第43話 新入
体調不良が長引きますね。
教室に戻ると、ガイダンスの授業が始まった。
席順は朝学校にきた時の通りだ。
授業内容は、これから受ける授業の担当の先生がやってきてその概要を伝えるというものだった。
魔法基礎から始まり、魔法操作、強化魔法、戦闘技能など。
ステータス一つ一つに関しても授業があり、実践形式のものが多い。
今回はさわりの内容だけなので、今の1時間と次の1時間が終わればガイダンス授業はほぼ終了だ。
そのあとは昼休みとなる。
ひとまず授業が終わって休み時間となった。
早速オリビアがやってくる。
「クロ、私だよ」
「いや、私だよって言われてもな……」
「この女は誰だ?」
「この女じゃないよ。
私にはオリビア=ライトロードって名前があるんだよ」
「それは悪かったな。うちは──」
アルに続いてソフィアラとガルドも自己紹介をする。
「オリビアにストーカー宣言されて困ってるんだ。
みんな何とかしてくれ」
「私はストーカーなんかじゃないよ。
クロは神の使いだから教会に所属するべきだと思うの。だからクロを誘っているんだよ」
「神の使い?
何を言ってるんだ?
クロはうちのだから渡さないぞ」
「お前のものでもねーよ」
そう言って、また胸を押しつけながら腕に抱きついてくる。
いいぞ、もっとやれ。
「アルベルタさん、はしたないですよ」
今度は誰だ。
「げっ、ジュリアーナ!
なんでこっちに来るんだ!」
紅い髪の女の子だ。
ジュリアーナって言えば……。
「ごきげんよう皆さん。
わたくしの名前はジュリアーナ=フリア=フレアマイナと申しますわ。
クロカワさんにお話があって参りましたの。
アルベルタさん、殿方にベタベタと接触するのは大変行儀がよろしくなくてよ。
さっ、離れな……さい!」
俺とアルがジュリアーナによって引き離される。
「もともとの知り合いか?」
「さっきの式で話したんだ。
ちょっと話しただけで、はしたないのなんの言われて」
「会話の端からはしたなさが漏れるって相当だろ」
貴族からしたらこういう女子はダメなんだな。
「ジュリアーナ、何してるの?」
オリビアが口を開いた。
オリビアは知ってるっぽいな。
「あら、いましたのオリビアさん。
ごめんなさいね、あまりに小さくて見えなかったですわ」
「むっかー!
会えばいつもチビチビって。
また昔みたいに虐められたいの?」
仲はあまり良くなさそうだな……。
「おいおい、喧嘩しにきたのか?」
「あら、申し訳ありませんわクロカワさん」
「クロでいいぞ。
それでジュリアーナ、本題は?」
「それではクロさん、わたくしの婿とおなりなさい」
「えっ?」
色々すっ飛ばし過ぎだろ。
「ダメダメ、ダメだよ。
クロは教会に入るんだから」
「そんなこと一言も言ってねーぞ」
「クロはうちのだって言ってるだろ。
後から出てきてそれはないぜ」
順番とかねーから!
「勝手に俺の所有権を争うんじゃねぇ!」
なんだって俺なんかを欲しがるんだ。
「クロ、モテモテね」
「まったく、羨ましい限りだなクロ」
ソフィアラもガルドも助けてくれる気はないっぽい。
側から見たら楽しそうなイベントなんだろうけど。
「助けてくれよ……」
ラノベの主人公にでもなった気分だ。
ずっとこんな面倒ごとに苛まれるのか?
