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Re:connect  作者: ひとやま あてる
第5章 帝国編Ⅱ
68/170

第63話 発端

こんな拙作でも読んでくださっている方々、安定した供給ができなくて大変申し訳なく思います。

そして切りどころが分からず長くなりすぎて、重ねて申し訳ありません。

14000文字は書きすぎた。

深夜、誰もが眠りについているであろう時間。


ガキン、バキンという音とともに檻を閉じる錠前が破壊された。


「ぐっ……!」


「お、おねえちゃん、だいじょうぶ……?」


弟がネイルの顔を覗き込むと、ネイルの魔眼が開かれているのが見えた。


これが開眼したのは今朝早く。


激しい痛みとともにネイルが目を覚ますと、この眼の力により周囲の物を動かせることに気づいたのだった。


錠前の中に面を設定してその上下を逆方向のベクトルへ移動させると、ものの見事に金属の錠前が二つに裂けた。


同様に部屋の外の錠前も破壊する。


「はぁ……はぁ……!

大丈夫よ……ありがとね。

一気に疲れが来ただけだから。

行きましょう」


2人はいつ以来とも分からない監禁部屋からの脱出に成功した。


「……っ!」


廊下に出ると、今まで自分たちがいたのと同じ作りの部屋がずらりと並んでいた。


「お、おねえちゃん、ほかのひとは……」


「今はそんな時じゃ──」


ズズ……。


「何!?」


突如施設全体が振動する。



            ▽



暗闇の中、3人の人間が行動していた。


「ギースたいちょー、ここで間違い無さそうー。

隠してるっぽいけど、野生生物すら入らないようにしてたのがアダになってるねー」


黒い装束を纏った、オレンジ色の髪の小柄な少女がそばに立つ男に声を掛けている。


「ご苦労、アンネ。

タブロ村でお前が捕捉していたのが幸いしたな」


「たまたまだけどねー」


「結界を張ってまで隠れてところを見ると、高位の魔法を使える存在だろう。

俺が結界を破壊したらすぐに戦闘準備に入れるようにしておけ」


「あーい」


「アンネ、隊長にその口の利き方は無いんじゃない?

重宝されてるからって馴れ馴れしいにも程があるわ」


アンネと瓜二つ少女が怒りを含んだ言を飛ばす。


2人の違いは、アンネの方が髪が短く目つきが柔らかいところだろう。


「それを言ったらアンナこそー。

アンネの方が妹だけど階級は上なんだから、現場ではアンネに敬語使いなよー」


「何を馬鹿なこと言ってるの!

私は──」


「2人ともよせ。

今は我々3人だけだ。

他の皆がいるところで控えてくれさえすればそれで良い」


「ギース隊長はアンネに甘すぎます!」


「そう言うな。

お前たちはうちのエースだ。

多少の無礼は気にもしない。

その分しっかり働いてはもらうがな」


「当然です。

アンネ、隊長がこう言っておられるから許すけど、度が過ぎたら殺しちゃうわよ」


「アンナはすぐ怒るー。

そんなんだから彼氏の1人もできたことなんだってー。

一生処女で終えるつもりー?」


「なっ、なんてこと言うの!

男を取っ替え引っ替えのアンネよりマシよ!

謝りなさい!」


「アンナがアンネより手柄立てたら謝ってあげるー。

せいぜい頑張りなよー」


「くっ……いいわ、見てなさい。

今回は凄いの持ってきたんだから」


「帝国に行ってたんでしょー?

強そうなのが居たのー?」


「色々いたんだけど、その中でも教会の巫女がヤバそうなの持ってたからちょっと借りてきたわ。

ギース隊長、私はいつでもいけます」


「アンネも大丈夫だよー」


「こちらの準備も整った。

アンネは結界破壊と同時に内部の構造および潜入経路、構成人数の把握。

アンナはアンネのサーチが完了するまで雑魚がいれば処理してくれ」



            ▽



「む!?」


研究室に籠っていたドクは、小屋の外の結界が破壊されたのを感じ取った。


「面倒ですね……」


バンと扉が開かれてディスクリートが姿を現す。


「何があった?」


「結界が壊されたようです。

どこかで追手が付いたのでしょう。

恐らく何者かが攻め込んでくると予想されますので戦闘準備を。

ワタシは表から出ますので、アナタは裏手から敵の対処をお願いします」


「ああ、久々の戦闘だな」


2人は部屋を出てお互いに逆方向へ進む。


ドクは複数の魔法を唱えながら階段を上がる。


一方ディスクリートは収容施設を抜けて緊急用の出口から敵への対応に当たる。


急いでいたためか、ディスクリートはネイルたちの部屋の扉の錠前が壊れているのにも気づかずに通り過ぎて裏口へ向かっていく。


ネイルたちは扉のすぐ裏側で、息を潜めて隠れていた。


「危なかったわね。

何があったか知らないけど、あいつらは出て行ったみたいだし、直ぐに動くよ」



            ▽



「マナ反応から魔人っぽいのが2人かなー。

手前から1人と、奥から1人動いてるのが分かるねー。

あとは人間が20人とちょっとだねー」


「魔人と人間?

