第34話 決断
グロあり。
「ところで、後ろの連中はどうしますか?」
「後ろの連中?」
俺は仮面の集団を見る。
「いえいえ、彼らではありません。
我々をずっと付けてきている馬車ですよ」
「なんでそんなことになってるんだ?
なんか付けられるようなことしたっけ?」
「さあ? 私にはさっぱり見当が付きませんが。
イヴラコームを出てからずっと一定の距離を保ちながら付いてきていますね。
消しましょうか?」
「おいおい、いきなり物騒だな。
たまたま方向が一緒ってこともあるんじゃないか?」
「こちらが停止するたびに同じタイミングで停止する馬車がいますかねぇ?
向こうは気づかれているとは恐らく思っていないでしょうが。
では可能性の話をしましょう。
こちらに敵対する勢力の場合はどうしますか?」
「そりゃ、戦わざるを得ないんじゃないか?
話を聞いてくれるなら別だが」
「そうですね。
では、あちらの都合がいいタイミングで仕掛けられても面倒ですのでこちらから接触しましょうか。
この間の覚悟のお話は覚えていますか?」
「ああ、しっかりと覚えてる」
「それなら大丈夫ですね。
ゆめ忘れぬよう……」
「おい、いきなり攻撃するつもりか?」
「いえいえ、あなたのやり方でいきましょう。
まずは話し合いで解決できるかやってみましょうか。
それで構いませんよね?」
「ああ、構わない」
「いつでも戦える準備はしておいてください。
あと、馬車の中で待機するよりも我々のそばにいてもらったほうが守りやすいので、近くにいてもらえると助かります」
「了解。 すぐ行くのか?」
「もう少し広いところに出たら仕掛けましょう。
それまでに準備をお願いします」
「ああ。 お嬢様も即座に戦える準備はしておいてください」
「分かったわ」
オリオールの魔法を試すか。
「ロード──」
ひとまず4つの魔弾にそこそこのマナを込めて圧縮して待機させておいた。
火、水、風、土の順だ。
ここ数日の特訓を全部詰め込んである。
ディレイマジックだが、1つ目はMP50消費で、2つ目から倍々に増えていった。
4つ待機させると、50・100・200・400で計750もMPを持っていかれた。
こりゃMP効率悪いわ。
俺みたいにMPが多くないとあまり輝かない魔法だな。
ソフィアラも左腕のガントレットに水を纏わせている。
「この辺りで停めましょうか」
馬車が停止し、俺たちは馬車を降りて後方へ移動する。
「向こうもこちらが気づいていることを理解したみたいですね。
集団でやってきますよ」
しばらくすると5人の集団が歩み寄ってきた。
中心にいるのは昨日のおばさんだ。
おばさんの周りにいるのは、屈強そうな戦士たちだ。
ハンターってやつか?
「あら、やる気みたいね。
こちらは話し合いをしようと思っていたのだけれど」
おばさんがまずはじめに口を開いた。
次に口を開いたのはピエロだった。
「よく言いますね。
ずっと等距離を保って付いてきておいて。
それに周りの連中も話し合いをするって感じでもないでしょうに」
「私は身を守るために彼らを連れてきているだけですから。
それを言うならあなたたちこそ。
どう見ても怪しい集団じゃないですか。
あなたたち、魔王崇拝教徒なんでしょ?
勇者に近づいて洗脳しようとしていたのでしょう。
勇者を害そうとしていたのだから、殺されても文句は言えないのではなくて?」
ピエロが何か言おうとしているが、手で制す。
「ここからは俺が話すわ。
勇者を害するなんて人聞きが悪いな。
俺はあいつらと同郷だから仲良くなっただけだ。
それなら何も文句はねえだろ?
