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Re:connect  作者: ひとやま あてる
第5章 帝国編Ⅱ
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第69話 別者

突き、蹴り、掌底、頭突き。


あらゆる体勢から様々な攻撃が縦横無尽に飛んでくる。


「速、すぎん、だろ!」


スパァァンと気持ちの良い音を立てて、オリビアの下段蹴りが俺の太腿に突き刺さる。


痛みを引き摺りつつ、オリビアから距離を取る。


が、それを許してくれはしない。


オリビアは俺の懐に入り込むや否や、掌底を俺の顎に叩き込んでくる。


「ぐっ!」


チッと顎を掠めたが、ギリギリ退けぞって彼女の攻撃を回避する。


その状態からオリビアの攻撃に使った腕を蹴り上げながら後転する。


戦闘が始まってからはオリビアの近接戦に持ち込まれたお陰で、まともな攻撃魔法を発動できていない。


というよりさせてくれない。


今のはさすがに危なかったが、致命傷になりかねない攻撃は防陣を使って止めてある。


その度にオリビアの顔に不快感が刻まれていくが仕方がない。


今回、身体強化魔法及び防御系支援魔法を併用して防陣を使ってみたが、効果は覿面だった。


オリビアの攻撃自体がそれほど重くないこともあるが、明かにマナ消費が抑えられている。


ガチガチに防御面を鍛えていけば、長期的に戦うことも可能だろう。


さっきの太腿への攻撃は対処しきれなかったが、重そうな攻撃にだけ防陣を発動しているので、今のところそれほどマナは消費していない。


それでも一発毎にMPが50ほど削れているし、まだまだ攻撃の読みも甘い気がする。


このペースだと重めの攻撃100回も止められないんだよな。


それもこれもオリビアが予想外に格闘バリバリなのが原因だ。


どこで鍛えたんだっつーの。


一切攻撃パターンを読みきれないし、トリッキーな攻撃が多すぎる。


オリビアが使っている魔法だって身体強化魔法とか支援魔法だけだし、あるとすれば一番最初に唱えていた魔法。


起動符もなかったから、おそらくギフト的な何かだろう。


隠し球は俺だけじゃないっぽい。


それにしてもこれはこれでいい経験になっている。


攻撃を読むのもさることながら、防陣を駆使しつつ攻撃をひたすら捌いていくのはヴィクターとの訓練の延長線上にいるようなものだ。


ヴィクターはこの上で攻撃魔法まで多彩に絡めてきてたんだから恐れ入る。


これくらい処理しきれなければいけないのだろうが、体術に関しては明かにオリビアの方が厄介な気がする。


掴み所がないというか何というか。


ヴィクターはあの時本気ではなかったんだろうが、そのヴィクターよりもオリビアは動けているような……。


と考えている間にもオリビアが迫ってきている。


今度も顔面の中心を射抜く、右の突き。


これは難なく首を傾けて躱す。


そして突きの体勢から強引に身体を捻っての後ろ回し蹴り。


両前腕を前に置くことでこれも止める。


って、結構いてぇなやっぱ。


オリビアは脚を戻しながら、その勢いを使って反対側の脚で俺の膝後ろを蹴ってきた。


「ぐぅ!」


思わず膝が崩れ、後方に傾く。


やばい、これはまずい!


