第31話 奇縁
また長くなってしまった。
帝国への旅8日目──
俺たちは、トラキア連邦の中央都市イヴラコームに到着した。
多くの国が存在するため、行政などはこの都市で一手にまとめて行われている。
楽な旅のはずなのに、なんかめっちゃ疲れた。
主にモモコのせいで。
でも王国を出て以来の大きな都市なので、興奮して疲れもどこかへ飛んでいく。
「おー、結構賑やかな所だな」
まだ冬の寒さが残るなか、大勢の人が行き交っているのが見える。
「そうですね。
王国と比べるとそれほど大きくはないですが、ここを中心に各国に広がっていきますので、人の往来は王国よりも多いかもしれませんね」
「ミドリくんたちはどうするんだ?」
「ひとまず活動報告はしないといけないので、それだけは済ませます。
追加の依頼があればそこに向かうことになりますかね」
「なるほどな。
ここにはどれくらい滞在できるんだ?」
「今日一日くらいなら大丈夫でしょう。
トラキア経由で帝国領に入るまで2日、そこから4日ほどで帝国なので、入学試験の日には間に合いますよ。
早めに帝国入りしたいのであればこのまま進んでも良いですが」
「今日くらいここに居なよ!
あたしソフィアラちゃんと遊びたいし!
おにいちゃんも魔法屋探してるんでしょ?」
「俺はいいけど、また問題が生じたらと思うとすぐに出発したいという気持ちもあるなぁ。
お嬢様はどうですか?」
「モモとまたいつ会えるか分からないから、少し滞在したいわ」
「ソフィアラちゃん……!好き!
もう離さないんだから!むぎゅー!」
ソフィアラが壊れるんじゃないかって勢いで抱きついてる。
ここ数日でさらに仲良くなった感じがするな。
まあ、ソフィアラもこう言ってるし構わないよな。
「じゃあ今日はここを観光していくか。
いいよな?」
「ええ、構いませんよ。
次に何か大きなことが起きたら、それはもう運がなかったということで」
LUCのステータスは高いほうだから大丈夫だと思うが。
むしろ今の状況も運が良くてこうなってる可能性もあるわけだしな。
「そういうことだから、案内頼むな」
「おっけーい!
んじゃ、ちゃっちゃと済ませてくるから待ってて!
ミドリ、早く行くよ!」
「はいはい、分かりましたよ。
クロさん、少しこの辺りでもブラブラして待っててもらえると助かります」
「ああ、了解したぜ」
「時間は有限だよ! ロード──」
ものすごい勢いで走り去っていった。
身体強化までしなくても。
ミドリくんも大変だな。
「この辺りの店でも見て回るか。
お嬢様何か見たいものありますか?」
「甘いものが食べたいわ」
お、自ら希望を言うなんて珍しいな。
モモコの影響か?
いい傾向だ。
「じゃあ適当に見てみましょうか」
「では、私は少し別行動してきます。
若者だけで楽しんできてください。
せっかく来た土地なので、私も色々やりたいと思います。
他の者が陰ながら守っておきますので、安心して観光していただいて大丈夫ですよ。
でも、路地裏とかにはなるべく行かないようにしておいてください。
わざわざ面倒ごとに巻き込まれにいくこともありませんので」
そう言ってピエロはどこかへ歩いていった。
また良からぬことでもやるつもりか?
まあいい。
せっかく環境を整えてくれてるんだし、楽しむとしよう。
「じゃあ、行きますか」
「うん」
近くの屋台でクレープみたいなデザートを買って頬張っていると、モモコたちが戻ってきた。
ミドリくんはだいぶ息が上がっている。
「お待たせ!
って何勝手に甘いもの食べてんのさ!
2人だけずーるーいー。あたしも買ってー」
「お前はいちいち騒がしいなぁ。
ほらよ、これで買ってこい」
金貨1枚を投げ渡す。
少々の出費でモモコが静かになるなら安いもんだろ。
「ありがとう! おにいちゃん大好き!
お礼にチューしてあげようか?」
「うるせー!さっさと買ってこい!」
「わーい!」
モモコは屋台に向けて一直線に走っていった。
どこからその元気が湧いてくるんだか。
「おいしー!
仕事の後のデザートはやっぱ違うなー!」
「なんか僕まですいません。
後でお金はお返しします」
「いや、別にいいよ。 気にすんな」
「なに、おにいちゃん後輩の前だけカッコつけちゃうってやつ?
お金あんまり無いのに無理してるんじゃなーい?」
「おい、今食ってるやつをこっちによこせ!
俺が全部食ってやる!」
「ぎゃー、ソフィアラちゃん助けてー」
モモコはソフィアラの後ろに隠れてニヤニヤしている。
ダメだ、こいつのペースに乗せられている。
一旦落ち着かないと。
「別に無理なんかしてない。
お金なら結構あるから心配すんな。
ちなみに今の手持ちだけでも10プラチナ以上ある」
「は? ふざけてる?」
「いや、真面目も真面目。
ボードゲームとかの娯楽商品で荒稼ぎしたからな」
「なにそれずっるー。チートだチート!
