第40話 油断
戦闘シーンが描きたかったんだ……。
「まずは俺たちだな。
俺たちは王国の出身だ。
俺はお嬢様の屋敷で働いていたところにお嬢様の学園入学の話を聞いて、護衛という立場で付いてきたんだ。
あれ、特に話すことがないな。
俺からは以上かな」
「次はうちだな。
うちはベリア公国の出身だ。
男爵位といっても領土も狭く、このまま何も武功を立てられなければ爵位も取り上げられそうな現状で、親としては結果を残して欲しくてこの学園に送り出したんだと思う。
来て早々にクロとか強いのに会えたのはツイてるな。
ガルドも一瞬で試合を決めてたし。
みんなと一緒に学んでいけたら嬉しい。
うちからは以上!」
「最後はオレか。
オレは帝国領の最西端、アーラス村の出身だ。
場所は王国との国境付近だから、帝国よりは王国の方が近いかもな。
肉体には恵まれていたこともあって、成人して軍役を終えてからはハンターとして生計を立てていた。
でも限界を感じてな。
魔法も使えないわけではないんだが、あいにく教わる機会が少なかったから学園の門戸を叩いたわけだ」
「なるほどな。
軍役って何年なんだ?」
「オレたち外の人間は1年だ。
村で男手を失うのは痛手だから1年でも結構キツイんだがな。
そのあとハンターとしては2年弱やってたから今は18歳になる。
だから周りより老けて見られても文句は言えないな。
オレの自己紹介はこんなところだな。
年上だがよろしく頼む」
まじか。
俺より若かった……。
「ああ、ガルドはこう言ってるが俺は20歳だから、この中では1番年上になっちまうな。
ま、年齢とか気にせずこれまで通り接してくれ」
「了解した」
「私は15歳ね」
「うちは15歳だぞ。
というかクロ、年上だったのか!」
「なんだよ」
「なんでもないぞ」
アルは俺を見てニヤニヤしている。
この娘はどうしたんだ?
「はいはい。
とりあえずクラス分けで全員一緒だといいな。
明日はみんなどうするんだ?」
「オレは特にやることを決めていないな。
やってもトレーニングくらいだろう」
「まさか受かるとは思ってなかったから、うちも特に予定がないな!
何かするなら一緒に連れてってくれると助かる」
「お嬢様、どうします?」
「そうね、じゃあ──」
ソフィアラが俺たち3人を見渡す。
「──試合の続きをしましょう」
まさか、まだアルをボコり足りないのか……?
昨日のソフィアラの発言から、次の日俺たちは演習場を借りて模擬戦を行うことになった。
ソフィアラの真意がわからない。
演習場の利用許可自体は、学校に申請を出したらすぐに降りた。
ここの学生による演習場の利用は珍しいことではないらしく、広い演習場のいくつかはすでに使用されている。
ただし戦闘区域が壊れる度に修繕してはもらえないので、壊れたら壊れっぱなしだ。
あまり無茶はできない。
演習場の利用後は、報告をしたら修繕をしてくれる。
防衛障壁は、設置された魔法陣にマナを注げば展開することが可能だ。
「クロにも言われてるから、あんまり壊さないようにしないとな!
今度は勝つからなソフィ!」
「ええ、私も頑張るわ」
「いつでも開始していいぞー」
俺はソフィアラとアルに声をかける。
俺の言葉を合図に模擬戦が開始された。
「じゃあ早速!