これで事実もはっきりしたんだし、あんたらも自分の街にさっさと帰りな」
「同郷? 何を言っているのです?」
「俺も異世界から来たって言ってんだよ」
「一体何を……」
「ところで1つ聞きたいんだが、召喚に巻き込まれたのはあいつら2人だけじゃなかったはずだ。
そいつらのこと、何か知らないか?」
「!」
今ので俺が異世界人だって確信したな。
「おい、知らないか?」
「あなたは異世界人といいましたが、勇者なのですか?」
「いいや、あいにく召喚に巻き込まれただけの一般人だ。
だから俺と同じように巻き込まれた連中のことが気になってな」
「私は存じ上げませんね。
それに勇者召喚は秘儀中の秘儀。
たとえ私が知っていても話すことはありませんね」
「ふうーん」
この女、何か知ってるな。
「とりあえずあなたの言いたいことは分かりました。
同じ異世界人だと言って、勇者を騙して洗脳しようとしていた魔王崇拝教徒だということですね。
勇者を早いうちに消そうとしていたのでしょう。
私たちもあなたたちのような危険分子を見つけられて良かったです」
俺には生きていて欲しくないみたいだな。
「なるほど、そういうスタンスで攻めてくるわけね。
もともと何かしらの言いがかりを付けて消そうとしていたみたいだしな。
こいつらはダメだ、戦闘は避けられないみたいだ」
俺はピエロに話しかける。
「結局そうなるんですよ。
相手に話し合う気なんてさらさら無いんですから。
では予定通りに」
「あなたたち、こいつらは危険です。
殺してしまいなさい」
「あいよ。給料は弾んでもらうぜ」
歩み寄るのは3人。
斧を持った男とゴリゴリの筋肉ダルマ、そして長剣使いのひょろ長い男。
神官っぽい1人はおばさんの護衛か。
こっちは仮面4人とピエロ、俺、ソフィアラの7人だ。
ハンターは俺らを舐めているのか、それだけ自信があるのか。
「ロード、シャドウ ウィップ」
ピエロが影の鞭を展開する。
「おっと、闇属性か。
いよいよ怪しいなこいつら」
斧使いがニヤニヤしながらこっちを見ている。
「まあ関係ねーか。支援頼むぜ!」
「ロード、ブレッシング!
ロード、プロテクション!」
後ろの神官が男3人に支援をかける。
「じゃあ早速行くぜ!」
斧使いが飛び上がる。
「おらぁ!」
斧が振り下ろされ、地面が砕ける。
攻撃場所を察知し、俺はソフィアラを抱えてその場を脱出した。
そういう狙いか。
「俺はこいつをもらうぜ。
そいつらはお前らにやるよ」
ピエロと分断されてしまった。
「なんだよ、一番味がありそうな奴がそっちかよ」
ひょろ長が文句を言っている。
「我とお主で3人ずつやれれば十分だろう」
話し方からして筋肉は堅実にくるタイプかもな。
一応仮面の4人を含めてこっちは6人いるが、俺たちで筋肉とひょろ長を相手しなくちゃならない。
ピエロはあえて影沼を出してなかったぽいな。
まあピエロはおそらく大丈夫だろう。
しかしまずいな、いきなり実戦とは。
この間のようなヘマは許されない。
「ガキには興味ねえからおっさんに任せるわ」
「承知した」
仮面と俺、そしてソフィアラの3人で筋肉を相手することになった。
「ということだ。
残念だが小僧たち、大人しく死んでくれ。
ロード、リジッド ボディ」
「ロード、アイス バレット」
先制でソフィアラが氷弾をぶつける。
が、その肉体に弾かれてしまった。
少し血が出ている程度だ。
なんて硬さだ。
「我に小細工は通用せんぞ!フンッ!」
筋肉が回し蹴りを振るうが、難なくバックステップで躱す。
スピードはそれほどでも無いな。
ペーターの方が明らかに速い。
「お嬢様は後ろへ!」
俺は剣を構える。
仮面も曲刀を両手に構えている。
静寂を切り裂くように仮面が突撃した。
「フンッ!」
筋肉が右手を振るうが、仮面はしゃがんで回避し、両手の武器を振り上げて筋肉のガラ空きの右腕に斬りつけた。
だが、浅い。
そして筋肉の追撃の蹴りもバック宙で躱す。
「ええい、小賢しい!