俺自身の腕で前方の視界を遮らせて、その隙に体勢を崩させる。


見えていようが俺の対応スピードよりも速く動くため反応しきれない。


倒れつつある俺にオリビアはシュルリと纏い付き、オリビアの体重で地面の組み伏せられた。


オリビアが俺の腹の上に座っているこの体勢から来るのは──


動けない俺に向けて容赦ない拳が降り注ぐ。


パウンドに次ぐパウンド。


両腕で顔を覆ってはいるが、側面から、そして両腕の間から拳が俺の顔を捉える。


「ぐ、くそ……!」


それでもオリビアは止まらない。


攻撃を受けるたびにガードが甘くなり、さらに攻撃を受ける悪循環が生まれる。


身体を動かそうにも腰を固定されているために抜け出すことができない。


格闘技の試合を以前動画で見ることがあったが、この状態から抜け出せてた選手って相当すげぇんだな。


迂闊に体勢をズラせば致命的な一撃を受けることになるだろう。


かと言ってこの状況に長く耐えられるとも思えない。


口も切れてるし、鼻血も出てる。


なぜ防陣を張らないのかって話だが、俺はあの魔法に頼りすぎてあれさえあったら何でもできると錯覚してしまっている。


それじゃダメだ。


あれを使い過ぎれば痛みにも弱くなるし、もし防陣が使えない状況になったら何もできなくなってしまう。


ということで致命傷以外には使わないつもりだったのだが、このままでは一方的に殴られて終わりだ。


結局これに頼ることになるのかよ、くそが。


それでもなるべく使わずに戦える時間が長くなっていることを褒めてあげよう。


「ロード──」


「そんなことしても無駄なんだよ」


それはどうかな。


オリビアの顔面を中心に見据え、両腕を向ける。


即座にオリビアは俺の腕を殴って排除しにかかる。


しかし、ピクリとも動かない。


オリビアに動揺が見える。


「──フォトンブラスト!」


オリビアは俺の魔法が完成するよりも早く俺の上から飛び退き距離を取った。


オリビアの居なくなった場所を、光弾が走り抜ける。


俺もすぐさま立ち上がるが、オリビアから攻撃の気配はない。


「たまに攻撃が通らないのが意味わからなくてイライラするんだよ。

それでも、このまま続けてもクロに勝ち目はないと思うんだけど」


まったくその通りだよ。


好き放題に殴ってくれちゃって。


鼻の辺りを拭うと、手の甲にべったりと鼻血がこびりつく。


あらら、こりゃ相当やられてんな。


「ああ、その通りだ。

ロード、クリア」


魔法でキレイにするも、ポタポタと鼻血は垂れ続ける。


これはすぐには止まらんな。


キレイになっても痛みは引かないし、おそらく多数に痣も作っているだろう。


女の子相手にボコられるのは情けねぇな。


「でもまぁ、まだこの通りピンピンだ」


ピョンピョンと跳ねてみることで余裕を見せつける。


こんなところで負けを認めたって何にもなんねぇからな。


このへんの考えは、ちょっとばかし強くなっている気がする。


この世界に来てすぐこのレベルに殴られたら、絶対泣いて謝って逃げ出してたもんな。


かと言って防陣を使う以外の勝ちのビジョンは全く見えないんだよな。


魔法を唱えたところで動き回られたら当てられる気がしないし、ソフィアラみたいな行動阻害系魔法も得意じゃないしな。


そう考えたら、まじで宝の持ち腐れしてんな。


複数の属性を組み合わせた戦い方を考えなくちゃいけない。


それこそオリビアの度肝を抜くような。


どうする……。


「これだけ殴られてもまだやられ足りないのなら仕方ないんだよ。

少々手荒にいくから覚悟するんだよ」


あれ以上に手荒なことって何だよ。


怖すぎんだろ。


「ロード、ライトエッジ」


ブゥゥン、とオリビアの両手に二つに刃が形成される。


ここからは武器解禁かよ。


そんでもって当然のように両手武器。


格闘じゃなくて剣技もできるってか?


