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Re:connect  作者: ひとやま あてる
第5章 帝国編Ⅱ
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第57話 逆転

「ほらほら、そんな攻撃は当たんねぇぞ?」


ルーはアルの攻撃をいとも簡単にかわし続けている。


アルが始めに選択したのは肉弾戦。


拳や脚を岩で覆い攻撃を繰り出し続けるが、その1発もルーを捕らえることはない。


「好きに攻撃してこいって言ったじゃないですか!」


「ほっ、ほっ、そうは言ったが大人しく突っ立ったまま攻撃を受けるわけねぇだろ!

ロード、ストーンバレット!」


回避を続けるだけではなく、今度は魔法攻撃を織り混ぜてきた。


「なっ!?」


4つの石礫が形成され、それらは的確にアルの手足を捉え、覆っていた岩石を砕いた。


「ほら、おまけだ!」


驚いて動きが停止しているアルの腹部に、ルーはお構い無しの蹴りを叩き込んだ。


「ぐうぅっ!」


モロに攻撃を受け、無様に転がる。


痛みも束の間、アルは追撃に備えて即座に立ち上がりその場を離れた。


しかしこの絶好の好機に追撃が飛んでくる事はなかった。


「な、なんで攻撃してこないんですか!?」


アルが当然の疑問を投げかける。


「今ので一回死んだかんな。

いや、二回目か。

まぁ、別にボコすだけならいつでもできる。

まだあんたの全部を見せてもらってないからな。

全力を見てから判断するってこったよ。

分かったなら、さっさと続けなよ」


「くそ、ふざけやがって!

その鼻っ柱をへし折ってやる!」


「おーおー、いいねその感じ。

生意気な後輩は嫌いじゃないぜ」


戦闘は続く。






ルーが喋り続けながらも紙一重でアルの攻撃を捌いていることが、アルを更にムキにさせる。


もう少しで当たるのに、という感覚を抱かせ続けながら挑発するように回避を続けるルー。


ルーが大きく後退したタイミングでアルは両手を地面に置いて魔法を発動させた。


「ロード、ロック ゴーレム!」


アルのそばに2体の岩石巨兵が出現した。


「おー、それそれ!

それが見たかったんだよ」


ルーには驚いた様子もない。


むしろ喜んでいるとさえ見える。


「行け!」


岩石巨兵がルーに迫る。


「ロード、ストーンバレット!」


そこにアルは攻撃を追加する。


「お、よっと、あぶねギリギリぃ!」


しかし、2体の挟撃とアルの石礫もうまく躱し、ルーは岩石兵の一体に飛び乗った。


「こんな鈍重な木偶じゃ、いつまで経っても当たんねよ。

こいつはもらうぜぇ!」


ルーが触れると、ゴーレムは動きを止めた。


「えっ!?」


「つまるところ、同属性同士の戦いってのは支配権の奪い合いだ。

っと、まずったなぁ」


見ると、ルーの触れていない方のゴーレムがルーの胴体を鷲掴みにしていた。


ゴーレムはギリギリと力を強め、ルーを締め付ける。


「よそ見してるからですよ、先輩。

ロード、ロックフォール!」


ルーに突如影が覆い被さる。


ルーの頭上には10メートル大の巨石。


そのまま落下するだけでも、直撃すれば大怪我は免れない。


加えて、身動きの取れない現状。


「おー、容赦なくていいねぇ」


しかしルーは上空を見上げたまま、軽い調子は崩さない。


「怪我しないように頑張って防御してください!

ハァッ!」


アルは自由落下に更に速度を加えて巨石を振り下ろした。


「ロード、サンディ フォース」


ブゥゥンとルーの右掌を光が覆う。


その掌で胴を掴むゴーレムの手に触れると、ゴーレムはいとも簡単に砂となって崩れ去った。


次いで、ルーは落下してくる巨石に向けて右掌を掲げる。


巨石がルーに衝突する瞬間、それは見た目通りの成果を発揮する事はなかった。


「な、なんで……」


巨石は全て細かい砂片となってパラパラと降り注ぐ。


「不意のつき方も王道っちゃ王道だ。

まぁ、悪くはないが、良くもねぇな。

それだけじゃ伸び代はあまり感じられねぇが、これがあんたの出来る全力か?」


舞い散る砂埃の中から、少々失望を孕んだルーの声が響く。


ルーが右手を振りかざすと、砂埃は彼方に消え去った。


「じゃあそろそろこっちも動かせてもらうぜ」


底の見えないルーに怯えながら、何とか臨戦態勢を立て直す。


「ロード、ロックアーマー」


岩がアルを覆っていく。


「攻撃一辺倒ってのも悪くはないが、盾として用いるほうが効率的だ。

最初に教わるのはその程度だが、色々試行錯誤した方がいいぜ。

こんな風にな!

