第37話 入試
今日は帝国高等魔導学園の入学試験日だ。
学園内に馬車で乗り入れることは許されていない。
そのため、学園前で多くの生徒が馬車から降りてきているのが見える。
そのほとんどが貴族の出で立ちだ。
貴族っぽい振る舞いも教わっておけばよかったな。
今更ながら後悔する。
また魔導列車の停車駅が近くにあるため、そちらを利用する者も多い。
魔導列車が存在するなど、徒歩や馬車しか移動手段がなかった王国とは大違いだ。
今回試験を受けるにあたり、倍率などは聞かされていない。
というよりも、一定以上の成績を確保できれば入学は可能らしい。
たとえ貴族が多いとはいえ、そう言った能力至上主義的なところが、貴族と平民の差別的意識を和らげているようだ。
また、学園では貴族と平民の身分差を殊更に強調することは許されていない。
この学園では特に、生徒の間に身分の差は関係ないとされている。
能力さえ伴えば、卒業を待たずして特定の組織に引き抜かれるということもある。
そういうこともあって、学生は己が能力を磨き上げ、切磋琢磨し合うのである。
今日の入試で行われるのは、1次試験が筆記で2次試験が実技だ。
筆記試験でまず篩にかけ、最低限の知識を持たないものは2次試験を受けることはできない。
そして2次試験の内容によって更なる篩にかけられた上でクラス分けがなされる。
有望な生徒が多いほど、クラスの数も増えるって話だ。
これが受付で聞いた説明だ。
2次試験の実技試験では、予めもらっていた案内には戦闘できる準備もするようにと書いてあったので俺もソフィアラも戦闘服を持参している。
戦うことを学ぶ学園だし、戦闘能力を見せるのは当然だな。
ちなみに武器も持ってきている。
受付を終え、ソフィアラは1102番、俺は1103番の受験票を受け取り試験室へ向かう。
俺たちの後ろにも受験生がウヨウヨいたから、相当な人数が受けるんだろうな。
名前書いたら誰でも受かると思ってたけど、甘かったな。
そして試験場に入ると、半分ほどの席が埋まっていた。
着席している面々は、貴族のような煌びやかな服装ではない者も多い。
筋骨隆々で、どう考えても俺より年上に見える生徒もいる。
ハンターとかそういうやつらか?
まさか俺より年下であの外見はないよな。
こういう平民のような者もいる一方で、明らかに俺を見て蔑んだ目をする貴族連中も少なくはない。
差別がないという学校の方針があるとは言え、まだ同じ学園生ではないし当然か。
どうせ身なりを整えても仕草とかで貴族っぽくは振る舞えないし気にしても仕方ないよな。
俺とソフィアラは指定された席に隣同士で座る。
しばらくすると全ての席が埋まった。
そしてようやく、筆記試験が始まった。
試験内容は、この世界の歴史や魔法の基礎知識、計算や考察問題などもある。
図書館通いで得た知識で大半の問題は容易に解答できた。
しかし答えが難しい問題もある。
魔法における上級と中級、下級そして一般の定義を答えよとか言われても分かんねーよ。
気づかないうちにレベルアップしてるんだから。
努力の量。
分からないし、そう答えておいた。
憶測で書いても当たんねーだろ。
あとは、近代魔法を大きく発展・改良させた人物を答えよという問題。
こんなのいくらでもいるだろ。
オリオールの言を信じて、ヴィクターの名前でも書いておくか。
あとは余った時間で見直しをして終わりだ。
カンニング扱いされても嫌なのでキョロキョロはしない。
高校の時にカンニング疑惑をかけられて嫌な思いをしたことがあるが、こんな話はどうでもいいな。
そして終了の合図で試験を終える。
ふいー、疲れたぜ。
ソフィアラに疲れた様子はない。
いつも通りなら大丈夫だろうな。
試験結果は1時間もすれば張り出されるそうだ。
概ね答えられたし大丈夫だろう。
「お嬢様、出来はどうでしたか?」
「上々よ。クロは?」
「俺も手応え的には大丈夫そうです。
えっと、最後の近代魔法に関する問題って何て答えました?」
「ん、ヴェリア=ルコックじゃないの?」
……誰だ?
おい、試験落ちたら容赦しないからなヴィクター!
