第47話 侵入
平成最後。
「くそっ、どんだけ来るんだよ!」
「知らないわよ!
ほら、また一匹来てる!
アオにターゲット向いてんじゃない、しっかりしなさいよ!」
「分かってるよ!
うぉらぁああああああ!」
シロの言葉を受けて即座にアオの元に移動したアカは、迫る魔獣の頭部を一刀の元に切り落とした。
切断面から血が迸りアカの身体を濡らすが、そんなことなど御構い無しに次の獲物へと移動を開始する。
現在アカは真紅の鎧を身に纏い、1メートルは優にありそうなバスタードソードを両手に構えて魔獣と戦っている。
なぜアカはこんなにも目立つ色の鎧を装備しているかといえば、それは敵の注目を集めるためだ。
赤色は敵に対しては怒りを引き出す効果があり、自らに対しては闘争心を引き上げるということで、アカはこのような鎧を選択した。
しかしそんな効果を上回る勢いで魔獣が次々と迫り来る。
スタンピードといっても過言ではない勢いだ。
それぞれの個体の強さは大したことはないが、その圧倒的な数が彼らの行動を鈍らせる。
加えて民衆を安全な所へ逃がし、時には守りながらの戦闘のため万全の状態ではなかなか戦えずにいる。
現在戦場となっているのは王国内の北門がある北地区だ。
検問もあり衛兵も配置されていたはずだが、魔獣の物量に押されて撤退しており、北門を閉じるには至っていない。
そのため門を抜けて魔獣たちが国内へ次々となだれ込んできている。
唯一の救いは、門以外からの魔獣の侵入がないことくらいだ。
王国の取り囲む高い外壁がしっかりとその役割を果たしているおかげで敵の侵入経路は北門に限られているため、アカたちはなんとか魔獣を国内に解き放たないように処理できている。
しかしそれもいつまで保つかは分からない。
これ以上の物量や壁を越えられるような飛行型の魔獣の出現、また壁を破壊するなどの門以外からの侵入が果たされてしまった場合は、アカたち3人だけではもはや手に負えなくなってしまう。
彼ら以外にも街の兵士が戦ってはいるが、お世辞にも役に立っているとは言い難い。
アカが一撃で倒せる程度の魔獣に、兵士3人でなんとか対処できているというところだ。
彼らが倒れてしまえばむしろ守るべき対象が増えてしまうため、状況が悪化しかねない。
勇者と比較すると戦闘力で劣るのは仕方ないが、それにも限度がある。
「この国の兵士の練度はどうなってんだよ……!」
アカは周りには聞こえない程度の声で、それでも怒りを最大限に声を上げながら魔獣を屠る。
「アカ!」
「なんだ!」
アオが声を上げたためピンチかと思いそちらに視線を向けるが、どうやらそうではなさそうだ。
「これじゃキリがないから、ボクの魔法で一掃する!
どうやら相手さんは北の森から一直線だ。
多分魔族が操っているんだと思うから、目にもの見せてやる!
発動まで時間がかかるから、アカは敵が散らないようにヘイト集めよろしく!」
そう言うとアオはさっさと魔法の詠唱に入ってしまった。
「魔法のタイミングはどうするんだよ! おい!」
「ギリギリで避けてくれたらいいから!」
「そんなこと言われても──っておわぁ!」
彼らが下らない茶番を繰り返している間に、魔獣に牙がアカのすぐ首元まで迫っていた。
「ロード、コンティニュアル ホーリーレイ!」
熱線が頭部を貫通し、魔獣がドサリと崩れ落ちる。
「バカ、何やってんのよ!