協力しあってるのか?」


「動いてるのは魔人だけだねー。

人間は数人ずつとか1人とかで捕らえられてるっぽいー。

あ、子供が2人動いてるー」


「収容施設ということか。

まずは接近してきている魔人の処理だろうな。

どっちの魔人が面倒になりそうだ?」


「奥の方も結構ヤバそうだけど、近い方は強さが分からないねー。

得体が知れないってこんな感じなのかなー」


「アンネ、これはなかなか面倒なものを踏んだかもな」


「どうするー?」


「俺とアンネで面倒になりそうな手前の方は抑えておく。

アンナは奥の魔人の対処だ。

処理でき次第こちらに合流しろ」


「了解しました。

アンネ、ギース隊長が怪我するようなことがあったら許さないからね」


「分かってるってー。

こっちは気にせず行って来なよー」


「まったく……まぁいいわ。

パパッと消してくるから方角を教えなさい」


「今ぐるっと迂回して来てるみたいだから、あっちの方向に進めば多分ぶつかるはずー。

じゃあアンナ任せたよー」


「行って参ります」


「ああ、気をつけてな」


アンナはアンネに言われた方角に向けて走り出した。


それも束の間、しばらくすると木の葉を踏み締める音が静かに響いた。


何者かが近づいて来ているのは明白だ。


「たいちょー、のこのことやってきたよー」


アンネの指差す先から身なりの良い壮年の男性が姿を現した。


「どちら様ですかね?

