第39話 再始
話の切りどころが分からなくてどんどん長くなる……。
アルメイダルの案内によって、俺たちは大講義室にやってきた。
皆、思い思いの席に座る。
「合格者諸君にはこれから寮に入ってもらう。
諸君らはここで5年間過ごし、あらゆる戦闘・魔法訓練を経たのち、民を守る職務に就いていくことだろう。
だが戦いだけが全てではない。
他者との協調性も育むべき重要な能力だ。
寮生活はそういったことを学ぶのに最適な場所だ。
そういうことに留意して生活してほしい。
では、今から配る封筒に自室の鍵と生活上の注意事項が記された書類を入れてある。
よく目を通して自室へ向かってくれ。
それとクラス分けについてだが、追加試験合格者も含めて検討するため確定はまだだ。
そのため、これは追って伝えることとなる。
実際に授業などが始まるのは明後日だから、それまでには伝えることができるだろう。
では、ここで解散だ。
ああ、追加試験の内容を見学したいなら演習場向かってくれても構わない」
アルメイダルの言葉を受けて、合格者もとい同級生たちはゾロゾロと移動を始める。
さて、どうするかな。
「ハジメ=クロカワ」
声のした方をみると、アルメイダルが俺を呼んでいる。
「俺?」
「ああ、君だ。
少し話があるからこっちへ来てくれ。
なに、すぐ終わる話だ」
「お嬢様、すぐ終わるとは思いますが待たなくても結構ですので。
というか、寮に行くならそもそも待つ必要ないですね」
「いいわ、待ってる」
「じゃあ超特急で終わらせてきます」
早足でアルメイダルの元へ向かう。
「はい、何でしょう」
「先にこういうことを伝えることは本来いけないのだが、成績で言えば君は最上位のSクラス、ソフィアラ嬢は上から2番目のAクラスになる予定だ。
逆は不可能だが、上のクラスから下のクラスへの移動は可能だ。
君は彼女の護衛という立場だから、望むのであればAクラスに移動も可能だ。
どうする?」
ああ、そういうこと。
なら考えるまでもないな。
「じゃあ、Aクラスに移動でお願いします」
「学園にいる限りは基本的に安全は確保されているようなものだ。
無理に護衛という立場にこだわることもないはずだ。
よりレベルの高い同級生に囲まれて教育を受けたければSクラスに残ることも悪い選択肢ではないと思うのだが。
本当にそれでいいのか?」
「ええ、構いません。
教えていただいてありがとうございます」
「そうか。
それならクラスの移動を認めよう。
私から伝えることは以上だ」
「はい、ありがとうございました。
では失礼します」
「おっと、そうだ。最後にもう一つ。
君の筆記試験の最後の回答。
珍しい名前を書いていたが、あれの理由を聞いてもいいか?」
「……?」
「その胸元の魔法陣が関係しているのかな?」
この男……。
アルメイダルを睨む。
「変に構えなくとも良い。
これは私の単なる好奇心だ。
聞いたからといって、私はそれを悪用することはしないさ」
「これのことはご存知なんですか?」
俺は胸元を指差して質問する。
「ああ、知っている。
魔導書を継承した者は身体のどこかに特殊な魔法陣が刻まれる。
肉体刻印魔法とは魔法の発動形態が少し異なるため、
その魔法陣をよく観察すれば理解できる者もいるかもしれないな。
こういったことは学園に通っていれば学ぶ機会もあるだろう。
ひとつ言うとすれば、魔導書の継承者ということが知られると、命を狙われる可能性があると言うことだ。
殺せば奪えるという誤った知識が流布しているのが原因だな。
だから気をつけて生活したまえ」
そうなのか。
おいそれと見せていいものじゃないんだな。
この人になら別に話してもいいか。
軍人のようだし、口も固いだろう。
しっかり忠告までしてくれてるしな。
「えっと、質問に答えます。
これは俺が回答した名前の人物から引き継ぎました。
彼の子孫にあったときに言ってたことを思い出して回答しただけですよ」
「おお、なるほどな。
いや、わざわざ答えてくれて感謝する。
君はとても興味深い。
じゃあこれで本当に私からは最後だ。
では学園生活を楽しんでくれ」
「はい、ありがとうございました」
俺はアルメイダルに背を向けてソフィアラたちの元へ戻ろうとしていると、
「ああ、そうだ。
努力だけでは魔法階級は上がらないぞ?」
バッと振り返るとアルメイダルはすでに俺に背を向けて歩き出していた。
あのおっさん……。
テストで別に何を答えてもいいじゃねーか!