騒ぐのは全部終わってからにして!」
民家の屋根の上に陣取ったシロから檄が飛ぶ。
言いながらもシロに頭上に展開された光球から断続的に光線が降り注ぎ、魔獣を焼く。
「へいへい。
魔獣よりこえーよ。
ふざけてたら俺がシロに焼かれかねないな。
いっちょかますか、限界突破!」
アカの身体が金色の光に包まれ、次の瞬間には踏み込みにより砕かれた地面を残しアカはその場から消えていた。
少し離れたところで魔獣の頭部が宙を舞う。
そしてその頭部が地面に落ちきる前に次の魔獣も仕留められていく。
ギフトを発動させたアカを、魔獣たちはもはや目で追い切ることすらできていない。
気付いた時には視界が反転し、自らの頭部が切断されたことを知覚する間もないまま命を刈り取られていく。
超高速移動により群れから外れた魔獣を狩りながらも、彼らを混乱させてひとところに固定させることに成功していた。
「問題なく使いこなせてきてる。いい感じだ」
すでにアカには独り言を呟く余裕さえ出てきていた。
初めて限界突破を使用した後には激しい痛みに全身を苛まれていたアカだったが、何度かの発動により持続時間が反動を大きくすることがわかった。
そしてその後も幾度となく使用し続け、攻撃や移動の瞬間にのみ発動させる、いわば断続的な強化を可能とするまでに至っていた。
これにより限界突破の発動時間を短縮することができ、結果的にギフトを発動させながらの戦闘時間を大幅に延長することに成功した。
なおも魔獣は押し寄せてくるが、周囲の民衆の避難も完了してなおかつシロの援護射撃もあるため、勇者側が形成を逆転し始めた。
そんなアカたちの戦いを上空から眺める異形の影が一つ。
「勇者もこの程度ですか。
勇者の戦闘能力を見るために獣を解き放ちましたが、大したことはないですね。
ワタシの目的のためにはもっと強くなってもらわないと困るんですが、いかがしましょうかね。
厄介にも勇者を即座に消そうとしている同族もいますから、もう少し早く成長してもらえたらワタシとしても嬉しいんですけども。
かといって新作の魔獣をぶつけても彼らでは勝てるかどうか怪しいですし」
淡く青く光る骸骨の頭部に腕のない漆黒の身体を持った魔人は、悩むような素振りを見せる。
「まぁ、死んだら死んだで新しい対象を見つければ良いですね。
何やら大魔法を詠唱しているようなので、あれが発動されれば雑魚どもは一掃されてしまうでしょう。
そして安心しきったところに新作を投入してやりましょうか。
圧倒的な強者を前にした時の絶望が彼らを食い尽くしてしまうのか、それともそれを乗り越えて強くなるのか。
呆気なく死ぬのだけは勘弁して欲しいですね」
骸骨が不敵な笑みを浮かべるように動いた。
「きたぁ!」
「なげーよ! さっさと避難するぜ」
「メイルシュトローム!」
アカが即座に群れから離れ、それと同時にアオの魔法が発動すると、直径10数メートル級の水の渦がアオの前方に現れた。
それは上級魔法より上位の最上級魔法。
轟音とともに発射されたそれは、死体も含めた全ての魔物を巻き込み、そして切り刻みながら一直線に進み続ける。
魔法の進路上に存在する木々を巻き込み、石畳も抉り取りながら進み、最終的には北門をも破壊して遠くへ消えていった。
数キロ先にある魔物の湧き出る北の森にまでは至らなかったものの、アオの魔法により大半の同胞を殺し尽くされた魔物たちは、逃げ去るように北の森へ撤退していった。
それは魔法におびえたからなのか、はたまた彼らを操るものの指示なのか。
ひとまず当面の危機は去ったようだ。
しかし代償は大きく、魔法の余波を受けて周囲の民家は倒壊し、石畳は抉れ、北門に至っては完全に消え去っていた。
災害でも起こったのかというくらいの有様だ。
「ありゃー、やり過ぎちゃったね」
「やりすぎってもんじゃねーだろ!
どうすんだよこれ……。
北門が消えて、外壁に風穴空いたみたいになってるじゃねーか!」
「あはは……」
そうこうしていると、2人の元にシロも駆けつけた。
「2人ともお疲れ様。
なんか街の一角がめちゃくちゃになっちゃったけど、魔物は一掃できたから、めでたしめでたしでしょ」
「いや、これはやべぇって!
怒られるとかそんなレベルのもんじゃないって!」
「街は守れなかったけど人は守れたわ。
死者はいないはずよ。
人がいたらいずれは街は修繕されていくんだし、誇っていいわ。
街も人間も守るなんて、3人では難しいんだから」
「その成果がこの惨状でもか?」
「そう、これが私たちの成果よ。ヒドイでしょ?
