第42話 始業
風邪が治ったかと思いきや、B型インフルの追加攻撃!
筆者は倒れた。
「おはよー、クロ!」
「ああ、おはよう」
「どう? どうどう?」
アルがスカートをピラッとつまんで見せつけてくる。
アルが着ているのはこの学校の制服。
昨日までのパンツスタイルじゃないから新鮮だ。
「すごいな、なんか女の子っぽい」
「おいー!
うちはどこからどう見ても女の子だぞ!」
とりあえず無視だ無視。
「お嬢様もおはようございます」
「おはよう」
ソフィアラはばっちり決まっている。
美少女って何着ても似合うな。
「あとはガルドだけですね。
っと、きましたね」
「おはよう3人とも。
こんなきっちりとした服を着るのは初めてだから慣れないな」
制服を慣らしていない所為か、動きがぎこちない。
制服脱いだ方がいいんじゃねーの?
パッツパツやぞ。
「おはようガルド。
じゃあ4人揃ったし、教室に向かうか。
初日から1人で入るのはキツイからなぁ」
俺たちの集合場所は寮の出入り口付近だ。
待っている間に何人か通っていったが、結構チラチラ見られてツライ。
スペデイレが通る前にさっさと教室に行くぞ。
「ハジメ=クロカワ」
聞き覚えのある声が俺を標的にする。
はぁ。
お約束だよな。
基本的に俺の願いは聞き届けられないみたいだ。
「なんだよ、フランシス=フリア=スペデイレ。
今から教室に行くところなんだが」
「仮にも僕に勝ったお前が、何故Aクラスなんだ!」
「おいおい、往来で騒ぐなよ。
試験の結果なんだから俺も知らねーよ。
先生にでも聞いてくれ。
みんな行こうぜ。
じゃあなスペデイレ」
「待て、僕はあの結果に納得がいっていないぞ!」
なんだ、根に持ってんのか?
「なら俺の負けでいいよ。じゃあな」
面倒ごとは勘弁してくれ。
さっさと離れるが吉だ。
俺が歩き出したので3人も付いてくる。
「おい、なんだその態度は!
また絶対に戦ってもらうからな!」
大声を上げているスペデイレが遠くなる。
「クロ、放っておいて大丈夫なのか?
あの調子だとずっと絡んでくるぞ?」
「あいつと関わるつもりはないよ。
全部いなし続けるのみだ」
「それならいいんだが」
「俺以外に迷惑をかけてくるようなら、全力で叩き潰すよ。それでいいだろ?」
「はは、頼もしいな」
「クロならスペデイレなんてイチコロだぜ!」
あんまり人に聞かせられない発言だな。
「アル、その辺にしとけ。誰が聞いてるか分からん。
とりあえず、あいつが同じクラスじゃないのだけが救いだわ」
案内表示に従って俺たちは教室棟へ向かう。
教室棟に辿り着くと、袖章の色が異なる学生が目につき始めた。
おそらく上級生なのだろう。
袖章の色で学年を見分けられるみたいだな。
ここに来ても好奇の目は降り注いだままだ。
同級生からならまだしも、知らない上級生からも突き刺さる。
ガルドが大きいからなおさら目立つんだよな。
男女グループってのも関係あるのかもしれない。
無視するには多すぎる視線をかいくぐって進む。
1年生の教室は教室棟の5階に位置している。
1つの階層に1つの学年が全て入り、下の階層に行くほど上級生の教室となる。
毎日5階まで上がると思うと辟易とするな。
軽い筋トレじゃないか。
ショートワープできる魔法ってねーのか?
ワープこそ異世界魔法の醍醐味だっていうのに。
心の中で文句を垂れている間に教室にたどり着いていた。
なんだ、これでいいじゃん。
よし、これから毎日文句を言いながら階段を登るぞ。
スーハー、スーハー。
学園生活は最初が肝心だからな。
注意深くいくぞ。
「ばーん! みんなよろしく!」
俺が教室に入る前に心を落ち着けようと深呼吸してたら、アルが勢いよく扉を開け放った。
……。
バカだ。
バカがいる。
扉が打ち付けられる音に教室内はもちろん、廊下にいる連中もビックリしている。
「おま、目立つことすんなよ!」
「クロ、最初が大事なんだぞ!
