩らが悪いわけでもない。
しかしガルドはそこに僅かばかりの違和感を禁じ得ない。
これが俗に言う意識が高いってやつなんだろうか。
そんな事を考えながらフランシスと共に帰途についていた。
「また浮かない顔だぞ、考え事か?」
「あ、いや、悪い。
結局腕試しの相手は決められなかったな、と思ってな」
「急がなくてはならないが、今日すぐに決めなくても良いと思うぞ。
考える時間も必要だ」
「そうか……そうだな」
「ところで話は変わるが……いや、やっぱりこういう話は……悪い、忘れてくれ」
「なんだ歯切れが悪いな。
今日はフランシスには助けてもらったし、オレで良ければ聞くが」
「こういう話は今まで誰ともしたことがなかったんだが、やはり気恥ずかしいな……。
まぁ聞くだけ聞いてくれればいい。
僕とジュリアーナが許婚の関係だということは知っているか?」
これは、嫌な匂いがする。
少々マズいかもしれないな。
言ってしまった手前、この話を聞くしかない現状にガルドは後悔する。
「ああ、詳しくは聞いていないがそのような事を言っていたと思う」
嘘をつくわけにもいかないので、濁しつつ答える。
「そうか、少しは知っているか。
それでなんだが、最近ジュリアーナがやけに綺麗になってきたと思ってな。
親から許婚と言われただけで特に意識はしていなかったんだが、なんというか、彼女を女性としてはっきりと認識してしまっている自分がいるんだ。
それで少しジュリアーナとは話づらくなってしまって、彼女とどう接していいか分からないんだ。
そういうこともあって少し学業も疎かになりつつある。
いや、いきなりすまない。
なかなかこういう話をできる人間が周りにいなくてだな。
どうすれば良いだろうか?」
マズい。
少々どころじゃない、これが非常にマズい。
すでにガルドは内情を知ってしまっている。
ジュリは完全にクロにホの字だ。
クロの顔がかっこいいとかそういう次元ではない。
クロの生き方を好きになっていると言っても良い。
特に15歳といえば多感な時期。
年上で、勤勉で、頼り甲斐があって、使命感に溢れている。
こんなもの、少女を落とすには十分すぎる確殺コンボだ。
体力ゲージが何本吹き飛ぶかわからない。
クロは否定しているが、彼は人を惹きつける魅力を十二分に備えている。
オレもクロに惹かれて一緒にいるのだ。
これはフランシスでは覆しようのない現実。
何も知らない体で下手なアドバイスをするのは危険すぎる。
かと言って現実を突きつけるのも非常に心苦しい。
フランシスも15歳。
こういうことに悩む時期だ。
どうする……。
「そこまで重く考えてくれなくても良い」
フランシスはガルドの苦悩を別の意味で捉えてくれたらしい。
「すまない、女性経験は少なくてな。
良いアドバイスはできそうにないな」
これは現状を切り抜けたとは言い難い。
むしろ問題を先送りにしたようなものだ。
「いや、いいんだ。
お前に話してみて少し楽になった気がする。
やはり何事も一人で抱えていてはいけないということか。
今日はガルドから色々と学んだ気がする」
「オレは特に何もしてないぞ」
「僕がそう思っているからそれでいいんだ」
「ジャン先輩を連れてきてくれたおかげで、むしろオレが助けられたようなものだ」
「そうか、助けになれたのであれば何よりだ。
じゃあ、またな」
そのままガルドは笑顔のフランシスと別れた。
「これは面倒ごとが舞い込んできそうな予感がするな……。
クロとジュリに伝えるべきかどうか。
いや、迷惑を掛けるわけにもいかないか」
考え事をしながら歩いていると、気づけば自クラスの演習場に戻ってきていた。
「さっきは何も言わずに出て行ってしまったからな。
アルには謝らなければ」
扉を潜ると、数カ所で戦闘が行われているのが見えた。
オレたちの戦いに影響されたのか、ほとんどのクラスメイトが演習場に集まっている。
皆荷物の移動が終わったのか。
これだけ白熱して戦っていたら自室に篭って勉強などできそうにないだろうな。
「ガルド、お帰り」
クロから声がかかる。
クロの周りにはアル、ジュリエット、ラウラ、ネル、そしてダンテとアレクサンドロか。
いつの間に仲良くなったのやら。
「おーガルド、どこ行ってたんだ?
うちの勇姿を見れなくて損してるぞ!」
「すまない、ジャン先輩と会う約束があってそっちに行ってたんだ」
「そうなのか!
うちは対戦相手が増えたから戦いっぱなしだ。
今のところ3勝1敗だな!」
もう4戦もやっているのか。
そういえば汗もかいて、やたらと汚れている気がする。
その横でヘトヘトになっているジュリエットとラウラ。
ダンテとアレクサンドロにも少し疲れが見える。
「誰とやったんだ?」
「ガルドのあとは、ジュリエット、ラウラ、ネルの順だな!
ネルには負けちまったけどな!」
負けてもこのテンションでいられるのは正直羨ましいな。
凹んでばかりじゃなく、いろんなものを見習わないとな。
「ジュリエットとラウラの犠牲があってこそよね。
よくやったわよ二人とも」
「ネルちゃんひどいよぉ。
ラウラちゃんからも言ってよー」
「あたしたちの骨をネルが拾ってくれたと思えば……」
「うぅ、ひどいー」
「ジュリエットは根性が足りない!
そんなことじゃ世界は救えないぞ!?」
「そんなスケールで考えたこともないし、それは勇者さんがやってくれるよぉ……」
ガクリとジュリエットが項垂れる。
短い間でなかなかに仲良くなっているようだ。
さすが、クロは色々な人を問答無用で巻き込んでいく。
これこそが彼の魅力。
やはり全ての中心はクロ。
オレはこの輪から外れていってはならない。
さっきのまま腐っていれば、いずれ確実にそうなっていただろう。
将来魔族と戦う意味でも、そして彼を守る意味でも、こんなところで立ち止まっちゃいられないな。
負けも含めて、全て未来に繋がる経験だ。
フランシスには感謝だな。
「アル」
「ガルド、どうしたんだ?」
「もう一戦やろう」
「お、そうこなくっちゃな!」