こんな僻地に何か御用でも?」


「我々はベリア公国の兵士だ。

たまたま通りがかったところ、おかしな結界を見つけたのでな」


「こんな時間まで働かねばならないとは、職場環境お察ししますよ。

それで、一体どんなご要件で?」


「いやなに、治安維持に協力しようと思ってな」


「治安維持?」


「ああ。

何やらこの辺りに2体の魔人が彷徨いてるようだから、駆除の手伝いをしてやろうという話だ」


「なるほど、分かっていたんですね。

分かっていて近づくとは、何とも哀れとしか言いようがありませんがね」


男の姿がメキメキと人間のそれからかけ離れていく。


「ワタシはドク。

死にゆくアナタたちに名乗っても、仕方のないことかも知れませんが」


「話の早い魔人で助かるよ。

そういえば先日グランドノット家から子供を誘拐した犯人がそのような名前だったな。

恐らくコイツで間違い無いだろう。

アンネ、サポートは任せた」


「あーい」


アンネは変わらず調子だ。


「そこまでナメられると流石のワタシも憤りを感じますね。

その無礼さに敬意を表して、惨たらしく殺して差し上げ──」


「ロード、マーキング ショットー」


3センチほどのピンが放たれたが、ドクは難なくそれを掴み取る。


「んー、やっぱだめかー」


「話している時に攻撃とは……まともな教育を受けて育ったとは思えませんね。

先に女から始末しますか。

それで、こんな脆弱な攻撃に何の意味が?」


ドクはピンを地面に投げ捨てる。


「ロード、リフレクトカース。

ロード、サンクチュアリ」


アンネは前者をギースに、後者を自身に指定して発動した。


「女の方は光属性ですか。

聖域を置かれてるとなると、中々面倒ですね」


「マーキングができれば随分と楽になったんだが、まぁいいだろう。

アンネ、ご苦労」


そう言ってギースはドクに向けてレイピアを構える。


「また物騒なものを持ち出しましたね。

その女以上にアナタも放置できませんね」


禍禍しいオーラを放つそれを、ドクは見逃さない。


「そう時間もかけてられないのでな。

悪いが全力で行かせてもらう」


「時間を掛ければ全力を出さずとも倒せると思われてるとは、相当な自信があるようですね。

さて、それが永続の方だと非常に厄介なのですが……」


ドクとギースの視線が交差する。


急に緊張が場を支配する。


その時間は数秒か、はたまたほんの刹那か。


予備動作もなくギースの攻撃が繰り出された。


それは真っすぐな、悪く言えば単純な一撃。


だが圧倒的な攻撃速度により、それは恐ろしい一撃へと変貌する。


不意を突いた攻撃だったが、ドクには反応できた。


ドクは迷わず回避を選択。


魔剣に対して防御を選択した場合、どんなバッドステータスが降りかかるか分からない。


ドクが首を捻ると、先ほどまでドクの頭があった場所をレイピアが通過した。


風を裂きながら通り過ぎるそれを横目に、ドクはカウンターを狙う。


「避けられないほどでもないですね。

ロード、ダークス──何!?」


ブシィッ、と攻撃の当たっているはずのないドクの胴体が切り裂かれた。


ドクが驚いているのも束の間、次の攻撃が迫る。


「何が、起こって、いる!」


その後もギースは手を休めず、ヒュンヒュンと攻撃を繰り返している。


その全てがドクを捕らえることは無かったが、それでもギースが攻撃を振るうたびにドクの身体が傷を増やしていく。


「ロード、ダークバースト!」


近接は不利だと悟ったドクは、距離をとる意味でも魔法を炸裂させた。


ドクを中心に黒い波動が拡がる。


「そいつは効かないぞ」


ギースは迫る波動に向けてレイピアを無造作に振るう。


ドクの魔法は、ギースのレイピアに触れると一瞬で霧散した。


ブシィッ──


現在は距離があるにも関わらず、またもやドクの身体が傷を一つ増やした。


「なるほど」


傷ついた部分を見て、ドクは何かに気付いたように頷いた。


「そういうカラクリですか。

人間にしては良く考えますね」


ドクの全身からは黒い体液が至るところから漏れ続けている。


「今までのやり取りだけで気づかれたのか?

まぁ気づいたとしても手遅れだと思うがな。

どうだ、もう降参したらどうだ?

投降すれば命は保証してやる。

ただ死ぬまで監禁されることになるとは思うがな」


「そのような生に何の意味があるんでしょうかね。

そうなるくらいなら、醜くも足掻いた方がマシというものですよ」


「ではお前はこのまま全身に傷を増やしながら朽ちていくことになってしまうな。

非常に残念だよ。

最後にこのカラクリに対するお前の考察を聴こうか」


「もう勝った気でいるんですか。

まぁいいでしょう、ネタバレして差し上げますよ。

まずその魔剣は魔法を無効化する力を持った一時的代償魔剣だ。

そしてその魔剣でワタシを狙った場合やワタシの攻撃に対処した場合、呪いがアナタを傷つける。

ですがその女の魔法により、アナタに降りかかる呪いは他の誰かになすり付けられることになる。

その対象は恐らく一定範囲内の誰かということになるんでしょうが、聖域に身を隠しているその女には届かない。

そうなるとその対象はワタシしかいないということになりますね。

まったく、我々よりアナタたちの方が恐ろしいことをしてるんじゃないですか?

それを完成させるまでに多くの犠牲があったはずですよ」


「まさか全て見抜かれているとはな。

なかなかの洞察力、いや観察力だ」


「ここまでのやり取りで一つ感謝するとすれば、魔剣の呪いが闇属性に属しているということが分かったことですね。

これからの実験でますます出来ることが多くなりますね」


「こっちが圧倒的優位ということにまだ気付いてないのか?

しかしその能力を買って、お前が投降して人間に敵対しないということなら俺の部下にしてやってもいいぞ」


「何言ってんの、たいちょー?」


「優秀であれば生まれや育ち、種族も何も関係ないぞ。

様々な物事の発展を最も害しているのは人間の持つ偏見だ。

上の人間には届かない言葉だがな」


「なかなか崇高な考えを持つ人間もいたものですね。

アナタたちこそ、ここで負けを認めてワタシの手駒になるなら命を助けてあげてもいいですよ。

どうしますか?」


「この期に及んで何を言っているんだ。

この状況を理解していないのか?

それとも気でも触れたか?」


「アナタこそ理解が足りないようですね。

ワタシがその武器のカラクリに、状況に理解が及んだということは──」


ギースはドクの行動を予知して即座に武器を構えた。


「──対応できるということですよ!

