第24話 別離
帝国への出発日──
「お父様、行ってくるわ」
「ああ、くれぐれも体に気をつけるんだぞ。
忘れ物はないか?
何か持っていきたいものはないか?
助けが必要なら彼らを頼るんだぞ」
ロドリゲスが泣いている。
俺もなんか泣きそう。
娘が始めて自分の手を離れるんだ、仕方ないか。
俺は今まで会った色んな人に、すでに挨拶は済ませている。
みんな残念そうだったが、俺がやりたい事を見つけたと言うと暖かく見送ってくれた。
この世界は人情に溢れてるぜ。
だが王城には行けていない。
でもあいつらのことだ、しっかりやってるだろ。
「お父様、じゃあ魔導書が欲しいわ」
ソフィアラは俺の魔法を見て、魔導書が気になるって言ってたしな。
「そうか、ならすぐに持ってくるからな」
ロドリゲスが見たこともない速度で駆けていく。
がんばれ、一児の父。
親子ってのはいいもんだな。
親子の微笑ましい光景はずっと見ていたいが、それよりもずっと気になってるものがある。
「……なんであんたらがいるんだ?」
「ほほっ。 伯爵から帝国までの道中、お嬢様の護衛を任せられているのですよ。
王国での仕事も一段落したので、次は帝国でも行こうかと思っていたところにタイミングよく護衛任務が重なりましてね。
あなたも我々がいてくれて安心でしょう。 ねえ?
いやぁ、楽しい旅になりそうだ」
ピエロが笑うが、顔が怖すぎる。
「あと、先にあなたも同行することを聞いておりましたので、監視には別のあなたをあてがって目くらまししております。
我々といるところを見られても困りますしね。
これで監視は外れましたよ。 よかったですね」
それならその外見を先にどうにかしろよって話だ。
ロドリゲスが言ってた彼らとは、こいつらのことだ。
「それはありがたいが、周りの連中も含めて怪しすぎるだろ…。
盗賊と思われても仕方ないぞ」
ピエロ以外の4人はマスクをつけて黒いフードをかぶっている。
今回はこんな彼らに守られながらの馬車での移動らしい。
「それならそれで盗賊も手を出しにくいでしょう。
魔獣よりも盗賊の方が厄介ですからね。
まぁでも王都の外なら誰も咎める人がいなくて盗賊相手でもやりたい放題できるので、安全な旅を提供できると思いますよ」
思いつきで言ったが、盗賊っているんだな。
というか、やっぱりこいつら戦闘集団だったよ……。
「お嬢様はこの人たちのこと怖くないんですか?」
2週間もソフィアラを怯えさせ続けたらいけないから聞いておこう。
「ちょっとびっくりしたわ。
でも個性があっていいじゃない」
……さいですか。
まあそれならいい……のか?
なんかわからなくなってきた。
「お嬢様もこう言ってるではありませんか」
なんか俺がおかしいみたいな空気になってるし……。
「はいはい、俺が悪かったよ」
ドドドド──
あ、ロドリゲスが戻ってきた。
普段運動していないのか、だいぶ息が上がっている。
「はぁ……はぁ……。どれがいいんだ?」
2つの魔導書をソフィアラに提示している。
「こっちだけでいいわ」
ソフィアラは1つを手に取った。
ソフィアラに適正がありそうな魔導書だったのかな。
「クロ」
「はっ、はい。 何でしょうか」
「これは君が以前気になると言っていた魔導書だろう。
護衛の仕事代として持っていけ」
ロドリゲスが魔導書を手渡してくれた。
思わぬ収入だ。
学園への入学の口利きをしてくれているだけでも十分な報酬だったのに、太っ腹すぎる。
「そのかわり、死んでもソフィアラを守れ」
真剣な顔だ。
「これを頂かなくても、はじめからそのつもりでしたよ」
おっと、これにはロドリゲスも驚いているな。
今まで言われたことに対してハイハイと全部受け入れていただけだったから、この返答にはびっくりだろう。
「そうか……。 そうだな。
では改めて、娘を頼んだぞ」
「はい、命に代えても」
ロドリゲスと固い握手を交わした。
全て本心からの発言だ。
俺はこの子を守る。
「じゃあお父様、行ってくるわ。
長期休みには戻るわ」
「ああ、楽しんでこい」
「では伯爵、我々が道中お守りしますのでご安心を。
あとのことはお願いしますね」
「分かっている。 娘を頼んだ」
「任されました。ではご息災をお祈りしております」
最後に俺と目が合う。
分かってる、安心してくれ。
目が合っただけだが、軽く頷いてくれた。
よし、出発だ。
俺たちはロドリゲスの屋敷を後にした。
今日までの間に狩りも訓練も続けて、さらにステータスが上がっている。
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《名前》黒川ハジメ
《Lv》11 → 15
《種族》人間
《性別》男
《年齢》20
HP 750/750 → 950/950
MP 3260/3260
STR 12 → 13 + 2 = 15
AGI 17 → 18 + 1 = 19
VIT 11 → 12 + 3 = 15
DEX 24 → 26
INT 36
LUC 30
《称号》異世界からの侵入者
《魔法》生活魔法 攻撃魔法・全(中級) 防陣
《ギフト》悪食
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《名前》ソフィアラ=デラ=ヒースコート。
《Lv》11 → 15
《種族》人間族
《性別》女性
《年齢》15
HP 500/500 → 550/550
MP 420/420 → 440/440
STR 6 → 7 + 2 = 9
AGI 29 → 30 + 2 = 32
VIT 7 + 1 = 8
DEX 41
INT 12 → 14
LUC 5
《称号》
《魔法》生活魔法 攻撃魔法・水(中級)