ロード、ロック ウォーリア、ロック ビースト!」


ルーの側には細身の岩石兵──人間よりはやや大きいといったサイズのものと、狼のような姿の岩石獣が形成された。


その形成速度もアルの比ではなく、一瞬と言って良いだろう。


アルは何よりその速度に驚きを隠せない。


「行け。

少しは耐えてくれよな」


ルーの言葉を受けて、ルーの形成した岩石兵と岩石獣、そして先ほど支配権を奪ったアルの岩石巨兵がアルに迫る。


「早いっ!?」


アルは自身のゴーレムの速度を想定していたためか、人間とさほど変わらない速度で迫るルーのゴーレムに判断が少し遅れてしまう。


特に岩石獣の速度は野生を思わせるものがある。


「っ──ロード、ロック ウォール!」


アルは地面に手を当てて岩壁を形成し、岩石獣の動きを阻む。


即座に壁を迂回した岩石獣がアルに喰いついた。


何とか左腕に纏った岩石に噛み付かせる事で難を逃れたが、その瞬間には背後に岩石兵が迫っていた。


今、左腕は動かない。


即座に右腕を岩石兵に向けて魔法を唱える。


「ロード、ロッ──きゃあああ!」


しかしそれも間に合わず、アルは右肩に攻撃を食らって吹き飛んだ。


ズザァと地面に転がったところに、支配権を奪われた岩石巨兵がアルを踏み潰しに掛かる。


「チッ!」


アルは無理やりに身体を捻って、転がる形でその場を離れることに成功した。


直後、先ほどまでアルのいた場所に岩石巨兵のスタンプが炸裂。


地響きがするほどの攻撃。


あのまま回避していなかったらと思うと、ゾッとする。


アルが自身で生み出したゴーレムにあれ程の攻撃力は無かったはず。


やはり、支配権を奪われた上で強化されている。


まったく、力量差を見せつけられて嫌になる。


一瞬そのようなことを考えるが、頭を振って考えを消す。


無駄な思考をしている時間はない。


すでに3体のゴーレムはこちらに向けて行動を開始している。


「ロード、ロック ソーン!」


アルはゴーレムたちと自身の間一面に岩の荊を生み出した。


高さは1メートルほど。


マナを込める時間が短いため、完全に動きを止められるような範囲には形成できない。


せいぜい、動きを鈍らせる程度。


それでも幸運なことに岩石巨兵は二の足を踏んでくれている。


一瞬だけだが、攻撃目標を2体に専念することができる。


岩石兵は荊を迂回して走り出している。


一方の岩石獣はその跳躍力を活かして荊を軽々と飛び越えて攻撃を仕掛けてきている最中だった。


「ロード──」


絶好の後期が到来した。


これでようやく1対1の状況を作り出せた。


いや、あの女が易々とこのような状況を作らせてくれるとは限らない。


遊ばれている。


まぁ、それは初めからだから仕方のないことか。


アルは眼前に迫る岩石獣にだけ意識を集中させる。


「──クリスタル ナックル!」


空中で回避の取れない獲物など格好の的。