ロード、フレイムナックル」
筋肉の両手に炎が纏われる。
筋肉が仮面に殴りかかる。
俺たちは後回しってことか。
なら都合がいい。
「ロード」
こっちはこっちで魔法を詠唱させてもらう。
「お嬢様、この周囲にマナを」
「もうやってるわ」
さすが。
「フンッ」
先ほどの要領で筋肉が拳を振るう。
またしても仮面はしゃがんで拳を躱す。
「甘いわ! バースト!」
筋肉の拳を纏っていた炎が爆発し、仮面が吹き飛ばされる。
筋肉は宙に浮いた仮面を、さらに炎を纏った左腕で叩きつけた。
仮面の身体がくの字に折れ曲がって地面に刺さる。
一撃で仮面が動かなくなってしまった。
まずいな、予想外の強さだ。
だが思考は冷静だ。
俺はその攻撃の隙は逃さない。
「ストーン ブラスト!」
左腕を下に重心はやや左に傾いている。
左の肩口を狙った攻撃を避けることは難しいだろう。
気づいた筋肉は無理やり攻撃に使った左腕を振り上げて俺の攻撃を弾こうとする。
だがそれも甘い。
左手に触れた瞬間、それは炸裂する。
「ぐうっ!」
「ロード、アイス ジャベリン」
そこにソフィアラが追撃を行う。
筋肉はこれをギリギリで回避して飛び退く。
「やってくれるな……!」
筋肉の左手は大量の血を流して変形している。
MPを100程度込めた一撃だったが、魔法防御は大したことなさそうだな。
急に余裕が出てきた。
だが慢心はしない。
いつ足元をすくわれるかわからん。
まだ奥の手があるかもしれないしな。
「ロード、ミドルヒール!」
筋肉の左腕が治癒し始める。
「かたじけない、感謝する」
くそ、あんな距離から回復魔法かよ。
ふざけやがって。
完治には至ってないが、面倒だ。
ピエロの言う通り、攻撃しづらい後衛は厄介だな。
こりゃ一撃で大ダメージを入れるしかないな。
筋肉もさっきの一撃が俺の限界と思ってくれてるとありがたいが。
待機してる魔法にはさっきの3倍は込めてるからな。
「もう子供と思って容赦はせん。
本気で行かせてもらう!
ロード、フレイム ボディ!」
筋肉の全身を炎を覆う。
避けても爆発するからソフィアラを巻き込みかねない。
「お嬢様、俺があいつを止めたらありったけの一撃を叩き込んでください!」
「うん!」
筋肉がこちらに向けて走り出す。
「お嬢様、目を閉じてください!
ロード、フラッシュライト!」
俺は背後に光を炸裂させる。
「ぐっ!」
筋肉への目くらましもあるが、それだけではない。
光を浴びて俺の影が筋肉へ向けて伸びる。
ピエロに習った影魔法だ。
しかし自由自在に伸ばすことはできない。
出来るのは自分の影から少し伸ばす程度。
だが、影が相手に届けばそれも問題ない。
「ロード、シャドウ バインド」
俺の影が筋肉の脚に巻きつく。
動きの取れない筋肉など格好の的だ。
影を引き千切ろうとするが、間に合っていない。
「バースト!」
筋肉は即座に判断し、炎の爆発で俺の影が消滅する。
「ロード、アイス ジャベリン!」
そこにソフィアラが氷槍を叩き込む。
筋肉は回避が間に合わないことを理解し、ソフィアラの氷槍を両腕をクロスさせて受ける。
だがそれも虚しく、両腕を氷槍が貫通する。
「ぐうううううう!」
しかし倒すまでには至っていない。
ソフィアラのINTが高ければ胴体まで到達したかもしれないが。
急がなければ回復を打ち込まれる。
あれだけで倒せるとは思っていない。
「リリース オール!」
さらに待機させておいた俺の4発の魔弾をお見舞いする。
筋肉を中心に、圧縮された魔法が解放された。
凄まじい爆発に、吹き飛ばされそうになる。
「おっさん!」
ひょろ長も仮面を相手取りながらこちらを見ている。
やったか、なんて言わない。
爆発の後には、身体の至る所を欠損して傷だらけの筋肉がまだ立っていた。
くそ、まだ生きてるのか!
