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Re:connect  作者: ひとやま あてる
第5章 帝国編Ⅱ
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第60話 実験

ここはベリア公国の森の中ある小屋。


ドクが実験を行っている現場である。


巧妙に隠匿されており、今のところ何者かに見つかっているということはない。


地下への階段を下り金属の重厚な扉を潜ると、またそこから様々な生き物を収容している部屋につながる通路が伸びている。


当然、そこには人間も含まれる。


「おう、ようやくお出ましか。

なにやら足取りが上機嫌だな」


メインの研究室に入ると、ディスクリートから声がかかる。


「ええ、グランドノット家は少し期待できそうなのでね。

そちらの成果は?」


「あまり芳しくねぇな。

ベリア国内の学園は警備が厳しめで、アンタの期待するような子供は攫えてはいねぇ。

だが喜びな。

アンタの言ってた南の村落、タブロ村っつったか、そこで面白そうなのは見てきたぜ。

しっかし妙な風習があるモンだな。

まさか人間が俺らみてぇな実験をしてるとは思ってなかったがな」


「なるほど。

では、見てきたことを教えてください」


「ああ。

あの村では双子は忌むべき存在らしくてな。

特に後から生まれてきた方は悪魔だとかなんとか言われて、区別するために生まれてすぐ顔面を裂いて傷をつけられるみたいだな。

そんでもって先に生まれた方を守って死ぬことで、ようやく人になれるらしいぜ。

まったく意味が分からんがな。

あとは魔眼や魔剣を作る実験もしてたな」


「魔眼と魔剣ですか」


それは初耳だ。


まさか今日だけで複数回も魔眼という言葉を見聞きするとは思わなかったドクは、過敏に反応する。


それに加えて魔剣という情報。


これは心躍らずにはいられない。


「俺はてっきり、アンタが言ってたのはその話だと思ってたんだが違うのか。

とりあえず、あの村っていうのが昔に国を追われた連中の子孫らしく、未だに敵意を持って生きてるんだと。

その名残を受けて、ヤバいものを作って国を崩そうとしてるっぽいな。

そんなモンで何かが変わるとは思えねぇが、色々狂った村だったンで、アンタが何かやるかと思って手は出しちゃいねぇ。

別にかまわねぇよな?」


「ええ、上出来ですよ。

早速見にいきましょうか」


「今から行くのか?」


「ええ、大変興味が湧いたもので。

グランドノット家の子供2人も魔眼持ちということなので、色々試すことが多そうです。

移動は任せましたよ」


「ただ、今から行くとなると陽は完全に落ちまうぞ?」


「構いませんよ。

怪しい実験というものは夜寝静まってからというのが定番です」


「そうかい。

んじゃ向かうとするぜ」






「到着だ。

光の灯ってる建物なんてほとんどねぇな」


2人はタブロ村の入り口にたどり着いた。


獣の形態から人間の姿に戻りつつディスクリートは話す。


ドクも魔人の姿である。


村というにはあまりにも重厚な外壁と、複数の櫓から周囲を警戒する人間たち。


そしてここまで、まともに舗装された道もないところを見ると、何かあることを感じさせるには十分だ。


「確かに、あの中央の建物くらいですかね」


2人は村に着く少し前から気配遮断の魔法を使っているため、よほどの魔法障壁でもない限りは姿を見られることはない。


「あそこは村長の屋敷だな。

俺が先に覗いてくるか?」


周囲を見渡しながらディスクリートは言う。


「いえ、このまま行きましょう。

ワタシたちを弾くような結界は見えませんし。

アナタは周囲の警戒を」


「任された」


歩きながら周囲の家々を確認するが、驚くほどに人の動きが感じられない。


時刻としては、陽が落ちてからそう遅くはない。


違和感を覚えつつ村長邸を覗くが、窓から見える屋内にも誰の姿も見えない。


「どうなっているんですかね」


音を立てずに扉を開け、しばらく屋内を歩き回ると、地下への階段が見つかった。


「ふむ、地下ですか」


「この間来たときは民家をあまり見てなかったから、俺はその辺を見てくるぜ。

アンタほど隠密は得意じゃないしな」


「ええ、何かあれば脱出を」


言葉を受けてディスクリートは村長邸を出て行った。


ドクはそのまま目の前の薄暗い階段を下る。


こんな村には似合わない石造りの螺旋階段を進むと、至る所に魔法陣が描かれた広間に出た。


「見たことのない魔法陣ですね。

後でじっくり調べてみましょう。

しかし工房と呼ぶにはあまりにも杜撰ですね」