勘弁してくれよ。


「ロード、ストーンシールド」


俺も両腕に盾を装備する。


「じゃあ死ぬ前に降参してね。

無理はいけないんだよ」


「ああ、善処するわ。ロード」


迫りくるオリビアを注視しながら、魔法陣にマナを込める。


「入試でやってたやつね。

厄介なことされる前に決めるんだよっと」


飛び上がり、両刃ともに振り下ろすオリビア。


「ディレイマジック」


まずは一つ。


赤色の魔法陣が浮かび上がる。


これは……防御ごと切り裂かれるか。


ギリギリの回避だとマズイ。


俺は大きく飛び退くことでそれを躱す。


「うお、あぶねぇ!」


着地するや否や、オリビアは片方の武器を投擲してきた。


続く二投目もギリギリ盾で弾く。


「ロード、ライトアックス」


オリビアは迫りながら次なる武器を用意してきている。


「なんでもありかよ、くそが!」


ブンブンと斧を振り回すオリビア。


両手で、時には片手で器用に武器を扱い、蹴りなどの直接攻撃も欠かさない。


俺はマナを込めてディレイマジックを唱えつつ避けるので精一杯だ。


武器攻撃には何とか対応できているが、間に挟まれる突き蹴りにはどうしても反応が遅れてしまいダメージが蓄積する。


「どうすりゃいいってんだよ!」


「諦めることをオススメするんだ……よ!」


俺が回避でバランスを崩したタイミングを狙ってまたもや武器を投擲してくる。


これには防陣で対処せざるを得ない。


俺に触れた斧は運動エネルギーを失い、落下して消滅する。


「リリース!」


俺も武器を放るタイミングを見計らって一つを解放した。


「きゃっ!?」


今回は大振りで扱う武器だったためか動作が大きく、俺の攻撃がようやくクリーンヒットした。


だがうまく逸らしたのか、あまりダメージがあるように思えない。


受けたオリビアの腕が軽く火傷している程度だ。


やはり相手もプロテクションやら防御系の魔法を使っているためか効果が薄い。


ケチってたらダメだな。


「ロード!」


「まったくやりづらいったらありゃしないんだよ。

早く降参してくれると助かるんだけど」


「そりゃ無理な相談だ。

ディレイマジック」


「また……」


またオリビアの不機嫌さが増す。


ディレイマジックはお嫌いなようだ。


ま、当然か。


いつ飛んでくるか分かんないんだもんな。


なるほど、相手に警戒させて行動を封じる意味でもディレイマジックは効果的だな。


なかなかに学べることが多い。


オリビアは武器を出す前と違って、明かに回避できるような状態を維持しつつ攻めてきてるもんな。


それにより魔法を使う時間も増えてきている。


じゃあ今度はこっちから攻めるか。


意表を突いてオリビアに向けて駆け出す。


「ッ上等なんだよ」


「ほっ、はっ、てい!」


先ほどまでのオリビアの動きを、見よう見まねで、かつ俺にできる範囲で叩き込む。


俺の蹴りも突きも、オリビアの掌底で確実に弾かれる。


それでも攻撃を出し続ける。


反撃も飛んでくるが、いくら処理されようともそれだけでオリビアの攻撃頻度を下げることに成功している。


そんでもって。


蹴りに使った脚を縮め、豪快に蹴り出す準備動作を見せつつ。


バッ、と前方への防御を固めるオリビア。


蹴る、と見せかけて。


「リリース!」


蹴りのフェイントはジュリもやってたからな。


今度は地属性だ。


防御の上からでもかなり効くはず。


迫りくる岩石に避けられないと悟ったのか、オリビアはそのままの体勢で受ける。


それでも受け切れず、大きく吹き飛ぶ結果となった。


「ロード」


備えは増やしておくに越したことはない。


ゴロゴロと転がったオリビアだが、すぐに立ち上がった。


まぁそんなもんで倒せるとは思っちゃいない。


腕を押さえながらのオリビアだったが、両掌をグーパーグーパーして動きを確かめ、そしてそれらを固く握りしめた。


まじかよ、まだ使えるのか。


オリビアもなかなかタフだな。


「もう少し簡単に行くと思ったから予想外なんだよ。

