第50話 北進
魔獣との戦闘から10日が過ぎたあたりで、ようやくシロが目を覚ました。
そしてシロに襲いかかったギフトの反動は想像を絶するものだった。
以前にアカやアオがギフト使用の反動でひどく苦しんでいたのを見ていたが、自分が実際に体験するとその堪え難い苦しみに、どんな痛みでも耐えてやると言ったことを撤回してしまいたい程であった。
全身の神経をむき出しにしてその全てをズタズタに引き裂くような痛み。
その痛みにのたうち回るシロを複数の人間が無理やりに押さえつけて睡眠の魔法で無理やり眠らせること数回、ようやく耐えられる程度の痛みになってきた。
その後自室に戻り療養ができるようになったあたりで、シロはアカとアオ、そしてエリザやハインツを招集した。
そして眠っている間に自身の体験した出来事を伝えた。
「──ということらしいわ。
2人はこんな経験ないわよね?」
「そんな経験はしてないね」
「俺もそうだな」
「そのおじさん、一体いつの時代の勇者なんだろう」
「少なくとも前回の500年前ではありません。
前回は各国から1人ずつの計3人だと聞いております。
帝国以外には2つの国があったそうです。
現在の帝国以外の国々は、前回の魔王討伐以降に誕生したと言う話ですね」
「へぇー、そうなんですね。
とりあえずボクたちがギフトを使いすぎると限界を迎えて死んじゃうってことでいいの?」
「恐らくはね。
でも死ぬというより戻れないみたいなこと言ってたわ。
一体どう言う意味なのかしら」
「……!」
「どうしたのエリザ?」
「……いえ。 続けてください」
「ギフトを使えば使うほど強くなるって話みたいだから、アカとアオがギフトの反動に慣れているのはそのせいかもね」
「その話を聞くとそうかもな。
それにしてもシロの受けた反動は俺たちがよりも遥かに酷かったけどな」
「確かにそうだね。
ボクも最初苦しんだけど、あそこまでのたうち回る程ではなかったかな。
さすがに人の命を呼び戻すだけあって反動が大きいのかもね」
「そうね。想像している以上でびっくりしたわ。
私が長期に渡って目を覚まさなかったのはどうしてかしら」
「恐らくすぐに目を覚ましてしまった場合には痛みに耐えきれなかった可能性がありますね。
その防御反応として長時間目を覚まさなかったのではないでしょうか」
「そう言われるとそうかも知れないわね。
今後も蘇生を使用するたびに10日間も眠ってたらたまったもんじゃないわ。
使うと強くなるみたいだから、次はもう少し短くなってると思うけど。
蘇生なんて使わないに越したことはないんだけどね」
「そうだな。
俺も今後はあんなことがないようにしないとな。
シロ、心配かけて悪かったな」
「まったくよ。
私だって蘇生なんて出来れば使いたくないんだから、死んでも大丈夫なんて思わないでね」
「ああ、わかってるよ。
そういえば、シロが眠ってる間にこの国の兵士やハンターも参加した、合同の訓練が始まってるんだよ。
あと暫くすれば、魔獣がやってきた北の森を攻めるって話も出てるし、やることは多い。
帝国の勇者はすでに中央大陸で最前線を張ってるって話だし、俺たちもうかうかしてらんないぞ」
「仲間の勇者がそれだけ強いとボクらも安心だね。
帝国の勇者ってどんな人なんだろうね」
「どんなやつだろうと、ずっと任せてもいられないだろ。
俺らは俺らで、ソイツがいなくてもなんとかできるくらいには強くなれることが理想だな。
まずは目の前の課題からクリアしないとな」
「私も休んでいた間のブランクはさっさと埋めないとね。早速だけど私は動くわ」
「シロ様、先ほどようやく動けるようになったばかりですが大丈夫なのですか?」
「これ以上不甲斐ない姿は見せてられないからね。
エリザにお願いがあるんだけど、戦いに勝つためには多くの選択肢が必要だから、魔導書でも禁書でもなんでもいいから私たちに使えそうなものは集めておいてちょうだい。
最終的にはリスクも負わずに勝てるような戦いではなくなっていくんだから、その時に後悔しないようにね。
さぁ、アカとアオもいくわよ」
少し前まで苦しんでいたことも意に介さないような足取りで3人が部屋を後にした。
「……」
3人の出て行った扉を見つめる2人。
「エリザ様、少々反応が過敏だったのでは?」
3人が完全に居なくなったのを確認して、ハインツが口を開いた。
「そうね。完全に私の落ち度だわ。
でもまさかアレを知る手段があるとは思わないじゃない。
