第46話 始動
すいません、4月があまりに忙しすぎて投稿が遅れました。
俺はオリビアとコルネオに対して、彼らがいない間に5人で話していた内容を伝えた。
「なるほど、そうですか。
勇者召喚自体は知っていましたが、異世界から召喚されているとは知らなかったですね。
手がかりがあるかもしれないので、クロさんのいたアースというのはどういった世界なのか教えていただいても?」
やはり、勇者召喚は王族のみの秘儀といった感じかねぇ?
「はい、構いません。
まず俺の居た世界は、恐らくですが神はいませんでした」
地球にはいままで神がいなかったのか、以前にはいたのか、それともアルスの世界の神話が地球に流れてきたのか。
どちらにしても地球とアルスの繋がりは昔からあったはずなんだよな。
勇者召喚だけの関係じゃなかったはずだ。
それが何千何万年前からあったかは不明だけど。
「……なるほど。
神がおられないという状況は俄かに信じられませんが、続けましょう。
だから無神論者と言っておられたのですか?」
「それもありますが、俺の世界ではそもそも神の存在を実際に見た人はいないと思います。
様々な神を崇拝する宗教はあったんですけど魔法が存在しない世界だったので、神の声を聞く手段はなかったはずですね」
神話とか宗教の神って何なんだろうな。
地球では人間が勝手に生み出したものだったとしても、こっちの世界のは実際に神がいるわけだしな。
「魔法が存在しない……?」
魔法に慣れているとそういう反応になるのか。
「はい、そのかわり科学が発展していました。
科学は何かと聞かれても答えにくいですが、あらゆるものが機械化されて、魔法以上に魔法的なことが可能な社会でしたね。
例えば手のひらに収まるサイズの機械で、全世界誰もが遅延なく相互連絡できたりとか。
俺の世界の言葉で『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』とはよく言ったものです。
この世界に来て魔法の便利さを感じながらも、それ以上に俺の世界は何をするにも効率が追求されて便利でした」
説明したけど、理解は難しいだろうな。
「なるほど、そうですか。
とても興味深い世界ですね。
機会があれば行ってみたいほどに。
おっと失礼、脱線しました。
ところで一つ気になりまして。
クロさんの世界には魔法という概念自体があったような話しぶりでしたが」
「そうですね。
それこそ、魔法というのは日常的にありふれた言葉でしたね。
それを使える人間は皆無ですけど」
「……」
コルネオが考え込む。
すると今度はオリビアが口を開いた。
「変な話だよ。
神がいないのに神を崇拝する宗教があったり、魔法もないのに魔法という言葉だけは使われていたり。
もともと交流があったんだよ、きっと」
オリビアの言葉で合点がいったのか、コルネオは再び話し出す。
「確かにオリビアの言う通りですね。
主神が上位世界と下位世界と区別して話されていたので、もともと何かしらの繋がりはありそうです。
クロさんの世界ではそういったことに関する文献などは存在していなかったのですか?」
あ、そういえば。
「いくつかありました。
情報元は少し怪しい感じでしたけどね。
俺がこの世界に来る前に原因不明の失踪事件が相次いでいたんですよ。
最終的に俺も巻き込まれたわけですが。
それで巻き込まれる前にそのことに関して色々調べていて、その現象は約500年周期で起こっていたということがわかったんですよね。
周期的に見てその全ては勇者召喚で間違い無いと思うんですけど、結局約1000年くらい前までしか文献は残っていなかったんですよ」
「そうですか。
太古の人類というのがどこまで過去なのか分からない以上、どこまで遡ればいいのか分かりませんね」
「こっちの世界に来てまた向こうに戻っている人がいたら、また違った文献や魔法に関する知識が向こうの世界に残っていてもおかしくないんですけど、そういうものは聞いたことがないですね。
主神が世界間移動と言っていたあたり、お互いの世界を行き来することは可能なんでしょう。
それを可能にするのが魔法なのであれば、元の世界に戻る手段もあるとは思います。
でも、この世界に来てまた向こうに戻ったという話を聞かないことが不思議ですね。
勇者召喚もしくはそれ以外の理由でこっちの世界にやってきた人って、この世界で天寿を全うしたんですかね?」
絵本でよくあるように、勇者が魔王を討伐して世界は平和になりましたって感じの話しか聞いたことがないんだよな。
「勇者が世界を救った後の動向を記載した文献は見たことがないですね。
勇者が魔王を滅ぼした後にこの世界に残って子をなしていたとして、勇者の血を引く人間がいるという話も寡聞にして聞いたことがないです。
そういった人々が居れば、勇者の結末を知ることができたのですが……」
「あれ、何の話をしていたんでしたっけ?」
話し続けていると、話の目的が分からなくなってしまっている。
「クロさんの世界のことから、勇者の最後はどうなったということですね。
これは直接的には世界崩壊を止めることとは繋がらないでしょう。
話を戻します。
主神様は我々人間の手で世界を崩壊から救えと仰っていましたので、無理難題を言っておられるわけでは無いと思われます。
人間が不可能なことであれば、ああいった言い方はされないでしょうから。
問題はどうやってそこに至るか。
ヒントは、太古の人間によって世界崩壊につながる何かしらの引き金が引かれたということ。
それが分かれば、対処することも可能でしょう。
そして何かを探せとも仰っておられましたね。
それを探すことができれば世界崩壊を止めることができるのか。
はたまたそこでさらなるヒントが得られるのか。
その何かが分かれば苦労はなかったのですが、困りましたね。
これ以上はお手上げです」
コルネオの言う通り、アラマズドが探せと言っているものは俺たちが既に知っていたり見つけることが可能なものってことだろう。
過去についての文献がないのであれば、人伝てに聞いていくしかないのだろうか?
