第112話 平和とは。
「勝手に、俺の壺を使って、
なにをしてやがったんだ?」
背後から、いきなり兄貴の声がした。
ウンコは振り向きざまに土下座した。
「すんません! 壺から薬草を取り出して、
勇者に食わせました!」
「自分のためじゃねえのか……」
兄貴はそう言うと、
その場に、あぐらで座った。
兄貴が隣を指さしたので、
不遜ながら、このウンコはさ。
兄貴の隣に正座した。
太陽が昇る直前の薄明るい空を見上げながら、
兄貴は言った。
「どうしたら、世界は平和になるんだろうな?」
兄貴の口調は真剣だった。
だからさ。
はぐらかすような正論で、答えてはいけない。
ウンコは一生懸命考え、答えを出した。
「俺は、皆が自分の境遇に納得できれば、
世界は平和になると思います」
正直、今の俺はさ。
3食食べられれば、人生に納得できる。
そんな最小限度の幸せで、
皆が我慢できれば、
この限りある世界でもさ。
全ての人間と魔族に、
幸せが行き渡るんじゃないだろうか。
「皆が納得か……。ふむ、面白いぞ……」
兄貴はそう言うと、深い思考に入った。
ウンコは、その集中を邪魔しないように、
沈黙する。
太陽が昇ると同時に、
兄貴は立ち上がり、叫んだ。
「そうだ!
平和とはケーキだ!
俺はケーキ屋になるぞ!」
それから、兄貴は何故、
平和がケーキなのかを説明してくれた。
その説明を要約すると以下の通り。
ケーキは調和している。
イチゴもスポンジも生クリームもさ。
そのまま食べても、
スター級の美味さなのにさ。
互いに争わず、自己の境遇に満足し、
『イチゴ・ショートケーキ』
という素晴らしい世界を創り上げている。
「なんて、素晴らしい思想!」
いつのまにか、隣にいたグレーテルがそう叫んだ。
畜生。
ウンコの台詞を奪いやがって。
「兄貴と一緒に、
あたいもケーキ屋をやります」
あ、このアマ。
またしても、ウンコの台詞を奪いやがった。
ムカついたので、
ちょっと意地悪をすることにした。
「今のままのお前では、
兄貴のそばにはいられないぞ」
「な、なんでだ、ど腐れウンコ?」
ウンコの言葉に狼狽するグレーテル。ぷぷぷ。
「だって、兄貴はケーキを作る役なら、
お前は売り子の役だ」
「そうだ。あたいは兄貴の作ったケーキを売る」
「なら、不良のお前が接客して、
ケーキが売れると思うか?
絶対に売れないね」
ウンコの言葉に、
グレーテルは雷に打たれたような表情になった。
「そ、その通りだ。
兄貴の邪魔になるくらいなら、
あたいは不良をやめる」
「なら、言葉遣いから改めないとな」
「わかったぜ。ど臭えウンコ」
「かしこまりました。ウン公さんだ」
とウンコが訂正してやると、
「か、かしこまりました。ウン公さん」
とグレーテルが照れ顔で言った。
「あと、リーゼントと特攻服はやめて、
清潔な感じの髪型と服装にしとけよ」
「は、はい、わかりました。ウン公さん」
こうして、グレーテルは更正した。
今度はウンコは更正する番だ。
俺は土下座しながら頼んだ。
「兄貴、俺も兄貴に付いて行き、
ケーキ屋に転職したいです!」
でも、断られちゃった。
でも、ウンコが不衛生だからじゃないよ。
兄貴いわく。
「ウンコ、お前にはよ、やるべきことがある。
お前にしかできねえことだ」
やるべきこと?
俺にしかできないこと?
なんだろう?
俺は薄汚いウンコなのに。