ロード、ダークテリトリー」


ドクの足元からズブズブと暗闇が溢れ始めた。


それは凄まじい勢いで周囲へ広がっていく。


ギースは後方へ飛び退くが、それを上回る速度でギースの足元を闇が通り過ぎた。


そのまま闇の上に着地すると、ギースは自身に掛けられていた様々な魔法の一部が失われたことを知覚した。


すぐ後方を見やると、闇は離れているアンネの場所までも覆い尽くそうとしていた。


「ロード、サンクチュアリ!」


アンネは即座に異変を感じ取ると、ギースの足元に聖域を設置し、さらに自身の聖域にも重ね掛けを行った。


闇は聖域のある区域を避けて拡がり、辺り一面の地面の色を黒く染めている。


その中に白い光を放つ二つのスポットが際立つ。


「アンネ、俺に掛かっていた支援魔法が解除された!

この闇の中では光属性の支援魔法はマズい。

自己強化魔法を切らさないようにしておけ」


ギースは警戒を絶やさずドクの動向を窺う。


「おや、ダークテリトリーから脱出しなくて良いのですか?」


「安い挑発だな。

ここはもうお前の支配下だ、闇に触れたら何をされるかわからない」


「ではその狭い空間の中で踊り狂って死んでいくと良いですよ。

ロード、ダークスフィア」


ドクの頭上に黒い球体が形成されていく。


更に周囲の闇までもがそこに殺到し、数メートルは優に下らない大きさにまで成長している。


「魔法と言えど完璧なものはないですよ。

さて、どれくらい耐えられますかね?」


ドクの言葉に合わせて次々と魔弾が降り注ぎ始めた。


その攻撃は離れたアンネにも向けられている。


聖域の光に触れるとそれらはバシャリと砕け散るが、ドクの作り出したダークスフィアは絶えず周囲の闇を吸収しており、ギースにはこの攻撃が止むとは到底思えなかった。


「くそ、ここだとリソースは無限に等しい。

アンネ、どれくらい保ちそうだ!?」


「このままの勢いだとこっちのマナが枯れそうー」


先ほどからアンネが二人の聖域に重ね掛けを行っているが、ジリ貧なことは間違い無いだろう。


さらには先ほどギースが闇に触れた際に呪い反射の魔法も解除されてしまったため、魔剣で応対することも難しい。


もしそれを付与しても、闇に触れればたちまちに解除されてしまうことは明白だ。


地面に触れずに攻撃するのが最も効果的であろうが、そのためには聖域を様々な位置に設置する必要性が生まれてくる。


アンネにそのことを口頭で伝えても良いが、気取られるのはマズい。


そして足場の限られたギースと自由に動けるドク。


どちらが有利かは火を見るよりも明らかだ。


「グッ!?」


突如、ギースの脇腹を激しい痛みが襲う。


見るとそこには、石礫が深々と突き刺さっていた。


「たいちょー!」


「悠長に構えていてはダメじゃないですか?

こっそりストーンバレットを唱えていたんですよ。

ワタシの足元は闇に覆われて見えなかったかもしれませんがね」


ドクの口調にはどこか楽しさが感じられ、ギースは痛みとともに焦りを感じる。


ギースもアンネも腰から短剣を取り出し、物理攻撃にも対応できる構えを取る。


「ロード、ストーンバレット」


ギースは自身に向けられた礫を難なく叩き割る。


「やはり対闇属性に特化した聖域でしたね。

ここからはストーンバレットも織り交ぜていきますよ。

物理方面に耐えられるように性質を変えた方がいいんじゃないですか?」


「そうすれば今なお降り注いでいるこの魔弾を防げなくなるだろう……」


「これ以上痛い目に遭う前に負けを認めては?