意地悪いったらないな。
まったく。
「お嬢様、お待たせしました。
時間かかっちゃってすいません。
すぐ寮に向かいますか?」
「おい、うちもいるからな!」
「はいはい」
「追加試験を見てもいいかもね」
「寮の自室に行ってもやることがないし、お嬢様が言うならそうしますか。
遠隔で会話できる魔法でもあればいいんですがね」
「うちは知らないけど、それっぽいのが何かあるみたいだな。
ここに通っていたら教えてもらえるんじゃないか?
戦場での意思疎通は大事だしな」
「そりゃあいいな。
連絡を取りたいときに俺が女子寮に行くわけにもいかないし、早く習得したいところだ」
「別にクロならうちの部屋に来てもいいけどな」
「アルは口を閉じてろ」
「なんだかうちの扱いがひどいぞ」
「じゃあ行こうか」
俺たちが演習場にたどり着くと、すでに数カ所で試験が開始されていた。
実力が近い同士で戦っているからだろうか、さっきより明らかに白熱している。
白熱というより殺意に溢れている。
演習場全体がひりついているな。
空いてるところに3人して陣取って座る。
周りにはすでに合格した連中も結構な数が座っており、試合を見守っていた。
俺たちをジロジロ見てくる者も幾らかは居る。
俺たちの試合を見ていたからなのか、女の子を2人も侍らせてる俺に興味があるからなのかは知らないが、この視線はやめてほしい。
できれば目立ちたくないんで。
自分が悪いのは分かってるんだぞ?
たとえそうであっても、この世界もおかしい。
すぐ俺を変な方向へ誘おうとするだろ。
ふとひとりの男と目が合う。
筋骨隆々で2次試験の相手を一撃必殺してたやつだ。
おい、ふざけんな。
ウィンクしてくんな。
ほらみろ、俺の周りはホモ野郎しかいないだろ?
勘弁してほしいぜ。
ああ、ミドリくんで癒されたい。
彼のような純粋ボーイはもはや絶滅危惧種だ。
試験を見にきたのにまるで集中できない。
って、なんだ?
叫び声が聞こえる。
騒ぎのした方を見ると、複数行われている試合の中で血だらけのゾーンが1つある。
ついに殺害禁止を守れないぶっ壊れ野郎が出てきたか?
そんなの現行犯逮捕でいいだろ。
まさか試験落ちた腹いせに殺人?
近年の日本みたいだな。
「──勝者ゲイル!」
勝者の名前しか聞き取れなかった。
障壁が解除されると、急いで回復魔法師が治療を施している。
治療してるってことは戦闘不能扱いなのか?
返り血を浴びて立っている方は、長い前髪で顔は全く見えない。
名前からして男だろう。
奴が入学していたら要注意だな。
合格者連中もざわついてる。
「アル、あいつの試合見てたか?」
ソフィアラにずっとベッタリなバカに聞いてみる。
「いや、すまない見てなかった。
派手な戦いなら目に止まってただろうし、たまたま傷つけた可能性もあるだろ。
危ないやつって可能性も十分にあり得るけどな」
まぁそんなところか。
「あいつが勝者ならゲイルって名前だ。
入学してたら注意だな」
「でも、クロならあんな陰気そうなやつに負けないだろ?」
陰キャラ度なら俺もあまり変わらない気がするけど。
「そんなことねーよ。
強いやつなんてウヨウヨいるだろ」
「そうよアル、油断はいけないわ」
「気をつける……」
アルはソフィアラに言われると弱いな。
血を流していた方の学生が担架で運ばれていく。
あれで負け扱いなら相当ツイてないな。
LUCにもっとステ振りした方がいいぞ。
さて、ここからは要注意人物探しに切り替えるか。
ただの興味本位で見にきたが、敵は人間にだっているわけだしな。
ピエロの話からすると魔人より人間の方がタチが悪いってことになるけど、表の世界で生きてないピエロにしたらそうだろうさ。
合格者も観察しておかないと。
ひとまず現時点で1番怪しいのは筋骨隆々野郎だが……。
あいつは無視だ。
目を合わせたら何されるかわからん。
派手な試合をしている者やおかしな行動をしてる者などに当たりをつけてチェックしていく。
はあ、1000人以上いるからキリがないな。
こりゃ無理だ。
変なやつだけ見ておこう。
変なやつ、変なやつ。
「クロ、うちの顔に何か付いてるのか?」
うーん。
「まさかうちに惚れッ──ぐふっ!」
こいつなら殴っても俺の心は痛まない。
「クロに傷物にされた!
