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第103話 決起。

ヴァイテガ競馬場の建設は、

都市の威信をかけた大公共事業。


だから当然、

大戦士建設が工事を請け負っているわけでさ。


昼休み終了後、

大戦士グレンが直々に、

工事の進み具合を見に来た。


大戦士グレンは巨漢の男で、

『THE成金』と呼べるような格好をしていた。


黄金の鎧に黄金の兜に黄金の棍棒。


正直、まぶしすぎて直視できない。


そんで、恐ろしすぎて、直視できない。


大戦士グレンの奴は、

ダモフやミランダ以上のクソ野郎でさ。


すぐに、黄金の棍棒で暴力を振るうんだ。

魔族たちは100%の力でガンバっているのに。


その理由も非道でさ。

『限界突破していないから』なんだって。


グレンは繰り返し、こう叫ぶ。

「気合いだ! 

 気合いがあれば、限界を超えられる!」


昔の高校野球の鬼監督も真っ青の理屈だよ。


当然、労働中に水は飲めなくなった。


ヒドいよね。

今は真夏の猛暑の真っ昼間なんだよ。


まあ、なにはともあれ。


俺たちは、

限界以上のパフォーマンスを求められている。


少しのよそ見も許されない。

よそ見がバレたら、

即座に棍棒が飛んでくるからね。


ウンコもさ。

200%超の必死顔を作って、

太縄を引っ張るフリをしていた。


バタリ。と音がした。


少し離れた場所で、

1人の羊魔族が倒れた音だった。


当然グレンは、

その倒れた羊魔族を、

黄金の棍棒で滅多打ちにした。


「気合いだ! 

 気合いが足らんから、倒れるのだ!」

という訳のわかんない理屈を叫びながらね。


グレンの意識が、

哀れな羊魔族に集中しているからさ。


思わずウンコは愚痴った。

「もう俺たち、革命を起こした方がいいんじゃね」


昼飯を一緒に食った牛魔族は言った。

「無理だ。

 武器の所持を魔族は禁止されている。

 それに――」


牛魔族の声を遮り、突如、天空から声が響いた。


「「「我々は魔族解放戦線だ! 

   同胞たちよ! 

   今こそ立ち上がるのだ!」」」


魔族解放戦線と名乗る集団。


彼らは、翼の生えた豚に乗っており、

空中から攻撃をしかけた。


ファイアーボールの一斉攻撃を受けて、

人間どもは右往左往した。


大戦士グレンも、イライラ顔で、

ファイアーボールを黄金の盾で防御していた。


「ガンバれ! 魔族解放戦線!」

ウンコは思わず、喝采をあげていた。


なのにさ。


他の魔族は何の反応も示さない。

「黙った方が良い」と牛魔族は言った。


「なんでだよ?」とウンコは言った。


「その理由はすぐにわかる」


その通りだった。


程なく、勇者セインを先頭にした、

勇者傭兵団の連中が駆けつけてきた。


勇者セインは、翼の生えた虎に乗っていた。

残りの人間は、翼の生えた豚に乗っていた。


魔族解放戦線と勇者傭兵団。


両者には、圧倒的な戦力の差があった。


まず装備品。

魔族解放戦線は、木製の棍棒に革の鎧。


勇者傭兵団は、

勇者セインを除く全員が、

銀の装備で全身を固めていた。


次に肉体。

魔族解放戦線の連中は、

慢性的な飢餓状態にあるのか。

貧弱な肉体をしていた。


勇者傭兵団の連中は、

毎日良質なタンパク質を摂取しているのか。

壮健な肉体をしていた。 

 

