第101話 憎しみの闇。
バカ騎士とケチ魔女を泣かせたことによりさ。
ウンコ(モテ男)の尊厳は回復し、
女泣かせとしての自信を取り戻した。
「ヒャバババ、ヒャバババ、ヒャバババ」
ウンコは高笑いしながら、
トラキア大通りを歩いていた。
だけどさ。
「死ね!」と言われた。
アゲアゲな気分に水を差されちゃった。
気分が悪い。超気分が悪い。
だってさ。
『死ね! ウンコ』
と俺が罵倒されたわけじゃない。
「死ね! ミーニャ!」
と友達が罵倒されたのだ。
ミーニャを罵倒したのは、鹿魔族の子供だった。
友達をバカにする奴は、
たとえ子供でも許さない。
俺は、教育的指導を行うために、
ウンコを召喚した。
だが、ミーニャは悲しげな顔で、首を横に振った。
「いいんだニャ。全部、ニャるが悪いんだニャ」
鹿魔族の子供の『死ね』という悪意はさ。
あっという間に、
トラキア大通り全体に広がった。
すれ違う魔族の全員から、憎悪の視線と共に、
「死ね!」
とミーニャは言葉の暴力をぶつけられる。
この『死ね』にはさ。
『ウンコ、死ね』みたいな、
ギャグ的軽さは一切ない。
本当に真剣に心底、
魔族たちは、こう願っているように見えた。
『ミーニャに死んで欲しい』
程なく、俺たちは魔族たちに囲まれた。
ミーニャは石を投げられる。
集団罵倒が始まる。
「こいつの無駄使いのせいで、
我々は負けたんだ!」
「ネメア様が死んだのも、こいつのせいだ!」
「この、どっちつかずの化け物が!」
「ネメア様がエンテをレ○プした結果、
お前は生まれたんだよ!」
ミーニャの瞳からは、
ポロポロと涙があふれていた。
我慢強さには定評のあるウンコでも、
さすがに我慢の限界だ。
ミーニャを守るために、
ウンコは戦う覚悟を決めた。
ウンコを2、3個ぶつければさ。
きっと、憎しみの矛先は、俺に向かうはず。
「クソ食らえ!」
俺は、殺すつもりでウンコを投げた。
魔族たちの中には、
嗅覚の鋭そうな連中もいたが、知るもんか。
女の子を泣かせる奴は死ねばいい。
もう一度、繰り返すぞ。
俺は、殺すつもりでウンコを投げた。
だが、ウンコは魔族には届かなかった。
勇者セインのせいだ。
こいつが突如現れてよ。
俺のウンコを、氷の魔法剣で叩き斬ったのだ。
凍った物体の臭いは激減する。
ちくしょう。
余計な真似をしやがって。
お前まで、ミーニャをいじめるのかよ。
だが、勇者はミーニャを庇うような位置に立つと、
叫んだ。
「イジメはカッコ悪いから、止めなさい!」
都市最強の勇者の命令に、魔族たちは沈黙した。
「異義があるのならば、
この勇者セインが相手になります」
「「「……ちっ」」」
魔族たちは舌打ちをしながら、去って行った。
「大丈夫ですか、ミーニャ?」
勇者は、姫猫(元)に手を差し出した。
その仕草は、悔しいけれど、
見事な程のイケメンぶりだった。
まあ普通の女の子なら一目惚れするよな。
だが、ミーニャはその手を払った。
「余計なことをするなニャ!」
ミーニャの瞳は、憎しみで満ち満ちていた。
深い深い底なしの暗闇。
そんな憎しみを向けられても、
勇者はイケメンだった。
キラリと光るような微笑みを浮かべると、
勇者は言った。
「今日は貴方たちに
仕事を紹介するために来たんです」
マジ? ラッキー!
ウンコはそう思ったんだけどさ。
ミーニャの憎しみは、そんなことでは消えない。
ミーニャが憎しみを吐いた。
「勇者セイン、
お前がパパとママを殺したんだニャ!」
勇者セインは一瞬だけ、悲しげな顔をした。
だが、すぐにイケメンスマイルに戻ると、
勇者は言った。
「これは、仕事場までの地図です。
朝8時から始まりますから、
遅れずに来て下さいよ」
勇者はミーニャに紙切れを手渡そうとした。
ミーニャはその手を再び振り払った。
「お前の助けなんていらないニャ!
パパとママを返せニャ!」
紙切れが宙を舞い、ミーニャは走り去った。
素早さ265のスピードは圧倒的だった。
素早さ5のウンコには追いつけるはずもない。
とりあえず、ウンコは紙切れを拾う。
これに示された場所でなら、
ウンコでも働けるのならさ。
働いて稼いだ金で、
ミーニャに美味いものを食べさせてやりたい。
「魔物ウンコ、
ミーニャをよろしくお願いしますね」
そう言うと、勇者セインは薬草を1枚くれた。
『どっちつかず』の心配をして、
『ウンコ』にも職を斡旋し、
しかも、薬草までくれる。
こいつは、やっぱり、本当のイケメンなんだな。
それを確認するために、俺は聞いた。
「お前って、神の使いの即席の勇者?
それとも、この地に生まれた本物の勇者?」
「私は、このヴァイテガで産み落とされた、
生まれながらの勇者ですよ」
つまり、凡人出身の転生勇者ではなく、
正真正銘の天才勇者というわけか。
くそ、生まれながらのリア充め。
非の打ち所のない、完璧超人め。
苦労知らずの人生貴族め!
爆発すればいい!
と思ったけど、こいつにはさ。
まだ利用価値があるんだ。
俺は、勇者にすがりつきながら、懇願した。
「勇者様、助けて下さい……」
だって、トラキア大通りの双方向からさ。
ルルナとアゼレアが、
超スピードで走ってきたんだ。
ルルナは炎の魔法剣を握りしめ、
アゼレアは右手に炎竜を巻き付かせている。
ルルナの怒声が聞こえてくる。
「嫉妬していないことを証明するために、
八つ裂きにします!」
アゼレアの怒声も聞こえてくる。
「赤の他人もクソもねえ!
殺してえから殺すんだ!
文句あっか、ウンコ!」
2人とも、憎しみと涙を瞳にたたえていた。
「勇者セイン様、
もちろん、助けてくれますよね……」
ウンコは確認するように、そう聞くとさ。
勇者は乾いた笑顔で答えた。
「女性を泣かせる人は死ねばいいんです」
うん、確かにその通り。
ウンコも同じような内容のことをさっき思った。
やっぱり、
イケメンは同じようなことを考えるんだね。
でもさ。
そうしたらウンコは、死んじゃうよ。
勇者は無情にも、
ウンコを見捨てて、去っていった。
案の状。
その後、俺はさ。
姫騎士と姫魔女から、
オーバーキル級の攻撃を食らいまくった。
『なかなか死ねない』ウンコは
死んだフリをして、耐え続けた。
陽が暮れても、攻撃は続いた。
夜が過ぎ、空が白み始めた頃……
ようやくさ。
ルルナとアゼレアは晴れ晴れとした顔で、
去って行った。
ウンコは、薬草を少しだけかじった。
ウンコは復活し、立ち上がる。
新しい朝が来た。希望の朝だ。
喜びに胸を開き、大空をあおぐ。
ウンコは叫んだ。
「ようし、ガンバって働くぞぉおおお!」