「疑問なんですけど、過去に詳しい人がいたとしても何を聞くんですかね?
世界崩壊の引き金を人間が引いたと言われても、それを崩壊の原因として認識していなければ何も分からないんじゃ?
偶然にそれが現在の状況を生み出しているということも考えられますし。
過去に人間が大きな禁忌を犯して、それが世界崩壊につながったということであれば何かしら残っていてもおかしくないと思うんですけど、そんなこと聞いたことあります?」
「たしかに……。
そうなると本格的に手詰まりですね」
しばしの沈黙が流れる。
「エルフ」
沈黙を破り、ソフィアラがポツリと呟いた。
「お嬢様、どうしたんですか?」
「神さまが言ってたじゃない。
聞き取れた『ル』って言葉と、すごい過去の話ってこと。
そこから考えたら、知っていそうなのはエルフくらいよ」
そういえば、王国で王女様から聞いた話にエルフのことも含まれていたな。
「え、お嬢様はエルフに会ったことあるんですか?」
「そんなわけないじゃない」
ですよね。
ソフィアラは続ける。
「でも過去には存在したって話らしいし、長命と言われる彼らなら、まだどこかに隠れ棲んでたりするんじゃない?」
ソフィアラが視線をコルネオに向ける。
「たしかに。
既に滅んだという話もありますが、可能性としてはありそうですね。
私にはない発想でした。
まだ人間が触れられていない地域や遺跡への調査、過去の文献や歴史を扱っている部門へのお願いもしないといけませんね。
案外やるべきことが多いようです。
ここは我々大人が頑張らないといけないですね」
そこに俺たちができそうなことは少ないな。
「俺たちは何をしたらいいでしょうか?」
「そうですね。
まずは身を守る力をつけることでしょう。
いずれ戦いに巻き込まれる可能性も見ておかないといけません。
何よりクロさんを失うわけにもしけませんし。
あとは学園に所蔵されている文献を調べてもらいましょう。
これは学園に通うことができた特権ですね。
学園の大書庫には国の重要な文献が収められているという話ですので、なんとか内部の人間と繋がりを強くしていただいて閲覧を許可してもらえるように動いてください。
あいにく学園は独立機関のため、私の権限をもってしても書庫への侵入は果たせませんので」
「わかりました」
俺の発言に他の面々も頷き、同意の意思を表情に貼り付けた。
「ひとまずやるべきことは決まりました。
まず第一に学生の本分は勉強ですから、これは怠らないように。
ただの勉強とは考えず、生き抜くために必要なことと思って邁進してください。
その上で先程の内容を履行していけば良いでしょう。
そして何か進展があれば、すぐに連絡を取って情報を共有するようにしましょう」
「それがいいですね」
「ただ、連絡を取り合うとはいえ毎度こちらまで足を運んでもらうわけにはいきませんので、こちらで連絡用魔道具を用意して学園に送るようにします」
「それは助かります!」
ちょうど連絡用魔道具を買おうという話をしていたところだったし、タイミングがいいな。
「それでは皆さん、ここから世界崩壊を止めるべく動いていきましょう」
一つ一つ、やるべきことをこなしていこう。
教会を出れば、外はすっかり陽も落ちていた。
「魔道具店はまた今度だな」
「そうですわね。
寮食もありますし、今日はこのまま学園に戻る方向でも?」
「オレとアルは単についてきてただけだしな。
特にやることもないから大丈夫だ」
「私もお腹減ったし学園に戻って大丈夫だよ」
「そうね」
全員の同意が得られたので、行きと同様にジュリアーナの馬車に揺られて学園に引き返すこととなった。
「しっかし、エルフなんて本当にいるのか?
俺はこの世界の人間じゃないから、その辺りは皆目見当がつかないぞ」
「わたくしも話に聞くくらいですわ」
「ガルドの村って結構辺境って呼ばれるような場所にあるんだよな?