悪いようにはしません。

アナタたちの能力はワタシが十分に活用して差し上げますよ」


「生憎だが、魔族側に付く気はない、な。

くそ、仕方がない……」


話しながらもギースは飛来する礫を叩き落とす。


痛みを感じながらギースは覚悟を決める。


「アンネ、判断は任せる」


言うと同時にギースはドクに向けて飛び出した。


「単身特攻ですか。

あまりオススメできませんね、それは。

ロード、シャドウ ランス」


ドクはギースの次の着地点を予測し、そこの闇に意識を向ける。


テリトリー内に入って仕舞えば、どうとでもできると言うものだ。


ズズ……。


ギースの進行先の闇が蠢く。


ドクはギースを串刺しにすべく、闇の中から複数の槍を作り出した。


それを見てもギースの表情は変わらない。


「肉を切らせて、というやつですか」


飛び出したギースはそのまま身体中を槍に貫かれ、身動きができなくなる。


そうドクは確信した。


槍の先端とギースの身体が接近する。


次は女の方だな、とドクはアンネの方に視線を向ける。


そうしてドクがアンネに向けて動き出そうとすると、突如槍が掻き消えた。


「何っ!?」


槍の生え出した範囲はアンネの聖域により上書きされ、白いサークルを残すだけとなった。


「くっ!」


ドクは急ぎ次なる槍を用意するが、思考を読まれたかのようにそこに聖域が覆い被さる。


ギースは聖域を飛び地にして、留まることなくドクに接近する。


降り注ぐ魔弾もギースを捉えるには至らない。


すでにギースは飛び上がり、魔剣を上段から突き下ろそうとしている。


「くたばりやがれ!」


「ロード、リフレクトカース」


そこにアンネの魔法がギースに付与された。


これでギースは再度闇に触れない限り、呪いを押し付ける効果が維持されることとなった。


「やはり1番厄介なのはっ──あの女!」


ドクは今回のギースの攻撃も転がることでなんとか回避することに成功した。


が、やはりドクの身体に傷が刻まれる。


迫るギースをなんとか振り切って、ドクは先にアンネを始末しようと標的を変更した。


ドクの背後では、大振りで着地したギースが次なる攻撃に向けて動き出そうとしている。


「まずは動けないあの女から死んでいただく!

多少の代償は致し方無い」


しのごの言ってられなくなったドクは懐に腕を突っ込み、そこから魔剣を取り出した。


そしてアンネに向けてドクは走り出した。


意味はないと分かりつつも、背後の闇を操作してギースにも攻撃をし続ける。


しかしその悉くが、新しく発生した聖域により消滅する。


背後の男は非常に鬱陶しいが、女さえ始末して仕舞えば処理は容易だ。


ドクはそう考え上での行動だったが、そこに誤算が生じた。


動けないと思っていたはずのアンネが動き出したのだ。


それも移動に合わせて聖域を伴いながら。


「あの女、自身の聖域は移動可能なのか!」


「ロード、フォトンブラストー」


焦ったドクに向けてアンネからの光弾が飛来する。


ドクは勢いを殺せないまま、光弾をモロに受けてしまう。


「グッ!」


ドクが衝撃で仰け反ったところに、ギースの一閃。


「しまっ──」


ドクは手に持った魔剣で応戦しようと横薙ぎにそれを振るったが、ギースの一突きがドクの右手を正確に捉えた。


魔剣を握ったドクの手首より先が無惨に引き千切られ、宙を舞う。


そして呪いの反射を受けて、さらに追加でドクの身体に傷が刻まれる。


そこに見知った男の声が遠くから響いた。


「こっちは失敗だ、撤退する!

あとはアンタに任せる!」


ディスクリートの声だ。


「あちらはダメでしたか。

そして……こちらも分が悪い」


次々に迫るギースとアンネの攻撃を回避しながら、ドクは思考を巡らせる。


ドクが動けば動くほどにアンネが設置する聖域は数を増し、ギースの行動できる範囲にも自由度が増してきている。


「アンネ、マナはまだいけそうか?」


「マナポがぶ飲みだから、まだまだいけそうー」


「チッ、時間を掛ければ不利なのはこちらの方ですか」


言っている間にもドクの身体の傷も増えている。


身体を色々といじっているドクにとって外傷はさほどのことでもないが、先ほどのような部位欠損は回復に時間がかかるため、迂闊に接近しての戦闘は避けるべきと感じている。


しかしそうすると攻め手に欠ける。


どうすべきか悩んでいると、そこに追い討ちのように新たな声が響いた。


「アンネ、私さっき言ったよね?

