第29話 同行
ついに10万文字超え!
「そこの女子、攻撃はするな」
「えっと……あなたも勇者?」
「それを今から話すから、身体強化を解け」
大人しく従う少女。
こいつらは勇者か。
よく見ればテレビやネットでその顔に見覚えがある。
日本で行方不明になった少年少女で間違い無いな。
髪の色は変わっているが、色々調べていた特によく見た顔だ。
ピエロとソフィアラはポカンとしている。
急に知らない言葉で俺が話し始めたから当然か。
「とりあえず攻撃はしてこないと思うから、戦闘は中止だ」
ピエロにひとまずの安心を伝える。
「一体どういうことでしょう」
「あいつらは異世界の勇者だ。
そして俺も、同じ異世界から来た人間だ」
「なーんだ、それならそうと早く言ってよね!」
なんだこの女。
「うちのモモが大変な失礼を……」
こっちの少年の態度が普通だと思うんだが。
「俺は黒川ハジメ。20歳だ。
あいにく俺は勇者じゃない。
召喚に巻き込まれただけの一般人だ」
「そうでしたか。
僕は柳沢ミドリです。16歳です。
彼女と一緒にトラキアの勇者として召喚されました」
「あたしは吹春モモコ!
ミドリと同じ16歳だよ!
よろしくね、おにいさん!」
うぜぇ。
「ところで君たちはクラスまるごと行方不明になってるんだが、2人だけか?」
「えっと、そうですね。2人だけです。
僕たちがこの世界に来たときには、他の人はいませんでした」
「あれ? そうなのか。
じゃあ俺みたいに巻き込まれた子はどうなってるんだろ。
他の国にでも飛ばされたのかな?」
「僕も分からないですね。
機会があれば聞いておきます。
あの、黒川さんはどうしてこんなところにいるんですか?」
「クロでいいぞ。俺もミドリって呼ぶし。
俺たちは春から帝国の魔導学園に入学するから、その道中だ。
この間の雨で橋がやられたからトラキア経由で帝国に向かってる最中ってわけだ」
「えー、学校通うんだー。 いいなー!
あたしのことはモモでいいからね!」
入ってくんな。
「そうだったんですね。
モモには悪気はないんですが、こんな性格なので……。
そっちのピエロの方には本当に申し訳ないことをしてしまって、すいませんでした」
ミドリくんが頭を下げている。
モモコ、お前も謝れよな。
「いえいえ、構いませんよ。
勇者と手合わせできるなんて、良い経験ができましたしね」
「モモも謝って!
できる限りのお詫びはしますので……」
「ピエロの人もいいって言ってるんだからいいじゃーん。
まあでも、ごめんなさいでしたー」
ペコリと一瞬だけ頭を下げるモモ。
こいつ。
「そうですね、お詫びということでしたら……。
お二人の眼球を頂きましょうか」
「「えっ……?」」
モモとミドリが青ざめる。
「冗談ですよ? お詫びなんていいですから」
なんてこと言ってやがる。
その顔で言われると冗談に聞こえないんだよ。
というか、その格好さえキチンとしてたらこんなこと起こらなかったんだからな?
「ところでモモコよ。
お前、俺ごとやろうとしてやがったな!」
「えー、蒸し返さないでよー。
怪我がなかったんだし、いいじゃーん。
過ぎたことをブツブツ言ってたらモテないぞ?
クロおにーちゃん!」
くっ……!
「どうしたんですか、顔なんて背けて」
ピエロが聞いてくる。
こいつ、わざとか?
「そうだよ、こっち向いてよ?
クロおにいちゃん!」
この女、俺がモテない人生を送っていたことを見抜いてやがる。
俺が陰キャでオタクということを。
女子とあまり触れ合ってなかったことを。
わかった上でジワジワとダメージを与えてくる。
なんて女だ。
俺の戦いが始まるッ──
「なんで一緒に馬車に乗ってんの?」
「すいません……」
「いいじゃーん、同じ方向なんだし!
おにいちゃんのモテないポイント、ぐんぐん上昇中だよ?」
「ミドリくん、こいつ黙らしてくんない?」
「えっと、僕では手に負えないです……」
「ソフィアラちゃんも別に私たちがいても構わないよね?」
「馬車の旅が楽しくなったわ」
モモコとソフィアラはもうべったりだ。
モモコが一方的にくっついてるだけなんだけど。
「ほら、こう言ってるんだし!
そんな了見じゃ、女の子ひとり守れないぞ?
あたしとソフィアラちゃんの仲を引き裂こうとするなんて、ひどいおにいちゃんだね?」
一発ひっぱたいても文句言われないよね?
「ああもう、わかったよ! 居たいだけ居ろ!」
「やったー!
それでこそ、あたしのおにいちゃんだよ!
ところでおにいちゃん、ソフィアラちゃんとどういう関係?