こんな痛い思いをするならもっと初めからちゃんとすべきだったんだよ。

ロード、ライトエッジ」


間髪入れずに振りかぶるオリビア。


思わず盾で受けたが、それは容易に砕かれた。


そのままの勢いで俺の腕に傷跡を刻む。


「ってぇ!」


そこに襲いくる第二撃。


横薙ぎの一閃は俺の服を真一文字に裂く形で振るわれた。


「ロード、ライトキューブ。ったぁ!」


オリビアは光の立方体を作り出すと、それを俺めがけて蹴り出した。


これも俺はギリギリで──躱す。


「ニードル フォーム!」


その声が聞こえた時、間違えたんだと思った。


俺は確実に避けたと思ったが、甘かった。


考えれば分かることだ。


意味もなくこんなものを蹴り出す訳がない。


そう思った時にはすでに手遅れ。


俺の脇腹スレスレを通り抜けようとしたソレから、ウニが如く無数の針が飛び出した。


それらは容易に俺の肉を貫く。


「がぁああ!」


あまりの痛みに叫びつつ、俺はもんどり打って倒れた。


突然襲い掛かった激しい痛み。


俺はそれに全神経を持っていかれ、今が勝負の最中だということを思わず忘れる。


それを思い出したのは、俺の上に影が覆いかぶさった時。


地面に転がった俺に向けて武器を振りかぶっているオリビアの姿。


それを見て何とか回避に動こうとするが、動くことにより生じた痛みが俺の行動を制限する。


ザクリ。


とても嫌な音がした。


それに伴って訪れる、肩の熱と痛み。


「が、あああああああああ!」


痛みにのたうち回る。


痛み以外の感情なんて湧いてこない。


あるのは、この痛みから逃れたい、その一心のみ。


肩から、脇から、激しく血が吹き出す。


やばい、死ぬ。


そう直感した。


「オリビア、やりすぎだ。

もう勝負はついただろう」


皆が固唾を飲んで見守るなか、ガルドの声がオリビアに刺さる。


「まだなんだよ。

クロは降参してないから、まだ次があるはずなんだよ」


「クロの怪我をよく見ろ。

明かに勝負はついてるだろう。

だから武装を解け、オリビア」


それは誰の目にも明白だ。


少しずつではあるが、血溜まりが広がっている。


放っておけば致死量の出血も免れない。


しばらくそれを見て、ようやくオリビアが武器を下ろそうとした時、ぬらりとクロが立ち上がった。



            ▽



『いやぁ、それにしてもひどいやられようだな』


は?


誰だよ?


『誰と言われれば、俺はクロとしか言いようがないんだが』


いや、それは俺だろ。


いきなり話しかけてきて意味わかんないこと言ってんなよ。


『じゃあ、こう言い換えるか。

俺はもう一人のお前だ。

これなら区別できるだろ』


もう一人の俺?


俺は多重人格だったのか?


全く意味がわからん。


『まぁ今は、それはどうでもいいだろ。

それよりも問題はボコボコにやられたお前。

選択肢がいっぱいあるのに、まるで使えてないんだよ。

勿体ねぇったらねぇな。

あんな小娘にボコられて情けなくないのか?』


そんなこと言われたって、仕方ねぇだろ。


というか、なんで俺はお前と自然に話してんだ?


『知らねぇよ、そんなこと。

それよりこのままでいいのか?』


そりゃ、よくはねぇけど……。


でもこれが俺の現状だ。


これだけ痛めつけられて、文字通り痛いほど思い知ったよ。


『はぁ、お前もずいぶん強くなったなぁ。

この世界に来た当初からじゃ考えられないくらいの成長だぜ』


そりゃどうも。


ってそれは俺がさっき思ってたことだから、お前は俺の意識そのものってことか?


一体お前は誰なんだよ。


『俺はお前だ。

これはいずれ分かることだが、まぁいいさ。

とりあえず、こんだけボコられてお前、悔しくねぇの?』


悔しくないわけないけど、現場が知れてよかったんじゃねぇの、知らんけど。


『強くなったというより、諦めが早くなっただけなのかもな。

俺が悔しいって思ってるんだから、当然お前も実はめちゃくちゃ悔しいと思ってるはずだ』


はずだ、って言われてもな。


だからどうしたって言うんだ?