インパクトのある登場が重要なんだ」
オワッタ……。
さよなら俺のバラ色学園生活。
アルと俺とは“最初”に対する考え方が全く違うらしい。
すでにアルの一派と思われているから、この悪印象は変えようがないな。
今まで受けていた好奇の目とは違う視線を受けながら教室に入る。
すでに同じAクラスの数人が部屋に入っており、みなバラバラに座っている。
初日からつるんでいるのは俺たちくらいか。
座席の指定はされていないので、2人ずつ前後で座れる位置に着席した。
俺とガルドが後ろ、その前にソフィアラとアルが座っている。
ソフィアラに後ろからちょっかいがかからないようにするのと、でかいガルドが前に行くと後ろに迷惑だろうというのを加味してこの座席順だ。
次々に入ってくるクラスメイトは、俺たちを遠巻きにして着席するのですごく居心地が悪い。
3人はふつうに話しているので、こう感じているのは俺だけなのか?
すでに問題児一味と思われていそうだ。
スタートダッシュをミスった感が否めない。
それもこれも……。
いや、アルのせいじゃないな。
全部スペデイレの馬鹿野郎のせいだ。
あれ、今頃あいつに腹たってきた。
殴りに行こうかな。
「──クロ、聞いてる?
不機嫌な顔になってるぞ」
「ごめんアル、考え事してて聞いてなかった。
で、なんだって?」
「属性ごとの選択授業どうするんだって話。
クロ以外は見事にバラバラだから、どうするのかなって」
「うーん、5属性使えるからなぁ。
複数受講できるなら全部受けたいんだけど。
医務室で話を聞いた感じだと、光属性は教会に入らないと教えてもらいにくいみたいだから光属性も迷ってるんだよな」
「オレは5属性も適正があったら使いこなせる気がしないな。
単一属性だけでも十分じゃないってのに」
「ガルドの思ってる通り、実際に複数あっても困るだけだぞ。
組み合わせたら強いのかもしれないが、選択肢が多くて器用貧乏になりかねん。
贅沢な悩みってのもわかるが。
1つの属性を極めるほうが楽だし強いと思うな」
「んー、うちにはサッパリだ。
ソフィは水属性だけ?」
「そうね。
ただ、信頼の置けない人には手の内を晒さない方がいいと思うわ」
「それもそうだな、気をつけるぜ」
「ソフィ、そんなに心配しなくていいと思うぞ。
1番多い適正は単一属性らしいからな。
複数属性持ちなら隠しておくのも吉かもしれないが。
クロの場合は5属性全部ぶっ放してるから、逆に読みにくいところもある」
「5属性に適正があるって珍しいのか?」
「珍しいも何も、オレは初めて見たな。
試験の勉強をしていて過去の偉人を調べたが、全属性を使えた者はそれこそ勇者くらいなもんだ」
勇者ねぇ……。
「もう見せびらかしてしまった限りは隠しようがないよなぁ」
「クロは今年の入学生で1番の有名人なんだ。
変な勢力からお誘いがあってもおかしくないよな」
「そうなんだよなぁ。
できれば静かに学園生活を謳歌したいんだが……」
「無理だろう」
「無理ね」
「無理だと思う」
「だよな……」
「皆、席につけ」
声がした方へ顔を向けると、スーツ姿でメガネをかけた細身で長身の男性が入ってきた。
エリートサラリーマンという表現がピッタリと合いそうな風貌だ。
このクラスの担任だろうか。
「私はAクラスの担任のセアド=クラフトマンだ。
魔道具作成を主な生業としていたところに、この学園から仕事をするように命じられた。
それが君達の担任という仕事だ。
私も君達と同様に、今年からこの学園に来た新米も新米だ。
だが、与えられた任務はしっかりとこなそうと思う。
質問があれば受けよう」
メガネをクイッとしながら25人を見渡すセアド。
えも言われぬ気迫に俺たちは息を呑む。
「特に無いようだな。
では点呼を取っていく。
呼ばれたらここまで来て封筒を受け取って席に戻ってくれ。
