第38話 決着
「僕の名前はフランシス=フリア=スペデイレ。
試験の性質上、平民相手でも力を見せないといけないのは癪だが仕方がない。
僕の踏み台として大人しく消えてくれると助かるよ」
フリアって言うと、公爵か。
今更だが爵位の序列で公爵がフリア、侯爵がエスト、伯爵がデラ、子爵がセルロ、男爵がバルマをミドルネームとして持っている。
統括試験官のアルメイダルは侯爵位、さっきソフィアラが戦ったアルベルタは男爵位ということだ。
フランシスからすれば平民なんて普段接することもないアリみたいな感覚だろうな。
こいつがプライド高いだけなのか、はたまた貴族はみんなこんな感じなのか分からないが、どう転んでも面倒事しか起こらない気がする。
「俺はハジメ=クロカワ。クロって呼んでくれ。
よろしく頼むぜ」
一応ファミリーネームくらいは名乗っておいてやるか。
クロでもいいんだけど、家名すら言わないとそれこそ面倒なことになりそうだ。
なめてかかってくれる可能性もあるにはあるが。
「ああ、覚えるつもりなんてないから別に名乗らなくてもいいよ」
うぜぇ。
なんだこいつ。
フランシスは続ける。
「ところで君に提案だ。
君は僕の魔法を見るという栄誉にあずかりたくはないかい?
それさえ見れば、君が惨めに負けても土産話としては充分だろう。
ただ発動までに時間がかかるので、その間君は僕に何をしても構わないよ。
これなら君も力を見せられるから面子も保たれる。
僕の魔法が発動すれば君がなすすべもなく敗北するのは確定している。
これは僕からの優しさとして受け取ってくれるとありがたいな」
どこまでも自信過剰なやつだな。
話し方も鼻に付く。
想定してたことだが。
予め攻撃内容を言っていても勝てるっていうことを伝えることで、心を折りにきてるのか。
「ああ、それならありがたく受けてやるよ」
こいつを気持ちよくさせるつもりなんて、さらさらないけどな。
「そうかい。それなら遠慮なくいかせてもらうよ」
フランシスが剣を抜く。
それに合わせて俺も剣を構える。
「では、始め!」
声に合わせてお互いに距離を取る。
何をしてくるか分からないが、言葉からして大魔法でも展開してくるのか?
「おや、来ないのかい?
システムマジック、ロード」
フランシスの足元に見たこともない緑色の魔法陣が展開される。
「まずいな」
「アル、どうしたの?」
「クロの相手、スペデイレ公爵家の子息だ。
剣の腕はもちろん、魔法の腕もピカイチだと聞いている。
特にスペデイレ家には、系統魔法が代々伝えられているという話だ。
もし奴が系統魔法を発動しようとしているなら、クロはタダじゃ済まないぞ……」
「そう」
「ソフィ、クロのことが心配じゃないのか?」
「いいえ、その話を聞いたら少し心配だけど。
クロなら何とかするわよ」
「そ、そうか……。
なら応援するしかないな」
「そうね」
真っ直ぐにクロ見つめるソフィアラに、アルは2人の信頼関係の強さを感じるのだった。
システムマジック?
また知らないのが出てきたな。
防陣で受けきってから攻撃すればいいのか?
いやまて、あの自信からしてかなりの魔法なのだろう。
もし防陣で受けきれなかった場合、俺の力を見せることなく終わることになる。
じゃあやることは一つ。
ひとまず確認はさせてもらう。
「ロード」
マナを込めながら、俺はフランシスに向けて走り出す。
「予想できていたことだが、あまりに予想通りすぎて拍子抜けだね」
ギィィィン──
俺の振り下ろした剣は、フランシスの剣の振り上げにより弾かれる。
なおも俺は剣を振るう。
フランシスが片手で振るう剣により、俺の攻撃全てが徒労に終わる。
軽くあしらわれてるな。
流石に俺の剣では届かない。
「この平民は、まともな剣技も習得していないのか……」
フランシスの顔が、嫌悪に塗られる。
おいおい、平民にお前らの基準を勝手に当てはめんなよな。
「ロック ブラスト!」
攻撃が弾かれたタイミングで俺は魔法を放つ。
これも即座にフランシスは剣で切り裂く。
が、捌き切れなかった岩の破片の一部がフランシスを傷つけた。
「ぐっ……!」
ブンッ──
さっきよりも余裕のないフランシスの剣が、横一線に振るわれた。
俺は大きく後退して回避する。
ここまで大振りだと余裕だな。
ヴィクターから習った攻撃予測は概ね機能している。
戦いの最中に相手をしっかり見るのはなかなか骨だけど、1対1ならできないこともないな。
「平民風情が! この僕を傷つけるなどっ!