存在遮断の魔法によって外に声が漏れることはないため、ドクは思ったことを呟く。


奥にはいくつか部屋があるようで、多数の人間の存在が感知できる。


ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ──


ふと何者かの叫び声が地下にこだまする。


「拷問ですか、物騒ですね」


ドクは声の聞こえた場所に向けて歩みを進める。


すると1つの部屋にたどり着いた。


扉は金属製で、解錠は外側からできるようになっている。


恐らく監禁や拷問を行う部屋なのだろう。


覗き窓から中を確認すると、壁から伸びた鎖に繋がれた半裸の男が傷だらけで地面に伏している。


男の足下や壁にも様々な魔法陣が描かれている。


周囲には数名の人間。


流石に扉の開け閉めまでも魔法で隠匿することはできないため、近づく人間を警戒しながらドクは覗き窓から様子を見守る。


「マルクス、なぜこの村の掟を破った?

それが許されないことくらい理解しているだろう」


「クソッたれ……!

ラウール、アンタが村長でなければこんな事は考えなかったんだ!」


「まぁいい。

そう悪態をついていられるのも今のうちだ。

おい、連れてこい」


命令を受けて2人の男が外に出ようと動き出したので、ドクは邪魔にならないようにその場を移動する。


しばらくすると、手錠を嵌められた女1人と子供2人が目も口も塞がれた状態で連れてこられた。


「お前たち!」


連れてこられた3人を見て、マルクスが大声を上げる。


「轡と覆いを外してやれ」


3人の視界と口が解放される。


「あなた!」


「「お父さん!」」


ボロボロの父の姿に、3人は悲鳴にも似た声を出す。


「俺はどうなってもいい!

だから妻と子供たちには手を出すな!」


マルクスは目の前の男たちに詰め寄るが、鎖のためにつかみかかる直前で停止してしまう。


「威勢のいいことだ。

しかしお前の願いは叶えてやれない。

掟に背くことは何よりの重罪だ」


「だから俺の命でどうにかしてくれと言っているだろう!

頼む、お願いだ!

あいつらに手を出さないでくれっ!」


「では何故逃亡を図った?

この村で生まれたお前なら重々承知しているはずだ。

我らの願いはベリアの滅亡。

それを為せずして自由など得ることはできない」


「いつまでも昔のことを!

やりたいならアンタらだけでやればいい!

下らない掟のために子供たちが被害を被るのは間違っている!」


「おかしなことを言う。

忌まわしき双子なぞ産みおって。

それでも生かされていることを感謝こそすれ、よりにもよって掟を破るなど、間違いも甚だしい」


ディスクリートが双子に関して言っていたことを思い出しドクが子供の方を見てみると、男の子の顔面には斜めに切り裂かれた傷痕が見える。


「あの男児が弟ということですか」


ドクは観察を続ける。


「なぜこうもこの村は閉鎖的なんだ!

魔物や魔人が闊歩している今、国に歯向かって何になるというんだ!

今こそ人々が結束する時だろう……!」


マルクスは悲痛を嘆く。


しかしこの村ではそんなことも許されないのだろう。


「マルクス、お前は勘違いをしている。

魔王が復活すれば、人間なぞひとたまりも無い。

必死に戦って死んでいくくらいなら、醜くも魔王側に従った方が長生きもできよう。

生き抜くために、この村は必要なことをやっているまでだ」


「なるほど、聞いていた以上ですね」


面白そうに、ドクは話の内容に耳を傾け続ける。


「その考えを人間たちのために使おうとは考えないのか!」


マルクスは一般的には間違ったことは一つも言っていない。


それは正義そのもの。


しかしこの村ではそれは毒にしかなり得ない。


「我々はこの村の未来のために、みなで生き抜くために画策しているのだ。

大声で騒いでいる暇があれば、この村のことを考えてできることがあるだろうに。

しかし喜べ。

お前が裏切ったことにより、裏切り者なりの使い道が生まれた。

お前の命はこの村の未来のために役立つこととなる。

繁栄のために死ね、マルクス」


ラウールはそう言うと、腰に挿した剣を鞘から抜き、徐に女へ突き刺した。


「えっ……?」


ドボドボと口から血を吐き出しながら、女はドサリと地面に倒れ伏した。


尚も血液は溢れ、女の周りに血溜まりを広げていく。


「お母さん!」


子供2人が駆け寄る。


2人は必死に傷口を押さえているが、血の溢れ方から見て致命的なのは明白。


「ラウール貴様あああぁぁぁ!!!」


マルクスは獣のような勢いでラウールに迫る。


しかし先程同様、触れる事はできない。


ガチャガチャと鎖を引っ張りながら、必死に暴れ続ける。


「よくもエレナを……!

