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第110話 和解。

素敵な夜が終わり、朝日が昇ってすぐ。


斜めドリフトの急ブレーキで、馬車は止まった。


羊魔族の一家(父、母、息子、娘)が

行き倒れていたからだ。


兄貴は偉大だからさ。

羊魔族の一家を馬車に収容し、

グレーテルとミーニャに介抱させる。


程なく、羊魔族の父親が目を覚ました。

「ひっ、人間……」


羊魔族の父親は、酷くおびえていた。


無理もない。

こいつは競馬場建設現場でさ。


グレンによって、

黄金の棍棒で滅多打ちにされていたんだもんな。


そんな事情を察してか。


「心配するな、俺は人間じゃねえ」

と兄貴は言った。

「じゃあ、あたいも人間じゃねえ」

とグレーテルも続いた。


うん、兄貴は確かに、

人間を超越した存在だ。


でもな。


「グレーテル、お前はどう見ても、人間だろ?」

「いいや、あたいはこの瞬間から、人間を捨てた」


「その言葉を聞いたら、ヘンデルは悲しむぞ」

「ふん、兄貴についていくと決めた瞬間から、

 他の兄貴とは縁を切ったんだよ」


「その言葉を聞いたら、

 ヘンデルは間違いなく泣き出すな」

「あたいには、もう関係ないことだ」


はあ。


こりゃ説得は無理そうだな。

すまんヘンデル。


兄貴のカリスマを考慮するとさ。


間違いなく、

グレーテルは一生グレたままになりそうだ。


まあ、そんな些事はさておいて。

チャンスだ。


謝った一般認識を修正するためにさ。


ウンコはさりげなくカミングアウトした。

「俺、実は人間なんだ」

 

でも、誰も信じてくれなかったんだ。


「お前は魔物だろ? クソウンコ」

と羊魔族の父親。


「ウン公は友達だから、魔物だニャ」とミーニャ。


「お前に人間の面影はねえ!」とグレーテル。


「ハハハ、お前は100%魔物だ」と兄貴。


酷いよ。兄貴まで。




ここに人間はいないことを理解すると、

羊魔族の父親はさ。

平静を取り戻し、語り出した。


なんでも、この一家はさ。

ヴァイテガを捨てて、新天地を目指していた。

だが、都市にいる魔族の大半は、

食事すらままならない経済状態。


それ故に、

パン1つ持てずの出発だったのだそうだ。


この不毛の荒野の中を飯なしでなんて……


はっきり言って、自殺行為だ。


「それでも、

 人間どもの差別から逃げ出したかったんです」


羊魔族の父親は泣きながら、そう言った。


ウンコとミーニャも泣きながら、うなずいた。


俺たちも、着の身着のままで、

ヴァイテガを逃げ出したのだ。


「そこまで、

 人間どもは調子に乗っていやがったのか……」

兄貴は深刻そうに、そう言った。


本当にその通りだ。


羊魔族の話ではさ。

3日前。


グレン等、勇者の仲間たちによってさ。

『勇者憲法第104条』

の条文が修正されたそうだ。


修正前はさ。

『魔族は人間と同等の権利を有する』だったのに。


今はさ。

『魔族は家畜と同等の権利を有する』なんだって。


だから、魔族の賃金は現物給付。

エサという名の食料のみになってしまった。


しかも、体重が維持できない程の少量。


羊魔族は泣きながら、兄貴に訴えた。

「このままでは、

 遠くない将来、ヴァイテガの魔族は全滅します」


それから、何度も何度も俺たちは、

行き倒れている魔族たちと遭遇した。


兄貴は偉大なので当然、全員を助けた。


馬車の中には、不思議な壺があった。


それに兄貴が手を突っ込むとさ。

金貨でもパンでも、

欲しい物がいくらでも取り出すことができた。


アゼレア

(夢は『金のなる木を手に入れること』)