しんどすぎるぞ。
「とりあえず理由だけ聞いておこうかジュリアーナ」
「理由なんて単純ですわ。
雌は強い雄に惹かれましてよ」
「本当は?」
「嘘はありません。
入学試験の内容を見ましたわ。
彼をコテンパンにしてくれてとてもスッキリしましたの。
彼とは幼馴染で、このままだとスペデイレ家に嫁がされそうなんですわ。
嫁ぎ先はもちろん彼ね。
そんな折に貴方を見つけて、結婚回避には貴方しかいないと思いまして」
うわー。
さらにスペデイレとの確執が深まるじゃん。
俺とスペデイレの個人間の話だから現状まだましだが、ジュリアーナも関わって家族間の話まで出てくるとまずいなんてもんじゃない。
「さらにスペデイレが拗れるだけだぞ」
「そうですわね。
でも、もともとかなり拗らせちゃってますわ。
あのような高慢ちきな男性は好みじゃありませんの」
「それを言うなら、俺のことは知りさえしないだろ。
俺は君が思うようないい人間じゃない。
それに平民だ。公爵家なんて俺からしたら天の上だ」
「そんなことありませんわ、見ればわかります。
貴方の周りには多くの人が集まっています。
悪い人間の周りに人は集まりませんわ。
憎たらしいオリビアさんもいるのが少し残念ですが。
それに身分差はここでは関係なくてよ」
「ここで身分差関係なしを出すのはずるいだろ。
この学校を出たら身分差が邪魔をするぞ」
「あら、完全には突っぱねませんのね」
「突っぱねたところで、諦めないのがお前たちだろ?」
アルとオリビアもついでに見やる。
こいつらは何かを諦めるなんてほとんどしない。
地球人とはまるで違うな。
地球は選択肢に溢れている。
だからこそ、それに甘んじて無駄をする。
裕福と言えばそれで片付くが、それも違う。
修正しなければ。
地球に戻ったら地球人のその考えを根本から叩き直さないとな。
ん……?
俺は何を考えているんだ?
なんだ今の傲慢な考えは。
「どうかしたか?」
ガルドが俺を覗き込んでいる。
「ああ、悪い。
こんな状況に陥ったのは初めてだからな。
ひとまず君ら3人のお誘いだが、全てNOだ。
結婚する気も、どこかに所属する気も、誰かと付き合う気も今はない。
俺の意思を尊重するなら、俺がYESと言うのを待てばいい。そうだろ?」
「たしかにそうですわね」
「そりゃないぜー」
「神の前に立てばその考えも変わるはずだよ」
三者三様だな。
「今の3人の発言を聞いただけでも、アルとオリビアはないな。ジュリアーナは理解がある」
「あら、嬉しいですわ」
「だが、それだけだ。
俺にはやるべきことがある。
それを置いてまで出来ることは何もない。
だから下手に気を持たせることはしない」
ここで授業開始のベルが鳴る。
「ほら、ベルが鳴ったぞ。席に戻りな」
「ええ、お昼ご一緒しても?」
この中で1番まともというか大人なのはジュリアーナだな。
「ああ、自由にしてくれ」
「では、また後ほど」
「私も行くからね!」
オリビアは子供だな。
ジュリアーナとオリビアの間に火花が見える。
仲良くしろよな。
「大変そうだね」
また新たな声に振り向く。
初日から何人に絡まれるんだ……?
「あ、いや、悪いね。
盗み聞きするつもりはなかったんだ。
ボクはスヴェン。
あ、名前は全部聞いてたから大丈夫だよ。
よろしくクロ」
「よろしくなスヴェン。
授業が始まるからまたあとでな」
「うん、また」
こいつはただのいい奴っぽい。
先生がやってきたので大人しく聴く。
今の所、授業中寝てるやつも喋ってるやつもいない。
初日だし、まだ友人関係も形成されてないからそれもそうか。
うーん。
なんだかさっきから頭痛がする。
風邪でもひいたか?