未成年に手を出すのは犯罪だって知ってる?」
ホントぶん殴りたい。
「ただの護衛役だよ。 変なことは何もない」
「護衛? 狼なんかにやられてるのに?」
……マジで馬車から追い出したい。
「うるせー!
たまたまだよ、たまたま運が悪かっただけだ」
「ホントかなぁ?
ソフィアラちゃん、そうなの?」
「クロは頑張ってるわ。うまくいかないだけよ」
「お嬢様、それフォローになってないっす……」
「ところで、クロさんはどうして僕たちが日本人だって気づいたんですか?」
もはやミドリくんがいるだけで癒される。
あの女はダメだ。
「俺には言葉がちゃんと日本語で聞こえたからな。
言語理解の魔法でミドリくんたちが聞き取る言葉は自動的に変換されてるんだ。
一方、発した言葉の場合は相手が誰であろうと聞こえるようになってるらしい。
それで俺の場合は変換なしで伝わってる。
俺はこっちの言葉もマスターしてるから、それが日本語かどうかはわかるんだよ」
「へえ、そうなんですね。
しかしこっちの言葉も話せるなんてすごいです!」
「覚えないと生きていけなかったからな……」
「案外頑張ってるんだね、おにいちゃんも。
ソフィアラちゃんはおにいちゃんが異世界人って知ってた?」
「知らなかったわ。
でも元々変だったからあまり驚かないわ」
今日のお嬢様は一段とキツイぜ。
「というか、乗ったからにはしっかり道案内してもらうぞ?」
「わかってるよー。
おにいちゃんは心配性だなぁ。
まあでも、私たちも明確な目的地は決まってないんだけどね。
ひとまず中央都市に向かおうとしてただけ」
「そうなのか?」
「そうだよ。
さっきダンジョンをぶっ壊してきたから、この辺りはもう比較的安全になったからね。
あたしたちは国全体の治安維持をやりながら、レベルも上げてるって感じ。
だからまた依頼があればそこに向かうんだよ」
「なんかいいように使われてるな」
「別にあたしは気にしてないかな。
敵をぶちのめせたらそれでいいし!」
こりゃミドリくんがいないと舵取りは大変だな。
「じゃあなるべく最短ルートで帝国に入れる感じで頼むわ。
それでいいよな?」
「ええ、構いませんよ。
途中に大きな街でもあれば、時間に余裕のある限りは寄っていっても大丈夫ですよ」
「ピエロさんもこう言ってるし、私たちに任せてよ。
このまま3日くらい進めば、途中でこの国1番の大都市を通るから遊んでいけばいいと思うよ!」
「3日って、俺たちが居なかったらどうやって行くつもりだったんだ?」
「ん? 当然歩いてだけど。
小さい国が点在してるから、そこを経由しながらだと宿に困ることはないね。
いろんな国が集まってできた連邦国家だしね」
「たくましい生き方してるなぁ」
「当然でしょ、勇者なんだから。
それにしても、おにいちゃんたちに巡り会えてよかったよ。
疲れないし、ソフィアラちゃんは可愛いし!
あとはおにいちゃんがケチじゃなかったら文句ないんだけどね」
「おいモモコ、放り出されたいのか?」
「冗談だよー。おにいちゃん、スマイルスマイル!」
こいつのペースで話すのはマジで疲れるわ。
ミドリくんも俺を見て申し訳なさそうにしている。
「ところでピエロさん、なんであんなに強いの?
うちの国の強いって言われてるハンターでもあんまり見ないよ?
というか、名前なんて言うの?」
ついにピエロにまで絡み始めた。
見境なしかよ。
「商売で外に出ることが多いので、身を守るために鍛えただけですよ。
ほとんど独学ですので、自分が強いかどうかは分からないですねぇ。
名前はリバー=ファッティです」
名前あったんかい。
「へえー、そうなんだ。
リバーさんって言うのかー。
もっと戦える職業に就けばいいのに!
勿体無いねー」
「あまり危ないことはしたくないのでね。
平和であれば、それが一番ですよ」
どの口が言ってるんだか。
「リバーさんが乗ってるなら旅も安心だね、ソフィアラちゃん!」
モモコはソフィアラに抱きついて顔を擦り付けている。
ソフィアラに嫌そうな様子もないし、同年代の友達ができて結果的にはよかったな。
「おっとそうだ、狼とのお二人の戦闘の講評がまだでしたね」
「あ、忘れてた。
というか恥ずかしいからやめてほしい」
「あたしもおにいちゃんの不甲斐ない戦闘内容をしっかり聞いてあげるからね。
なんならアドバイスもしちゃうんだから!」
「やめて!」
騒がしさを増した馬車がトラキア連邦を進む。
リバー=ファッティ
ファッティリバー
fatty liver
脂肪肝




