第30話 喧騒
文章量が安定しない今日この頃。
「おにいちゃん、流石にその内容はひどすぎでしょ。
ソフィアラちゃんを守らなくてどうするのよ」
「すいません……」
俺は先の戦闘内容の講評から、モモコに叱られている。
「タゲとりするなら、しっかりヘイト集めないとダメだよ。
それに群れ相手に単体攻撃って……」
「……」
つらい……。
気づかないうちに俺は正座になっている。
テンパってたんだから仕方ないだろ?
それにピエロがいるっていう安心感もあったから、あんなひどい内容になっちゃったんだ。
「ダメなおにいちゃんだねぇ?
妹として情けないよ……。
情けないったらありゃしないよ!」
ビクッ。
急に叫ぶなよ。
情緒不安定かよ。
こえーよ、この子。
というか完全に妹宣言しちゃってるし。
「じゃあ、どうすればよかったん──いや、よかったのでしょうか?」
モモコがめっちゃ睨んでくるから途中で敬語になっちゃった。
完全に立場逆転したわ。
いきなり殴られてもおかしくないな。
防陣だけ張っとこ。
「そんなもんは……男なら自分で考えろ、バカ兄貴!」
予想通りモモコの拳が飛んでくる。
読めたけど、速すぎて回避できるものじゃなかった。
防陣の効果で、モモコの拳は俺の頬で停止する。
「!?」
驚いてるな。
まあ当然っちゃ当然か。
でもこの場合、素直に殴られてた方が正解だったかもしれん。
というか、炎まで纏わせてんじゃないよ!
殺す気か?
「〜〜〜〜!
このバカ兄貴は、ほんとにもう!」
床を踏み倒してブチギレてる。
ホントなんなの、この子……。
「クロさん、モモの一撃を止めるなんて流石ですね。
一瞬ヒヤヒヤしましたよ」
「まあこれくらいはな……。
でも甘んじて受けてたら多少はスッキリして、あそこまではキレてはなかったよね。
何が正解なんだ?」
「僕にもサッパリ……。
ああなったらしばらくは手がつけられないんで、ほっといてあげてください」
「あたしの攻撃は止められるのに、狼からソフィアラちゃん1人も守れないのか!?
それでもあたしのおにいちゃんですか!」
「だから申し訳なかったって!」
「あたしに謝ってんじゃねえ!
ソフィアラちゃんに謝れ、バカ!」
完全にキャラ変わっちゃってるよ。
「お嬢様、守りきれなくてすいませんでした」
「私も判断が甘かったからお互い様よ」
「ソフィアラちゃん、無理しなくていいんだよ?
全部おにいちゃんが悪いんだから!」
ひいきは良くないと思いまーす。
「落ち着けって。
確かに俺は自分の得意分野で戦えてなかった。
自分のやりたいことをやってただけだった。
俺は失敗から学ぶ生き物だ。
今後、もうこんなことはない」
「ホントかなぁ?」
「ホントだって。
ピエロの戦いを見てても、自分の得意分野に引き込もうとしてただろ。
俺は敵に翻弄されすぎて自分の力が出せてなかったんだ。
俺本来の戦いをすれば大丈夫なはずだ」
「本来って?」
「大量のMPを生かして……なんとか」
「大量って、ちなみにおにいちゃんMPいくつあるの?」
「3200とかそんなもんだ」
「はあ!? すっご! なにそれチートじゃん!
そんなにあるのに狼に負けてるの?
勿体無すぎでしょ!
もったいないオバケが出たぞー!」
馬車の外に向けて大声で叫ぶモモコ。
このテンション……モモコはどこへ向かっているのだろうか。
「そんなMP初めて聞きました。
すごいですね、クロさん」
「でもモモコの言った通り、使いこなせてないから意味ないんだよな。
大量にMPを使う大魔法とかあれば覚えたいんだけど、独学だから魔法には限界があるんだよ」
「低級の魔法でも大規模なものをイメージしてやれば、そこそこのMPを消費できると思いますよ。
元からMP消費が多い魔法をわざわざ使う必要は無いんじゃないですか?」
「確かにな。
でもそれだと発動までに時間かかるんじゃないか?」
「じゃあおにいちゃん、戦闘が始まる前から魔法を発動する直前で待機させてたらいいじゃん」
「ずっと魔法を展開しておけってことか?
どんな魔法を使うかモロバレじゃないか?」
「先に相手に見せてたら牽制にもなるんじゃない?