例えば絶対に立ち入ってはならない森だとか、そういう迷信じみた場所って心当たりがないか?
エルフは森の奥深くに住んでるって俺は勝手にイメージしてるんだけど、どうだ?」
エルフの噂がない以上、人間に紛れて生活してたらそれこそ噂を耳にしてもおかしくないわけだからな。
「確かに立ち入ることができない場所はある。
だがそれは魔獣がよく出るからだったり、単に危険な場所ってだけで禁じられていることが多いな」
そんな危険な場所にエルフが隠れ住んでるのか?
身体能力が人間よりも遥かに優れていたら、魔獣を飼って生活してるって可能性もありそうだけど。
「じゃあ、神聖な場所はどうだ?」
「オレには思いつかないな」
「神聖な場所ならいくつかあるんだよ」
今度はオリビアが口を開いた。
「お、そうなのか?」
「そうだよ。
神聖な場所っていうのは、大体が神の力が及んでいる場所を指すんだよ。
聖域って呼べばいいのかな。
例えばうちの教会。
あそこは元々は神が住んでいた社があった場所なんだよ。
この国の成り立ちも、教会を中心に大きく発展していったんだから。
神の力が及んでいるからこそ、魔獣もなかなか進入できないってわけ。
周辺の町や村が教会を建てるのは、神の力を一部でも借りられるようにして所謂魔獣よけの結界みたいな効果を得るためなんだから。
本来なら教会が国を支配できてもおかしくないくらいの権力があるんだよ。
まぁ、現在に至るまでに色々あったんだろうね。
そういった歴史は学園の書庫でも漁って調べてみるよ。
そんな感じで聖域があったら、人の手が介入しているはずだよ。
まだ見つけられていない場所もあるにはありそうだけどね。
だから聖域を探すのもお父さんにお願いしないとね」
「そうか、説明助かる。
じゃあ、アルの国はどうだ?
何か聞いたことないか?」
「うちも全然詳しくないな。
国を動かしているのは利権を貪る貴族たちだから、世界崩壊とか言っても探してくれたり動いてくれそうな感じもないな。
うちの実家も権力なんてまるでないし、手伝えそうにない。
オリビアのお父さんが色々動いてくれるといっても、国外まではなかなか力が及ばないだろう。
そこが問題だな」
「やっぱり帝国外までは難しいか。
人間の住む地域を全て網羅するとなると骨が折れるっていうか、そもそも無理だな。
というか今思ったんだが、この国は手伝ってくれないのか?
教会だけ動かなくても別にいいんじゃないか?」
「それも話そうと思っていたんでしたわ。
数十年前などであればまだしも魔族が活動を活発化してきてる現在では、そこに割く時間も人員もこの国にはないんですの。
それに世界崩壊などと言われても民衆は混乱するだけです。
神託があったとはいえ、現状それを素直に受け止められる人間は少ないと思いますわ。
世界崩壊と聞いても我々がまだいまいちパッとしてませんのに。
いつ起こるとも知れない世界崩壊よりも、対処すべきは目先の魔王復活の方が優先になってしまいますのよ。
加えてこの国を支配する王はあまりに冷徹といいますか、人間をただの道具としか考えていないような節がありますの。
民衆からすれば魔族と積極的に戦って守ってくれる良き王として映っていると思いますが。
そんな王が手伝ってくれるとも思いませんわ。
一笑に付して終わりですのよ」
ぐぬぬ……。
どうなってんだよこの国、というかこの世界は。
まぁジュリアーナの言うことも分からなくもない。
せめて王がまともな人間ならなぁ……。
ただでさえ時間も人員も足りないのに、どうすりゃいいんだよ。
こちらのリミットもアラマズドに聞いておけばよかったな。
数週や数ヶ月で世界が崩壊するとも思えないが、何十年も悠長にできるものでもないだろう。
ただそれよりも魔王復活の方が早いとは思うけど。
というか、まず崩壊のイメージが湧かない。
できることをコツコツとこなしていくしかないのか。
「ジュリアーナも助かった。
おっと、そうだ。
ジュリアーナって呼ぶの長いし、もうジュリでいいよな?」
「あら嬉しいですわ。
是非そうしてくださいまし」
「じゃあ私も短く呼んでくれてもいいんだよ!」
「オリビアはこれ以上短くできないだろ……。
しかし何も情報がない中で悩んでても始まらないな。
まずは学園に戻ってできることをしよう」
「そうね、調べ物とか訓練とかやることは多いけど。
私もクロを簡単にボコボコにできるくらい強くなるわ」
「俺がお嬢様に殺されそうなんですけど……」
軽い笑いが起き、少し緊張も和らぐ。
次から次に問題点が浮上してくるが、世界崩壊の危機だ。
全部やるしかないな。
シロたちも頑張ってるだろうし、俺も頑張らねーと。
あいつら元気でやってるかなぁ。