ギース隊長に怪我させるな、って」


「これはやむなしー」


怒りを湛えた少女がドクの視界に入ってきた。


「うーむ、ここで新手ですか。

ディスクリートを下したのはこの女ですかね……」


「ギース隊長、あとは私がやるので傷を癒していてください。

それにそれ以上やると私に呪いが飛んで来ちゃいますから」


その言葉を受けて、ギースは即座にドクから距離を取り、アンネの元に向かう。


そしてそれと入れ替わる形でアンナがドクに迫る。


「アンネ、あの球体邪魔だから消しといて!」


「りょうかいー。

ロード、フォトンブラストー」


今までギースたちに魔弾を降らせ続けていた上空の球体は光弾によって貫かれるが、すぐに周囲の闇を吸収しながら元に戻ろうとしている。


「だめっぽいー」


「チッ、この領域をなんとかしないとダメか」


アンナは視線をドクに戻す。


アンナは聖域を踏むこともせず、まっすぐにドクに向かってきている。


どういうことだとドクは怪訝に思いつつも、こに少女はダークテリトリーを理解していないのだと判断し、闇を動かしてアンナを貫く準備に入る。


アンナの周囲360°全方位から槍が殺到する。


「あー鬱陶しい」


アンナは槍の動きを見て足を止めると、足元の闇に右手を叩きつけた。


「こいつは私がいただく」


アンナの身体が一瞬だけ金色に発光した。


すると今にもアンナを刺し殺そうとしていた無数の槍が、触れることなくピタリと動きを止める。


バリンと周囲の槍が全て粉々に砕け、ドクが驚く間も無くアンナは魔法を唱えた。


アンナがドクを指差す。


「ロード、ジェノサイド」


ボグゥ、とアンナの指差す先──ドクの右肩と右下顔面が消し飛んだ。


「チッ、少しズレたか。

まあいいわ、次!」


「な……何、が……」


突然起きた出来事に理解が及ばず、ドクはバランスを失って倒れ込む。


さらにアンナは続ける。


「ロード、ヴォイド スペース」


ドクの周囲を高濃度のマナが取り囲む。


空間の二点が黒く光ると、そこから立方体を形成するようにそれぞれから三方向に線が伸びる。


「まずっ──」


ドクは残った左腕と脚を使ってその空間からの回避を急ぐ。


ズ……ン……。


線が繋がり、立方体が完成。


しかしドクの回避も虚しく、アンナの魔法発動領域から脱出しきれなかった下半身が消滅した。


先ほどのジェノサイドとは異なり、文字通りの消滅。


ヴォイドスペース内に存在していた、地面を含めたあらゆる粒子やマナに至るまで、全てがこの世から消え失せた。


部分的に真空が生じたことにより、そこに風が流れ込む。


「その力は……一体……!」


「支配権奪われてるんだから分かるでしょ?」


「何を……」


「私の方が強いっつってんのよ。

さあ、あなたもこれでお仕舞いよ。

消えなさい。

ロード、ヴォイド スペース」


前回よりも圧倒的広範囲にマナが充溢。


「今回は、負けということで。

また会うことがあれば……こうはいきませんよ……」


ドクは新たな魔剣を取り出すと、それを自身に突き立てた。


それとほぼ同時にアンナの魔法も完成する。


魔法の後には、ドクのいた痕跡などは何も残らなかった。


「ギリギリで逃げたわね。

まぁいいわ、とりあえず勝ちってことで。

ギース隊長、片付きました」


アンナはパッと笑顔で後ろを振り返る。


「ああ、ご苦労だった。

奴は逃げたのか?」


「恐らくは。

アンネ、どうなの?」


「この周囲に魔人反応はなしー」


「じゃあ仕事の大半は終わったってことね。

ギース隊長、お怪我は大丈夫ですか?」


見たところギースの脇腹はすでにほとんどが癒えかかっている。


アンネが回復魔法を使用したのだろう。


「アンネ、約束は約束よ。

魔人は私が2体とも倒したし、働きとしてはあなたより上じゃないかしら?

それにアンネはギース隊長を傷つけない約束を破ってるわよ」


「はいはい、ごめんなさいでしたー。

これでいいー?」


「ナメてるの?

このままヴォイドスペースで消してしまおうかしら──って、チッ、もう終わりなの」


「その辺にしておけ。

まだ仕事は終わっちゃいない。

二人とも本当によくやった。

俺一人じゃどうにもならなかっただろうからな、大助かりだ」


「何を言いますか!

私たちは隊長がいたからこそここまで……!」


「まぁこの話の続きは後でいいだろう。

それにしてもアンナ、今回はいつにも増して強力なものを引っ張ってきたな。

教会の巫女だったか?」


「はい。

彼女の固有魔法で、武器でも魔法でも、触れたあらゆるものに最適化します。

というより、それを最大限に扱える存在を憑依させるという感じでしょうか」


「となると、闇属性のエキスパートを呼んできたってことか。

誰なんだ?」


「デイトナ=オリバーンです」


「デイ──ってそんな過去の存在まで引っ張り出せるのか」


「さすがに意識までは持って行かれないので問題ないですよ。

ギース隊長、教会の巫女をうちの部隊に引き込めませんかね?