風邪なんて、魔力を活性化してたらほとんどひくことなんてないはずなんだけどな。
そのまま頭痛を抱えつつ授業を聴いていたが、授業の終了あたりで気づけば頭痛は無くなっていた。
気のせいか。
これが終われば楽しい昼食……とはならないだろうな。
面倒ごとに愛されすぎなんだよなぁ。
授業の終了を告げるチャイムが鳴る。
というよりイベント開始の合図か。
「クロ、お昼ご飯の時間だよ」
早速オリビアがやってきた。
後ろにはジュリアーナも見える。
「オリビア、どこか行くアテがあるのか?」
「ん、ないよ?」
「ないのかよ」
「この人数だと学内で済ますのがいいだろう。
外に行く時間もあまりないし、オレたちは学外のことはあまりわからないからな」
「じゃあ食堂に向かうか」
「そうね」
「じゃあ腹減ったから、すぐ行こうぜ!」
ほんとアルはテンションで生きてるなぁ。
「アルベルタさん……」
もはやジュリアーナに呆れられてる。
「行こうか」
俺たちは6人で揃って廊下に出る。
廊下にはスペデイレが待機している──なんてことはなく、スムーズに食堂にたどり着くことができた。
食堂は学生でごった返している。
これだけ人がいてもまだ席が埋まり切っていないのはすごいな。
各自食事をとって席に着くと、出身地などの話に花が咲く。
「ジュリアーナもオリビアも帝国民なのか?」
「そうですわね。
オリビアさんとは昔から何かと接触があるんですわ」
「でもオリビアって貴族じゃないだろ?」
「そうですわね。
ただオリビアさんはライトロード教会の教皇の一人娘なので、教会と懇意にしている関係上、忌々しいことに接する機会が多いんですわ」
「そうだったのか」
「そうだよ。
貴族よりも偉いらしいよ。
まあ身分とかはどうでもいいんだけどね。
今必要なことは、すぐに教会にクロを連れて行かなきゃってことだよ」
「連れてってどうするんだよ」
「聖堂に行けば私の身体に神を降ろすことができるから、何かしらの神託が下るはずだよ」
「神託って何だよ。神なんていないだろ」
普通に神降ろしとか言ってるし、オリビア怖いわ。
俺は神はいないと言いながらも、完全に神の存在を信じていないわけではない。
実物を見るまでは半信半疑って感じだ。
「どこにでもいるよ。
普通の人は見えないだけ。
その橋渡しをするのが、巫女たる私の役目なんだよ。
その影響もあってか、神に属するものを見れば大体わかるんだよね。
クロは神が発する光に似た何かを感じるんだよ」
オリビアの眼差しは真剣そのものだ。
地球でこんなことを言われたら一笑に付しているところだが、この世界のだと無碍にもできないんだよな。
オリビアの言が事実として、受難の神とかそんなんだったら笑えないなぁ。
「じゃあ機会があれば付いて行ってやるよ。
それでいいだろ、オリビア?」
「うん、言質が取れたから私は満足だよ」
これで面倒ごとのひとつは解決だな。
後回しにした感が否めないけど。
「俺が神の関係者なんて有り得ない話だと思うけどな。教会なんて俺にはよく分からん」
宗教なんて地球でも縁の無いものだったしなぁ。
「教会から呼ばれるなんて結構な栄誉だと思うぞ。
オレの村には教会はなかったが、教会があるだけで退魔の効力がはたらいて魔獣にも襲われにくくなるからな。教会の恩恵は絶大だ」
それは知らなかったな。
「心の拠り所だけじゃなくて現実的な効果もあるのか。それは有り難がられるな」
「わたくしも受けるべきだと思いますわ。
ただ、この凶暴なオリビアさんにあまり振り回されないことをお勧めします」
「なによ!」
ジュリアーナとオリビアの喧嘩も交えつつ昼休みいっぱいを食堂で過ごし、俺たちは教室へ戻った。
予鈴ギリギリで戻ったので、教室には俺たち以外は全員揃っていた。
教室に入るときに、またもや奇異の目を向けられる。
朝は4人だったのが気づけば6人に増えてるわけだからな。
目立つなぁ。
うちの女子4人は、容姿だけでいえばみんなかなり上位の方だしな。
授業が始まる前には、ジュリアーナとオリビアは俺の前の席に鎮座していた。
仲が悪いのかソフィアラとアルを挟んで座っている。
本格的に行動を一緒に取るっぽいな。
まあいいんだけど。
面倒ごとの集客性が高すぎるのだけ勘弁な。
「クロたちは目立つね。
いくつかのグループがクロたちの話をしてるのを聞いたよ」
後ろからスヴェンが声をかけてくる。
「やっぱりか……。
あまりいい意味で目立ってないよな?」
俺が接する人間の中で、今のところ客観的に俺たちを見てくれてるのは彼だけだ。
「そうかな?