ロード、ロック ゴーレム」
アルは自分の前方にゴーレムを形成し始めた。
大きさは3メートルほど。
前回とはスタイルを変えたか。
「ロード、 スプラッシュ」
ソフィアラは時間をかけて魔力を込め、広範囲に霧を発生させる。
ここでアルのゴーレムが完成し、ソフィアラに攻撃を仕掛ける。
「ソフィ、前と同じようにはいかないからな!」
ゴーレムが殴りかかるが、それほどのスピードは無い。
ソフィアラはゴーレムの攻撃を難なくを回避してアルに向かう。
「ロード、ロック バレット」
アルが石礫を放つ。
ソフィアラの行動を妨げるように攻撃を撒いているため、容易に近づくことができない。
ステップでアルの攻撃を躱す。
その間にもソフィアラにゴーレムが詰め寄る。
ソフィアラはゴーレムの攻撃にも対処しないといけないため、なかなかアルに近づくことができない。
今回はアルの立ち回りがうまいな。
一方的にアル側が攻撃し続ける状況が続く。
「ロック バレット!」
何度かの攻防を繰り返し、ついにソフィアラの回避に合わせてアルの攻撃が届く。
キィィン──
が、ソフィアラを纏う霧が氷壁に変化してアルの攻撃を逸らした。
「くっそ、霧も盾にできるのか!」
なるほど、あれならガントレットに水を纏わせなくても全方位に壁を作れるな。
ソフィアラはさらに霧から氷のナイフを作り出してアルに投げつけた。
「あぶね!」
アルは大きく仰け反って回避。
その隙を逃さずソフィアラは足元に両手をついて魔法を展開する。
「ロード、フラッド ウォーター」
突如ソフィアラの足元から渦を巻きながら大量の水が溢れ出し、戦闘区域を侵す。
見ると、すでに足首ほどまで水で浸かり始めている。
その水の勢いに、ゴーレムもアルも足元を取られてバランスを崩す。
その隙にソフィアラはアルに迫る。
水場を作ればソフィアラの独壇場か?
ソフィアラは動き出すと同時にアルの足元の水を氷に変化させた。
これでアルは回避が取れなくなった。
「くそ! ロード、ロック アーマー!」
アルは即席で岩鎧を形成し、迫るソフィアラを逆に殴りつける。
ガッ──
これにはソフィアラも周囲の霧を全力で氷壁に変化させて防御するしかない。
アルの攻撃を受けてソフィアラは後退する。
ソフィアラはゴーレムを一瞥すると、動き出そうとしていたゴーレムの足元も氷に変化させて動きを封じた。
「ロード、ウォーター ジェイル」
動きの取れなくなったアルに向けて、周囲の水場から水の鎖ようなものが何本も伸び、アルを縛り付けた。
「な、なんだこれ!」
それらも即座に氷に変化する。
「ロード、ロック バレット!
ロック バレット!
ロック バレット!」
動きを封じられながらもソフィアラに向けて攻撃を放つが、その悉くが氷壁によって阻まれる。
またソフィアラのさらなる追い打ちで、ほとんど動けなくなったアルの足元から水が這い上がり、覆われたさきから氷に変化していく。
アルを縛り付ける氷にも攻撃をするが、氷による侵食の方が速い。
そしてたいした時間もかからず、最終的にアルの首より下は全て氷に覆われた。
これでアルは一切の身動きが取れなくなってしまった。
あれま。
今回はソフィアラの完封勝ちだな。
アルも最初の立ち回りは良かったんだがなぁ。
「続ける?」
「くっそー! うちの負けだ!」
「そう」
ソフィアラの声に合わせて氷が砕け散り、水も消滅した。
終わりを見届けて、俺も防衛障壁を解除する。
「2人ともお疲れ様」
「見事な戦いだった」
「うぅ、また負けたぁ……」
「最初は危なかったわ」
今回の戦闘を見て、攻撃手段を複数持っているのは大事だと思ったな。
結局ソフィアラは何がしたかったんだろうか。
「お嬢様、戦った目的はなんだったんですか?」
「色々試せるうちに試そうかなって。
アルは良い練習相手になると思ったのよ」
「今回はうちの完敗だったじゃないかー。
イジメるのはひどいぞ、ソフィ」
「イジメてないわ。
アルはお友達だけど、競い合えるライバルでもあると思っているわ」
俺も最初は普通にイジメたいだけかと思ってました。
さーせん。
「なーんだ、そんなことなら仕方ないな!