責任取ってもらうしかないー!」
あー、やっちまった。
また周囲の注目を買っちまう。
アルもモモコ系列の面倒くささだ。
「クロ、アルがこれ以上おかしくならないように丁寧に扱ってあげて」
「そうだぞ! ひどいぞクロ」
ソフィアラにもそこそこヒドイこと言われてるから気づけアル。
とりあえず俺に騒音公害はつきものらしい。
はぁ。
このあとは適当にアルをあしらいつつ試合を見ていた。
その甲斐もあってか、危なそうなやつを数人ピックアップすることができた。
1人確実にヤバいのは、さっきのゲイル同様流血騒ぎを起こしていたやつだ。
これはしっかり見てたから分かるが、こいつは相手の足にまずナイフを投げて動けなくした上で腹を掻っ捌いた。
首あたりへの追撃は途中でやめていたから、こいつには対戦相手を殺せる可能性があったってことだ。
身体能力は申し分なさそうなのに、なんで落ちてんだろうな。
名前はネイル、女だ。
猟奇的な同級生が常に近くにいるとか、勘弁してほしいもんだぜ。
数時間かけて全ての試合終了し、ついに追加試験の合格発表となった。
朝からぶっ続けだから、もう夕飯の時間になっている。
追加試験の連中はたまったもんじゃないな。
そして例によって、アルメイダルによる講評の後、掲示板に合格者の受験番号が張り出された。
合格者には俺が危険視している者も含まれている。
ゲイルとネイル。
合格者全員を把握してないが、充分な収穫だろう。
「じゃあ飯にしよう」
「そうね」
「どこかに食べに行くのか?
うちはご飯食べられる店は知らないぞ」
「アル、書類に目を通しとけよ。
朝夕の食事は寮の食堂で食べられるようになってる。
嫌なら外で食べてもいいらしいけどな。
俺たちも昨日帝国に着いたばっかりだからご飯屋さんも知らないし、今日は食堂でいいだろ?」
「あれ、帝国民じゃなかったのか?」
「言ってなかったっけ。 俺たちは王国民だ」
「そうだったのか。うちは公国民だ」
「それなら誰もこの国のこと分かんねーな。
とりあえず今日は食堂だな」
「じゃあ行くぞー!」
アルがソフィの手を握って歩き出した。
元気なやつだ。
そういえば荷物を持ったままだったので、食堂に行く前にまずは寮の自室に向かって荷物を置いてくることにした。
寮って聞いてたからワンルームを予想してたんだけど、開けてみたらびっくり。
部屋自体はそこまで広くないが、1LDKの広さがあった。
金かかってんなぁ。
1人で住むのにそんなに部屋いらないんだけど。
1Kあれば十分っていうか。
まあ、あったらあったで何かに使うか。
俺たち3人はラウンジで待ち合わせて食堂へ向かう。
学生寮は各学年ごとに場所が異なっている。
男子寮と女子寮間は完全に出入りが困難だが、中央のラウンジでは交流が可能だ。
男子寮と女子寮の各寮入り口に警備もいるし侵入は無理だろうな。
侵入するつもりはないが、緊急時にソフィアラのところへ向かえないのは困るな。
あとで女子寮に話だけ通しておこう。
そのまま食堂へ向かう。
着いてみると、食堂というよりはラウンジに近い机の並びだ。
そしてバカ広い。
勉強もここでできそうだ。
3人ないし4人用の丸机や、大人数で使える机も置かれている。
食事はフードコートのような感じで、好きな店で食事をオーダーすることができる。
これだけ店が揃ってるなら食事は外に行く必要もなさそうだ。
敷地は相当な面積だし、この学園内で1つの街が形成されてる。
寮食は全学年一緒だ。
同級生もいれば、先輩らしき人たちもいる。
食堂での食事は寮食扱いになるので食費は学費に含まれている。
学費の支払い案内が封筒に入ってたから早いうちに納めないとな。
国立の学園だし、寮生活を含めても大した額ではなかった。
年間100ゴールドくらいだし。
いや、高いのか?