貴様はタダでは殺さん!」
激昂するフランシス。
おお、こわ。
まぁ、平民を見下す貴族といえばこんなところだろ。
さっさとフランシスから離れる。
「ロード」
俺は魔法を唱える。
概ねさっきの一撃で把握した。
やつ自身の防御力は大したことない。
やることは決まった。
あいつに俺の全力をぶつける。
見せつける意味でも、闇以外の5属性を全部展開してやる。
間に合わなければ、やつの攻撃に対してぶつけて打ち勝つ、ないしは相殺出来ればよし。
打ち負けたらそれはもう仕方ないが、防陣で耐え切れたら追加で攻撃を行えばいけるだろう。
勝利プランは見えた。
じゃあ早速やるか。
「ディレイマジック」
火の魔法陣が俺の上に展開保持される。
まずは一つ。
あいつの魔法発動はまだみたいだが、激怒した表情で次に近づいたら確実に切り捨てるという構えをしている。
もう近づかねえけどな。
一連の魔法動作を続けて4回繰り返す。
俺の周囲に闇属性を除いた5属性の魔法陣が無事展開保持された。
「平民、下らないやり取りは終わりだ!
くたばれ!」
ギリギリ魔法をぶつけるには間に合ったな。
「ワールウィンド!」
俺の未知の魔法に一瞬動揺したようだが、それごと叩き潰せる考えだろう。
「リリース オール!」
あいつの魔法に向けて俺は全てを放出する。
俺の全弾とフランシスの魔法が俺たちのちょうど中間あたりで激突した。
魔法がせめぎ合う。
威力負けすることはなく俺の魔法がぶつかり続けている。
それも一瞬、そしてついに2つの魔法が限界を迎えた。
衝撃波を伴って、それらが爆発を引き起こした。
俺は即座に防陣を展──
しかし、防陣を貫通して衝撃波が俺に突き刺さり、後方の防衛障壁に叩きつけられた。
「があっ!」
衝撃で肺から空気が抜け、一瞬呼吸困難に陥る。
が、しかしまだ意識がある。
終わっちゃいない。
助かった。
ギリギリ意識を失うようなダメージではなかったようだ。
まさか防陣を貫通するなんて。
見た目以上に高威力の魔法だな。
ふと体内のマナに意識を向けてみれば、MP切れは起こしていない。
何故だ……?
MPは……5%ほど残っている。
もしかして防御してMP切れを起こさないように、MPを全部使わないようになっているのか?
まあいい、確認はあとだ。
でもそのおかげで、痛みはあるがまだ立ち上がれる。
「ぐっ……ロード……」
相手が倒れていないことを想定して即座に魔法を展開する。
魔力を込めながら、剣を支えに立ち上がる。
顔を上げると、そこには破壊し尽くされた戦闘区域の地面が広がっていた。
見事に無茶苦茶だ。
そりゃあんだけの爆発ならな。
フランシスは……っと、居た居た。
反対側の防衛障壁に背中をつけ、項垂れてピクリとも動かない彼の姿がそこにはあった。
もし動き出したら即座に魔法をぶつけるために、剣を構えつつフランシスに近づく。
俺の足取りもフラフラだが、動き出したら先手を取らせてもらう。
「フランシス戦闘不能! 勝者ハジメ!」
すると試験官の声が響いた。
なんだ、終わりか。
クロでずっと呼ばれてたから、いきなり呼ばれて一瞬自分の名前って分からなかったな。
試験官の合図で防衛障壁が解除され、回復要員により俺たち2人に治療が施された。
あー、しんど!