クソッ、絶対に殺してやる!!!」


マルクスは血が流れるほど唇を噛みしめ、怒りに目を血走らせながら、鎖を引きちぎろうと動く。


「これはお前が裏切った結果だ。

そして良い具合にお前は仕上がってきている。

ロード、マナ ポラリゼイト」


ラウールの魔法により、マルクスの全身のマナが眼球へ移動を開始。


「ぐ、ああ、ああああぁぁぁぁ!」


マルクスの眼球に張り裂けんばかりのマナが集中する。


それを眺めながら、ラウールはもう一度剣を振り上げた。


「やめろ、やめてくれえええぇぇぇ!」


マルクスの必死の叫びが響き渡る。


そのままトドメと言わんばかりに、ラウールはエレナに剣を突き立てた。


そして、エレナの命の灯は消え失せた。


「マルクス、お前のせいでエレナは死んでしまったぞ。

お前のくだらない正義のせいで家族が死んでしまって、今どんな気分なのだ?」


「ああああぁぁぁぁ!

ラウール貴様だけは許さん!

殺す、殺してやる!」


ラウールはそんなマルクスを観察し、


「よし、いい頃合いだ。

取り出せ」


ラウールは手下に命令を下した。


1人の男がマルクスの頭部を固定する。


「な、何をする! 放せ!」


そしてもう1人の男が、鉗子のようなものでマルクスの両眼球を抉り出した。


「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ!」


マルクスはあまりの痛みに、怒りを忘れてのたうち回る。


取り出された眼球は、即座に溶液の入ったシリンダーに詰められた。


あまりの状況に、子供たちは恐慌状態となる。


マルクスは光を失った眼窩から血を溢れさせ、ラウールを探して両腕を振るう。


「怒れ、そして全てを憎悪しろ。

それがお前の価値を高める」


ラウールの言葉など構わず、マルクスは怒りに身を任せて暴れる。


「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す!」


マルクスはひたすら呪詛を吐き続ける。


「よし、押さえつけろ」


マルクスが地面に組み敷かれる。


「喜べマルクス。

お前はこれからみなの役に立つ存在となるのだ」


ガシリと、ラウールは両手でマルクスの頭部を掴んだ。


「貴様ら全員地獄に叩き落としてやる!」


マルクスは怒りを放出し続けている。


「これがこの村の集大成。

ありがたく、その身に受け取れ!

リーサルマジック、ロード──」


ラウールの起動符に合わせ、マルクスの周囲にある魔法陣が輝きを放つ。


ドクの目には、複雑に絡み合う魔法陣の動きが観察できた。


周囲の魔法陣の起動を確認すると、ラウールがその魔法を唱えた。


「──クリエイト カースドウェポン」


ビクンとマルクスの身体が震える。


「あ、ああ、ああああ、ああああああああ……」


ドロドロとマルクスの身体が黒い液体へと変化しながら崩れ始めた。


液体はひと処に集まると、明確な形へと姿を変えていく。


そして最後には、黒い刀身を持った短剣が地面に横たわっているだけとなった。


「なんとも複雑怪奇に魔法陣と組み合わされていますね。

アレをワタシが組み上げようと思うと、骨が折れそうですね。

しかし犠牲魔法とは面白い」


一部始終を見たドクは、満足げに呟いた。


ラウールは黒い短剣を持ち上げると、刀身に光を当てながらまじまじと観察する。


「ほう、なかなかの出来だ」


思わずラウールは感想を漏らす。


「よし、ひとまず魔剣は完成だ。

続いて魔眼作成へ取り掛かる。

お前たち、子供を連れて来い」


「やだ、やめてよ!