「そ、そうですか……。
時間までどうしましょうか?」
「軽食でも食べに行きましょ」
「じゃあ、街に向かいましょうか」
ソフィアラは特に緊張してるということもないな。
学園の近くで軽く食事を終えて戻ると、すでに結果が掲示板に張り出されているようだ。
喜んでいる者もいれば泣き崩れている者もいる。
後者には貴族の者も見られる。
こういう試験ばかりは身分なんて関係ないんだな。
金の力で裏口入学とかもあるんだろうか。
人がはけるまで少し待って俺たちも確認する。
1000……1100……1101、1102、1103、1109……。
お、あるじゃーん!
「お嬢様、2人ともいけてましたね!」
「そうね、よかったわ」
掲示板には一次合格者への次の案内が書かれている。
「試験場はさっきとは違うところですね」
「じゃあ行きましょ」
合格者の集団についていく形で指定の場所へ向かう。
そしてしばらく歩いてたどり着いた場所は巨大な演習場だ。
中央の演習場を取り囲む形で観客席があり、俺たちを品定めするような視線を各所から感じる。
上級生か?
引き抜きという話もあったし、軍とか大学院とかから見に来てる人もいるのかもな。
さっき合格発表の最後の受験番号を見た感じ3000人弱が受けているようだったから、ここにはその半分くらいがやってきている。
年齢制限は下限があるけど上限は特に定められていないから、受験生もそれだけ増えるんだろうな。
なんか私立医学部の受験みたいな感じがする。
しばらく周囲の者を観察しながら待機していると、最後の生徒が演習場に入った段階で扉が閉じられた。
それに合わせて1人の男が俺たちの前にやってきた。
「揃ったな、受験生諸君!
私は統括試験官のアルメイダル=エスト=モンテッセンだ」
軍服を身に纏い、服の上からでも筋肉の隆起がうかがえる。
今度は軍人か。
たしか、王国にいたハインツ将軍もあんな感じだったか。
アルメイダルは続ける。
「この学園で近接格闘の教官をしているから、諸君らが入学すれば私の授業を受けることもあるだろう。
まぁ今はそんな話は置いておこう。
今から諸君らの戦闘能力を見せてもらう。
これは1対1の対戦形式だ。
勝ち負けは合否には関係ない。
自分の持てる力を発揮すれば、自ずと合格に近づくだろう。
相手に負けを認めさせるか、戦闘不能に陥らせれば良い。
その過程で、一撃で相手を戦闘不能にできるのならそれも良い。
大技を披露するのも良いだろう。
ただし、何も出来ないまま倒されて終わることは低い評価になるから注意してくれ。
もちろん、相手の殺害は認められんぞ。
回復魔法を使えるものが待機しているので、多少の怪我程度なら問題はない。
今回は1500名を超える人数が一次試験を突破している。
そのため演習区域を5つに分ける。
約300名ずつに分かれてもらい、そこからこちらはランダムに2名ずつを選出するので、対戦を行ってくれ。
戦闘区域は防衛障壁を展開するので周囲への被害などは考えなくて良い。
興味がある者は最後まで他の受験生の能力を見ておくのもいいかもしれんぞ。
では、早速始めよう」
「第1グループ、受験番号2から613までの受験生はこちらへ!」
各々、係りの者に呼ばれた受験番号のところへ向かう。
受験番号1は落ちたのかよ。
俺とソフィアラは一緒の第2グループだ。
対戦相手がソフィアラだとキツイな。
お互い手の内を知っているだけに。
周りを見ても自信のなさそうな生徒はいないな。
むしろ自信たっぷりな顔が多い。
特に貴族連中は、ここにいるやつには誰にも負けないという顔だな。
はあ、憂鬱だ。
できれば目立たないように行こうと思ったが、この試験システムは自分の力を発揮しなければならない。
下手に相手を気遣って手加減なんてしたら、それこそ低い評価をつけられかねない。
ここで目立つもんなら、入学後に貴族に陰湿ないじめを受けるかもしれない。
そういうお約束はほんと勘弁だからな。
それこそソフィアラにも影響が出かねない。
今から受かった後のことを考えているが、落ちる心配なんてほとんどしていない。
望むのは、平和な学園生活だ。
さあ、できれば互角くらいの相手が出てくるとありがたいんだが。
ついに、実技試験が始まった。
「おわっ!」
俺の目の前にある戦闘区域を半球状に覆う防衛障壁に、受験番号819の貴族の男子が叩きつけられる。
彼を吹き飛ばしたのは、受験会場で見た筋骨隆々の男だ。
受験番号は960でガルドと名乗っていたな。