アルは形成した水晶の拳を用いて、側面から岩石獣を殴り付けた。


岩石獣は砕けて石片を散らばらせながら、アルの狙い通り岩石兵の走り来る軌道に割り込んだ。


衝撃により、転倒する岩石兵。


アルは走り出し、起き上がって再び動き出そうとする2体のゴーレムたちに全力で殴りかかった。


破壊音が響き渡る。


数度の攻撃を経て、それらは無残な岩の残骸に成り果てた。


「ロード、クリスタル ランス」


アルは荊の向こう側に水晶の槍を生やし、自身のゴーレムを貫いた。


胴の中心に巨大な風穴を開けられた岩石巨兵は、アルが魔法を解除すると同時に地面に倒れ伏して砕け散り、間もなく活動を停止した。


パチパチパチ、と拍手の音が聞こえる。


当然、音のする先にいるのは彼女だ。


「ちっとはやるもんだな。

あんたを見縊ってたぜ。

今の時点で組成変化まで使えるとは素直に驚きだ。

褒めてやるよ」


「そりゃどうも」


悪態をつくアル。


「まったく可愛げがねぇな」


「そりゃそうでしょ。

ゴーレムももっと連携させられたはずだし、先輩も攻撃に参加してたら手の足も出なかったですよ。

そんな状態で褒められても、うちは全然嬉しくないですね」


「ハッ、そうかよ。

ところで、ロックダウンっつー頭のおかしい先輩がいてよぉ」


「?」


唐突な話の変化にアルの頭に疑問符が浮き出る。


「あんたみたく、あたいも生意気言ってそりゃもう理不尽にボコられたりしたもんだよ」


「一体何の話をしてるんですか?」


「いやなに、今なら奴の気持ちも分かると思ってな。

奴には散々嫌な思いをされたかんな。

あたいもあんたに同じことをする事にした」


「ひどくないですか!?」


ルーは徐に片膝をつきながら両手を地面に添えた。


「まぁそう言うなよ。

色々やるから、目ぇかっぽじってよく見て学べ。

ロード、フォレスト コントロール」


ズズ……。


大地が微かに振動するのを、その場にいる全員が感じ取った。


アルはキョロキョロと周囲を見渡すが別段変わった様子はない。


が、これから何かしら起こることは確かだ。


「さて、あんたの大好きな肉弾戦と行こうか。

これが何の授業か思い出して、しっかり対応しな!

ロード、ブレイク フォース」


アルの攻撃を砂にした時と同様に、ルーの右拳が光に覆われる。


そして即座に走り出す。


「ロード、ストーン スキン!」


今回はアルは遅れることなく、自身に地属性強化魔法を纏う。


ダッ!!!


地面を抉るような強い踏み込みから、ほぼ水平に一直線にルーが飛び込んできた。


「ロード、ストーン ランス!」


アルはルーが重なる位置に石槍を生やし、彼女を貫こうとする。


しかしこれだけでやれるとは考えていない。


アルはそのままルーを迎え撃つ形で攻撃の構えを取った。


そして石槍が狙い通りルーを貫くと思われたその時──


ギィィン!