お父さん、お母さん……!」


姉は泣きじゃくり、弟の方は完全に気絶している。


あれだけの現場を見せつけられたら当然であろう。


ラウールが歩き始め、男たちは子供2人を抱えてそれについていく。


次にラウールたちがやってきた部屋には、手術室のような設備が配置されている。


「まずはネイルの方からだ。

そこに寝かせろ」


「やだ、やだぁ……!」


男たちはネイルを手術台にも似たテーブルの上に乗せ、その手足をくくりつけて固定し始める。


「お母さん、お父さん……!」


そして首も固定され、完全に身動きが取れない状態となった。


「眠らせろ」


1人の男が前に出る。


「ロード、ディープスリープ」


男は足下に黒い魔法陣を浮かべると、ネイルに眠りの魔法をかけた。


「お父……さん……」


ネイルは完全に意識を失った。


「では手術は任せる。

終わり次第連絡を寄越せ」


ラウールはそれだけ言うと部屋を後にした。


「それでは手術を開始しよう」


様々な手術器具が並べられ、残った男たちでネイルに対する手術が開始さえた。


ネイルの額の部分を切開し、骨を割る。


そして蝶形骨の前上部、視交叉の部分が露わとなった。


そこに男たちは、マルクスから取り出した眼球を接続し始める。


額の部分の骨はちょうど眼球が収まるように形成され、ネイルに第三の眼と呼ぶべき器官が備え付けられた。


最終的にその眼球を覆うように瞼が形成され、数時間をもってネイルの手術が終了した。


続いて弟の方の手術を開始しようとしている時、天井からパラパラと砂埃が舞い落ちた。


振動も同時に感じられ、何やら地上で起こっているのが予想される。


男たちは何事かと話し合っている。


すると、それを眺めるドクのそばにディスクリートが駆け寄ってきた。


「どうしたのです?」


「どうやらこの村を国が嗅ぎ付けたみたいだ。

軍の精鋭が大量に侵入して、すでに上では大規模な戦闘が始まっている。

どうする、やっちまうか?」


「まったく、いいところで邪魔をしてくれますね。

恐らくマルクスという男が外に漏らしたのでしょう。

戦っても良いですが、ワタシとアナタだけでは戦力に難があります。

どうしても数には勝てませんので、撤退しましょう」


「まじかよ。

せっかく楽しめると思ったのによ」


「少ないですが色々見れたのでワタシは満足です。

もう少し来るのが遅ければこういう発見もなかったので、得るものがあったということで我慢しましょう。

この村では調べ足りないことが多いですが、ワタシたちの目的は遥か先にあります。

この村に固執して余計な被害を負うこともありませんし、残念ですがこの村は捨て置きます」


「了解したぜ」


「アナタは地上で軍の人間を撹乱して、地下に入らないように動いてください。

ワタシはその間にこの地下で集められるものを集めておきます」


「あーあ、勿体ねぇな」


言いながら、ディスクリートは地上に上がっていった。


ディスクリートの背中が見えなくなると、ドクは室内へ向けて魔法を放った。


「ロード、シャドウ バレット」


魔法が発動されたことに気づくより先に、男たちの頭が撃ち抜かれる。


「ひとまず子供と眼球は確保ですね。

あとは可能な限り資料の回収と魔法陣の転写ですか。

はぁ、折角こんなに良い実験場を見つけたのに勿体ないですね。

村単位でこういった実験を行なっている所は少ないでしょうに」


ドクは時間の許す限り地下を見て回る。


しばらくすると一際大きな振動が感じられた。


「そろそろ潮時ですね」


ドクは踵を返し、地上へ上がる。


地上では多数の民家から火の手が上がり、ちょうど村長邸にも人間が入り込んできている最中であった。


ドクは見つからないようにその場を抜け出す。


そして村の外へ脱出することができた。


ディスクリートの姿も見える。


「いずれ魔人との関わりを疑って更なる捜査が開始されるでしょう。

捕捉される前に戻りましょう」


「じゃあ背中に乗んな」


ディスクリートが獣の姿に変わっていく。


そして2人はタブロ村を後にした。


「今回の成果はその子供2人か?」


ディスクリートは走りながら背中に乗るドクに声をかける。


「ええ、メインは女の方ですね。

男はついでに連れてきました。

なにやら肉親を使った実験の方が良さそうなのでね。

アナタは地上で何か見つけましたか?」


「生贄とかに関わる資料と魔剣が数本見つかった程度だな。

時間をかけりゃ、もっと見つかったかもしれんがな。

あの短時間じゃ限界があるわな」


「そうですか、それだけでも十分ですよ。

中身は戻ってからのお楽しみとしましょうか。

ワタシも早く試したいことが多いですし」


「そりゃあ良かったな。

つーか、さっさと俺にも楽しみを分けてくれよな。

人攫いと調査だけじゃ大して面白くもねぇからな」


「ええ、いずれね」


ドクとディスクリートは暗闇の中を進むのであった。

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