『代われ。俺が戦い方を見せてやる』


は?


え、ちょ、何言ってん──



            ▽



「ク、クロ……?」


アルの声がハッキリと聞こえる。


ああこれは、ちゃんと戻ってきたっぽいな。


じゃあやるか。


「ロード、マイナーヒール」


非常にゆっくりとではあるが、オリビアにやられた傷口が塞がっていく。


それに伴い、出血も勢いを減じる。


「ほら、やっぱりまだ戦えるんだよ。

ガルドはそこで見とくといいんだよ」


立ち上がっていたガルドだったが、怪訝な顔をしつつも腰を下ろした。


「ロード」


「チッ、また待機魔法なんだよ。

でも今度こそ降参させるまでやるんだよ」


「ディレイマジック」


緑色の魔法陣が空中に展開固定される。


「ロード、ライトソード」


オリビアの手に光剣が握られる。


「じゃあ行くんだよ」


先ほどまでを遥かに凌駕するスピードで刃が振るわれた。


「ロード、ストーンスキン」


体表を硬化し、光剣の側面を叩きながら攻撃を受け流していく。


ガキンガキンと音を響かせながら、回避できる攻撃は回避し、難しそうなら防陣で止めておく。


攻撃が振るわれるたびに鋭さが増しているのが分かる。


やはり今までは手加減されていたんだろう。


攻撃を受けつつ、次の準備を行なっていく。


「ロード、ヒート ジェネレーター。

ロード、スプラッシュ」


赤い球が上空へ昇り、10メートルほど上がったところで停止して熱を振りまく。


ジワリとした熱気が周囲を包んでいく。


そして周囲に水蒸気も撒いておく。


「急に静かになって不気味なんだよ。

さっさとやられてくれると助かるんだよ!」


ブンッ、と振るわれた横一閃をしゃがんで躱す。


と同時にオリビアのその腕を下から掴み、力任せに上に放り投げる。


「えっ?」


「リリース」


そして宙で無防備なオリビアの腹の中心に、待機させてあった魔法をぶっ放す。


「攻撃を当てるなら、まずは相手の動きを止めるところからだ。

お前はいい目を持っているんだから、もう少し細かいところに目をやるべきだ。

そしてこのディレイマジックは、いつどこからでもコンボに繋げることができるいい魔法だ。

相手の警戒も誘えて、一石二鳥ってわけだ」


俺は誰とも知れない者に向けて講釈を垂れる。


待機させていた魔法──初めてのガルドとの戦闘で使ったバーストエアが激しい音を立てて炸裂する。


「バーストウィンドと比べると殺傷力に乏しいこの魔法だが、その分相手を吹き飛ばす威力は一級品だ。

空中を高速でぶっ飛ばされて、まともに体勢を立て直せる者は少ない。

ロード、ストーンウォール」


オリビアの吹き飛ぶ進行方向、その途中に石壁を作り出す。


「ぎぃ!?」


オリビアは石壁に激しく衝突し、砕けた石の破片が撒き散らされる。


それらとともにオリビアは地面に崩れ落ちた。


「そこに回避しきれない障害物を設置する。

この一連の流れで一つの攻撃だ。

何も一つの攻撃で相手を圧倒する必要はない。

2手3手でダメージを与えることができれば上々だ」


どこからどう見ても大ダメージは免れない攻撃だったが、オリビアはガクガクとした状態でもなんとか立ち上がった。


「案外タフなんだな。

素直に驚きだ」


「チッ、痛すぎなんだよ……。

一方的にやれると思ったのに……とんだ計算違いだったんだよ」


オリビアはなんとか立っているが、痛みにはそれほど耐性がないと見える。


「続けるか?」


「当然、なんだよ……」


「そうか、なら途中で根を上げるなよ。

ロード、クール ジェネレーター」


今度は青い球を上空に設置する。


ジリジリとした暑さが、一転ひんやりとした冷気に変わる。


それと同時に周囲に霧が立ち込め、俺とオリビアを含んだ空間の視界が途端に悪くなった。