過去の勇者だかなんだか知らないけど、厄介なことをしてくれる」
「話しぶりからは核心に触れているようには思えませんでしたな。
ギフトの過度な使用は危険だという認識だけで済んでいるはずでは?」
「彼らは妙に聡いところがあるから怪しいわね。
ひとまず彼らがやる気になっていることだし、応援してあげましょう。
魔王さえ倒して貰えたらお役御免なんだから」
「そうですな。
短い付き合いと思って我慢しましょう」
不敵に笑うハインツ。
ギフトの過剰使用がもたらす弊害を知る由もないまま、シロたちは更に歩み続けるのだった。
さらに1ヶ月が経過し、シロたちはさらに力をつけていた。
「坊主たち、久しぶりだな」
「おっさん!」
「おいおい、第一声がそれかよ」
「ザグドルさん、お久しぶりです。
以前は助かりました」
シロに続いてアオも頭を下げる。
「いいってことよ。むしろ俺が救われたくらいだ。
3人とも元気そうで何よりだ。
ところで最近面白そうなことを始めたそうじゃねぇか。
俺はギルドの運営やら何やらで参加できてなかったが、若いハンター連中はそれなりに楽しそうにやってたな。
今日参加してる中にもいるはずだぞ」
そう言ってザグドルが視線を向けた先には人だかりが見える。
現在北の森にごく近い平原には、シロたちを含めザグドル以下多数のハンターが集まっている。
彼らの目的は北の森の調査及び魔獣の掃討だ。
魔人が潜んでいる可能性もあり、会敵した場合には討伐することも視野に入れている。
そのためハンターの中でも選りすぐりのメンバーが勢ぞろいしている。
ハンターは仕事の達成数や達成率によってランクが上がり、ランクが上に行くほどより高度な依頼を受けることが可能になっている。
今回集まったのは主にランクが上位の者たち。
ザグドルもハンターとしては上位層だが、上には上がいる。
「みんな、そろそろ始めてもいいか?」
周囲の状況を見計らって、1人の男が口を開いた。
男の名は、ロレンス=フリア=セイクリッド。
彼は公爵家でありながら、最上位ランクのハンターの1人として活躍している。
平民にも分け隔てなく接し、実力も人望も高い彼に憧れてハンター業に就く若者も多いようだ。
「アレが噂に聞く王国最強ってやつか。
そんなのを引っ張り出してくるなんて、今回の作戦は相当本気なんだな」
「それくらい前回の襲撃の影響が大きかったのよ。
あんな多数の魔獣が国中にばら撒かれてたら、被害はあんなものじゃなかったはずよ。
なんとか私たちも敵を退けることができたけどギリギリだったし、魔獣発生の原因があるんだから早いうちに叩いておくべきよね」
「しかし、強くてイケメンで大人気なんて世の中不公平だよなぁ」
「人気があった方が人も集まるし、士気も上がるんじゃないかな」
「それにしてもずりぃよな。
ちょっとくらい才能を分けてくれって話だぜ」
3人が話していると、ロレンスがアカを一瞥した。
「ほら、静かにしろって視線送られたわよ」
「なんで俺だけ」
ロレンスはすぐにアカたちから視線を外し、周囲のハンターたちを見渡しながら話し始めた。
「自分は今回の作戦の指揮をとるロレンスだ。
参加してくれたみんなに、まずは感謝を述べさせてもらう。
先日の魔獣襲撃の件は記憶に新しいと思うが、今から行うのはその魔獣発生源の調査がメインだ。
魔獣を見つければ全て狩るし、魔人が魔獣発生の原因であれば全力で滅ぼそうと思う。
何か質問はあるか?」
特にハンターたちで発言する者はいない。
「あのー、編成ってどうするんですか?」
何もないのもどうかと思われたので、アカが手を挙げて発言した。
「おっと、そうだったな。勇者くん、いい質問だ。
基本的には前衛と後衛、そして支援の3人で1チームだ。
今回は能力的にも大きく離れたメンバーはいないから、チームを組むのに支障はないだろう。
普段から見知った間柄であればそこで組むといい。
あぶれたメンバーは自分が能力を鑑みてどこかのチームに入れていく。
君たち勇者はそのまま3人で構わない。
では暫し編成の時間を与えるから、各自話し合って組んでくれ」
ロレンスの言葉を合図に、ハンターたちが一斉に動き出した。
「俺たちはこのままっぽいな」
「そうだね。
もしかしたら余ったメンバーが入ってくるかもしれないけど」
「おっさんはどうするんだ?」
「俺はロレンスと一緒だ。
あと1人後衛の魔術師も含めた3人で行動するつもりだ」
「ロレンスって人、見た感じ前衛だろ?