そうでもないと思うよ。
みんな物珍しいって感じなんじゃないかな。
入学初日からグループで行動してる人は少ないしね。
ボクから見ても結構羨ましいよ」
「なら一緒に行動するか?」
「有難いけど遠慮しておくよ。
大人数は苦手だからね」
「たしかに7人となるとかなり行動に制限がかかるから、1人のほうが行動しやすいよなぁ。
寮生活だから結局どこかで接触は必ずあるし、常に一緒にいる必要もないしな。
ほらみんな、スヴェンだぞ」
「ちょっといきなり……」
また各自の挨拶が始まる。
初日ばかりはこの面倒な過程も仕方ないな。
「容赦ないねクロは。
でもその性格が人を集めるのかもね」
俺はゴキブリホイホイかよ。
程なくして授業が始まる。
授業内容は魔法の成り立ちなど基礎的なものだ。
まずは全員の知識を統一しようって感じかな。
大概は貴族なので、家庭教師によって教えることも異なるしな。
俺は図書館通いのガリ勉ボーイだったから、大きく外れた知識はないな。
普通っちゃ普通だ。
でもこの世界は普通だと淘汰されるんだよな。
地球では普通であることが1番まともで、可もなく不可もない人生を送れるんだけどな。
勉強は恐らく問題はないが、実践的な授業には不安がある。
剣術とか護身術などの一般的な訓練はあまり行っていないからな。
俺の場合ペーターとヴィクター、それとピエロが俺の先生に当たるのか。
濃い連中ばかりだ。
彼らによる肉体的な訓練は、行き当たりばったりのものが多かった、というよりそれしかなかった。
基礎からしっかりってのはやってないんだよな。
そこが弱点か。
剣術なんてあまり活用できてないし、スペデイレには手も足も出なかったしな。
やっぱり魔法メインで、ヴィクターみたいに格闘スタイルがいいのかなぁ。
魔獣相手だと剣が使えるが、人間相手だと攻撃を弾くくらいにしか使えていないし。
剣術も格闘術も両方できたらいいんだけど。
幸い、それらの授業もあるみたいだから積極的にやらないとな。
今のところ授業以外で学べるとすれば、格闘術はガルドからか。
剣術はスペデイレ……。
あいつが俺を毛嫌いしてるから難しいよなぁ。
さらにジュリアーナが追い討ちをかけようとしているし。
そんなことを考えつつ、昼からの授業を消化した。
今週1週間はオリエンテーションの意味合いが強く、まだまだ本格的な授業は行われないっぽい。
だから今のうちに帝国内を色々と見て回りたいな。
「クロ、今日はこれからどうするんだ?
どこか行くなら、うちもガルドも一緒に行けるぞ」
「そうだなぁ、帝国を見て回りたいってのはある。
ジュリアーナとオリビア以外の俺たち4人はほとんど街のこと知らないからな」
「ではわたくしがご案内致しますわ。
馬車も出せますし、効率的に回れると思いますわ」
「じゃあ教会にも行こうよ!
行動はなるべく早いほうがいいんだよ」
「オリビアさんもこう言ってますが、どうなさいますか?」
「まぁ、いいんじゃないか。
お嬢様もそれでいいですか?」
「構わないわ。
美味しいご飯のお店も色々知りたいから」
「じゃあ決まりだな。
ジュリアーナ、頼んでもいいか?」
「では早速、学園の正門まで向かいましょう。
魔道具で連絡しますので、馬車はすぐやってきますわ」
お、連絡用魔道具か。
「声でやり取りできるのか?」
「いえ、マナを込めると、それと対となる魔道具に信号として送られるだけですわ。
実際に遠隔地と会話で相互連絡する魔道具は、都市間や施設間で用いられる大型のものばかりなので、個人で所有できる小型のものはほとんどありませんわね。
わたくしが使っているものは所在がわかりますので、最低限それだけの機能があれば困ることはありませんわ」
「それってどこかで購入できるのか?」
「ええ。
オーダーメイドで時間がかかりますが、懇意にしている魔道具店にお願いしてみましょうか?」
「それは助かる。
なによりもそれが今必要だからな」
「まずは教会だよ。
私も買いたいものがあるから、その後みんなで行けばいいと思うよ」
「オリビアもこう言ってるし、それでいいか?」
全員の同意が取れたので、その方針で今日は動くとしよう。
俺たちは6人で連れ立って学外へと繰り出した。