戦闘を始める前には、まずお互いに名乗り、口上を述べている。
最初の学生がやり始めたので、その後に続く学生もそれに倣っている。
ガルドは見た感じ、相当な戦闘経験を積んでいると予測される。
あの筋肉も飾りではない。
動きも素人のそれではなかった。
ガルドは戦闘が開始した途端に走り出し、その拳だけで貴族男子を吹き飛ばした。
男子は何やら最初に偉そうなことを言っていたが、相手が悪かったな。
見てる分にはいいが、俺が一撃でやられるとかは嫌だぞ。
その後も次々に受験生が呼ばれ、そしてついにソフィアラの番となった。
「うちは、アルベルタ=バルマ=グランドノットだ。
女同士よろしく頼むぜ」
茶色い髪の凶悪そうな女子だ。
喋り方からもそれがうかがえる。
続いてソフィアラも口を開く。
「私は、ソフィアラ=デラ=ヒースコート。
よろしく」
「おっと、伯爵様かい。
ここにはお偉いさんが多くて困るな。
強さには階級が関係ないってことを、うちがあんたに教えてやるよ」
「私は別に貴族階級なんて興味ないわ」
「おっと、そうかい。
なら仲良く殺し合おうぜ」
2人が構える。
「では、始め!」
2人の様子を見て試験官が合図を下し、試験が始まった。
はじめに動いたのはソフィアラだ。
「ロード、ウォーター スフィア」
いつも見ていたよりもはるかに大きい水球を作り出し、そこにソフィアラはガントレットを突っ込んだ。
左手のガントレットが水を纏うと、残った水は全て即座に氷槍に変化してソフィアラの上空に待機した状態となった。
「水魔法か! ならうちの魔法と相性はどうかな?
ロード、ロックアーマー!」
アルベルタの身体の周囲に岩石が漂い、それらが集まって強固な鎧を形成した。
「いくぜぇ!」
アルベルタがソフィアラに向けて走り出した。
重量含めると、生身にぶつかられただけでも大ダメージは免れないだろう。
ソフィアラはアルベルタに向けて氷槍を放つ。
「効かねぇよ!」
アルベルタの顔面あたりへ向かった氷槍の1本は、彼女の岩を纏った腕が振るわれることによって砕かれた。
残り数本は岩鎧を大きく欠損させたが、彼女の肌を露出させるまでにはいかなかった。
ソフィアラは即座に腰の短剣を握り、アルベルタの突進を躱しつつ短剣で切りつける。
だがこれも岩鎧を傷つける程度の効果しかない。
「なかなか素早いな。
だがあんたの攻撃だと、ちと足りないみたいだな。
降参するなら今のうちだぜ。
ロード、ロックアーマー」
アルベルタがソフィアラに拳を向けて言い放つ。
それと同時に鎧の欠損部も再生してゆく。
確かに今の攻撃力ではアルベルタに大ダメージを与えることは不可能だろう。
「あら、そうかしら。
ロード、スプラッシュ」
ソフィアラの周囲に細かい水の粒が一気に拡散されていく。
なんだ、霧でも作るつもりか?
徐々にではあるが、視界が霧によって悪くなっていく。
「何をしてるか知らねぇが、うちに小細工は通用しないぞ!
ロード、ロック ボム! おらぁ!」
形成された岩石の塊がソフィアラに投げつけられた。
ソフィアラはサイドに避けるが、その方向を読んでアルベルタが殴りかかる。
これでは回避が間に合わない。
そして避けた岩石がソフィアラの側で破裂した。
もちろん、鎧を纏っているアルベルタに岩石によるダメージはない。
「ガラ空きだ!」
ソフィアラは即座にガントレットに纏った水を氷の盾に変えて岩石によるダメージを防いだが、目前に迫ったアルベルタの拳をモロに腹に受けてしまう。
「ぐっ……!」
ソフィアラはギリギリでバックステップに転じたため吹き飛びこそしなかったものの、移動した先で地面にうずくまってしまった。
ソフィアラの口からは血が流れている。
「お嬢様!」
俺は防衛障壁の外から叫ぶ。
「さあ、今度こそ勝負ありだ。降参しな」
アルベルタがソフィアラに歩み寄る。
これ以上ソフィアラは動けそうにない。
「お嬢様、もう降参してください」
これ以上は無理だ。
吐血までしている状態で戦えるはずがない。
どう見てもアルベルタの拳は腹にクリーンヒットしていた。
「外野もああ言ってるぜ。早くしな」
「ごほっ……いいえ、ぐっ……私の勝ちよ……」
なお血を吐きながらもソフィアラは勝利宣言をする。
「おいおい、そんな状態で何を言って──」
すると急に、アルベルタは喋っている途中で倒れた。
「がっ……は……」
アルベルタは喉を抑えて苦しんでいる。
その横で、よろめきながらもソフィアラが立ち上がる。
「ごほっ……私が、意味もなく霧を発生させたと、思っているの?