最後にリーダー。

魔族解放戦線は烏合の衆で、

リーダーと呼べる者はいなかった。


対する勇者傭兵団のリーダーは、

魔王ネメアを倒した勇者セイン。


以上のことから、考えるとさ。


魔族解放戦線VS勇者傭兵団の結果は、

火を見るよりも明らか。


勇者傭兵団は圧倒的な戦力でさ。

魔族解放戦線の連中を、

地面に叩き落としていく。


戦意喪失して逃げ出した連中がいたけど……


そいつらもさ。


勇者騎乗の翼の生えた虎に追いつかれ、

あえなく地面に叩き落とされた。


こうして、魔族解放戦線は敗北した。


「治療を終えた後、

 全員を裁判所に連行しなさい!」

勇者セインがそう命令した。


勇者傭兵団は魔族解放戦線を治療し、逮捕し、

連行していった。


「すぐに、わかったろ」と牛魔族が言った。

「ああ、その通りだ」と俺はうなずいた。


牛魔族いわく。


ヴァイテガの軍事は、

勇者傭兵団が独占しているらしい。


反乱分子は有無を言わさず、

その圧倒的な武力で叩きつぶされるそうだ。


この都市国家は、平和主義すら崩壊していた。


これで、勇者憲法が掲げた3大原則は全て、

否定されたことになる。


これから、魔族解放戦線の連中は、

もれなく全員が終身刑に処せられ、


『大魔法使いダモフ管轄』の牢獄にて、

ギリギリの栄養環境で生かされるらしい。


薄汚い監督官(人間ども)が嬉々として、

そう言っていた。


薄汚い人間どもは、こうも言っていた。

「なんで、

 魔族解放戦線の奴らを

 死刑にしないんだろうな?」


「それは、セイン様がお優しいからだよ」


「そうだ。セイン様は優しすぎる。

 魔族なんて、皆殺しにすればいいんだ」


「「「ははは、ははは、人間バンザイ!」」」



「くそっ、ネメア様さえ生きていれば……」

人間どもの腐り切った言葉を聞き、

思わず牛魔族が愚痴った。


「魔王ネメアって、どんな奴だったんだ?」


俺がそう聞くと、

牛魔族は魔王ネメアについて、語り始めた。


その内容を要約するとさ。


魔王ネメア。獅子魔族。

百獣の獅子王という二つ名を持ち、

政治と軍事、共に優れた名君。


唯一の欠点は、優しすぎたこと。

人間にすら、慈悲をかけていたこと。


その結果、魔王ネメアは勇者セインに殺された。


1度は、勇者を瀕死の状態にまで、

追い込んだのにさ。


魔王ネメアは、勇者セインに慈悲をかけ、許した。

そして、許した相手に、

背中から不意打ちを受けて、殺された。


これを皮肉と言わずに、何と言う。


その後。


ネメアの妻エンテが自殺するのを、

勇者は止めなかったそうだ。


エンテは目の前で、

自身の心臓にナイフを突き立てたのに。


エンテは勇者に回復魔法をかけてやったのに。


この卑劣者が!


「なあ、セイン……」


少し離れた場所から、

大戦士グレンと勇者セインの会話が聞こえてきた。


「なあ、セイン。

 今日は、

 ミーニャたんが来る予定だったんだよな?」


「ええ、グレン。そうですよ。

 魔物ウンコと一緒にね」


「だが、ウンコしか出勤記録がないぞ。

 しかも、すぐに行方不明になってるし」


ヤバい。

ウンコとして出勤し、

ゲリーとして働いているのが裏目に出た。


このままじゃ、給料もらえないかも。


「そうですか。ミーニャは来ませんでしたか……」

悲しげにそう言う、

お優しい勇者セイン様に、ウンコは訴えたい。


ミーニャのためにも、ウンコに給料を!


「あっ、魔物ウンコは給料無しでいいですからね」


畜生。

この勇者、ウンコにだけは意地悪だぞ。


「当然、そのつもりだ。

 そんな下らないことより……むほほ」


グレンは急にイヤらしい目になるとさ。


「はあっ、はあっ」

とキモい呼吸で、

腰を前後に振りながら、言いやがった。


「早く俺。ミーニャたんを抱きたい」


ウンコは殺意を覚えた。

だが、それ以上の殺意にかき消された。


背筋がぞっとする。

この絶大な殺意を放ったのは、勇者セインだった。


勇者は、剣の柄を握りながら、冷淡に言った。

「ミーニャに何かしたら……

 貴方を殺しますよ……」


大戦士は、尻餅をつきながら、

裏返った声で言った。

「じょ、冗談だよ。

 せ、セインは冗談が通じねえな」


プププ、大戦士のくせに、肝の小せえ奴。

きっと、チ○ポも小せえんじゃね。


「くれぐれも労働基準法を遵守して下さいよ」

勇者はそう言い残し、去って行った。


勇者がいなくなると、

大戦士は舌打ちをしながら、言った。

「ちっ、誰が守るかよ。この堅物が」


牛魔族も舌打ちをしながら、呟いた。

「ちっ、この偽善者の卑怯者が……」


ウンコも舌打ちをしながら、心の中で呟いた。

(ちっ、リア充爆発しろ!)