出席番号1番、ヨハン=セルロ=アネベルド──」
1.ヨハン=セルロ=アネベルド
2.ルシア=デラ=ベラトリア ◯
3.フェデリコ=バルマ=キャッスル
4.バート=バルマ=ダニエルズ
5.マリオン=セルロ=エスペラント ◯
6.ジュリアーナ=フリア=フレアマイナ ◯
7.アルベルタ=バルマ=グランドノット ◯
8.ソフィアラ=デラ=ヒースコート ◯
9.スヴェン=バルマ=インドラジット
10.ジュリエット=セルロ=ジャクソン ◯
11.ハジメ=クロカワ
12.オリビア=ライトロード ◯
13.エクス=マイン
14.ガルド=ノサラ
15.カロリーナ=デラ=オリバンダー ◯
16.サラ=セルロ=パーカー ◯
17.ダンテ=バルマ=クイーン
18.アレクサンドロ=デラ=レイノルズ
19.ネル=バルマ=サリンジャー ◯
20.フレデリク=セルロ=ティンバーレイク
21.トーマス=セルロ=アンブリッジ
22.イーニッド=バルマ=バレンタイン ◯
23.ヤコブ=デラ=ワイルデン
24.ヘルガ=セルロ=ザヴィアー ◯
25.ラウラ=バルマ=ユピテル ◯ ※女子 : ◯
最後の生徒が封筒を受け取り、席に着く。
ほとんど貴族だな。
そしてこのクラスは過半数が女子だ。
やったぜ。
あとは、伯爵以下の貴族が大半だな。
スペデイレと同じ公爵位も1人いるな。
スペデイレと同様に嫌なやつじゃないといいが。
貴族じゃ無いのは、出席番号11の俺から14のガルドまでの4人。
階級制度ありありの学校だったら確実に虐められてる人数差だ。
「全員に行き渡ったな。
中には学生証と授業のガイドライン、選択科目の申請用紙が入っている。
学生証は学園を自由に出入りするための通行証としても働く。
常に身につけておいてくれ。
今から入学式および始業式を行う。
貴重品と学生証だけ持ったら、出席番号順に廊下に並んでくれ。
封筒など他の荷物は置いたままでいい。
では向かうとしよう」
俺たちは言われるままに廊下に並ぶ。
他のクラスも並んでおり、すでに出発しているクラスもある。
入学初日で友達関係が形成されていないということもあり、前後のクラスメイトで話をするということもない。
アルとソフィアラは出席番号も隣だからいいよなぁ。
チラッと後ろのガルドを見る。
やっぱデケェわ。
どうした、とでも言いたそうな顔だ。
落ち着いていないのは俺だけか?
ガルドから視線を戻す過程で、ひとつ後ろのオリビアと目が合う。
金髪に金色の瞳。
めっちゃガン見してきてる。
こっわ。
俺、この娘になんかした?
名前から貴族でないことがわかるが、不思議な印象だ。
さっと視線を離す。
前方が歩き始めたので俺もそれに続く。
5階から階段を下るが、前方が混雑しているのか進行は遅い。
式が終わったらまたこの階段を登るのか?
じゃあ、まず始めに式をやってくれたらいいのに。
また文句を言いながら登るのはやだなぁ。
「ねぇ」
はぁ。
後ろから声がする。
オリビアだな。
無視して交友関係を損なうのは勘弁だから、仕方なく振り向く。
「なんだ?」
「私はオリビア=ライトロードだよ。
あなたに興味があるから話しかけたの」
第一印象は、変な娘だ。
「そうか。
俺はハジメ=クロカワだ。
呼び方はクロでいいぞ。
みんなそう呼んでくれてる」
「わかったよクロ、よろしくね。
私のこともオリビアでいいよ」
「ああ、よろしくオリビア。
で、何か聞きたいことでもあるのか?」
「じゃあ早速本題だよ。
試験を見たんだけど、クロは5属性に適性があるよね。神の使いか何かなの?」
神の使い?
この娘は何を言ってんだ。
変な娘じゃなくて、頭のおかしい娘だった。
「そんなわけないだろ。
神の使いなんて聞いたことないぞ。
どこからそんな話が出てくるんだ?」
「だって勇者でもなければ貴族でもないんでしょ?