この現状に心を痛めるなら、もっと強くならないと。
私たちにはこんなことで一喜一憂している時間はないのよ」
「……シロ、こっちに来てから結構変わったよな」
「そうかしら?
私は特に何も変わってないわ。
変わったのは周りの環境だけ。
人は与えられた環境で生きていくしかないのよ」
「そんなもんかね。
とりあえず戻って報告だな。
アオ、久々にあんな大きいのをぶっ放してたけど、大丈夫か?」
「結構ヘトヘトだよ。
ゲームだと大魔法を放っても敵が倒れるだけなんだけど、街の中なんて初めてだったし、その感覚で魔法を使ったら大惨事だね。
ひとかたまりになってくれたら楽にまとめて攻撃できるけど、ある程度敵が散った状態で広範囲に攻撃しようと思うと難しいね。
広範囲の状態異常系魔法が欲しいところだね」
「その辺りは追い追いって感じだな。
エリザ王女がまた魔道書を探してくれてるみたいだし、そういう魔法もいずれ手に入るだろ。
あれって所有者適性があるんだから、必要としていれば必要に応じた魔道書が応えてくれるって!」
「たしかにそうだけどさぁ。
この間魔道書から手に入れた魔法はコスパが悪すぎるんだよ。
ギフトと併せてやっと使えるくらいなんだから。
今のところ使う場面もないし」
「はいはい、おしゃべりはそこまでにしてさっさと戻るわよ。
ほら、言ってる間に急に暗くなってきたし」
そう言うとシロは歩き出す。
「暗く? おい、まだ昼間──ッ急いで離れろ!!!」
「「え?」」
何かを察知したアカは、すぐに動けない2人を構わずその場から弾き飛ばした。
直後、先ほどまで3人がいた場所に破壊音が響き渡り砂埃が舞う。
「アカ!」
吹き飛ばされた先でようやく状況を理解したシロが砂埃の上がる場所に向けて声を上げ、何かの直撃を受けてしまったアカはどうなってしまったんだろうと心配の視線を向ける。
「ぐぐぐっ……」
砂埃が晴れると、10メートルを優に超える巨体をもった魔獣が振り下ろした前脚の攻撃を、バスタードソードでなんとか持ち堪えるアカの姿があった。
「ロード、ホーリーランス!」
その姿を見たシロが考えるより先に魔法を繰り出した。
魔法は魔獣の頭部に触れるが、一瞬怯ませる程度の効果しかなかった。
しかしアカはその隙を逃さず、緩んだ前脚から即座に離れ、シロとアオの元に駆けつけた。
アカが2人を守る位置につき、魔獣を見据えながら後方に話しかける。
「すまん、助かった。
限界突破を切ってたら危なかったぜ」
「いいえ、私たちこそ。
それにしてもアイツ硬すぎでしょ。
特攻であるはずの光魔法があの程度なんて」
「あんな大きい魔獣は初めてだね。
しかし連戦とは参ったね……。
こんなことならさっきもう少しMPを温存しておくべきだったよ」
「そんなこと言っても始まらないわ。
私たちは全部全力でやんなきゃならないわよ」
「さっき受けたが、攻撃が重すぎる。
あのフォルムからしてスピードもヤバそうだし、飛行もしてくるよな……。
ひとまず俺が攻撃をなんとか止めるから、その間に攻撃を叩き込んでくれ」
「わかったわ、支援は任せなさい」
「ボクも全力で行くよ」
「グルル……」
魔獣は唸ってはいるが、攻撃を仕掛けてくる様子はない。
「アイツ、俺たちの行動を待ってるな。
野生の魔獣じゃなくて誰かが送り込んで、どこかから俺たちを見てやがるに違いない。クソッタレが」
「それなら万全な状態にできるじゃない。
いまからありったけの支援魔法をかけるから、防御は任せたわ」
シロが支援を全員にかけ終えると、魔獣は態勢を低くして臨戦状態に入った。
やはりシロたちの行動を待っていたようだ。
「じゃあ今回も勝つぞ!」
「ええ」
「うん」
「ゴァァアアアア!」
魔獣が吠え、二回戦が始まった。




