第27話 覚悟
会話多め。
帝国への旅5日目──
3日目と4日目は何も事件は起こらなかった。
雨が降り続いている以外は穏やかな旅だった。
毎日イベントがあってたまるか。
今日は天気も良くなったし、景色を堪能できて楽しい1日になりそうだ。
しかし俺の願いも虚しく、馬車は停止する。
止まるってことは、事件だ。
俺には分かる。
「何でしょうかね」
ピエロが出て行く。
とりあえず見に行くのはピエロの役目だ。
俺も守ってもらう立場上、変に出しゃばったりしない。
「大丈夫そうですよ」
前方の幌の間からピエロが顔だけを覗かせる。
その怖い顔なんとかならないの?
俺は誘われるままに馬車の外に出ると、結構な数の馬車が立ち止まっているのが見えた。
俺らが直接関わらないタイプの事件か?
殺人事件とかだったら嫌だぞ。
フードの男を残して集団に近づく。
「どうされましたか?」
「うお!!! 盗賊か!?」
ピエロが声を声をかけると、声をかけられた方は仰け反りながら驚く。
その声を聞いて周りの連中も身構える。
「ほら、こうなるじゃないか」
「それで、どうされたんですか?」
「いや、説明しろよ!
この格好は盗賊に襲われないようにするためのカモフラージュです。
驚かせてすいません、皆さん」
何で俺が説明するんだよ。
「なんだ、びっくりさせないでくれよな。
ここ数日の雨で土石流が起こって、この先の橋が壊れてな。
それで俺たちはここで立ち往生させられてるんだ」
「そうなんですか。
それで、すぐ通れるようになるんですか?」
「いや、当分は無理だろうな。
一度その目で見てみなよ。一緒に行こうぜ」
俺たちは馬車の間を縫って現場へ向かう。
さっきの騒ぎを聞いていなかった人たちは、ピエロを目にすると一様に驚いた顔をしている。
一緒に歩くのが恥ずかしすぎる。
ピエロは気にもしていない様子だが。
到着すると、聞いていた以上の壊れ具合だった。
巨大な岩石が橋のいたるところにめり込んで、橋の中腹は完全に途絶えていた。
橋は向こうの陸地が見えないくらいの長さで、馬車数台が十分に通れる幅はあるが、見事にめちゃくちゃだ。
こりゃ無理だな。
「な、 ひでぇだろ?」
「どうするんだ?」
「困りましたねぇ」
「こんな大きな橋が壊れることなんて想定してなかったからみんな困っててな。
行くとしたら北か南だが、南から来た連中によれば南の方はここよりもひどい状況らしい。
いくつかの村や町が飲み込まれたみたいだしな。
だが北は大型の獣や魔獣が出るってんで、そっちに行こうとする奴は今のところ居ないな。
あんたらはどこに行くつもりなんだ?」
「帝国です。
春から帝国の学園に入学するつもりなんですよ」
「それだと復旧を待ってたら間に合わねえな。
間に合わせるなら北のトラキア連邦ルートしかないな」
「じゃあ北に行きましょうか」
ですよね。
「おいおい、あんたら大丈夫なのか?」
「大丈夫でしょう。
それに、依頼通りに帝国へ辿り着けないのは依頼主に失礼ですからね。
色々親切にありがとうございました」
見た目はともかくとして、仕事はしっかりこなすんだな。
「そうか。それなら仕方ねえな。
くれぐれも気をつけなよ」
男は手を振ると自分の馬車に戻っていった。
「じゃあ早速向かいましょう。
冬の獣は凶暴ですが、大挙してやって来ない限りは問題なく対処できるでしょう」
フラグを立てるなフラグを。
俺たちは北に向けて馬車を走らせる。
「それにしても旅ってのはうまくいかないもんだな」
「旅なんてそんなものですよ。
道中でどれだけ問題が起こっても、キチンと対応できれば結果的にそれはうまくいったということなんですから。
橋を渡っている時に被害を受けなかっただけ、まだ幸運な方ですよ」
ピエロがまともな事言ってる。
「確かにその通りだな。
まだ十分に辿り着ける可能性があるだけマシか」
「そうですよ。
このルートは獣が多く出ますが、ただそれだけです。
なんなら戦闘はお任せしても?」
「いや、雑魚の魔獣でも倒せる自信がない」
「実戦に勝る訓練は無いと思いますが?」
「確かにそうだが、武器も魔法も攻撃力が足りないんだよな」
「攻撃力がないなら手数で攻めるとか、手段はいくらでもありますよ。
それなら一度見せてください。
アドバイスできることがあるかもしれませんよ」
「わかった。じゃあ獣か魔獣が出た時は任せてくれ。
お嬢様は大丈夫ですか?」
「うん」
「それじゃあ魔物を集める香でも焚きますか」
「いや、無理にじゃなくていいぞ。
多く出るって話なんだから、待ってたらいずれ来るだろ」
「そうですか?それは残念です」
戦いたくて仕方ないのか?