「何を──ぎゃっ!」


「簡単な科学の実験だ」


俺は霧が出た瞬間に密かにオリビアに詰め寄っていた。


そして何かを言いかけたオリビアの背後から殴りつけた。


オリビアは衝撃で転がったがすぐに起き上がろうとしているのが見えたので、視界に入らない程度の距離にサッと身を隠す。


オリビアはこちらを正確に捕捉し切れてはいない。


対して俺はオリビアの動きが手にとるように分かる。


スプラッシュで拡散した水蒸気には大量のマナを込めていた。


今はそれらがこの霧の中を拡散しているため、そのマナを通じてオリビアに触れることなく動きを把握することができる。


「霧の発生も、その中での相手の捕捉も、ソフィアラがやっていたことを少し応用しただけに過ぎない。

だがこれだけでも相手を簡単に翻弄することができる」


「さっきから何を言っているんだ──がっ!?」


「油断している相手の呼吸器にマナを送り込むなんて造作も無い。

これはソフィアラが入試でアル相手にやっていたことだな。

やりすぎると死ぬし、これで勘弁してやるか。

ロード、コンバージェンス」


空間に充溢していた水分が全て俺の手元に集まり、霧が姿を消す。


残っているのは立っている俺と、倒れ伏したオリビア。


そのまま俺はオリビアに近づいていく。


そして集めた水分をバシャリとオリビアの顔面に投げつけた。


「ぅ……冷たいんだよ……。

女の子相手に色々ひどいと思うんだよ」


「よく見ろ、俺の方が散々ひどい目に遭ってる。

でも、今回は俺の勝ちだ。

もっとも、お前が手加減してなかったら最初の打ち合いだけでもやられてたけどな」


「そりゃ当然なんだよ。

あれは私自身の力じゃないし、悔しいけど魔法を使ったらやっぱりクロの方が上なんだよ」


「そうかよ。

ただまあ、今回の戦闘はコイツにもいい経験になっただろう」


「コイツ?」


「気にすんな。

ほら、手を出しな。

立てるだろ?」


「ふん、自分で立てるんだよ」


オリビアはやや苦労しながらも一人で立ち上がった。


「また頼むぜ」


「今度はこうはいかないから覚悟しておくんだよ」


そう言うと、さっさとガルドたちの元に進んでいってしまった。


「そろそろ時間切れか。

お前が今まで見てきたものだけでも使えるものは無数にあった。

今後はもっと応用力を利かせていくんだな」


フッと一瞬力が抜けて、すぐに力が戻る。


「くそ、誰なんだ畜生……。

勝手に身体を使いやがって。

いずれ分かるとか言ってたが、不気味でならねぇな」


「クロ、心配したぞ。

怪我は大丈夫なのか?」


「怪我って、ああ、オリビアに斬られた──って痛てぇ!」


「なんだ、治ったわけじゃなかったのか」


「くっそ痛てぇ、オリビアこのやろう……」


オリビアはツーンと横を向いてしまっている。


「拗ねてるオリビアも珍しいな!」


アルはツンツンとオリビアのほっぺたをつついてからかっている。


「おいおい、あんまりやるとあれだぞ」


「オリビア、負けて今どんな気持ちなん──ぐふぅ!」


オリビアの拳が深々とアルお腹に突き刺さる。


「ほら言わんこっちゃない」


「クロの子供を宿さないといけないんだからお腹はやめろよな!」


お腹以外ならいいのかよ。


「またはしたないこと言ってるんだよ……」


「オリビアは負けて落ち込んでるから、今回は許してやるぜ」


「次は絶対にアルをぶっ飛ばすんだよ。

クロなんかよりボコボコにするから覚悟しとくんだよ」


不貞腐れているオリビアも珍しくて可愛いな。


「とりあえず医務室行ってくるわ」


「なんだ、今からガルドとやるのに見てくれないのか?」


「すぐ戻るから、適当に始めておいてくれ。

それともなんだ、俺が行ったらすぐやられて試合終わっちゃうから見とけとでも言うのか?」


「そんなわけないだろ!