とりあえず白星で終わったな。
防陣もあったし、粘り勝ちってところか。
相手の話に乗らずに、初めから魔法をぶつけてたら勝ててたかもしれないが、勝ったからいいだろう。
周囲がだいぶざわついている。
他のグループの連中もこっちを見ている。
あーあ、静かに学園生活送るって計画が台無しだ。
まあ、こんだけ見せつければ落ちることはないだろう。
ソフィアラとアルの元へ向かう。
「勝ちましたよ、お嬢様。
それとアル、見てたか?」
「ええ、お疲れ様」
「おいクロ、すげえな!
スペデイレのやろうに勝っちまうなんてな。
スッキリしたぜ!」
アルは俺に両肩に手を置いて頭をブンブン振り回す。
疲れてるからやめて……。
もうMPなんてほとんどないんだから。
そういやアルは上級貴族についてなんか言ってたな。
「アル、あいつのこと知ってんのか?」
「おう、有名だぜ。
普通に入学すれば剣も魔法もあいつが一番になることは間違いなかったはずだが、魔法はクロの方が一枚上手みたいだな」
「そんなやつに当たるとはついてないな俺も。
あいつの魔法も知ってるのか?」
「ああ、スペデイレ家に伝わる系統魔法だろう。
まさかあれとやりあって勝つなんて驚いたぜ。
複数の属性を使えるみたいだし、クロはすげえよ。
これならソフィも安心だな!」
アルが騒ぐから、なおさら周囲の注目を買ってしまっている。
どこに行っても騒がしいやつからは避けられないみたいだ。
「あとは待つだけね」
「そうですね、俺たちは力を見せて勝ってるし大丈夫でしょう」
「おい、うちはどうなるんだ!?」
「まぁ、アルは祈って待ってろ」
「クロ、そりゃないぜ!」
「ぐっ!苦しい、離せ!」
アルが俺の首を絞めに掛かってくる。
柔らかな双丘が俺の背中に押し当てられる。
苦しいと言いながらも喜んでいる俺、気持ち悪い。
喜びも束の間、アルの攻撃から解放される。
「はあ……乱暴すぎだろ。
アルも女の子なんだからもう少し節度を持ってだな……」
こいつはスキンシップが激しい。
「お、なんだクロ。
うちのことを女として見てくれてるのか!
こんな男みたいな性格だから何もないと思ってたが、クロは強いからうちの初めてをあげてもいいぞ!」
痴女なのか?
「いきなり何を言ってんだ……。
それに周りに人もいるんだから大声で叫ぶな」
こいつは扱いに困るな。
「えーなんだよ、いいじゃないか。
どうせ彼女居ないんだろ?」
「どうせって何だ!
そりゃ彼女なんて居たことないけど……って何を言わせるんだ」
「クロ、早速アルと仲良しね」
「お嬢様、こいつに女の子としての節度ってやつを教えてやってください」
「別に今のままでもクロが女として見てくれるし大丈夫だろ!なっ?」
「アル、クロはちゃんと相手してくれるけど全ての人がそうだとは限らないわ。
はしたないのはダメよ」
「ソフィまで……」
「ほらな? しっかり教えてもらえ」
「じゃあクロ、さっきの約束忘れるんじゃねえぞ!」
約束?
「はいはい」
よく分からんが適当にあしらう。
騒いでいる間に戦闘区域の修繕が完了し、残りの試験が開始された。
剣技だったり魔法だったり、あまり派手なものは見ないな。
もしかしたら能力を隠してるやつの方が多いかもしれないけど。
その後は俺の時のように派手にぶっ壊れることもなかったので、滞りなく試験は終了した。
あとは結果を待つだけだ。
さっきまで騒がしかったアルが静かになっている。
「アル、緊張してんのか?」
「わっ! そりゃそうだろ!
落ちたなんて言ったらめちゃくちゃ叱られるからな。
来年まで家で肩身を狭くして生活するなんてゴメンだ」
「そんなに厳しい家なのか?
ああ、家のことだし答えにくかったらいいぞ」
「いや、大丈夫。
うちは男爵家で貴族でも爵位が一番下だから、何か結果を出せって親がうるさいんだよ。
だから爵位が高いやつには突っかかっちまう。
ソフィもあのときは悪かったな」
「別に気にしてないわ。もう友達じゃない」
「ソフィ!