チート野郎はモテないんだぞ!
そんなことだから彼女の1人もいないんだ!」
「せっかく観光案内のお礼に美味しいものでもご馳走しようと思ってたのに、そこまで言われると残念だなぁ。
じゃあミドリくん、あんなのは放っておいて高級なご飯屋さん紹介してくれる?」
「なーんてね、うそうそ!
彼女の1人や2人、いてもおかしくないよね!
おにいちゃんは、なんか、なんていうか、その、えっと、なんかよくわからないけど、すごいはずだよ」
「なにも思い浮かんでねえじゃねーか!」
「えー、そんなにあるならなんでいつもケチくさいのー?
そのケチくささを無くせばモテるのにー」
「うるせー、大きなお世話だ。
というか、仕事依頼とか大丈夫だったのか?」
「うん、何も言われなかったよ!
だから今日はフリーだ!」
全然そんな感じだとは思えないんだが。
「ミドリくん、そうなのか?」
「嘘です。いくつか依頼がありました。
依頼を達成した報告をしたら、モモは今日は忙しいと言ってすぐに出ていったので。
言われなかったというより、言わせる暇を与えなかったというほうが正しいです。
ただそこまで急ぎのものじゃなかったので、今日は大丈夫かと」
俺はモモコの顔面を掴む。
「おいモモコ、嘘付くんじゃねーよ。
お前らを待ってる人もいるんだろ?」
「暴力はんたーい!
結果的に今日は時間あるんだからいいじゃーん。
あたしはソフィアラちゃんと一緒に居たいの!」
顔を掴まれながらモゴモゴ言ってる。
「まあいい。
時間があるんだったら、これでもかっていうくらい付き合ってもらうからな」
「おっけい、望むところよ!
ソフィアラちゃん、手繋ご?」
「うん」
「もう一生離さない!
はあ〜、ソフィアラちゃんみたいな妹が欲しかったなぁ。
できれば貰って帰りたいんだけど!」
「無理言うな。 とりあえず動くぞ。
ここで立ち話をしてても仕方ない」
「どこ行きたいの?」
「この間ミドリくんが言ってた、ディレイマジックを教えてくれるところと、あとは魔道具屋でもあれば見てみたいな」
「ソフィアラちゃんは?」
「水魔法関連で何かあれば」
「んじゃあっちの方向だ! レッツらゴー!」
モモコはソフィアラの手をブンブン振り回しながら歩き始めた。
「ここですね」
「なにここ怪しすぎだろ」
俺たちは件の魔法を教えてくれるという人がいる店の前にやってきた。
紫のローブを着た魔女が水晶玉を右手に掲げて持っている奇抜なデザインが描かれた外観で、一際目を惹く建物だ。
というよりだいぶ浮いている。
ここだけすっぽり両脇に店がないもんな。
「おにいちゃん、入るの?
絶対変な人だよ?」
「それは入ってからのお楽しみということで。
ごめんくださ〜い」
「うわ、突撃した。 勇者だ勇者」
扉を開けると、中はめちゃくちゃ薄暗い。
店の奥に一箇所だけスポットライトが当たっている部分があり、水晶玉を前にして老婆が座っているのが見える。
老婆の格好は外観に描いているのと全く一緒だ。
どう考えてもこの人がまともなわけないよな。
「すいませーん、魔法を習いに来たんですけどー」
「帰れ!!!」
あー、やっぱり?
「ほら!
おにいちゃん、やっぱり頭おかしい人だよ」
「なんじゃい、小娘ぇ!!!
聞こえておるわああ!!!」
モモコは小声だったのに、しっかり聞こえているらしい。
こういう手合いは、あくまで下手にでないといけないんだよ。
「ディレイマジックを教えてくれる高名な魔法使いがいるって聞いてやってきたんですけど」
モモコが何かを言おうとしているが、口を押さえて黙らせておく。
「なんじゃい小僧。
どこぞでワシの名前でも聞いたんかい!?」
「いえ、お名前は存じ上げないですけど」
「冷やかしかあああ!! 帰れ帰れ!!!」
常に叫び続けてるのマジで怖いんだけど。
ミドリくんを見るとドン引きしてるし。
「お金なら払いますので、そこをなんとか」
「小僧、100プラチナかかるが払えるんかい!?」
どんだけぼったくりだよ。
「100は流石に……」
「なら帰った帰った!
お前ぇみてえな魔法のまの字も知らねえ輩が多すぎるんじゃい!!
魔法とはそんなに簡単に教えていいもんじゃないんじゃあ!」
「じゃあお婆さん、なんでこんな店やってるの?
簡単に教えないって言いながらお金払えば教えるって、なんか言ってることおかしくない?」
気を抜いた隙にモモコがやっちゃったよ。
あーあ、こりゃ関係がこじれて終わりだな。
「小娘が生意気な口を!!
