第88話 弱肉強食。
ここは薄汚い豚小屋。
「おらぁ、翼豚ども!
エサだよぉ!」
宿屋の女主人(デブで人間のおばさん)の声を
ゴングとしてさ。
生きるための戦いが始まった。
翼の生えた豚どもが押し合いへし合い、
エサである人間の残飯を奪い合う。
ウンコはその戦いには参加しない。
弱肉強食の理に反するからだ。
人間>翼豚>ウンコ。
それはカースト制度よりも厳格な、
世の中の階級である。
その証拠に、
ウンコは既に3度ほど、
翼豚とのタイマンにて瞬殺されている。
さて……と。
翼豚様たちのお食事が終わるまでに、
これまでの経緯を語っておこう。
俺とルルナとアゼレアと職証君は旅をしていた。
ラグナロッカー最大の30万人が暮らす、
都市国家ヴァイテガ。
そこに着くと同時に、
ルルナとアゼレアの路銀が底をついた。
ウンコ一行はお金を稼ぐ必要に迫られ、
働くことに。
ルルナは、勇者傭兵団に入り、
日給1000Gで働いている。
アゼレアは、
故郷の名産品である魔法生地を
独自のルートで仕入れ、
『アゼリッチ商会』という法人名で
商売を行っている。
で、ウンコは今……
仕事がなくてさ。
ウエスト・スラムにある最底辺の宿屋の
豚小屋に住んでいる。
でもさ。
別にニートみたいに
怠けているわけじゃないんだぜ。
ウンコはガンバって、
毎日、職業案内所に通っているんだ。
悪いのはウンコじゃないぞ。
ウンコだからって、
門前払いする職案の職員どもが悪いんだ。
クソ、クソ、クソ。
俺も人間らしく働きたい。
ワラの上じゃなくて、
人間らしくベッドの上で寝たい。
ああ、恥ずかしい。
ウンコは生きているだけで恥ずかしい。
ウンコで何が一番恥ずかしいかって、
それはな。
こんなクソみたいな豚小屋に泊まるのにも、
独力では不可能だってことだ。
ここに泊まるためにさ。
姫騎士ルルナが深々と頭を下げた。
姫魔女アゼレアが保証人になった。
職証君が宿屋で無償で働くことになった。
ああ、生きてるだけで、
皆に迷惑をかけている俺。
今ならわかる。
無力に恥じ入る、寝たきり病人の気持ちが。
お、どうやら、
お豚様たちがお食事を終えたようだ。
これからが俺の食事の時間。
お豚様の残飯がウンコの食事だ。
穀物のカスを拾って食べる。
美味い。
ワラにまとわりついた穀物の粉をなめる。
美味い。
砂の床にしみたスープを砂ごとすする。
美味い。
こんな悲惨みたいな食事をする度に、
ウンコは思うんだ。
飽食と暴食こそが、
人間が行いうる最大の罪であると。
着るものがボロでもさ。
住む場所が劣悪でもさ。
食べ物さえ充分あれば、人は生きていける。
誰かを恨まずに生きていける。
皆が等しく食料を分け合えられれば、
他にどんな不平等があったとしてもさ。
この世界から戦争はなくなる。
ウンコはそう信じている。
ウンコは今、誰も恨んではいない。
何とか飢えずにいるからだ。
ウンコはこの心の平穏をもって、
世界に証明しようと思う。
飢餓問題さえ解決すれば、
全ての争いはなくなると。
なのにさ。
アリどもが最近、
ウンコの食事を邪魔しにくるんだ。
最初は先遣隊の1匹だけだったんだけどさ。
日に日に数を増していってさ。
今日に到っては、
ウンコの取り分にまで手を出してきたんだ。
このままじゃ、飢えちゃう。
ウンコはアリと戦うことを決心したんだけどさ。
統率抜群のアリ軍団の攻撃に、
ウンコは大敗北を喫しちゃった。
次の日の朝。
「おらぁ、翼豚ども! エサだよぉ!」
宿屋の女主人(中年おばさん)の声を
ゴングとしてさ。
生きるための戦いが始まった。
翼豚どもが押し合いへし合い、
エサである人間の残飯を奪い合う。
ウンコはその戦いには参加しない。
弱肉強食の理に反するからだ。
その後、
アリ軍団が豚の残飯を回収しにやって来た。
それでも、ウンコは戦わない。
弱肉強食の理に反するからだ。
人間>翼豚>アリ>ウンコ。
それはカースト制度よりも厳格な、
世の中の階級である。
こうして、食料は全て消費され、
飯抜きなのはウンコだけ。
腹減ったウンコはプチーン。
憎い。憎い。全てが憎い。
大戦争よ、あらゆる種族で起きまくれ。
世界中の生物を滅ぼし尽くすまで、荒れ狂え。
とまあ、憎しみに燃えるウンコのもとに、
2通の手紙が届いた。
1通はヘンデルから。
内容は以下の1文。
『グレーテルがグレちゃった』
これはギャグ?
正直、追い詰められている時にさ。
こういう軽い冗談は、マジに神経を逆なでにする。
ウンコはヘンデルの手紙を食べた。
植物性の栄養として、
腹の足しになることを信じてね。
もう一通の手紙はズキンからだった。
文面は以下の通り。
『お兄ちゃんに会いに、
近日中にそちらへ向けて出発します。
ズキンはお兄ちゃんが
マジメに働いていると信じてるよ。
ガンバ! お兄ちゃん!』
ズキンのガンバ姿を想像すると、
ウンコの憎しみは吹っ飛んだ。
ウンコは立ち上がり、豚小屋を出た。
ズキンの期待に応え、真っ当に働くために。
がんばるぞぉ!