戦いたかったらいつでも言ってくれていいからな」
アルはほんとチョロいな。
「じゃあ次はクロとガルド。
終わったら反省会ね」
俺もやるのか……。
「ガルド、大丈夫か?」
「オレは構わない。
というより大歓迎だ。
よろしく頼む」
「了解。
じゃあお嬢様、防衛障壁をお願いします」
俺とガルドが戦闘区域に入る。
ちらっと上を見ると、観客席に人が増えている。
見られてるっぽいな。
いつのまに増えたんだか。
ガルドはジャンプしたり身体をほぐしたり、戦闘準備に入っている。
これだけ見られてる中で防陣は使えないな。
ペーターに防陣使いすぎと注意されながらもコレに頼ってばっかりだから、なるべく使わずにいきたい。
あとはソフィアラみたいに広範囲の空間干渉ができたらいいんだけどな。
今の俺にはまだ無理だ。
気づけばガルドは動きを止めている。
「クロ、オレは準備完了だ。
いつでもいいぞ」
「俺も大丈夫だ。
合図で始めよう。
アル、開始の合図頼んだ!」
「りょーかーい。
んじゃま、おふたり構えて構えてー。
試合、開始!」
第2回戦の幕開けだ。
「「ロード!」」
2人同時に魔法を展開し始める。
「リジッド ボディ」
ガルドは身体強化か。
物理攻撃は効きそうにないな。
「ロード」
ガルドはさらに続ける。
俺の方はガルドを殺すわけじゃないので、そこまで魔力を込めない。
「ディレイマジック」
魔法陣の展開保持が完了する。
色は緑、風属性だ。
まだガルドは動かないため、俺も続ける。
ガルドは4つの身体強化魔法を発動、俺は遅延魔法を3つ待機させたところでガルドが動いた。
まずは直線的な突進からの──
──右!
俺は咄嗟に右に避ける。
左に逃げたら振りかぶりからの追撃の回し蹴りなどが来る可能性がある。
予想通り、まっすぐ俺を狙った拳。
しかし俺が右に動いたことでガルドは一瞬追撃に逡巡を見せた。
俺はガルドの空いた左わき腹に蹴りを叩き込む。
そして即座に離れる。
俺の攻撃にやや遅れてガルドが左腕を振るうが、あいにくの空振りだ。
ガルドがこちらに向き直る。
俺が蹴った場所を確認することもしないな。
やはりダメージはほとんどなさそうだ。
俺の物理攻撃は、身体強化した肉体には通らないようだ。
身体能力の向上と身体強化魔法の習得が急がれるな。
「どうしたクロ。
魔法は撃ってこないのか?」
ガルドの攻撃は読める。
まぁ向こうも全力ではないだろうが。
「ちょっと考え中だ」
「そうか。
なるべく早く考え終わってくれるとありがたいな。
ロード」
ガルドの足元に緑色の魔法陣が浮かび上がる。
同じ風属性か。
2年ハンターをやっていた分、風属性ならあっちの方が上かもな。
厄介だな。
今度は走らずに歩み寄るガルド。
俺もガルドに合わせて等距離を保ちながら動く。
単純な突進の方が御しやすいんだがな……。
しばらく睨み合いを続け、突如ガルドの右足に力が篭る。
均衡を破ったのはガルド。
その右足の踏み込みだけで俺に迫る。
「ハリケーン ナックル」
ガルドが拳に竜巻を纏い、アッパーカットの要領で拳を打ち上げる。
俺は追撃を恐れて後ろに飛んで退がる。
が、これがまずかった。
飛び上がったところを竜巻の勢いで掬い上げられた。
俺は上空にふわりと浮かびあげられる。
ガルドの拳は大きく外れたが、俺の行動を阻害するには十分だった。
空中で俺が回避行動に移ることなど不可能。
ガルドは目の前の獲物に対して、振り上げた拳を全力で振り下ろした。
「リリ──」
俺が唱え切る前に、ガルドの竜巻を纏った拳が俺の腹に突き刺さった。
俺は地面に叩きつけられ、ボールのように跳ねて壁に激突する。
「が……」