すぐ終わるとしたらうちが一瞬でガルドを沈めた時だけだ!」


「言うじゃないか、アル。

いい戦いを2つも見せられて俺も昂っているからな、手加減など無しで本気で殴り合おうじゃないか」


ガルドは立ち上がり、柔軟をしながらアルに言い放つ。


「おう、上等だぜ!

じゃあクロ、さっさと治療終えて戻ってきてくれよな」


「ああ、行ってくるわ。

オリビアはいいのか?」


「チッ、私も背中が痛すぎるから一緒に行くんだよ」


「いつまでも拗ねてんなよ」


「拗ねてないんだよ!」


またさっさと歩き去ってしまった。


ああ言うところはまだまだ子供だな。


ただオリビア勝てたのは、あの謎の男のお陰だ。


御丁寧に解説までしてくれちゃって。


ほんと誰なんだよ。


            ▽



「また嫌なのが来たわね」


「ランゼ先生、第一声からひでぇ!」


「あら、クロさんも来ましたの」


「おう、結構やられたからな。

オリビアは来てるか?」


「あちらのベッドで横になってますわ。

詳しくは聞いてませんが、恐らくその様子だとオリビアさんは負けましたのね」


「うるさいんだよ!」


「まぁ、その通りだな」


「また内容を聞かせてくださいまし」


「ああ、全部終わったらみんなで総評だ。

それよりもお嬢様、大丈夫なんですか?」


今はランゼが直接ソフィアラの側腹部に触れて魔法を使っている最中だ。


「ええ、一部炭化したところを熱心にやってもらっているわ。

ちょっと時間が掛かるみたい」


衣服を持ち上げて治療を受けているので、細くて白い綺麗なソフィアラの肌が露出している。


「炭化って、かなりの重症じゃないですか」


「あなたもさっさと傷を見せて!」


「ランゼ先生いつもキレてない?」


「当然でしょ!

ここを使うのはあなたたちばっかりなんだから!

もっと穏やかに学園生活を謳歌してちょうだい!」


「先生こそ、もっと清らかな心で患者に接しないと。

アラマズドに言いつけるぞ」


「そういうことを言うのはやめなさい。

あなたたちの手伝いはするけど、勝手に怪我してきたんだからこれは完全に別物。

ほら、さっさと上を脱いで」


言われた通りに上半身裸になる。


「またひどいやられようね。

……あなた、治癒魔法使った?」


「ああ、ちょっとだけ」


「ダメよ、こんな大きな怪我に軽めの治癒魔法使っちゃ。

まだ効果がそれほど出ていないからいいけど、変に治癒させちゃったら瘢痕化することもあるから、怪我の程度に応じて治癒魔法を変えた方がいいわ」


「それは初耳だ。

また教わりにくるよ」


「そうしなさい。

マリアのとこに行くよりこっちにきた方が賢明よ」


「どんだけ敵視してんだよ……。

というか、ランゼ先生、アルたちの試合見に行きたいから早くしてくれ!」


「あーもう、うるっさいわね!

やってあげるから大人しくなさい。

ロード、ソリッドヒール」


「ぎゃあ、痛てぇ!

そんで雑!」


「当たり前でしょ。

無理やり魔法で再生させてるんだから、そりゃ副作用もあるわよ」


「いぎぎぎ……!

斬られたときより痛てぇよ!」


「しばらくしたら治るから、そのままでいなさい。

こっちの子もまだ終わってないんだから」


ランゼは俺を放置してソフィアラの方へ向き直る。


「ロード、リプレイスメント ヒール」


ランゼの手がホワンと白いオーラに包まれ、それを再びソフィアラの肌に押し当てる。


黒く焦げた部分が赤い肉に置き換わり、そして徐々に白い肌の色へと染まっていく。


「クロ、変な目で見てたら傷口広げるわよ」


「最近辛辣さ加減が増してきてません!?