それに相手もいきなりMP大量消費の魔法を使ってくるとも思わないから、先制攻撃でかなりのダメージは見込めると思うんだけど」
「ほほーう。
なるほど、そんな考え方もあるのか」
「何がほほーうだ。
自分で考えつけ、バカ!」
「あとはそうですね……ディレイマジックを使うのが良さそうですね」
「ディレイマジック? なんだそれ」
初めて聞く単語だ。
「魔法を待機状態で置いておく魔法ですよ。
発動キーさえ唱えたら待機させてる魔法を即座に使用可能です。
でも待機させてることが相手から見えちゃうので、奇襲攻撃としてはイマイチですね。
それなら僕たちみたいに肉体刻印魔法を使う方がバレないで済みます。
大規模な魔法陣は描けないので、威力としてはディレイマジックに劣りますが。
クロさんの場合はディレイマジックの方がオススメですよ」
「そんなものがあるのか。
それは是非とも入手したいところだな」
「たしか、中央都市なら教えてくれる人がいたと思いますよ。
ただ法外な値段を吹っかけてくるので、習いたがる人は少ないですが」
「お金で安全が買えるなら安いもんだろ。
肉体刻印魔法はどうなんだ?」
「これは時間がかかるし、痛みもあるのでおススメできないですね。
それに特殊な技術なので一般には使える人は少ないです。
僕たちは勇者だから特別にやってもらってますけど。
僕の場合は眼球とかを含めていくつかやってます。
モモも結構な数を刻印してますね」
眼球って。
「大丈夫なのか?」
「まあ死ぬよりはいいんじゃなーい?
あたしはできれば長生きしたいからね。
痛みくらい我慢するよー」
軽く言ってるが、多分痛みなどは相当なものだろう。
「かなり参考になった。助かったよ」
「今度はソフィアラちゃんをしっかり守ってあげなよ?
おにいちゃん!」
「肝に命じておく」
「じゃあ、今から特訓だね」
「今からやるのか?」
「そうだよ、おにいちゃんとソフィアラちゃんがどれくらいの魔法を使えるか私が見てあげよう。
もう少し先に行ったところに何もない雪原があるから、そこなら大丈夫でしょ」
陽の落ちる少し前には、モモコの言う雪原にたどり着いた。
「じゃあおにいちゃん、よろしくー」
「ロード!」
今回はひたすらマナを込める。
いつも火魔法ばっかり使ってるから、今回も火魔法でとびきり大きなものをイメージする。
一応、太陽みたいなのを想像してやってみるが。
マナを半分くらい注ぎ込んだあたりで、なんか魔法陣が不安定になってきた。
なんでもかんでも注いだらいいってもんじゃないらしい。
MP全消費のマ◯ンテみたいなのは無理か、残念。
よし、そろそろか。
「ファイアボール!」
お?
掲げた右手の上に、直径10メートルほどの火球が現れた。
「おー、すっごー!
じゃあ遠くに投げるんだ、おにいちゃん!」
投げるって言ったってなぁ、このサイズだぞ?
ここで爆発させても困るので、砲丸投げの要領で火球を押し出す。
フワリと火球が宙を舞い、ゆっくりと放物線を描きながら遥か先に着弾する。
ドゴォォォン──
わー、すっげー。
なんか映画でも見てるみたいだ。
でもなんか現実感がないな。
少なくとも、実戦で使える魔法じゃない。
炎で雪が溶けて水蒸気が漂っている。
「じゃあ、次は同じくらいの火球を作って圧縮してみて」
圧縮の感覚が分からん。
「圧縮って、火球を生み出してからやればいいのか?」
「んーそれだと効率悪いから、生み出す瞬間にそれが収まる小さな袋をイメージするんだよ」
言われるままに行う。
「ロード!」
火球を作るまではさっきと一緒だ。
「ファイアボール!」
巨大な太陽が出来上がる直前、それをギチギチに詰め込んで今にも弾けそうな袋をイメージした。
今度はさっきの半分くらいの大きさだ。
でもイメージ通り、今にも弾けそうな調子で火球の表面がモコモコしている。
イメージの調子が良すぎた、これはヤバイ!
俺は咄嗟に火球を放り投げる。
さっきよりも小さいサイズのため、投げやすさは段違いだ。
しばらく飛んでいくと、地面に着弾する前にそれが弾けた。
ドッ──
……なんだ?
──ゴォォォォォォォォォォォォォォォン
さっきとは音も威力もまるで違う。
今回は全身に爆発による振動を受ける。
「おにいちゃん、これはさらにすごいねー。
これが圧縮による違いだよ。
元のサイズに戻ろうとするときに威力が上がるんだよね。
これで分かったよね?