でもこの行動力は見習いたいものだな。
そのまましばらく馬車を走らせると、景色に白が混ざり始めた。
まだ北は完全に冬が明けてないんだな。
遠くに見える山なんて真っ白だ。
道の両脇の木にも雪が確認できる。
心なしか気温も下がってきた。
ちょっと寒いな。
「馬車内の温度を上げましょうか?」
「いや、ちょっと試したいことがあるから待ってくれ。
ちょっと魔法でどうにかできないかやってみる」
「火を出すと危ないですよ?」
「まあ見てなって」
旅を開始してからやっている訓練の応用だ。
火魔法を使うが、今回イメージするのは「燃やす」ではなく「熱する」だ。
熱を起こすのに必要なのは、原子の振動だ。
こんなものは高校生でも知ってる簡単な知識だ。
この世界は魔法があるから、イメージさえしっかりしていればできるはずだ。
俺は空気を支配するイメージで、体の周囲にマナを停滞させる。
揺らす……揺らす……。
イメージは問題ない。
よし、マナの準備も大丈夫だ。
初めてやるから上手くいくかは分からないけど、やるだけやるぞ。
「ロード」
俺のイメージに合わせて魔法陣が変化していく。
「ヒート!」
お?
だんだんあったかく──
「あっつ!」
急いでマナを拡散させる。
あ、あぶねー。
茹で上がるところだった。
ひたすら揺らすイメージしかしてなかったから加減ができなかった。
だけど、知らないことでもやればできるぞ。
「はじめてにしては空間干渉ができていましたね」
ピエロが驚いている。
「すごい」
ソフィアラも珍しく声を上げている。
「なんか今ので自信ついた」
「じゃあ魔法の練習がてら、温度を上げるのは任せましょうか」
「任されたぜ」
思わぬところからうまくいくキッカケが現れた。
俺の魔法を見てソフィアラもやる気十分だ。
「ところで、どうして強くなりたいのですか?」
ピエロが唐突に疑問を口にする。
「そう聞かれると答えに困るな」
「聞き方を変えましょう。
どんな強さを求めるのですか?」
そんなこと考えたことなかったな。
「うーん……漠然と、色々なことができるようになればいいというイメージしか持ってなかったな。
少なくとも、生き抜くだけの力は欲しいが」
「なるほど。
生き抜くというのは、相手を殺してでも?
それとも醜く逃げ出してでも?」
「相手を殺さずとも逃げ出して解決できるなら、俺は多分逃げる方を選ぶかな」
ピエロの質問誘導が的確だな。
なんか目的がはっきりしてきた気がする。
「方向性が見えてきましたね。
ただ大抵の物事は、逃げ出しても誰かにその責任が回ってしまうだけですけどね。
では、逃げる手段を封じられてしまった時はどうしますか? 諦めて死にますか?」
「その場合は……相手を殺すしかない」
「そう、結局はそうなってしまう。
自分を守るというのは、相手を下す──相手を殺すということに他ならない。
自分を守れないのなら、誰かを守ることなんてできないんですよ。
最悪自分さえ無事ならいいですが、あなたは恐らくそうではないでしょう?」
「そうだな」
「じゃあ、やることは分かりますよね?」
「相手を、殺せる覚悟を持つこと」
「そうです。
ただ、いきなりやれと言われてできるものではない」
「俺に、今すぐ人を殺せと?」
「極論そうなってしまいますが、そうではないです。
そうですね……過去の事例でお話ししましょう。
例えば自分の友人が魔人に操られて人間を殺し回った場合、どうしますか?」
「相手を説得するか、正気に戻せる手段を画策する」
「では、それが効果がなければ?」
「殺すしかない」
「そうです。
そこまでを一瞬で考えないといけません。
躊躇えば躊躇うほど、その判断は薄れてしまう。
色々手を尽くした上で殺すという選択肢が現れるのではなく、最初からその選択肢を持っていなければいけません。
このことを心に留めておけば、今無理に殺人を犯す必要はないでしょう。
ところで、人間を一番殺している生き物って何かご存知ですか?」
この手の質問は地球でもあったな。
「人間だろ?」
「そうです、正解です。
魔人やら魔王の復活やらありますが、あなたの命を一番脅かしているのは人間です。
あなたが長生きするほど、あなたが殺すのは魔人ではなく人間の方が多いはずです。
あなたが殺人を犯す日も、そう遠くはないでしょうね。
長々と話しましたが、結局何が言いたかったかというと、覚悟があれば大抵のことはできるということです。
逆に、覚悟がなければ何もできない」
──この世界で生きていくにあたって、あなたの覚悟はどんなものですか──
ピエロの言葉が深く突き刺さった。
─今日のソフィアラ─
「うん」「すごい」
空気過ぎました。




