第102話 腐りきった国。
「「「オーエス! オーエス! オーエス!」」」
俺は今、
魔族たちと共に、太縄を引っ張っている。
太縄につながれているのは、
勇者セインの巨大石像。
大戦士グレン、
大僧侶ミランダ、
大魔法使いダモフの石像もある。
これら勇者一行の石像をさ。
現在建設中のヴァイテガ競馬場の
中央広場まで運ぶのがさ。
勇者から紹介してもらった、ウンコの仕事だった。
「「「オーエス! オーエス! オーエス!」」」
綱引き(をサボる時)の要領で、
ウンコは太縄を引っ張るフリをする。
『オーエス』の『エス』の瞬間に、
身体を後ろに傾けるのがコツだ。
もちろん、
必死っぽい表情を浮かべることも忘れない。
だって、ちょっとでも手を抜いたのがバレるとさ。
監督官(人間の男)が鞭で叩いてくるんだもん。
本当、人間ってクズだよね。
キツい肉体労働は
全て魔族にさせてさ。
自分たちは、管理とか事務とか、
楽な仕事しかしないんだ。
しかも、基本的に、人間は高給で、魔族は薄給。
両者の平均賃金には、
10倍以上の給料の差がある。
ああ、人間なんてクズはさ。
全てゴミ箱に捨てて、
焼却処分しちまえばいいんだ。
お昼休み。
昼飯として支給された、
カチカチのパンを頬張りながら、ウンコは言った。
「人間なんて、滅びればいいのにな」
隣に座る牛魔族が相づちを打った。
「そのとおりだな。ゲリーさん」
そう、今の俺はさ。
サングラスをかけたオールバックで
ナイスガイの流れ者。
ゲリー・ブリット(魔物)として、
この建築現場にいる。
だって、ウンコだとさ。
差別されて、イジメられてしまうからね。
「これだけ働いても、
法定最低賃金ギリギリの日給10Gか……」
ウンコは愚痴るように、そう言うとさ。
牛魔族は、ため息をついた。
「はあ、
初めてのゲリーさんは知らないだろうけど、
それは額面上の金額だよ」
「じゃあ、手取りは?」
「パン代と水代を差し引いて、日給3Gだ」
「それじゃ、パン3つしか買えないじゃないか!」
でもそれは一般市民の定価。
ウンコは1個(9999G)も買えないけどね。
牛魔族は苦悩に満ちた声で、うなずいた。
「ああ、そうだな。
飢えをしのぐだけで、精一杯だ」
俺と牛魔族は、
監督官ども(人間)が食べている弁当を見た。
パンだけでなく、
肉も野菜もふんだんに入っていて、豪華だ。
牛魔族の話では、あいつらはさ。
俺たちに鞭打つだけで、
1日100Gも稼いでいるらしい。
「なあ、これって、勇者憲法に違反しないか?」
と俺が聞くと、
「勇者憲法第104条のことか?」
と牛魔族が逆に問い返す。
「そうだ。魔族は人間と同等の権利を有する。
と憲法に明記されているはずだ」
だから、基本的人権は、
魔族にも適用されるはずなんだ。
でもさ。
牛魔族は吐き捨てるように、言った。
「それは建前だよ。実際は違う」
「憲法は国の最高法規だろ。
なら、司法に訴えるべきだ」
「ダメだ。司法は、
大魔法使いダモフ一派が支配している」
「なら、立法だ。法律を改正すればいい」
「それもダメだ。
立法は、大僧侶ミランダ一派が支配している」
「それなら、行政に訴え出れば……」
「それでもダメなんだ。
行政は、大戦士グレン一派が支配している」
牛魔族いわく。
勇者一行は、権力を笠に着て、
やりたい放題らしい。
大魔法使いダモフは、
インサイダー取引等の不正をさ。
子飼いの検事と裁判官を使って、
もみ消しているそうだ。
大僧侶ミランダは、
自分の病院がもうかるようにさ。
法律を改悪し、
貧乏人(魔族)の医療を切り捨てたそうだ。
大戦士グレンは、公共事業の受注をさ。
大戦士グループで独占しているそうだ。
なんて、腐った寡頭政治。
思わず、ウンコは叫んでいた。
「勇者憲法前文で保証された
『国民主権』はどこにいったんだよ!」
国民主権が機能しているのならさ。
選挙を通して、
国民に選ばれた議員が、
立法を司り、行政を指揮する。
司法の番人である裁判官だって、
国民投票で罷免することができるのだ。
でも、牛魔族によると、人間どもは現在さ。
とても裕福な暮らしをしているから、
現体制を変えるつもりはないらしい。
そんでさ。
『国民とは人間のみを指す』
裁判所では、そう憲法を解釈しているんだって。
ああ、この都市国家では、
国民主権も基本的人権も崩壊している。
1984も真っ青のディストピアだ。
この国、マジでウンコより腐っている。