 


さてと……

無給も確定したことだし。

ここから、逃げるとするか。


でもさ。


その前に、汗で崩れた髪型を直さないと。


万が一にも、俺がウンコであると、

気づかれてはいけない。


ウンコはさ。


人間と魔族、

両方にとっての迫害(ストレス解消)の

対象なのだ。


『ウンコの癖に、さぼりやがって』とか。

『ウンコの癖に、

 馴れ馴れしく話しかけてきやがって』とか。


どんな難癖を付けられて、

ボコボコにされるかわからない。


というわけで、ウンコはさ。

髪型を整えるために、

パンツの内ポケットから、

ヘアワックスを取り出した。


その拍子に、偽造職証がポロリと地面に落ちた。


巻物である偽造職証は、

コロコロと地面を転がり、

その中身が丸見えになった。


『名前 ゲリー・ブリット

 LV50 職業 流れ者

 性別 男 年齢 17

 HP555 MP333

 力255 身の守り255 

 素早さ255 魔力255』


この最強ステータス(偽造)を見るや、

牛魔族は叫んだ。

「ゲリーさん、

 あんた勇者よりも強いじゃねえか!」


先ほど、ボコられていた羊魔族も叫んだ。

「救世主の降臨だ!」


他の魔族たちもさ。


「伝説の始まりだ……」とか。

「いや、神話の始まりだ……」とか。


「おお、ゲリー神、我々をお導き下さい」とか。


最高の言葉で、褒めちぎってくれたからさ。


ウンコ、調子に乗っちゃった。


「このゲリー神に全て、任せておくがいい」


こうして、ウンコはゲリー神となった。


とは言っても、

ゲリー=ウンコ=最低級のステータスだからさ。


なにかをするとしても、暴力的な方法は使えない。


というわけで、デモを開始した。


「「「人間支配からの解放を!」」」

をスローガンに叫びながらさ。


俺と魔族たちは、この建設現場を行進した。


「お前ら、早く持ち場に戻らないと、

 鞭打ちにするぞ!」


さっそく、大戦士グレンが暴力的な脅しで、

邪魔をしてきた。


だが、ゲリー神は非暴力的に、場を収める。

ゲリーの偽造職証を見せると、

大戦士グレンは絶句し、逃げ去っていった。


他の監督官(人間)どもも、

後を追うように逃げ出した。


魔族たちは喝采の声をあげた。

「「「ヒャッホー! さすがゲリー神!」」」


デモの規模は加速度的に拡大していった。

ゲリー神の信者も加速度的に増加していく。


このまま、神の道をまっしぐらだぜ。


と思ったんだけどさ。

正義の勇者様が邪魔しに来た。


たぶん、

大戦士(勇者の陰でニヤニヤしている)が、

呼んできたのだろう。


勇者はよく通る声で叫んだ。

「許可の無いデモは禁止ですよ! 

 解散しなさい!」


ウンコもよく通る声で叫んだ。

「どうせ、申請しても、

 そこの大戦士様が握りつぶすんだろ!」


「「「そうだ! そうだ!」」」

魔族たちが、ウンコに続く。


正直に言って今回はさ。


正義は魔族側にあると思う。


ウンコは堂々と訴えた。


俺たちは、

知的生命体に相応しい暮らしを

望んでいるだけであると。


大戦士は、

俺たちを最低賃金以下の日給3Gで、

不当に働かせていると。


勇者が大戦士をにらみつけた。

「本当ですか、グレン?」


大戦士グレンは、

冷や汗を垂らしながら、否定した。

「ち、違う。戯言の妄言だ」


勇者はその嘘を信じなかった。

「もう1度だけ聞きますよ。

 本当ですか、グレン?」


「すまん」

大戦士はそう呟くと、黙り込んでしまった。


ゲリーとその信者たちの大勝利である。


よっしゃ、これから神暮らしの始まりだ。


と思ったんだけどさ。

ミランダと職証君が、

勇者たちの応援に駆けつけてきた。


こいつらは、

ゲリーの正体がウンコであることを知っている。


案の状。

ミランダは、ゲリーの正体をぶちまけた。


「こいつはウンコだよ!」


そして、なぜか清楚女の顔を作ると、

セインとグレンに謝った。


「すいませんでした。

 ゲリーの件は職案に通報するだけで、

 大丈夫だと思っていました」


職証君も身体を思い切り広げて、

「これがゲリーの正体ですよ! 