それがこの大魔術師オリオール=ルーマンに対する口の利き方かあ!!!」
「あれ……?」
「どうしたの、おにいちゃん?」
「ルーマンって、ヴィクターの親戚か何かか?」
「小僧、今なんと言った!?」
「いや、その名前ってヴィクター=ルーマンの親戚か何かかなぁと」
「小僧、どこでその名前を!」
ドタドタいって老婆が走ってくる。
一挙一動が怖いよ。
「勇者と一緒に戦ったって有名なんだろ?
あと、ほら。 俺はあいつから魔導書を引き継いでる」
胸元の魔法陣を見せる。
暗いけど見えてんのかな?
「な、なんじゃと!」
ついに腰を抜かした老婆。
ここまで驚いてる人はじめて見たかも。
「婆さん、ヴィクターの子孫とかなの?」
「た、たしかにヴィクター様はワシのご先祖様じゃ。
まさかヴィクター様の後継者がおったとは……」
世間って狭いんだなぁ。
ヴィクター“様”ってなんか違和感しかないな。
「ヴィクターって人、そんなにすごい人なの?」
モモコが聞いてくる。
「ヴィクター様は、魔法に関するあらゆる常識を覆されたお方じゃ。
すごいなど、そんな一言で言い表せられるお方ではない」
言いながら老婆が立ち上がる。
確かにヴィクターが非常識という意味では、常識を覆してたな。
「それで、魔法は教えてもらえるのか?」
「ヴィクター様の後継とあっては無下に断れん。
小僧、付いて来い」
やったぜ。
今回はモモコの手柄だな。
たまには褒めてやるか。
頭をわしゃわしゃしてやる。
「なに、おにいちゃん!
いきなり頭ナデナデしてきて怖いんだけど!」
「今回の手柄に応じて、犬のように頭をわしゃわしゃしてるのだ!
ありがたく受け取れい!」
「やめてよ、髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうでしょ!」
「お主ら早く来んかあ!!」
あ、また元の婆さんに戻ってる。
「今行くから待ってくれ」
「何をイチャついておる。
そんなものは外でやれい!」
「イチャついてるだって。
そう見られる経験が一生に一度でもできてよかったね、おにいちゃん」
うぜぇ。
俺だって頑張れば彼女くらいすぐにできるんだからな。
「ほれ、これを持て」
小さい本を渡された。
「なんか小さい魔導書みたいだな」
「その認識で間違いない。
ただ、魔導書のように高度な魔法を封じることはできない。
これはマナを込めれば誰でも魔法を取り込むことができる」
「こんな方法もあるのか。
本を読んで必死に覚えるのが普通と思ってたぜ」
「大概の魔法はそうじゃ。
教える者を限定したい場合はこういう方法を使う。
それの最たるものが魔導書じゃな。
ほれ、早速やってみるのじゃ」
「あいよ」
俺は本にマナを込める。
本はマナを吸うと消えてしまった。
「これでいいのか?」
「ああ、それで終わりじゃ。
ディレイマジックと考えれば思い浮かぶじゃろ?」
お、確かにな。
しっかり頭に入ってくれてる。
「使い方はどうするんだ?」
「魔法陣を展開して必要量のマナを込めたら、ディレイマジックの魔法陣を頭の中で思い浮かべる。
そしてディレイマジックと唱えれば発動するはずの魔法が待機状態で維持される。
最後にリリースと唱えれば魔法発動じゃ」
「とりあえずやってみるか」
ファイアボールを思い浮かべる。
「ロード」
そしてマナを込める。
このいつでも発動できる状態で唱えるんだな。
「ディレイマジック」
すると俺の頭の上あたりに、赤い魔法陣がその面を前方に向けて浮かび上がった。
なるほど、こういうこと。
こりゃミドリくんの言う通り、奇襲には向いてないな。
「リリース」
魔法陣から火球が飛び出した。
ここから出てくるのね。
「だいたい分かった。
これって複数展開可能なのか?」
「可能じゃ。
だが、2つ目からは消費MPが跳ね上がるから複数使用はおススメせん。
それと複数ある場合は、リリースと唱えれば展開した順に発動する。
全部一度に使いたい場合はリリースオールと唱えろ」
「ああ、分かったぜ。助かったよ、婆さん」
「これで教えることはもうない。
では最後にお願いがあるんじゃが。
ヴィクター様のことを教えてはくれぬか?」
「ああ、そんなことか。あいつはな──」
俺たちはオリオールの店を後にした。
「おにいちゃん、教えてもらえてよかったね!
最初は変だったけど、お婆さん最後は喜んでたね」
「そうだな。
それにしても奇妙な出会いがあるもんだ」
「狭い世界だね!じゃあ次は魔道具店だ!」
ヴィクター、あんたの子孫はしっかり生きてるぜ。
俺はオリオールとの出会いに感謝し、観光を続けるのだった。