大量の血が口から溢れる。
痛みで何が何だか分からない。
肋骨は……確実に折れているな。
俺が苦しんでいるところにガルドが近づいてきているのを、目の端に捉えた。
ボヤける視界に、ガルドが両手に竜巻を纏っているのが見える。
そうか、まだ終わっていないか……。
痛みが激しすぎてさっさと終わらせたい気持ちの方が大きいが、ガルドは終わりとは思ってくれていないようだ。
ガルドもこの程度で俺が倒れてたら拍子抜けだよな。
そうだよな、こんな痛み程度で諦めてたらソフィアラを守ることなんてできないもんな。
今まで防陣に頼りすぎて、痛みに免疫がなさすぎた。
その結果がこの状況だ。
確かに痛みはある。
動けばさらに痛みが増すこともわかる。
だが、まだ──動ける。
心は痛みに屈しそうだが、ヴィクターの修行に比べたら屁でもない。
この世界にきて、俺は変わったんだ。
もう以前のようにソフィアラに情けない姿を見せるわけにはいかない。
なんとかしてこの状況を、打開する。
「クロ、これで終わりか?」
言いながらガルドが接近する。
俺の油断や慢心がこの状況を招いた。
おそらくガルドは警戒しつつも、油断もしている筈だ。
なら、この状況は五分。
いや、ダメージを負っている俺がやや劣勢か。
たぶん痛みなんて、この程度の差だ。
そろそろ決めにかかってくる頃だな。
ガルドはさっき右足の勢いで突進してきた。
利き足は右だろう。
攻めるのはガルドが回避できないタイミング。
ガルドが歩み寄りつつ右足を上げた瞬間──
「リリース オール!」
「っ──!」
解放したのはバーストエア。
3発の圧縮空気弾。
防御する前に全てがガルドの身体に刺さり、吹き飛ぶ。
殺すつもりなんてないと言いながらあまりマナを込めていなかったのは失態だ。
攻撃性の低い魔法を選択したのもまずかった。
だがここからは本気でやる。
常に実戦だと思わなければ足元をすくわれる。
現にさっき足元をすくわれたばかりだ。
「ロード」
立ち上がりながら魔法を展開する。
口からさらに血が溢れる。
胸腹部に激しい痛みがあるが、知ったことか。
俺が死なずに、相手が倒れてさえいれば勝ちだ。
ガルドが反対側の壁に叩きつけられる。
これで終わるはずがない。
予想通り、即座に立ち上がるガルド。
俺に戦意があることを確認したガルドは、そのまま俺に向かってくる。
これからガルドには確実に隙を作ってもらう。
初見殺しだが、出し惜しみなんてしてられない。
ガルドの攻撃がヒットするその瞬間まで魔力を込め続ける。
全てがスローに感じる。
危ない状況になればなるほど思考は冷静になっていく。
まったく、やばい状況にならないとまともに動けないのか俺は……。
先ほどの俺の攻撃でガルドの両手の竜巻は消失していたが、走り寄りながらガルドの右拳に再度竜巻が纏われるのが見えた。
ガルドも余裕がないと見える。
俺は痛みのためこの場を動けない。
ガルドの目には、一発逆転を狙う俺の姿が映っているだろう。
だから小細工はしてこないはず。
ガルドの攻撃を待つ。
巨大な風の塊をイメージして魔力を込め続ける。
一秒一瞬が長い。
そしてついに、俺を叩き潰すための全力が振るわれた。
まっすぐ俺の身体の中心を射抜く一撃。
ガルドは俺を侮ることなく攻撃をしてくれている。
今回ばかりはとてもありがたい。
俺は予測した軌道に左掌を重ねる。
パン──
軽く乾いた音が響く。
「バースト ウィンド」
驚く暇さえ与えず、ガルドの腹に右手で魔法を叩き込む。
魔法を発動する直前、極限まで圧縮するイメージを忘れない。
これが俺の今出せる全力。
俺とガルドの間で、風が──弾けた。