もう金銭感覚が分からん。
各自気に入った店でチョイスしたものを持って1つの席を確保して、食事を開始した。
「お、うまいな」
俺が選んだのはスパイスの効いたピラフのようなものだ。
あいにくこの世界に米がないため、食べているのは米からは程遠いが米と言われたら米かもしれない、そんな代物だ。
ソフィアラは軽めの、アルはガッツリめのものを持ってきている。
アルはあんだけ騒いでたからカロリー消費も半端ないのかな。
「邪魔していいか?」
声をかけてきたのはガルド。
「で、出たなホモ野郎!」
俺は思わず立ち上がる。
「おいおい、いきなりそれはひどいんじゃないか?
まだ名乗ってもいないだろう」
「だってさっき俺にウインクしてきたじゃねーか」
「ウインク?
さっきって言えば、追加試験の時か?
ああ、一度お前たちを見たときか。
あの時はお前たちの後ろの扉が開いてて、光が入ってきてたから眩しくて目を瞑ることはしたが、それがウインクに見えたのか?
男相手にウインクすることはないだろう。
ガタイが良かったらそう見えてしまうのか?
まさか、そういう経験があるのか?」
「そういう経験はない。 断じてない。
じゃあ俺の勘違いか。それはすまない。
疑って悪かった、というか断言して悪かった。
どうもガチムチを見るとそう思ってしまうみたいだ」
「ああ、気をつけてくれよ。
おかしな噂はすぐに出回るんだからな。
おっと、自己紹介がまだだった。
オレの名前はガルド=ノサラ。
よろしく頼む」
「ああ、よろしく。
俺はハジメ=クロサキ。
みんな俺のことはクロって呼ぶから、自由に呼んでくれて構わない」
「そうかクロ。
オレのこともガルドで大丈夫だ」
「うちはアルベルタ=バルマ=グランドノットだ。
気軽にアルでいいぞ!
ガルドがクロを狙ってると思って一瞬焦ったぜ」
何を言ってるんだコイツは。
「私はソフィアラ=デラ=ヒースコート。
アルにはソフィって呼ばれてるわ」
「アルにソフィか、お前たちもよろしく頼む」
「よろしくな!」
「よろしく」
各々の挨拶がひと通り終了した。
「それで、ガルドはどうして俺たちのところに来たんだ?
気まぐれでここにきた訳じゃないだろ?」
「バレていたか。
いや、特に何かをしようとしてやってきた訳じゃないんだ。
今年の有名人と一度話をしたいと思ってな」
「有名人? 誰が?」
「クロに決まってるだろ!」
「アル、静かにしててくれ」
顔面を掴んで黙らせる。
「ふぁ、ふぁい」
「随分仲がいいんだな。
もちろんクロのことだ。
スペデイレを打ち負かしたってみんな注目している」
「あんなのたまたまに過ぎない。
剣技で言えばあいつの方が圧倒的に上だし、最後は引き分けてもおかしくなかったしな」
「それでも勝ったということは事実だ。
誇ってもいいと思うがな。
それに美人を2人も連れ回してるんだ。
注目されない方がおかしいと思うぞ」
「美人だって。よかったなアル」
「クロじゃないんだったら別に嬉しくないぞ」
「平民なのに貴族とそこまで仲良くできているのも驚きだ。
階級関係なしの学則はあるが、辺境の村から来たオレからすれば特にだな」
「一応ソフィアラお嬢様の護衛役だからな。
アルは……なんかよく分からんが気づいたら居た」
「うぅ……」
「クロ、あまりアルをいじめないであげて」
「それくらい仲がいいってことですよ、お嬢様」
「護衛か。
護衛が優秀ならソフィも安心だな。
おっとそうだ、今日の試験でクロとは別の意味で話題になっているのがいたんだ。
気になるやつはいたか?」
「危なそうなやつで、ゲイルとネイルってのはチェックしてるぞ」
名前が似てるし身内だったりしてな。
「ああ、その2人だ。
他の合格者とも話したが、2人を知ってるやつはいなかった。
ナイフ捌きなどから、おそらく殺し屋か何かだろうというのが皆の見解だ。気をつけておくべきだな」
「そうか、意見が一致して何よりだ。
確かになんでそんな奴らが入学してきてるのか謎だな」
「ああ、まったくだ」
「じゃあ次は俺たちの話だ。
他の国のこととかも知りたいから、アルも含めて色々教えてくれると助かるよ」
俺たちは仲間を3人から4人に増やし、騒がしい夜は続いていく。