あの固有魔法があれば負け無しだと思うんですけど」


「そもそも公国は帝国の傘下だから、さすがに無理だろうな」


「そうですか、じゃあまた頃合いを見て借りに行くとします」


「あれほど強力なのだ、無理もない。

ひとまず二人とも、救出に向かうぞ。

準備はできているな?」


「はい」


「あーい」



            ▽



ギースたちの捜索により、ドクと名乗る魔人の研究所の全容が明らかになった。


そこでは非道な実験が行われた痕跡があり、捕まっていた人々の証言からも、巷を騒がせている誘拐のほとんどにドクが関わっていることが分かった。


これによりドクは大々的に指名手配されることとなった。


非道な実験もさることながら、それ以上に様々に有用な魔法も数多く残されていた。


標準な人間の思考では到底考え付かないような魔法も。


しかし重要な資料の大半は持ち出された形跡があり、ドクを追う手がかりになるものは何も残されていなかった。


結局最後の最後にはドクを捕らえることができておらず、いいように遊ばれただけなのかもしれない。


それでも、ドクに捕まっていた人々は救い出された。


救い出された彼らのホッとした表情こそ、守るべきものだろう。


その後も捜索が続いているが、何ら足取りは掴めていない。


「結局、子供二人は見つからなかったねー」


「多分私たちが戦闘している間に逃げ出したのよ。

どこかで上手くやってるはずよ」


「そう祈るばかりだな。

そういえばアンナ、彼氏ができたそうじゃないか」


「な、なんで知って……」


「アンネの情報力を侮っちゃだめだよー」


「あんた、まさか魔法を使って──というか、なんで隊長に教えてんのよ!」


「気をつけておかないと、ヒステリー女はすぐ捨てられちゃうよー。

誰がどこで見ているか分からないんだからー」


「う、煩いわね!

というか見てるのはあんたでしょうが!

今度魔法を使ったら、教会の巫女に固有魔法借りに行って殺してやるわ。

いいこと?」


「はいはい、分かってるってー。

というか帝国に行けるのは職務の範疇だからであって、公私混同はいけないんだよー。

そんなんだから出世しないのさー」


「あんたねぇ!」


「お前たち、喧嘩するのはいいが殺し合いは認めんぞ。

まだまだやるべき事は山積しているのだからな。

行くぞ!」


「はい」


「あーい」


彼らは再び歩き始める。


今なお救いを求め続けている誰かのために。



            ▽



ベリア公国内にて、とある閑散とした館の中を歩くディスクリート。


本来であれば多数の使用人が忙しく動き回り活気があるはずのこの場も、今や魔灯燈も点灯せず、埃が散逸したままになっている。


さらに割れた窓ガラスから入り込んだ木の葉や昆虫などが、誰もいなくなった部屋部屋を荒らす。


ここは、落ちぶれてしまった貴族の館。


もはや使用人を雇い続けられないほどに疲弊した財政事情から、次々と人数は減っていき、ついに家族のみが暮らすだけとなった。


家族数人で暮らすのはあまりにも広く、館はもはや無用の長物と化してしまっている。


「あーあ、最後の仕事が失敗で終わるとはツイてねぇよなぁ。

でもまぁ、これでようやく独り立ちだ。

好きなことができるわけだ。

しっかし最後に戦ったあの女、あれは強かった。

またあれくらいの奴と戦いたいもんだ──っと、ここか。

邪魔するぜ」


ディスクリートは無造作に扉を開け放つ。


「だ、誰だ貴様は!

こんなところに何か用かね!?」


見ると、暗い室内で男が何やら魔法陣を描いている最中だった。


その側には子供を抱えた女が一人。


恐らくここの家族三人だろう。


母親と子供は怯えた目でディスクリートを見つめている。


「俺はディスクリートってンだ、よろしくな。

それよりその魔法陣、命を犠牲にして何か欲しいモンでもあンのか?」


「き、貴様、この魔法陣が読めるのか!?」


「まぁ、前の職場で色々見てきたからある程度はな。

で、どうなんだ?」


「どうせ死を待つだけの身だ、教えてやろう。

貴様が誰であろうと、もはや関係ないしな……」


「死に急ぐほどのモンなのか?

命は大切にした方がいいぞ。

死ぬくらいなら醜くも足掻いた方がマシだと思うぞ。

ま、これは他人の受け売りだがな」


「貴様に何が分かる?