うまいこと調整すれば、そこまで見た目に大きな魔法が必要ないってことが。
これなら威力もサイズも誤魔化して攻撃することができるってわけだ。
練習すればもっと小さくできるはずだよ」
見た目が派手な魔法こそ高威力だと勘違いしていたな。
これなら色々とできそうな気がする。
「こりゃためになったぜ」
「いいってことよ!
じゃあ、あたしはソフィアラちゃんのとこいってくるから。
あとはよろしくぅ!」
モモコはソフィアラの元へ走り去っていった。
騒がしい子だなぁ。
「クロさん、何か掴めそうですか?」
ミドリくんがやってきた。
「そうだな、しばらく練習すればいい感じになりそうだ」
「そうですか。 それは良かったです。
それと、今日はモモがすいませんでした」
「別に気にしちゃいないよ。
ずっとあんな調子なのか?」
「いえ、最初こっちにきてすぐ帰れないって聞いたときは結構落ち込んでたんです。
でもそれ以上に僕が落ち込んでいたので、僕を励ます意味でもああなったんじゃないかと。
根はいいやつなので、どうか嫌いにならないであげてください」
そうだったのか。
「あいつはあいつで考えてることがあるんだな。
意外だったよ。
まぁ多少ウザいけど嫌いにはならないよ。
お嬢様とも仲良くしてくれてるし。
むしろ感謝してるくらいだぜ」
「そうですか。それはありがとうございます。
クロさんもお一人で大変なのによくしてもらって、とても感謝してます」
「同郷に会えたってだけで、俺はすげえ満足してるぞ。
なるべく早く地球に帰れるといいな」
「そうですね。
僕たちもクロさんを早く地球に戻せるように頑張ります」
「助かるよ。
まあでも、俺なんかよりモモコをちゃんと地球まで返してやってくれ。
俺は俺で何かできることを探してみる。
戦わなくても戻れる方法があるなら、それに越したことはないしな」
「はい、一緒に頑張りましょう」
「じゃあ飯にするか」
「あれ、ご飯ってどうしてるんですか?」
「ご飯も寝床も、寝てる間の警戒も全部ピエロたちがやってくれるんだよ。
だから旅としてはかなりレベルが高いぞ」
「そうなんですね。
あんな見た目で、なんでも出来るんですね」
ああそうか、最近麻痺してたけどあの格好は異常だもんな。
「じゃあ行くか」
「ご飯うまー!
何でもできるじゃーん!
一家に一台リバーさんなんだけど!」
こいつは飯の時もうるせーなぁ。
「おにいちゃん、これはずるいよ。
こんなの危険が伴う旅じゃなくて、ただの旅行じゃーん!」
喋るながら食べるから、口の周りが汚いこと汚いこと。
「黙って食え」
「食卓では会話がないと楽しくないよ!
ねー、ソフィアラちゃん」
「そうね」
飯の時くらい離れていろってんだ。
ソフィアラは悪い影響を受けてないといいが。
ソフィアラが「◯◯じゃーん」とか言い始めたら俺は悲しいぞ。
「おにいちゃん、寝るときはどうしてるの?」
「馬車の中だぞ?
荷物で遮ってるから問題も起こらない。安全だ」
「えー、ソフィアラちゃんと一緒の空間なの?
不潔なんだけどー」
「俺は馬車で寝るから、そんなに嫌ならお前は目の前の広大な大地で寝てろ」
「ええー、妹の扱いがひどいー。
ほんとは一緒に寝て欲しいくせにぃ」
「よし、殴ろう。
妹のしつけは兄貴の義務だ。
後のことは殴ってから考えよう」
「ソフィアラちゃん助けて!
このおにいちゃん、なぜか攻撃が効かないから嫌なんだよ!」
「家庭のことなら口出ししないわ」
まさかの裏切り。
「え、あたしたちもう姉妹みたいなもんじゃーん。
ソフィアラちゃんも関係あることだよ」
「じゃあ暴力はいけないわ」
「これで2対1だよ?」
「はいはい、もう好きにしてくれ……」
こいつには勝てないわ。
「クロ」
「はい、何でしょうお嬢様」
「おにいちゃんって呼んだらいいの?」
「……」
「……」
「それは絶対にやめてください……」
長い5日目が終わった。
モモコのキャラが濃すぎて、一瞬で愛着湧いた。