突如ルーの体表に出現した石盾が石槍を逸らした。


「なにっ!」


石盾は石槍を斜めに受ける形でベクトルを逸らしている。


それによりルーは多少不安定な体勢になったが、そのままアルに殴りかかった。


アルもそれを水晶の拳で受ける。


激しい衝突音が辺りに響き渡った。


素手のルーとアルの拳が鬩ぎ合う。


一目見ただけでは、どうやっても勝つのはアルの拳だが。


ピシッ。


砕け散ったのはアルの拳の方だった。


驚きの声を上げる暇もなく、アルは威力負けして後方に吹き飛んだ。


ルーは空中で体勢を立て直して難なく着地し、更なる追撃に出る。


アルは追撃の拳を捌きつつ、ルーから距離を取ろうと必死で動き回る。


避けられる攻撃は避け、直撃する攻撃も強化魔法で何とか凌ぐことを続けているが、戦闘能力は歴然の差だ。


アルも隙をみて攻撃を繰り出すが、全て容易に処理され、また魔法を唱えるほどの隙を作るには至らない。


徐々にアルにダメージが蓄積していく。


攻防を繰り返すごとにアルの動きは悪くなる。


そしてその時はすぐに訪れた。


「えっ……?」


突如、アルは何かに足をとられた。


しかし、足を滑らせたわけではない。


見ると、地面より生えた細い木の根が片脚に纏わり付いていた。


アルは思わず尻餅をついてしまう。


それは致命的な隙。


アルもすぐに起き上がろうとするが、それよりも速くルーの爪先がアルの腹部に突き刺さった。


「ぐぅ!」


アルは胃の内容物を撒き散らしながら、サッカーボールのように派手に大地を跳ねて転がる。


しかしルーはまだ追撃の手を緩めない。


アルがようやく停止した頃には、すでにルーも接近してきている。


「ロ、ロード……クリスタル バレット!」


アルは全身を擦り傷塗れにしながらも何とか立ち上がり、水晶の礫をルーに放った。


しかしそれもルーに直撃する寸前で、瞬時に出現した石盾により軌道を逸らしてルーにダメージを与えることはなかった。


先ほどよりも大きく石盾を損傷させてはいるが、ルーの進行を何ら妨げることはなかった。


そのままルーがアッパーカットよろしく振り上げた拳が、無防備なアルの腹部に突き刺さった。


「かっ……は……!」


1メートルほどアルの身体が浮き上がる。


強化していると言えど、その身体が浮き上がるほどの一撃。


続けて、ルーは止めと言わんばかりに最大限に右腕を振りかぶる。


「おらぁ!」


メキメキと鈍く嫌な音を立ててルーの攻撃が突き刺った。


アルはドサリと地面に転がる。


そしてアルは蹲ったまま、ピクリとも動かなくなってしまった。


しばらく無言の時間が続く。


すると、アルの側からシュルルと木の根が伸び、アルの両腕に巻きついた。


そのままブランと宙に吊し上げられる。


それに合わせて、ルーもアルに歩みを寄せる。


まだ攻撃を行うかもしれない。


そう思うと、俺は声を出さずにはいられなかった。


「おい、いくら何でもやり過ぎだ!

あのままじゃアルが死んじまう!

何で先生は止めねぇんだよ!」


他のクラスメイトが絶句している中、俺は声を張り上げた。


いくら何でも、こんなのは授業ではない。


授業の名を借りたリンチに他ならない。


俺はセアドに詰め寄った。


「何とか言えよ、先生ぇ!!!」


俺の言葉を受けてセアドが口を開けかけた時、


「うるっせぇぞ外野ぁ!!!」


ルーの怒号が響き渡った。


あまりの気迫に俺も声を出せなくなった。


「ただ単に一方的にボコってるだけに見えてんのか?

そりゃ戦力差ってもんは仕方ねぇが、てめぇは今までの攻防の間に発見するもんは無かったのかよ?

仲良しごっこがしたいんなら、さっさと学園を辞めちまえ。

命も掛けないで得られるもんがあるかってんだよ、クソが!」


確かに世界を救うなんて謳ってる俺たちにはそんな甘いことは言ってられない。


それでも……!


「それでも、先輩のそれはやり過ぎだ!

教えるならもっと別の方法があるはずだ!

何もそんなにしなくてもいいじゃないかっ!」


友人があんないいようにされていては、流石の俺も耐えられない。


アルはかけがえの無い仲間だ。


授業の一環だからといって、あんな風に嬲られる姿を黙って見てはいられない。


「……クロ、ありがとな。

うちならまだ、やれるぞ……」


アルは口から血をこぼしながらも、切れ切れに言葉を発する。


「ほう、まだ意識があったのか」


「おいアル、さっさと降参して模擬演習はもう終わりにしろ!

先輩ももう十分でしょう!?」


「いや、ダメだ……。

まだ、先輩の鼻っ柱を、折っちゃいない……」


「ほら、お友達もこう言ってるんだ。

外野は黙って見てな」


「そうだぞ、クロ。

まだ何も、終わっちゃいない……」


そうは言うが、声からはすでにアルの限界がひしひしと感じられる。


だがアルにこう言われては、俺は何も言えなくなってしまった。


「根性だけはあるようだが、でもまぁそれだけだ。

そんなもんじゃ何も変えられねぇよ。

現にあんたはそこで何もできずにいるわけだしな。

どうせ大した願いも抱かずこの学園に来たんだろ?