が聞いたら、


『殺してでも奪ってこい!』

とウンコに命令してきそうな、チートアイテムだ。


というわけで、

食料とか薬とかの心配はなかった。


体調が回復した魔族たちに、

兄貴は以下の選択を促した。


その1。

十分な金貨と食料を受け取り、新天地を目指す。


その2。

兄貴と一緒に、荒野を暴走し続ける。



その結果。

魔族たちの全員が、兄貴について行く道を選んだ。


兄貴率いる暴走族は、荒野を暴走した。


とは言ってもさ。


馬車は1台のみなので、

魔族たちは自らの足で走った。


兄貴は偉大なので、

そのペースに合わせて、馬車を走らせた。


グレーテルは当然のように、

兄貴の隣に座った。

病人とウンコは速く走れないので、

特別に馬車に乗せてもらった。



兄貴のカリスマは偉大だった。

偉大すぎて誰かに教えたくなる程、偉大だった。


なので、一部の魔族たちは都市に戻り、

兄貴の偉大さを布教した。


その結果。

兄貴率いる暴走族は、加速度的に拡大してさ。


都市中の魔族が、

兄貴の舎弟になってしまったんだ。



そして、事件が起きた。


1人の魔族が兄貴に、

ふざけたことを訴え出たのだ。


「ミーニャは薄汚い人間の血をひいているから、

 追い出して欲しい」


他の魔族たちも賛同してさ。


「「「そうだ! そうだ! 

   ミーニャがいると気分が悪い!」」」


俺は即ギレした。

震えるミーニャの肩を片手で抱き、

残った片手でウンコを投げようとした。


「やめろ、ウンコ」

「なんでだよ、兄貴?」


食い下がるウンコを無視して、

兄貴はよく通る声で言った。


「なあ、お前ら。なんで人間は薄汚いんだ?」


魔族たちは異口同音に答えた。

「「「魔族を差別するからだ!」」」


「じゃあ、お前ら魔族も薄汚いな」

「「「なんでですか、兄貴?」」」


「だって、お前らはよ。

 ミーニャを差別しているじゃねえか」


兄貴のお言葉に、魔族たちは絶句した。

ウンコなら、

ここでトドメ台詞を刺す所なんだけどさ。


兄貴は押し黙り、なにかを待っているようだった。

 

程なく、

1人の鹿魔族が怖ず怖ずと前に進み出て、言った。


「私はミーニャに、銀貨を恵んでもらいました」


「恵んでもらえなかったら、どうなっていた?」

と兄貴が聞くと、


「きっと飢え死んでいたと思います」

と鹿魔族は答えた。


兄貴はミーニャを指さすと、言った。

「なあ、こいつをどう思う?」


鹿魔族は即答した。

「良い奴だと思います」


兄貴はミーニャの頭をクシャクシャになでた。

「そうだ。こいつは人間か魔族か以前によ。

 良い奴だ。

 それでいいじゃねえか。ハッハッハ!」


兄貴は笑った。

つまらないこと全てを笑い飛ばすような、

豪快さで。


「「「はあ」」」


魔族たちは、ため息をつくと、

肩をすくめて、笑い始めた。


綻んだ口元から、沢山の謝罪の声がこぼれる。


「「「今まで差別して、すまなかった」」」

と大人たち。

「「「今まで差別して、ごめんなさい」」」

と子供たち。


ここにいる魔族全員がミーニャに頭を下げた。


ミーニャはオロオロしながら、

うれし泣きしていた。


この感動的なシーンは、

これから劇的進化を遂げる。


なんと、魔族たちはウンコにも謝罪したのだ。


「「「今まで差別して、悪かった、ウンコ」」」 と大人たち。

「「「今まで差別して、ごめんね、ウンコ」」」

と子供たち。


ここにいる魔族全員がウンコに頭を下げた。


ウンコもオロオロしながら、

うれし泣きしてしまった。


こうして、ウンコとミーニャは魔族と和解した。


でも、真の和解を達成するためにさ。


まだウンコには、為すべきことがあった。


だから、土下座しながら言った。

「みんな、

 魔王ケルベロスとその眷属を皆殺しにしたのは、

 実は俺なんだ」


ウンコは心の底から謝ったのにさ。


誰も信じてくれなかった。


「「「嘘こけ! 狼魔族を全滅させたのは、

   姫騎士ルルナだ!」」」

と魔族たち。


「ウン公は虫も殺せない程、弱いニャ」

とミーニャ。


「お前に負ける微生物はいねえ!」

とグレーテル。


「ハッハッハ、その通り。お前は世界最弱だ」

と兄貴。


酷いよ。兄貴まで。


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