 こんなにカッコ悪いんですよ!」

と叫びながら、

ウンコのステータスを暴露していった。


これにて、ウンコの神ロードはおしまい。


これから、みんなにボコられるんだ。

と思ったんだけどさ。


意外にも、ゲリー信者の信仰心は高かった。


「「「てめえら、ゲリー神をディスるなよ!」」」


ゲリー信者たちは臨戦態勢になった。


仕方ない。

このまま戦争に突入し、

どさくさに紛れて逃げよう。


と思ったんだけどさ。


職証君が爆弾発言を投下した。

「ゲリーが、

 ウンコだと証明する手段がありますよ」


「嘘を真実だと証明するだと……

 それを屁理屈と呼ぶのだ!」


ゲリーはそう訴えたが、

職証君は構わず話し続けた。


「ウンコって、一言言ってもらえばいいんです」


確かにその通りだった。


ゲリーが、『ウンコ』と呪文を唱えた結果。


ゲリーが、『流れ者』ならば、何も起きない。


ゲリーが、『ウンコ』ならば、

ウンコが右手から召喚される。


ゲリーは、苦し紛れに訴えた。

「我が輩の辞書には、そんな汚い言葉はない。

 それに、そもそも、神はトイレに行かない」


でもさ。

牛魔族がひざまずいて、言った。


「ゲリー神、ご安心を」


残りの魔族もひざまずいて、続いた。


「「「貴方がウンコと言ったところで、

   我らの信仰心は揺らぎません」」」


魔族たちが、信じ切った瞳で、俺を見てくる。


「「「おら、早く、ウンコって言えよ! 

   ゲリー!」」」


人間どもが、疑りに満ちた瞳で、俺を見てくる。


「「「早く言って、

   人間どもに

   吠え面かかせてやって下さい!」」」


「「「早く言って、

   魔族どもに

   吠え面かかせてやれよ!」」」


魔族と人間。


いがみ合ってはいるが、両方ともさ。


俺が『ウンコ』と唱えることを望んでいた。


俺は沈黙した。

だが、沈黙を続けるのは、危険だ。


だって、この世界にはさ。

『疑わしきウンコは、罰せよ』

という不文律があるに決まっているからね。


沈黙か、ウンコ発言か。


考えた末、俺は魔族たちを信じることにした。


俺は大声で叫んだ。

「ウンコ!」


右手から、ウンコが出てきた。


人間どもが喝采をあげた。

だが、薄汚い人間どもには、

なにも期待していない。


俺は、後方に振り向くと、魔族に微笑みかけた。

だって、魔族たちはさっき、こう言ったんだ。


『貴方がウンコと言ったところで、

 我らの信仰心は揺らぎません』


信じてるよ。みんなの愛を。


だが、魔族どもは何食わぬ顔で、

速やかに作業に戻り始めていた。


ウンコも速やかに逃走を図った。


全速力で走るウンコ。


だが、ウンコの進路をふさぐようにして、

大魔法使いダモフが現れた。


ダモフの手から、虹色の粉が放たれ、

ウンコにまとわりついた。

「超必殺、グランド・エクスプロージョン!」


ダモフの叫びと同時に、虹色の粉は大爆発した。


吹き飛ばされながら、ウンコはさ。


このまま遠くへ、

地平線の彼方まで逃げられたらいいな。


と思ったんだけどさ。


「超必殺、グランド・アイシクルード!」

大僧侶ミランダの超必殺技で、

ウンコは氷漬けになった。


巨大な氷塊となったウンコは重くなり、

あえなく墜落。


そこに、大戦士グレンがやって来てさ。

「超必殺、グランド・カブト割り伸身宙返り!」

ウンコを氷ごと、棍棒でぶっ叩いた。


氷は粉々に砕けた。

だが、ウンコは『なかなか死ねなかった』


トドメとばかりに、勇者の一撃が飛んできた。

「極雷光破斬!」


ウンコは断末魔の声をあげた。

「ぎゃあああああああああっ!」


こうして、反乱の首謀者として、

ウンコは独り討伐された。


薄れゆく意識の中で、ウンコは思った。


ゲリー・ブリットって、よく考えてみればさ。

ウン公よりも悲惨な名前だよね。


だってさ。

『下痢~、ブリっと』



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