バランス悪くないか?」
「後衛が支援も兼ねているから問題はない。
それにロレンスも完全な前衛というよりは──」
「やあ、勇者のみんな」
「なんだロレンス、ハンターたちを見てなくていいのか?」
「まだ時間がかかりそうだし問題ないだろう。
まずは今代の勇者を一目見ておこうと思ってね」
ザグドルとの会話の感じを見ると、普段から親密な関係なのだろう。
「こ、こんにちは。ボクはアオです」
アオは若干萎縮している。
それもそのはず、ロレンスから放たれる圧にやられてしまっている。
「はじめまして、私はシロっていいます」
「俺のことはアカって呼んでくれ。
それにしてもあんた、かなり強いな」
実際にロレンスを目にして、アカは本心からそう言った。
アカとロレンスの視線が交差し、一瞬空白の時間が生まれる。
「そんな好戦的な視線を送られたのは久しぶりだからすごく新鮮だ。
しかし、どうだろう。
個としての強さを求められる状況のあれば、チームとしての強さを求められる場合もある。
自分も今は最強だとかなんとか言われていても、ポテンシャルで言えば君たち勇者の伸びしろが勝つんじゃないかな。
いや、君が求めているのはこうじゃないな。
単なる個人の技量で言えば、十中八九自分が勝つだろうね。こんなところかな。
だが悲観することはない。
いずれは君たちは自分なんかをはるかに凌駕することができるものを持っているんだから。
今回の作戦では、先人として君たちに教えられることがあるかもしれない。
少しでもそういうものがあれば吸収して強くなっていって欲しいかな」
「ああ、しっかり見させてもらうぜ」
「見られているなら自分たちも頑張らないといけないな、ザグドル」
「せいぜい給料分は働くとするさ」
「そろそろ編成も完了したみたいだから失礼するよ」
そう言うと、ロレンスは足早に集団の中に向かっていった。
「一目見ただけでも強いってのがひしひしと伝わってきたな」
「ボクたちも負けてられないよね」
「おっさんの勇姿もしっかりと目に焼き付けてやるからな」
「俺のことは参考にならないしあんまり見んなよな。
ロレンスだけ見ていればいい」
最終的な編成が完了し、チームごとにエリアを分けて森の調査および、魔獣の索敵・掃討を行うこととなった。
人数調整の結果、シロたちのチームには追加で1人参加することとなった。
「あっしはグレッグってモンで。
よろしく頼んますよ、勇者さん方」
やけに低姿勢な男がやってきた。
服装もボロ切れのようなものを纏っている。
各自挨拶を行うと、伝えられる範囲で自身の能力などを共有した。
「あっしは偵察や索敵に特化してますんで、戦闘能力はほぼ皆無でさぁ。
戦闘要員としては頭数に含めないでくだせぇ」
どうやらグレッグの服装もそういった偵察などに合わせたものらしい。
彼を一目見たときは3人とも浮浪者か何かと勘違いしたくらいだ。
だがここに居る以上、そこそこの能力を持ち合わせているのだろう。
ロレンスのチームがA、アカたちがBチーム、そしてGチームまでの計7チームの編成となった。
「ではみんな、向かうとするか。
っと、その前にコレを配っておく」
ロレンスから各チームに拳大の水晶玉が配布された。
「コレは?」
「コレらは連絡用の魔道具だ。
魔力を込めている間、他チームの水晶玉に声を送ることができる。
定期的に自分から各チームに指示を送る。
また、他チームの水晶玉には声が送られてきた方角が表示されるので、大まかな座標を知ることもできる。
緊急時の連絡にも使うから、少しでも危険だと感じたら救援を求めるか逃げるかを即座に選択してくれ」
ロレンスの声に全員が頷く。
「よし、では出発だ」
全容の明らかになっていない森に、彼らは潜っていくのだった。