それに魔法を見てただけで、そんなことはないです」


「そう、ならいいの」


「あなた、女の子には弱いわね」


「周りの女子が強すぎるだけですよ」


その後もしばらく痛みに耐えていると、いつの間にか痛みは引いており、傷口も完全とは言わないまでも綺麗な形を取り戻しつつあった。


頃合いを見て服を着直す。


「先生、助かったよ。

また怪我したら来るから、その時はよろしく!」


「怪我するんじゃないわよ!

あとすぐに動かしたらダメだから気をつけなさい。

変な治り方したら手術するからね」


「それは嫌だから気を付けます。

お嬢様はまだ掛かる感じです?」


「この子のは時間かけて魔法を掛けないとダメな傷だから、まだ終わりそうにないわ。

行きたいところがあるんでしょ、さっさと行ってきなさい」


「ありがとう先生。

ジュリとオリビアまだここにいるのか?」


「わたくしはソフィさんに付き添ってますわ」


「私はしばらくゴロゴロしてるんだよ。

クロはさっさと試合見に行けばいいんだよ」


「そうか、了解した。

じゃあまた後でな」


「ええ、また」


俺は急ぎ足で演習場へと向かう。


「お、やってるやってる」


現場に到着すると、アルとガルドがバチバチに近接戦闘を繰り返していた。


ぱっと見、アルの方に余裕があるように感じる。


ジュリエットと他数名がいたので、そこで見るとしよう。


他のメンツはネル=バルマ=サリンジャー、ラウラ=バルマ=ユピテル。


それと名前を覚えてない男子二人。


ジュリエット以外はほとんど面識がないな。


ジュリエットは色んな生徒と打ち解けて仲良くやっているようだ。


彼らも俺ら同様男女複数で行動してるんだろうか。


「クロくん、大丈夫なの?」


「ああ、治癒魔法かけてもらったから見ての通り元気だぞ」


「そうなんだ、よかった……。

死んじゃうかと思ったんだから」


「そうそう、この子さっきまで泣きそうになってたんだから」


「もう、やめてよ!」


そう言ってきたのはラウラ。


茶髪でベリーショートのこの子も溌剌としてるな。


「ラウラ、あんまりいじめるのは良くないよ。

悪いことは周りまわって自分のところに帰ってくるんだから、そのあたりでやめておきなさい」


黒髪に紫のメッシュが数本入り、腰の辺りまで髪を伸ばした彼女はネル。


いつも本を持って暗そうな印象だったけど、寡黙というわけでも無さそうだ。


「アルとガルドの戦いはずっとあんな感じなのか?

えーっと……」


言いながら俺と目があった彼の名前がパッと出てこない。


「そういえば話したことなかったか。

俺はダンテ、よろしくな。

そして隣はアレクサンドロ」


「よろしくー」


渋い声でお堅いイメージのダンテと、それとは対照的に緩そうなイメージのアレクサンドロ。


ダンテ=バルマ=クイーン、そしてアレクサンドロ=デラ=レイノルズと言うようだ。


女子の名前だけ覚えててすまんな。


「……ああ、試合の事だったか。

彼らの試合は、始まってすぐ近接戦闘が続いているな。

今のところ有効打もそれほどないが、激しい乱打戦は見ていて手に汗握るものがある。

クロカワたちの戦いは全てハイレベルで、見ていて大変参考になる。

今度俺も手合わせ願いたいな」


「おう、大歓迎だ。

ジュリエットたちも男女関係ないから遠慮無く言ってくれよな。

実際にやってみて見えてくるものは多いしな」


「でも、さすがにさっきのクロカワくんみたいに傷だらけになるのは勘弁だけどねぇ」


のんびりとした口調のアレクサンドロの言に、女子たちも頷いている。


「死ななきゃ全ていい経験だと思うけどな。

さ、続きを見るか」


交友関係を広げつつ、2人の戦いを見守る。

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