ならさっさとやめちまえ。

クソ下らねぇ理由でこの学園に居られても迷惑なんだよ」


「下らない、だって……?」


項垂れたままだったアルが面を上げ、ルーを睨みつけた。


「ああ、そうさ。

どうせ大半の奴らは親に言われてだの、ネームバリュー的にこの学園を選んでるだけだ。

まったく笑わせるんじゃねぇよ」


「ふっ、ふふ……」


「何を笑ってやがる」


「はっはっは……。

先輩こそ笑わせないでくださいよ。

うちは、世界を救うために日々努力してる。

それに比べたら、先輩の願いこそ下らないんじゃ無いですかね……?」


ルーは苛立ったようにピクリとこめかみを動かした。


「へぇ、言うじゃねぇかよ。

……話は終わりだ。

あんたはその世界を救うってちっぽけな夢でも見ながら、無様に死んでろ。

じゃあな!」


そう言うと、ルーは拳を振りかぶった。


アルは確実に止めを刺される。


誰もがそう思い、アルの最後の姿から目を背けた。






「は?」


ルーの口から間抜けな声が漏れた。


ルーの攻撃はアルに届く直前で止まっている。


いや、止められていた。


もとより、ルーはアルを殺す気などなかった。


この攻撃も直前で止めて、現在の後輩たちの無力さを痛感させるつもりだった。


それが学園からの依頼だったからだ。


学園に入学できて気の緩んだ学生に現実の厳しさを教えるために毎年行われる、いわば恒例行事とも言うべき模擬演習。


多少やりすぎた感はあるが、依頼された以上、彼女はやり切るつもりだった。


そのために彼女は一芝居うっていた。


だからセアドは何も言わずに見守っていたのだ。


彼女がようやく今回の役目を終えられると思い、気の抜けたその一瞬。


事は起こった。






ルーは自身の右手に目をやった。


振りかぶった腕には無数の木の根が巻きついている。


それは、先ほどまでルーが操っていたものに他ならない。


「──ストーン バレット!」


事態が飲み込めなかったため、ルーは反応が遅れた。


プシッ。


何とか身体を捻ってアルの攻撃を回避したつもりだったが、礫の一部がルーの頬を傷つけた。


問答無用で顔面を狙うとは。


下手すれば死んでいたかもしれない。


「こいつ……!」


だが、面白い。


ここからは本当のアドリブ。


予定調和のお遊びは終わりだ。


アルの周囲から次々に木の根が生え、それらは螺旋を描いて絡み合いながら槍のような形状となってルーへ殺到する。


その上、アルが次なる攻撃を行おうとしている。


「ロード、ウィザー フォース!」


捕縛されていない左掌に光を宿し、右腕に巻き付いた木の根を枯らす。


次々と迫りくる木の根と、ルーの回避先を読んで降り注ぐ石礫を処理しながら、ルーはアルから大きく距離を取った。


今回、ルーが初めてアルを警戒した形である。


ルーが先ほどまで回避しながら観察していたところ、一定以上離れた場所には木の根の攻撃が届いていことが分かった。


「ハッ、何をしたか知らねぇが、あたいから支配権を奪うとはな!」


吠えながら、絶えずルーはアル周囲の動きを探る。


「先輩こそ、そんなに距離を取っちゃって、怖気付いたんですかね?」


生意気なガキだ。


「まぁ、好きに判断してな」


こういう場合は調子に乗らせたままにした方が良い。


慢心している時こそ、人は隙を晒すものだ。


ズズ……。


ルーは地下から根を這わせ、アルの視界の外から攻撃にかかる。


しかしアルに一定以上近づくと、木の根は支配の外へと行ってしまった。


やはりな。


「先輩、わざわざ武器をくれるなんて、優しいんですね。

しかし何度やったって無駄ですよ」


今までやられたことの仕返しのように、アルはルーを煽り続ける。


まぁ、あんなものは気にもならない。


気になるのは現在起こっている事象。


方法は不明だが、アルは完全に周囲の支配権を得ている。


ルーはアルとの攻防の中で、腕に木の根が絡みつくまでは一度たりと目を離していなかった。


その間、支配権を奪うような魔法をアルに許した覚えはない。


可能性としては2つ。


魔道具の使用、もしくは刻印魔法。


「腑に落ちないって顔ですね。

答えを知りたいですか?」


どこまでも生意気な奴め。


1年前の自分にそっくりだ。


「ああ。

でもその前にそこから動いたらどうだ?」


そう、アルは一歩たりともその場を動いていない。


「あれ、ちょっと気付かれてる感じですか?

うちは動こうと思えば動けるんですけど。

でもこの子が許してくれないんで」


アルは自身の肩を指差す。


しかしそこに何かしらの存在を見る事はできない。


という事は。


「精霊か」


「おお、正解です!

あんまり驚かないんですね」


精霊を使役する魔道具など聞いたことがない。


とすれば、答えは1つ。


「厄介なもんを刻まれてるんだな」


「色々あるんですよ。

うちはここから動かないんで。

あれ、えっと、なんだっけ、あ、そうだ、自由に攻撃してくれていいぜ!

こんな感じでしたね!」


ここまで煽られると、逆に新鮮だ。


「いいぜぇ、本気で相手してやる!

後で吠え面かくんじゃねぇぞ」






攻守が逆転して、さらなる戦いが幕を開けた。






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