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狩りでのレベルアップに加えて、ペーターとの訓練で俺もソフィアラもSTRとAGIそしてVITのフィジカル面に値がプラスされた。
微々たるものだが成長を実感できる数値だ。
でもまだ勇者には遠いか。
あいつら、今頃どれだけ強くなってるのかな。
そろそろ王都の外壁が見えてきた。
見つからないようにしていると言ってたけど結局国を出る前の検問で捕まるじゃん。
御者もマスクにフードで怪しい格好のままだし。
しかしなぜか馬車は検問をスルーした。
「あれ?」
「どうしましたか?」
俺のつぶやきにピエロが反応する。
「いや、検問で捕まらなかったから気になって」
「ああ、そんなことですか。
屋敷を出る前から、短期間ですが認識を阻害する魔道具を使っているのですよ。
そもそもこの国の検問はザルなので、衛兵を眠らせたりしたらこんな高価な魔道具を使わなくても済むんですけどね。
まぁ出て行った痕跡を残すのも癪なので奮発しました。
あ、ちなみに魔獣には通用しないので、道中この魔道具で安全を確保することは困難ですよ」
今の話を聞いて、王国のダメなイメージが加速した。
ロドリゲスも娘を帝国に行かせるくらいだしな。
というか、何でも持ってるなこのピエロ。
ピエロっていうか、こいつが所属する組織か。
何をメインに活動してるのかさっぱりだ。
でもそんな事を聞くのも野暮だろう。
味方でいるうちは安全だから、波風は立てないようにしよう。
こうして俺たちは王国を後にした。
道中やることがないと困るので、グランベル商会からリバーシやチェスを持ってきた。
これはソフィアラよりもピエロがハマった。
「いやぁ、なかなか奥が深いですね」
ピエロが笑う。
いちいち顔が怖い。
他の仮面連中は一言も発さないので気味が悪い。
馬車は魔道具で揺れを感じることがほとんどないため、こういったボードゲームも問題なく行える。
あと、馬車内の空間はこれも魔道具か魔法なのか、拡張されている。
なので荷物や人でぎゅうぎゅうということもない。
これなら勉強するのも余裕の環境だな。
あ、勉強については仕事しながらもしっかりやっていたぞ。
日本の大学みたいに過去問とかがあればよかったんだが、そんなものはないらしい。
むしろ勉強より魔法ができた方がいいらしい。
こればかりは地球とは違うな。
ソフィアラは家庭教師が付いていたので勉強はおそらく大丈夫だろう。
成績に応じてクラス分けがあるみたいだが、ソフィアラと別のクラスにならないよな?
俺だけ頭悪すぎて下のクラスとか笑えないからな。
護衛の任務も全うできなくなってしまうから困るぞ。
一応ロドリゲスが口利きしてくれてるって話だが。
学園には学生寮があるらしく、当然男女別々になっている。
夜間の護衛はどうするのかといえば、学園には戦闘のプロが多数在籍しているため守りは十分らしい。
ロドリゲスが懸念していたのはむしろ悪い虫とかそっちの方だろうな。
そのまま何事も起こらずに馬車は走り続けた。
夜は馬を休ませないといけないため、日が落ちた頃に道路から少し逸れた所に馬車を停めた。
ここまではだいたい大きな一本道をひたすら走っているだけで、その周りに木々が生い茂っているところもあれば、だだっ広い草原もあった。
村々も点在していたが、王都を離れるほどその数は減少していった。
途中に村や町があればそこに泊まるんだろうが、彼らに守ってもらってた方がむしろ安全かもしれないな。
そろそろお腹がすいてきたな。
「料理は任せてください」
ピエロがそう言うと、仮面の連中共々テキパキと準備し、簡易だが想像していたよりも豪華な食事が出来上がった。
何でもできるな、ホント。
ひとり旅ならこうは行かないんだろうな。
この世界の料理は外であっても火魔法を使えば薪も必要ないからいいよな。
調理器具と食材さえあればいい。
「食材は問題なく詰め込んでありますので。
最悪足りなくなれば獣を狩ればいいでしょう」
食事は普通に美味かった。
ソフィアラも美味しいと言っていたので、満足な旅ができるだろう。
過保護っぷりが半端じゃない。
まだ冬の寒さが残る春になるくらいの時期だったが、ソフィアラがやりたがったので夜寝るまで訓練を行うことにした。
暗いから光で照らしたりして盗賊に襲われたらどうしようかと思っていたら、ピエロにとっておきの魔法があるらしい。
「ロード、ダークカーテン」
急に周囲が闇に包まれた。
「周囲を闇魔法で包みました。
あとは光魔法で照らせば大丈夫ですよ。
私は光魔法は使えませんが。
中のことは外に漏れませんので自由に使ってください。
あと、物理的な障壁ではないので出入りは問題なくできますよ。
あまり遅くまでなさらぬよう」
そう言ってピエロは離れていった。
「ロード、ライトボール」
俺は詠唱すると、いくつかの光弾にしばらく光らせていられるだけの魔力を込めて周囲に放った。
これで大丈夫そうだな。
「では、始めましょうか」
「うん」
日々の鍛錬も問題なく行える。
至れり尽くせりの旅だな。
寝るところは簡易のベッドを馬車に中に用意してくれていたが、若い娘と同じところで寝るのは憚られたので、荷物の後ろに空間を開けてもらってそこで寝ることにした。
物理的に障壁を作っていたら大丈夫だろう。
ロドリゲスとも約束したし、手なんて出さない。
ピエロたちは警備も兼ねて外で過ごすらしい。
交代で寝るんだろうか。
簡易の宿を作る魔道具とか持っててもおかしくないよな。
まあいいや、彼らに感謝して今日は寝よう。
こうして旅の初日は幕を閉じた。
ステータスだけで342文字も使ってました。
ひどいカサ増し!