だから、そんなに属性に恵まれているのは神の使いくらいしか考えられないんだよ」
「考えられないんだよって言われてもなぁ。
王国の中でも僻地の生まれだから、平民も平民だ。
それに申し訳ないが、俺は無神論者だ。
信仰心もない男に神の恩恵なんてやってこないよ。
なんかの間違いだろ」
「そんなことない。
クロには神の加護があるはずだよ」
オリビアはどうしても俺を神の使いにしたいらしい。
「おい、そろそろ会場だ。 話は後な」
「もー、絶対だよ」
大講堂のような場所にやってきた。
扉をくぐると中は薄暗い。
前方の壇上だけが光に照らされている。
前に続いてクラスごとに指定された座席に座っていく。
1年生が1番前の席で、後ろに行くほど上級生が並ぶ座席順となった。
ざわざわとしたまま少しの時が流れる。
そのまま待っていると壇上の端から初老の男性が現れた。
男性が壇上の中央に辿り着いた時には、すっかり静まり返っていた。
「一年生諸君、入学おめでとう。
私はこの学園の長、カイザー=フリア=ゴールドハウトだ。
今年は入学生の平均的な潜在力は驚くほど高い。
入学者諸君は入学できたことを誇って良い。
君たちには入学して早々で悪いが、魔王の復活も近いこともあり悠長な授業内容は用意していない。
戦闘訓練もすぐに始まることだろう。
かなり厳しいことを要求するかもしれないが、挫けずについていってほしい。
君たちには、すでに様々な訓練を経た先輩がいる。
何かあれば気兼ねすることなく彼らを頼るといい。
長くなったな。
私の話はここで終わりだ。
あとは新入生代表に挨拶をしてもらって、始業式に移ろう。
出てきたまえ。
新入生代表、フランシス=フリア=スペデイレ」
おー、あいつか。
せめて俺に向けたメッセージとかはやめてくれよ。
スペデイレが壇上に上がって学園長と握手をしている。
そしてマイクの前に立つ。
「ただいま紹介に預かりました、フランシス=フリア=スペデイレです。
新入生代表という光栄な立場に──」
途中からはあまり覚えていない。
というより聞く気がなかった。
スペデイレが俺個人を中傷するようなこともなかったのでほとんど聞き流した。
そのあとは始業式もつつがなく進み、気づいたら学園長が最後の挨拶をしているところだった。
寝てたわけじゃないけど、下を向いて過ごしてたら一瞬だった。
さあ、式は全て終わったしさっさと戻るぞ。
階段を登るのにも毎回気合を入れないといけないしな。
上級生から大講堂を出て、ようやく新入生の番が回ってきた。
Sクラスから立ち上がり、俺たちの前を通り過ぎていく。
途中スペデイレと目が合う。
めっちゃ睨んでた。
ほんとめんどくさい。
1発叩きのめして静かになるならそうするが。
AクラスもSクラスに続く。
「ねぇねぇ」
大講堂を出るや否や、オリビアから声がかかる。
歩きながらだから、軽く顔を向けながら進む。
「ずっと寝てたでしょ」
「ああ、そうだよ。
こんなやつを神は見ちゃいない。
だからいい加減、俺に何かを期待するんじゃない」
「……」
「どうした?」
「ううん。
クロが何を思おうと自由だよ。
いくら否定してもすぐに分かるんだから。
私はクロをずっと見てるよ」
「こえーよ!
ストーカー宣言とかやめてくれ。
何がそんなに俺を神の使いたらしめてるんだよ」
「私には見えるんだよ、色々とね。
そしてクロは何かを授かってる。
これは間違いないよ。
その色までは見えないけどね」
また金色の瞳で俺を射抜いてくる。
授かってるって……。
もしかしてギフトのことか?
この娘……。
「なに?」
危険だな。
「いや、何でもないよ。
ただ今後、神の使いとか言うのはよしてくれ。
確定してないんだろ?
確定したなら別にそう呼んでくれて構わないが、それを聞いて俺を害そうとする輩が来るかも知れん。
わかったな?」
「りょーかいだよ。
クロも神の目にかなった行動をするんだよ。
神はいつでも見てるよ」
この娘もまともに関わったら危険だな。
どうしてこうも面倒なやつらばっかりなんだ。
今度はひたすらオリビアが話しかけてきたので、階段を登る時間をしっかり体験させられた。
オリビアうぜぇ。
今まであまりキャラの名前を出してこなかったことを反省して大量にキャラを出してしまった。
さすがに全員にスポットは当てられないですね。