もはやこの家の信用は地に落ちた。

あとは爵位を剥奪されてお家取り潰し。

このまま平民に落ちるのを待つ身だ。

そうなるくらいなら死んだ方がマシだというものだ。

貴様のような家名もない平民には到底理解できないだろうがな」


「おいおい、落ち着けよ。

生きてりゃいつかいいことがあるはずだぞ?」


「常に何かに期待して生きる貴様ら平民には理解不能な感情だろうさ。

私たちは平民に落ちるくらいなら死を選ぶ。

しかし死ぬ前に、この状況に陥れた連中に一撃を入れようとしていたのがこの魔法陣だ」


「命を犠牲にできる勇気があるなら、もっとできる事は多いと思うがな」


「できることは散々やった。

だが、その結果が今だ。

さぁもういいだろう、私たちのことは放って置いてくれ。

貴様には関係のない世界の話だ。

近いうちに私たちと共に誰かが死ぬというだけのことだ」


「俺ならアンタらのことを何とかできると言ったら、信じるか?」


「何が言いたい?」


「なに、俺がここに来たのは偶然じゃない。

俺のお願いを聞いてくれたら、この状況を何とかしてやる」


「……そ、それは本当か?」


「信じるのか?」


「今や神でも悪魔にでも、何でも縋りたい気分だ。

それにこの魔法陣を読めるということは貴様、まともな人間ではあるまい」


「ま、遠からずって感じだな。

で、どうするんだ?

乗るか、それとも降りるか」


「いいだろう、乗ってやる。

それで、私たちは何をすればいい?」


「話が早くて助かる。

まずは俺の正体だが、これを聞いた上でやめても構わねぇからな」


「裏の人間、ということか?」


「いや、俺はお前たち人間が大っ嫌いな──魔人ってやつだ」


「魔人……!」


それを聞いて、母親と子供から伝わる怯えが増す。


「なンだ、逃げ出すかと思ったが、そうでも無いんだな」


「殺すつもりならすでにやっているだろう。

それに貴様がここにやってきたのは、私たちに利用価値を見出したということだ。

私が先ほど話した内容も、粗方知っていたんだろう?」


「そうだな。

ま、早い話そういうこった。

じゃあ、乗るってことでいいンだな?」


「それに応える前に、貴様が私たちに出せるメリットを提示しろ。

まずはそれからだ」


「急に元気になるじゃねぇか。

そうだな、俺から差し出せるのは、力」


「ち、力だと……!」


「ああ、そうだ。

アンタらがこんな状況になったのも、そもそもは力が無かったからだ。

魔法力から財政力、そして人材力。

それ以上に情報収集力か。

ま、色んなモンが欠けてたって話だ」


「貴様はそれらを私たちに差し出せるというのか!?」


「ああ、できるぜ。

俺たちは人間を超越した魔人なンだ。

ちっぽけな人間如きが出来ることは大体できる。

その代わりに俺からアンタらに求めるのは、俺たちへの忠誠──つまり絶対に裏切らないという約束だ。

裏切りなンてものは俺たち魔人には到底理解できない感情だが、お前たち人間はすぐに裏切りやがるからな。

口約束や紙面での約束ではなく、魂での契約。

これができるンなら、俺がこの状況を何とかしてやるよ。

ただし契約を破った場合は、死よりも苦しい地獄がお前たちの身を焼くがな。

ここまで聞いた上で、どうするんだ?

別にやめたっていいぜ」


「貴様のその提案、受けよう」


「即決だが、いいのか?

これはお前一人だけが背負うモンじゃない。

ここにいるお前の家族全員だ。

それができるなら、俺も約束を守ってやれる」


「どうせ近いうちに命を捨てるはずだったのだ。

それも、妻と何度も話して決めて死を選んだのだ。

残りの生を健やかに生きられるなら、何だってやろう。

ソリエリ、分かってくれるな?」


男の言葉に、ソリエリと呼ばれた妻は迷わず頷く。


「そういうことだ。

私たちは貴様に従う」


「なら、これからアンタらは俺の駒だ。

働きによっては更に色々与えてやるから、安心して働いてくれや」


「それで、その魂の契約というのはどうするんだ?」


「契約の魔法を使う。

これで契約は魂まで深く刻まれる。

場合によっては死してなお魂を苦しめることになるだろう。

ただ、契約はそれだけで力にもなりうる。

約束を遵守するという覚悟は、魂の形に大きく影響を与えるからな」


「ではすぐにやってくれ」


「ああ、そのつもりだ」


そして順調に契約の魔法は執り行われた。


小さな子供には有無を言わさぬ契約だったが、それも仕方のないことだったのかもしれない。


「──と、ここまでがアンタらにやってもらう仕事だ。

教祖としてやることは初めは多いだろうが、末端が増えればあとは勝手に大きくなっていくはずだ。

教団員の証としてその魔石を配り、特に熱心な信者には力を授けろ。

力を得られると知った信者は更に熱心に活動するだろう。

そしてその噂が人を呼び、拡大していくことは予想に難くない。

運営や支部設立はアンタらに任せる。

助けが必要なら俺を呼べ。

じゃあ、俺はアンタらが約束に違わない行動をしてくれることを期待しておくぜ」


そう言ってディスクリートは去っていった。

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