あなたが吸い込んだ水分を、凍らせたわ……。
あなたこそ降参した方が……って、意識を失ってるわね」
「アルベルタ戦闘不能のため、勝者ソフィアラ!」
試験官が試合の終了を告げる。
それと同時に防衛障壁が解除され、回復魔法によって両者の負傷が回復される。
絶体絶命と思われたソフィアラだったが、アルベルタが近づいてきた際に一気に霧を肺の中に移動させ、それを凍らせたのだ。
これによりアルベルタは呼吸器が凍らされ、呼吸ができなくなって戦闘不能になったということだ。
外から攻撃が効かないなら体内からって、ソフィアラもエグい倒し方するなぁ……。
治療を終えると、ソフィアラが俺の元に歩み寄ってくる。
「お嬢様、お疲れ様です。
見ててずっとハラハラしましたよ。
とりあえず、口の周りが血だらけなので先にキレイにしてもらえますか?」
「あら、そうなの? ロード、クリア。
これで大丈夫かしら?」
「ええ、キレイになりました。
さっきの試合、なかなか危ない内容でしたね」
「そうね、岩石を避けたらそれで終わりと安心してしまったわ。 油断大敵ね」
確かに、ペーターの訓練でも言われてたことだな。
岩で腹パンされたのにソフィアラはあまり堪えた様子もなく、いつも通りだ。
俺からしたら大ごとだが、彼女にとっては吐血程度、大したことじゃなかったのかもしれないな。
ソフィアラも勝って終わったし、次の俺の番もキレイに勝って終わりたいところだ。
今は魔法によって演習場の破損部位が修繕中で、それが終わればすぐに次の試合が始まるようだ。
また2人呼ばれたが、俺の番はまだみたいだな。
待っていると、アルベルタが近づいてきた。
なんだ、もう回復したのか。
「お疲れ!
いやぁ、生意気なこと言ってて負けたよ」
言いながらソフィアラの横に座り込む。
なんかヤンキーっぽい子だな。
「あなたも強かったわ」
「そうか、ありがとな。
それと、うちのことはアルベルタでいいぞ」
「じゃあ、アルって呼ばせてもらうわ。
いいかしら?」
「おう、構わねぇぜ。
じゃあうちはソフィって呼ぶからな!
よろしくな!」
そう言ってアルベルタはソフィアラの肩に手を回してくっ付き始めた。
早速友達ができたみたいだ。
ヤンキーっぽいが、悪いやつではなさそうだな。
「ところで、あんたはソフィの知り合いか何かか?
さっき声を掛けてたみたいだが」
「ああ、俺はクロ。
お嬢様の護衛って立場だな。よろしく」
「そんなに弱そうな見た目のに護衛なのか?
まぁいいか。
ソフィの身内ってんなら、あんたもうちのことはアルで良いからな!よろしくな、クロ」
「ああ。弱そうってのは余計だが、お嬢様と仲良くしてあげてくれ」
「任せな。うちらはもう友達だもんな、ソフィ?」
「ええ、アル。さっきまで戦ってたのに不思議ね」
ヤンキーが大人しい女の子にからんでいるようにも見えなくもないな。
「クロ、弱くないって言うならあとで試験でそれを証明してくれよ。
クロがソフィを守るに値するか、うちが見てやるから」
あーあ、また面倒ごと増えたよ。
なるべく目立ちたくはなかったんだけど、やるしかないな。
ソフィアラとアルもいい試合をしてたし、俺も張り切るか。
「分かったよ。
せいぜいお嬢様とアルみたいないい試合ができるように努力する」
「ははっ、頑張れよ!」
アルに背中をバンバン叩かれる。
うーん、俺の方が年上のはずなんだがなぁ。
そして試験は進み、ようやく俺の番が回ってきた。