もうソフィはうちのものだからな!」
後ろからソフィアラを覆うように抱きつくアル。
言葉の少ないソフィアラだけど、誰にでも好かれるな。
いいことだ。
「クロ、心配するな。
クロもうちのものだからな!」
「なんでだよ」
「だってさっき約束しただろ」
「は……? 何の?」
「初めてをあげるって言ったら同意してたじゃないか」
適当に流したアレ?
この娘、あんなの本気にしてんの?
こえーよ。
また怖いのが出てきたよ。
「同意はしてねーよ!
お前にはいつかいい人が現れるから、待ってりゃいいんだよ」
「クロ、ひどいぞ!
うちはちゃんと覚えてるからな!」
「お嬢様、本当にアルの躾は頼みましたよ……」
「分かってるわ」
ソフィアラもちょっとはアルに不安を覚えてるな。
「おっと、そろそろみたいだぞ」
アルメイダルが俺たち受験生の前に姿を見せた。
「諸君、長い間ご苦労であった。
私も見させてもらったが、今年は粒が揃っている。
たとえ結果が出せていなくても、こちらが伸びしろがあると判断すれば合格しているはずだ。
一次試験突破者は1540名。
その中から合格者は125名だ」
アルメイダルの言葉を聞いてざわつく受験生たち。
3000弱が受けて合格者100強って、相当な狭き門だよな。
ロドリゲスも分かっててここに留学させたのか?
学園に入るだけなら王国でもよかった気がするんだけど。
これで落ちたらシャレにならんぞ。
また2週間かけて王国へ戻るのか?
やだやだ。
合格者数を聞いて俺もちょっと不安になってきた。
アルを見ると完全に停止している。
2次試験だけなら合格率8%とかそんなもんか。
合格率やべーな。
「では今から合格者を張り出す。
結果を確認したら少し待機していてくれ」
アルメイダルの言葉に合わせて掲示板が設置される。
受験生たちは身を乗り出して掲示板を覗き込む。
途端に騒がしくなった。
喜ぶ者、崩れ落ちる者、様々だ。
「お、おい! 見に行かないのか?」
アルがオロオロしている。
「もうすこしこの集団が少なくなってからな。
焦っても結果は変わんねーよ」
「なんで落ち着いていられるんだ!」
「なんでだろ?」
「なんでかしら?」
「くそう、これが強者の余裕ってやつか……」
待っていると前にいる連中も徐々にはけてきた。
「んじゃ見に行くか」
俺たちは掲示板へ向かう。
さて、どうかな。
俺が確認する前にアルが両手を挙げている。
「ソフィ、クロ、受かってたぞ!」
なんだ、いけてたのか。
俺とソフィアラは……あるな。
とりあえずの関門は抜けたか。
落ちる心配もあんまりなかったし、受かったっていう実感も薄いな。
なんでだろ。
「うぅ……よがっだぁぁ……」
気づいたらアルが泣いている。
急にどうした?
そんなに心配してたのか。
こいつの泣き顔も見れたもんじゃないな。
受かって泣いてるのはアルくらいか。
落ちてアルみたいな反応ならわかるんだが。
「アル、よかったわ。
これで一緒に通えるわね」
「ソフィー!」
ソフィアラはいつも泣き子を抱えてるな。
「まずは合格者諸君は合格おめでとう。
そして残念ながら不合格になってしまった者についてだが……」
ん?
「追加試験を行う!」
急に会場が沸き立つ。
「追加合格者は25名を予定している。
先ほどの試験では、組み合わせによっては十分に実力を発揮できなかった者も多いだろう。
そういうことを考慮しての追加試験だ。
そしてこの試験では、2次試験の内容を加味して実力が近い者同士で戦ってもらう。
そして上位25名を追加合格とする」
さっきのは運ゲーみたいなところあったし、救済措置としては当然だよな。
「ひとまず合格者には入寮の説明を行うのでついてきてくれ。
不合格者はここで待機だ。
少し時間を置いたのち、追加試験を始める」
アルメイダルが歩き出したので、合格者たちはついて歩く。
「じゃあ行くか」
「うん」
「そうだな!」
俺たちもついていく。
不合格者からはすごい恨めしい目でみられるが、こればかりは仕方ないだろ。
追加試験も頑張ってくれ。
彼らを横目に演習場を後にした。