「ロード──」
ヒュン──
突然仮面が起き上がったと思うと、筋肉の元へ走り出して首を斬り飛ばした。
筋肉の首が宙を舞い、地面に転がった。
「てめえらぁあああ!」
相手をしていた仮面を無視して、ひょろ長がこっちに走ってくる。
「ロード、アイシクル!」
地面から生えた数本の氷柱がひょろ長を貫いた。
「がっは……!」
残念だが、そこはソフィアラがマナ干渉済みだ。
「ロード、ストーン ブラスト」
俺は無慈悲にひょろ長の顔面に魔法を放つ。
そして、動かなくなったひょろ長の首を仮面が切断した。
あとは、斧使いだけだな。
いや、あの後衛もいるか。
「ロード」
マナを込めながらピエロの方を見ると、斧使いは影の沼に引き込まれている最中だった。
あいつも終わりだな。
おばさんを見ると、腰を抜かして後ずさっている。
「ストーン ブラスト!」
神官とおばさんに向けて魔法を放つ。
「ロード、ストーン ウォール!」
土壁が出現し、神官はなんとか俺の攻撃を防御してきた。
ゴキッ──
影沼の中から何かがへし折れる音が響いたかと思うと、ピエロが神官に向けて走り出した。
終わりだな。
戦闘の途中から、なんだか感情が欠落したかのように思考が冷静だ。
ピエロが土壁の向こうへ回り込む。
「ひ、ひぃ!」
何度か包丁の貫く音が聞こえたかと思うと、何の声もしなくなった。
ピエロがおばさんに向かう。
おばさんは小便を漏らしながら絶望した顔で後ずさっている。
「おい、聞きたいことがあるから殺すのは待ってくれ」
なんだ?
殺すということに何の抵抗もない。
「おい、勇者召喚について知ってることを話せ」
今、俺はどんな顔をしているのだろうか。
「し、知ら、知らないわ!
わ、私は、勇者をコントロールする役目を与えられているだけよ!
召喚には直接関わっていない!」
「でもさっき何か知ってる風な顔をしただろ?
俺が生きてちゃ不都合な何かがあるんだろ?」
「勇者に悪影響を与えるかもしれないから邪魔だと思っただけよ!
私は何も知らされていない!」
「じゃあ誰なら知ってるんだ?」
「勇者召喚に直接関わる方たちには、私は会わせてもらってないわ!
だから誰が知っているかも分からない!
ねえ、全部喋ったんだから命だけは助けてよ!
な、何でもするから!」
結局こいつも末端だったってことか。
「どうします?
逃すと今日あったことを知られてしまいますよ?
攻撃を仕掛けてきておきながら一方的にやられたとか何とかで、言いがかりでお尋ね者にされるかもしれませんね。
後々不都合なことが起きるのは確定でしょう」
「きょ、今日のことは絶対口外しないわ!
絶対よ!」
「でも、その男たちのことは何て説明するんだ?」
「魔獣に襲われて死んだとでも伝えるわ!
だから安心して!私を殺さないで!」
もはや半狂乱だ。
この世界の上位階級の連中ってのは腐ってるな。
人の死なんて、コイツらにとってはどうでもいいんだな。
こんなバカがいなけりゃ、彼らも命を落とすこともなかっただろうに。
「あいつらはお前を守るために死んだが、どう思うんだ?」
「し、仕方ないわよ!
受けた依頼が悪かったのよ!
最悪私が生きていれば仕事を全うしたことにもなるし、彼らも本望でしょう!
ねぇ、もういいでしょ!?
早くここから帰らせてよ!」
「ああ、わかった……。
さっさとここから失せろ」
「今日のことは絶対言わないから!
はぁっ……はぁっ……!」
おばさんは這々の体で自らの馬車へ歩き始めた。
「いいのですか?」
ピエロは残念そうな顔だ。
「お嬢様、すいません。
あんな連中にモモコたちが使い捨てにされるかと思うと、俺は我慢できない。
あんな人の命をなんとも思っていない連中は、いなくなった方がいい。
今からやることで、俺のことは軽蔑してもらって結構です」
「……でも、クロがやらなくてもいいと思うわ」
「さっき戦った彼らも、これじゃあ報われない。
だから、ごめんなさい……」
「そう……」
あいつ1人を殺そうと、何も変わらないかもしれない。
でも……。
「ロード──」
そして俺は、初めて自分の意思で人を殺した。
色々思うところがあるかもしれませんが、これがクロの正義です。
自分で書いててもモヤモヤしたので、読んでる方はもっとモヤモヤしてますかね。




